転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活   作:フライパンソルジャー

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見えない場所でさらっと凄いことしてる……

十四分街に存在するクリティホロウ。そのそばに突如として複数人の人影が出現した。

 

「ああ~……、やっと出れた~…!」

 

その集団は依頼品の金庫を取り戻すためにホロウへと潜入した面々であった。

 

全身の力を抜くようにしてニコは疲労と安堵が混じった声を上げた。他のメンバーも軽く息を吐き、気持ちを整える。

 

やがて自分たちを導いてくれたプロキシ、アキラへと視線を運んだ。アキラは金庫の中身のデータチップを読み込んだ後、未だに沈黙したままだ。時々うわ言の様に何かを呟いているがそれもなくなっている。

 

尋常じゃない様子のアキラにホロウを脱出できた安堵は徐々に消え、邪兎屋の全員が今度はアキラに対する不安を広げていった。

 

「店長……黙ったきりだけど、大丈夫か?……まさかまたハッカーに乗っ取られたんじゃあねぇのか?」

 

「それは、多分ないわビリー……。もしハッカーなら私たちを出口に導くような真似なんてしないもの。考えられるのはデータを読み込んだことによる異常か……、ニコが依頼料をケチったことを怒ってるか……。」

 

「何でよ!?どう考えてもデータのせいでしょ、ああもう兎に角今すぐプロキシの様子を見に行くわよ!」

 

ニコが結論を出し、行動に移そうとするが、視線が同じく黙ったままのスコーピオンへと向けられる。

アンビーとビリーもニコにつられて同じく彼女へと視線を向ける。

 

「………ああ、そうだな」

 

小さいが確かに彼女は返答した。しかし全員が妙な雰囲気になり、どこか居心地の悪い沈黙が流れる。

原因は恐らく、彼女が行った()()()()と現在手に持たれた巨大なケースのせいだろう。

 

金属音を響かせながら地面に置かれたそのケースは、まるで棺のように沈黙し、異様な存在感を放っていた。

 

邪兎屋のメンバーは別に彼女を嫌いになったわけではない、ただ余りにも現実離れした出来事に理解が追い付いていないのだ。あれを「すごい」と言うべきなのか、「怖い」と言うべきなのか、今でもわからない。

 

ただ一つ言えることは彼女は()()()()()()()()ともいえることを成し遂げたのだ。

 

彼女は邪兎屋が抱いた畏れを読み取ったからか明らかに口数が減った。ホロウに入った直前ではアキラが途中で居なくなろうとも話題を探し、空気を柔らかくして距離を詰めてきたというのに。

 

途中で険悪な雰囲気になろうとも直ぐに謝罪をして、此方を気遣っていた頼もしい彼女はすっかり落ち込んだように視線を彷徨わせている。

 

 

重苦しい沈黙の中、誰かが一歩踏み出す音がした。

 

最初に動いたのはアンビーだった。

彼女はわざとらしく手を叩いて、笑顔を作り微笑む。

 

「……まあともあれ、これで任務完了ね。みんな……お疲れさま」

 

 その言葉に、ビリーが少し目を瞬かせてから、「お、おう」と気の抜けた返事を返す。

 ニコもややぎこちない動きで頷き、気まずさを拭い去るように大きく伸びをした。

 

「……スコーピオン、あんたも……ありがと。正直なんか、すごすぎて言葉に詰まったけど……」

 

 ニコは口をもごもごさせながら、ちらりとスコーピオンを見た。

 スコーピオンはその視線を受け止め、しばらく迷ったように俯いていたがーーやがて、ゆっくりと口を開く。

 

「……ありがとう。でも、今になって思うんだ。私は君たちにあまりにも大きな無理をさせたんじゃないかって。もしこの情報が外に漏れたらーー君たちは間違いなく危険に晒される。それを想像するだけで……私は、酷く恐ろしくなる。」

 

その声は、かすかに揺れていた。

スコーピオンの言葉が静かに空気を震わせ、沈黙が再び降りた。

 

彼女の手にあるケースが、まるでその不安と重責の象徴のように、黙ってその場に在る。

 

その時ーー

 

「……バカ言わないでよ」

 

ニコが先に声を上げた。少し怒ったような、けれど震えるような声だった。

 

「……誰も、無理なんて思ってない。スコーピオン、あんたがやったこと、凄過ぎてまだ頭が追いついてないだけよ。……でもそれがあんたの優しさから来てることくらい、あたしたちちゃんとわかってる」

 

スコーピオンは少しだけ目を見開いた。

 

「人を助けたいって気持ちでここまでやったあんたが、何で自分を責めなきゃいけないのよ。……勝手に抱え込まないで。次はちゃんと頼りなさいよね」

 

その言葉にアンビーも小さく頷いてから、柔らかな笑みで続けた。

 

「私たちは貴女を恐れていない。ただ彼女の成し遂げたことに言葉が見つからなかっただけ……。むしろ今回同行してくれたこと、本当に感謝してる。」

 

それを聞いたビリーも、頭を掻きながら不器用に笑う。

 

「最初は正直ちょっとビビったけど……でも、今思えば、まじで凄んだよな。世界初の偉業を成し遂げる……なんか昔のヒーロー映画みてぇでさ。カッコよかったぜ、マジで」

 

少し沈黙がありーースコーピオンがそっと口を開く。

 

「……しかし、私の責任で皆が危険にーー」

 

「その程度で、あたしたちがびびると思ってんの?」

 

ニコがぴしゃりと遮る。

 

「私たちは邪兎屋よ?街の腕利きの何でも屋、今さら命のやりとりで目を背けるようなヤワな奴なんて、一人もいない」

 

スコーピオンは黙ったまま、ゆっくりと皆の顔を見た。

 

誰も彼女を責めていない。

誰も怖がっていない。

ただ、その背中を、同じ高さで支えようとしてくれていた。

 

ふっと、スコーピオンの中のマオの口元がかすかに緩む。

 

「……ありがとう、みんな」

 

「と・に・か・く!今回の件で貸し一つだからね!何かうちが困ったことになったら必ず返しに来なさいよね!」

 

「ああ、必ず返す。……お金は貸せないがな。」

 

「ちょっと!!」

 

またイジられたと喚き、ふくれっ面をしたニコは足を踏み鳴らした。

アンビーとビリーもその様子を見て笑った。

 

妙な空気は無くなり、新たにできた関係は続いていく。

 

「誰にも知られるわけにもいかないから先に持ち帰らせてもらう。今はまだ“安定してない”ように思える。……私も初めての経験だから経過を見ないことには何もわからないし、もしかするとまた変化が起きるかもしれない。」

 

そう言うと彼女は頭を下げた。

 

「すまないが、先ほどから様子のおかしいアキラのことについてはそちらに任せる。私たちのリーダーが店の方に向かっているはずから気になることがあれば彼に尋ねてみるといい。……それじゃあな、今日は本当にありがとう邪兎屋」

 

スコーピオンはそれだけを告げて、再びケースを担ぎ、背を向けて去っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

スコーピオンと別れた後、店頭にはリンと見知らぬフードを被った人物がいた。

 

「あ、帰ってきた!お兄ちゃんが大変なんだってば!兎に角”エレクトロ”もニコ達も来て!」

 

リンはかなり取り乱しているようである。

 

「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。プロキシの奴がどうしたの?」

 

ニコ達は狼狽えながらも、リンに連れられ店の中に入った。そしてアキラの現状を確認するとH.D.Dに接続したまま痙攣をおこし、うわ言を言っているのを見た。

 

明らかに普通ではない。

 

「こっちが呼びかけても、返事がなくて……どうしよう」

 

「プロキシ!?あんたちょっとしっかりしなさいよ!」

 

ニコが肩を揺さぶっているとその手は優しく掴まれた。後ろを振り向くとフードを被った……知能機械人だろうか、先ほどリンにエレクトロと呼ばれていたのを思い出す。

 

エレクトロはアキラのそばに素早く駆け寄り、痙攣が起きている間の対応を冷静に指示した。

 

「痙攣している間は無理に押さえつけたり、口に物を入れたりしちゃだめだ。頭を横に向けて、呼吸を確保するんだ。一先ず、彼をH.D.Dから引っ張り出すぞ。そこの赤いジャケットを着た君、すまないが手伝ってくれないか?」

 

「……うぇあ!?俺!?」

 

急に呼びかけられたビリーが驚くも、直ぐに冷静になりアキラを二人で運び出してソファに寝かせる。

 

暫くエレクトロはアキラの様子を確認して、やがて周りを落ち着かせるため、低く安心感のある声で告げる。

 

「どうやら気絶しているだけのようだ、命に別状はない。もうしばらくすれば目を覚ますだろう。」

 

「よ、よかった~……」

 

それを聞き、リンを含めた面々が安堵し、息を吐いた。

 

「……しかし、彼がこうなった原因を調べなければな。十中八九、金庫のデータチップを読み込んだことが原因だろうが……」

 

「ええ、確かにプロキシ先生はその時から様子がおかしくなったわ、私たちを導くように進み始めたから何とかホロウから脱出できたけど……」

 

エレクトロの呟きに冷静に答えるアンビー。危機は去ったため、皆考える余裕が出てきたようだ。

 

「H.D.Dのログを確認すれば分かるかも……、ああでもお兄ちゃんと同時にこっちもおかしくなっちゃったから……。復旧できるか分からない。」

 

「なるほど、取り敢えず再起動してみよう。」

 

「うん、わかった。試してみる……!」

 

リンと今後の流れを確認するエレクトロ。彼は既に()()()()()ことに気が付いている。逸る気持ちを抑えながら立ち上がる。

するとニコが声を掛けてきた。

 

「私はこの件を調べてみるわ。それとえぇと……」

 

「リーダーを務めているエレクトロだ。今回は仲間が世話になったようだ、私からもお礼をさせてくれ。邪兎屋の諸君。」

 

深く頭を下げる彼にニコは軽く腕を振る。

 

「別にいいわよ。今回は私たちも助けられたし……、それはそれとして借りはきっちりと返してもらうわ。『ヒール』のリーダーさん?」

 

「ああ、勿論だともいつでも頼ってくれていい。」

 

「ニコは先にうちのツケを返してね」

 

「わ、わかっているわよ。もう!」

 

トップ同士の会話としてカッコつけようとしたニコだが、リンに出鼻を挫かれてしまう。

店内には和やかな空気が流れる。

 

ふと、エレクトロはビリーの方へと一歩近づいた。

 

「君は……ビリーと言ったか。先ほどは手伝ってくれてありがとう。……どうだろうか、我々のメンバーは知能機械人で構成されている。良ければ此方に来ないか?今ならスターライトナイトのような強力なライダーキックが繰り出せる特殊パーツが……」

 

「!……その話、詳しく聞いてもーー」

 

その言葉に、ビリーの目がわずかに見開かれた。

喉の奥で小さくごくりと唾を飲む音(実際にはしてない)がした。

ーーいけない、乗せられるな。とは思いつつも、心は正直だった。差し出されたエレクトロの手に、無意識のうちに指先が伸びかける。

 

そのとき、横から勢いよくニコが割り込んできた。

 

「ちょっと、何うちの従業員を引き抜こうとしてるのよ!」

 

鋭い声に場の空気がピリッと引き締まる。

 

「ビリーも何つられそうになってるのよ、もう!」

 

目を三角にし、キーッ!と威嚇するようにエレクトロを睨みつけるニコ。

 

エレクトロは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに肩をすくめておどけた様子を見せた。

 

「すまない、流石に冗談が過ぎたようだ……」

 

目線をニコに向けたまま、穏やかに続ける。

 

「大切な仲間である彼を、目の前で引き抜かれでもしたら不快だろう。此方の配慮が足りなかった。……ビリー君、これは私のノックノックのアカウントだが、気が変わったらまた連絡を」

 

「……帰るわよ!」

 

ニコはなおも勧誘を続けるエレクトロを見て、怒りに満ちた顔でくるりと踵を返し、ビリーの腕をぐいと引いて出ていった。

 

その後ろをアンビーがついていき、此方に振り替える。

 

「じゃあ、私たちはこれで失礼するね。ありがとうプロキシ先生、寝ているプロキシ先生にもお大事にって伝えておいて……。また何かあったら連絡する。」

 

アンビーが最後に此方に一礼し、邪兎屋は去っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

光るスクリーンの数々、かすかな電流の唸りーー現実感が剥がれ落ち、夢の中にいるような光景がそこにあった。

 

「ふむ、取り付く島もないな……」

 

「どうしようエレクトロ……、うちのH.D.Dシステムが。」

 

システムを再起動しようとしたところ、それは自動的に行われてしまった。

 

そして()()()()()()のだが……、彼女は自身の名前だけを名乗り、詳しい質問を此方が行おうとしたところマスターを呼べと引っ込んでしまった。リンは訳の分からない事態に頭を抱えてしまっている。

 

「マスターとは恐らくアキラのことだろう。彼が起きるまで待つしかないな……」

 

「これ大丈夫なんだよね!?エレクトロたちが言ってた存在ならこれがちゃんと私たちの仲間になってくれるんだよね!?」

 

声が裏返るほど焦っているのに、誰よりもその正体を信じたいという気持ちが透けて見えた。やっと見つけ出したAIに対してリンは期待と恐怖の狭間で揺れている。

 

「おいおい、リン、彼女に聞かれているぞ。我々が探していたAIのマスターがアキラとなっている……今の状況は実に僥倖だ。だからそう心配することは無い、H.D.Dシステムも賑やかになってよかったじゃないか」

 

この状況を楽観視しているエレクトロにリンは頬を膨らませた。

 

「それ本気で言ってるの?」

 

 

 

程無くしてアキラが起き上がった。意識もはっきりしており、現状が把握できずに混乱しているようだ。一通りの説明や互いの確認を済ませ、彼女の元へアキラを連れていく。

 

部屋に入りリンが呼びかけると周囲の画面がぶれ、H.D.Dシステムのありえない挙動にアキラは叫んだ。

 

「何だこれは!」

 

ーーシステムを起動ーー

 

「Ⅲ型総順式集成汎用人工知能Fairyです。こんにちはマスター」

 

案の定アキラは狼狽え、兄妹ともどもフェアリーに戸惑い、やや警戒しているようだ。

 

まあ納得はできる、自分の家のパソコンに急に居座る人工知能がいたら危険なウイルスだと思い直ぐに完全に削除するだろう。しかも彼らにとっては大事な仕事道具だ、直ぐに受け入れろという方が酷である。

 

今も”規約”や”その時”など非常に気になるワードについて質問を行っているが権限を有していないと回答を拒否している。

 

フェアリーも兄妹の警戒を感じ取ってか、常識外の高い性能をプレゼンし始めている。

現状、フェアリーを完全にとはいかないがこの中で一番高く信用しているのはエレクトロだろう。

 

「まあまあ、二人とも落ち着いてくれ一先ず彼女は我々の求めていたものだ。先ほどの破格の性能、その力を”その時”が来るまで使用できる……だろ?」

 

「肯定、正確にはマスターのサポートを行います」

 

「問題ない、彼と我々は仲間だからな。……それで二人とも、もし彼女が虚偽を行っており、此方に敵対したとしても我々が責任を持つ。今対処策は二つ……いや周辺被害を考えなければ三つ保有している。だからまずは騙されたと思って彼女の案を聞き、彼女と依頼をこなし信頼を積み上げていくといい。」

 

エレクトロの声はいつもの調子だったが、その瞳の奥には鋼の光が宿っていた。

 

「……まあ君が言うなら」

 

「うーん、まあホントだったら物凄い切り札になるし……」

 

二人は渋々受け入れることにしたようだ。

因みに異次元スペックのフェアリーの対処は不可能ではないと考えている。彼女のエネルギー源が電気であるし、機材がなければ新エリー都の外には出られないようだ。だからその時が来てもし関係が変わってしまうこととなっても無傷とはいかないだろうが問題なく対処できるように準備しなければならない。

 

「よろしく頼む、フェアリー。私は『ヒール』のリーダーを務めている者、エレクトロという。君と長い付き合いとなれるよう……心から祈っている。」

 

一瞬の間。

フェアリーは急に動きを止め、何かを検索し始めた。

 

「『ヒール』……検索中、……!?はいエレクトロ様よろしくお願いいたしますそれではマスターもスケジュールやご希望に合わせて実行時間をお選びくださいこれからよろしくお願いいたしますマスター」

 

早口で言い切り、たちまちディスプレイから姿を消したフェアリー。

空気がひやりとしたまま、沈黙が残る。

 

何故だと訝しんでいるとふと後ろの二人が生暖かい視線を此方に向ける。

 

「あ~あ、怖がらせちゃった」

 

「恐らく君たちの実績を見て先ほどの発言を脅しと捉えたんじゃないかな」

 

「……えぇ」

 

彼女がどこまで情報を探ったのか、見当もつかない。闇に沈めたはずの記録も、彼女であれば掘り起こすことなど造作もないだろうが……。

 

まあ問題はないと気持ちを切り替え、エレクトロは兄妹を見据える。

 

彼らの物語はここから始まるといっていい。

彼は胸中で別の決意を固める。

 

この兄妹を雷に撃ち落とさせはしない。

神話のパエトーンが太陽の戦車を暴走させたように、力を持つ存在はしばしば人間を焼き尽くす。だが、自分はその轍を踏まない。

 

エレクトロことエレグ・マックスは金属のマスクの下で、静かに笑った。




いやぁマオは一体ホロウ内で何をやらかしたのでしょうか(すっとぼけ)

因みにリーダーが話した対処策の一つは我らがダイさんです。勿論周辺被害を考えない方です。
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