転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活   作:フライパンソルジャー

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一日五話くらい書きたい!でも体が意欲についてこない……!
助けてくれ(懇願)

感想いつもありがとうございます!
質問をいただくことでこれが足りなかったか~と認識でき、助かってます!


駆け回る猫、自宅待機のリーダー

裏の策略が渦巻くデッドエンドホロウ内部を、小柄な人影が悠々と動いていた。

全身は金属の装甲、そしてその背には四本の金属アームが存在していた。

高音が金属をかすかに削るように響き、その歩みには自分の存在を当然とするかのような余裕だけがあった。

恐れも、警戒も、敵意さえも感じられない。澄んでいながらどこかノイズを帯びた声が響く。

 

「ここがデッドエンドホロウね、まるでテーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ~」

 

その呟きは誰にも届くことなく地面へと溶けていった。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

昼下がりの風はどこか鉄の匂いを帯びていた。

ビルの隙間から差し込む陽光さえ灰色がかって見えるのはここ数日の不穏なニュースのせいかもしれない。

 

猫のシリオンーー猫又は歩きながら二本の尾を軽く揺らした。

耳先がざわつく。都市全体に漂う妙な緊張を毛並みごと吸い込んでいるような気がした。

 

「(また誰かがいなくなった、だの。エレグが嘘をついている、だの。どこまで本当なのやら……)」

 

胸の奥がひとつ低く鳴った。

故郷も例外ではないーーその直感が心を更にざらつかせる。

 

「そこの猫のシリオンの少女、すまないが少々時間をいただけるか?」

 

不意に背後から掛かった声。

職務質問かと面倒がる気配が一瞬だけ尾に現れた。しかし、それを表に出しては事態をこじらせるだけだ。

 

ここは穏便に早く済ませようと猫又は振り向き、愛想笑いを浮かべた。

……が、視線は自然と上へ。

 

「……背、たっか」

 

そこに立っていたのは治安官ではない。

灰色のロングコートを羽織った、がっしりとした大男。

コート越しにも鍛え上げられた体躯が分かる。

 

「何か用?」

 

声を平静に保ちながらも、尻尾の先は僅かに逆立つ。

 

男は静かに名乗った。

 

「自分はエレグ・マックスの部下だ」

 

その名を聞いた瞬間、シリオンの瞳がわずかに細まる。

ーーエレグ・マックス。

近頃、新エリー都のニュースを騒がせている人物。

 

ヴィジョンとの衝突、旧都地下鉄の改修工事、爆破解体。どれも耳にしたばかりだ。

 

そして、その騒動には確実に自分の故郷も関わってくる。

 

「マックス本人の言は事実だ」

 

男はそう言うと小型の通信機を差し出した。

 

半歩退きつつも、猫又は慎重にそれを受け取る。

 

「……何の真似?」

 

通信機から低く響く声が流れた。

 

『初めまして、猫宮又奈さん。私はエレグ・マックスという者です。急に押しかけてすまない。』

 

耳がぴくりと動いた。

本物ーー。

 

『単刀直入に頼みがある。君には、今から目の前にいる私の部下と“邪兎屋”と呼ばれる三人組の何でも屋と合流し、カンバス通りへ向かってほしい。』

 

邪兎屋ーーシルバーヘッドの最後に関わったとされる()()()()()の名前だ。

猫又の内心を知ってか知らずか通信の向こうには短い沈黙が走る。

 

『あそこは爆破予定区域だ。だが、まだ避難していない住人が百人以上残っている。ヴィジョンは公式には“全員避難済み”と発表しているが、事実ではない。私たちはそれを確認し救い出す必要がある。』

 

猫又は尾を低く垂らしたまま無言で耳を澄ませる。

 

『猫宮又奈さん、君なら住民に警戒されず、狭い路地も自由に動ける。君の出身地がこの件と無関係でないことは知っている。ーーどうか力を貸してほしい』

 

通信はそこで一旦途切れた。

街角の喧騒が再び耳に戻る。

 

「(……私が?)」

 

エレグ・マックスの部下と名乗る男は、微動だにせず猫又を見下ろしていた。

鋼のような瞳。そこに虚飾も脅しもない。ただの事実だけがある。

 

しばしの沈黙。

猫又は、軽く肩をすくめて息を吐いた。

 

小さな通信機は、まだ低い電子音を鳴らしていた。

 

「……悪いけど」

 

猫又は尾をゆっくりと振り、唇を歪めた。

 

「もう自分と故郷とは無関係だよ。そこまでする筋合いは、私にはないぞ……」

 

その言葉は自分自身への宣言のようでもあった。あの場所を離れて久しい。

心に残っているのは、埃とコンクリートの匂いと、孤児だった自分を拾ってくれた大きな背中だけだ。

 

通信機から、低い声が返ってくる。

 

『……そうか。だが、ひとつだけ聞きたいことがあるはずだ。“シルバーヘッド”の今の状況を知りたくはないか?』

 

猫又の耳がぴくりと跳ねた。

孤児の自分を拾い、名を与え、生き方を教えてくれた恩人。

ーー非道な行いをしていたとはいえ、邪兎屋に殺されたと聞かされた人。

 

鼻で笑うしかなかった。

 

「もう知ってる。死んでるんでしょ。……それ以上、昔話を餌にするのはやめて」

 

しかし、次の一言で猫又の呼吸は止まった。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

世界の音が一瞬、遠のいた。尾の毛が逆立ち、胸の奥で何かが激しく跳ねた。

 

「……それ、どういう――」

 

呟きかけた言葉は、声にならないまま消えた。

通信機の向こうで、エレグが続ける。

 

『理由は“邪兎屋”が知っているはずだ。この件を達成することができたら、君は直接彼らから聞き出すといい』

 

猫又は視線を落とし、長い沈黙に沈んだ。

爪先が石畳を軽く掻き、尻尾の先が床に小さな音を立てる。

頭の奥に浮かぶのは、まだ幼い自分の頭を撫でる大きな手、「大丈夫だ」と不器用ながら笑うシルバーヘッドの声だった。

仁義を尊ぶ彼であったがもう変わってしまった。当初の心意気を忘れ、組は利益至上主義となり、人の行いに反した行動を取る彼に、組に嫌気がさして組から抜けて出てきた自分。

 

「……分かった」

 

猫又は顔を上げ、通信機を握りしめた。

 

「その依頼、受ける。でも、もし嘘だったらーー承知しないぞ……!」

 

声は鋭く、獣のように低く響いた。それを見て目の前の男は眉間にしわを寄せていた。

だが通信機の向こうで、エレグは怯むことなく答えた。

 

『心から感謝する、猫宮又奈さん。君の力が必要だ。そして、約束は必ず守る……!』

 

小さな通信機から微かなノイズだけが流れ、昼下がりの風が再び猫又の頬を撫でた。

胸の奥の鼓動はまだ早く、爪先は震えている。

だがその足取りは、確かにカンバス通りへ向かうために動き出していた。

 

尾を一度、鋭く振る。

昼下がりの光が、灰色の街路に細い金色の筋を描いた。

 

部下の男は深く頷き、短く告げる。

 

「感謝する。では早速“邪兎屋”の三人と合流するぞ。自分のことは……すまないが今エレグの関係者が大々的に動くのはまずいからな、取り敢えず()()と呼んでくれ」

 

街の空気は、さらに重さを増している。

カンバス通りへ向かう道すがら、シリオンは爪先に力を込めた。

その足取りは、昼下がりの憂鬱を切り裂くかのように、ひたひたと速まっていった。

 

 

ーーーーーー

 

 

エレグの部下……兵士と並んで歩く猫又は、猫の耳をわずかにそばだてた。

遠くで、誰かが何かを叫んでいる。

それに混じって、複数の足音。

 

「……聞こえた?」

 

「ああ。十人以上だ」

 

遠くから様子を窺うと目的の人物邪兎屋の社長、ニコが赤牙組の人間に追われていた。兵士がそれを確認し、懐からコンバットナイフを取り出すが猫又はそれを制す。

 

「ここにいて、私が彼女を連れてくるから」

 

そう言うとどこからか取り出したのか外装を羽織り、姿を隠した猫又はニコの元へと向かっていった。

 

 

やがて猫又は桃色の髪をした女性、ニコを連れてやってきた。

 

「見かけない顔ね。アンタら何者なの?」

 

兵士が低く一礼する。

 

「エレグ・マックスの部下です。ニコさん、あなたに依頼があります」

 

「エレグ、ね……。最近の騒ぎの張本人ね。面白そうじゃない」

 

ニコの唇が薄く笑う。

 

兵士は要点だけを伝えた。

カンバス通り、爆破予定区域、未避難の百人以上の住民。

そして時間がないこと。

 

「なるほど。それでうちの“邪兎屋”を使いたいってわけ」

 

その様子を見ていた猫又は言葉を抑え、胸の奥に渦巻く問い――シルバーヘッド――をぐっと飲み込んだ。

 

「……(いま聞くな。いまは違う)」

 

「今回の件、マックスグループは動きを封じられてるため人手が足りない。だが、何百人の命を見殺しにするわけにはいかない。」

 

そこで区切り、兵士は決意を帯びた瞳でニコと目を合わせる。

 

「どうか、助けてほしい」

 

ニコは少し驚いたように目を細め、次いで大きく肩を揺らして笑った。

 

「まさかTOPSが住民のために本気になるとわね……。いいわよ、邪兎屋は何でも屋。その依頼受けてあげるわ!勿論お偉いさんともなれば報酬は期待していいのね?」

 

「ああ……勿論だ、感謝する」

 

そして邪兎屋の仲間二人と合流する。

 

「親分!無事だったのか?今、ホロウの方から出てきたように見えたが……ん?こちらの子猫ちゃんと、でけぇにーちゃんは?」

 

赤いジャケットを羽織る知能機械人ビリーと、ヘッドホンを付けた白髪の少女アンビーがそこにはいた。

 

二人にも事情を伝え、今回の依頼内容を説明する。

 

ニコが指を鳴らす。

 

「さあ、揃ったわね。カンバス通りへ向かいましょう!」

 

猫又は尾をひと振りして答えた。

心の奥底では、たったひとつの名が繰り返されている。

 

――シルバーヘッド。

 

しかしその想いを、鋭い爪とともに静かに鞘へ収めた。

今はただ、この仲間たちと百の命を救うこと。

その先に、答えがあると信じて。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

デッドエンドホロウ内、カンバス通りへ抜けるためホロウの中に忍び込んだ一行。

道中何度か赤牙組の連中と出くわすこともあったが問題なく先へ進んでいた。猫又の案内が正確ということもあったのだろう、ほぼ最短距離で進めていた。

 

猫又、兵士、そして邪兎屋の三人は足を止めず進む。

時折、息を潜めるような空気が背後を撫でていった。

 

「来る」

 

猫又が低く告げる。

 

刹那、崩れた建物の陰から十数体の影が飛び出した。エーテリアスだ。

鉄パイプと同化した腕や結晶交じりの体、咆哮と共に包囲を狭めてくる。

 

ニコが短く笑う。

 

「歓迎が手荒いわね」

 

次の瞬間、猫又の尾が鋭く跳ねた。

シリオン特有の瞬発力で、最前列の足元へ疾風のごとく滑り込み、影のような爪が地面を切り裂く。

 

「グァ!?」

 

エーテリアスは驚愕の叫びとともに体勢を崩す。

 

兵士は寸分の無駄もなく正確に拳銃を発砲。弾丸はエーテリアスのコアを捉える。そして近づいてきた相手にはコンバットナイフを抜き牽制、距離を取り再び発砲。

 

ビリーも二丁拳銃で正確にエーテリアスの体を撃ち抜いていく。時折余裕があった時にはスターライトナイトの様にキックでエーテリアスを飛ばす。

 

ニコはアタッシュケースに内蔵された銃火器で敵を蹴散らし、アンビーに合図を送った後、煙幕を張る。

白煙が狭い路地を一瞬で覆い、敵は混乱する。

その隙にアンビーがエーテリアスを自身の電流を纏わせたブレイドでまとめて薙ぎ払った。

 

そして敵はあっという間に片付いた。

 

「……肩慣らしってとこね」

 

ニコが息をつき、猫又は耳をぴくりと立てる。

 

そのときーー

 

視界の端を、細い影が横切った。小さな少女。ここにいるはずのない年頃の。

 

「待って!」

 

猫又が驚き、鋭く声を放つ。

 

女の子は振り返らず、奥へ走っていく。

足音はかすかに、だが確かに続いている。

 

「行くぞ」

 

兵士が短く言い、全員がその後を追った。

 

 

道中、邪魔をするエーテリアスを蹴散らしながらも少女が逃げ込んだ建物へと向かう。

女の子の姿を探していると、四足歩行のエーテリアスが女の子に襲い掛かるのが見えた。

 

疲労からか躓いた女の子にビリーが駆け出した。

 

「おっと、目ぇつぶってなーー!」

 

颯爽と女の子を腕に抱え救い出すことに成功するが……繰り出された見事なストレートで顔面を殴られた。

 

「ブッーー!」

 

成人男性と同じサイズのビリーを殴り飛ばすとは、この少女世界狙えるだろとコンバットナイフでエーテリアスを片付けていた兵士は思案したが、一先ず女の子の話を聞くことにした。

 

「なんでアイツの縄張りをウロウロしてたの?私がここまで連れてこなかったら、アイツとばったり会ってたとこなんだよ!ーーーああもう!余計なことをしてくれたわね、今頃新エリー都に繋がるホロウの出口が見つかってたかもなのに!」

 

女の子は物凄い剣幕でニコに詰め寄る。兵士はもしや、住人だろうかと思い女の子に質問をしようとする。

 

「君、落ち着いてくれ。どうやら自分たちが君の邪魔をしたようですまない。だが此方の話をーー」

 

だが猫又の発言に遮られてしまった。

 

「何か音がするぞ?」

 

突如音を立てて壁が崩壊し、猫又が吹き飛ばされた。本人は受け身を取って無事なようだが全員が壁の向こう側へと視線を向ける。

 

「な、何なの?」

 

「エ、エーテリアス……?」

 

そこには巨大なエーテリアスがいた。全身は黒曜石と氷晶を混ぜ合わせたような鋭い結晶の光沢に覆われ、ひび割れた結晶の裂け目からは黄緑色の光が脈打つたびに閃く。腕は塔のように太く、無数の刃状の結晶片が剣山のごとく突き出し、脚は地を踏みしめるたび地面を粉砕する。

凄まじい威圧感が全員を飲み込む。

 

特殊個体ーーデッドエンドブッチャー

 

その姿に全員が気圧され後ろに下がる中、女の子が突如後ろに発生した裂け目に落ちた。

彼女が上げた悲鳴に皆その裂け目に気が付いた。

 

「ホロウの出口だ!あの子が落っこちてく!」

 

慌てて後を追ってホロウを脱出する。

 

エーテルの圧迫感が消え、地面へと落下する。ビリーと兵士は空中で体勢を整え見事に着地する。

 

「ブッーー!」

「ぐは!?」

 

が、しかし上から降ってきたメンバーに二人とも圧し潰された。

 

「いったー!?たん瘤ができるところだったじゃない!もう、なんで依頼のたびにこうも面倒が起きるのよ!ちょっと兵士、ここまで骨を折ってあげたんだからチップは弾みなさいよね!ーーん?」

 

ニコが憤慨しながらも周囲に目を向ける。突然ひらけた空間に出た。

 

そこはーーカンバス通り。

 

天井に空いた大穴から空の光に照らされた広場。

古びた商店、取り壊し予定のアパート。しかし、すべてが静まり返ってはいない。

 

そんな場所で次々と人の顔が現れた。

子どもを抱いた母親、杖をつく老人、怯えた若者。

誰もが息をひそめ、しかし確かな瞳でこちらを見つめている。

 

「……信じられない」

 

ニコが息をのむ。

 

エレグの言葉ーー

 

「”まだ百人以上が避難していない”」

 

それは誇張でも嘘でもなかった。

 

猫又は尾を低く垂らし、その光景にただ立ち尽くした。

心の奥で、何かが重く、静かに軋む。

 

空は群青。

その下で、誰もいないはずの場所に、確かに人々の命が息づいていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

エレグの部下である兵士が、起き上がり一歩前に出ると声を張った。

 

「ここまでで十分だ、猫又、邪兎屋の皆……協力感謝する」

 

その声は広場に隠れていた住民たちにも届いたようで、壁や遠くから不安げな顔が覗き、彼に注目する。

 

兵士は胸ポケットから封筒を取り出した。厚い紙束がまとめられている。

 

「皆さん!自分はエレグ・マックスの部下です!どうか聞いて欲しい。……これは委任状だ!マックス・コーポレーションが、あなたたちの代理として行政に申請するためのものだ。これがあれば、爆破解体の中止と避難手配を、正式な手続きで訴えられる。どうか署名してほしい!」

 

用紙の端がかすかに光る。そこには既に簡潔な文言が書かれていた——

 

(私は、以下の権限をマックス・コーポレーションの代表者に委任する。

 (1)私の居住する建物に関する安全確認および避難措置の実施。

 (2)必要に応じた一時避難場所への移送手続きの代行。

 (3)関係機関・報道機関への当該事案に関する情報提供の承諾。)

 

 

 

その言葉に、ざわめきが一層大きくなる。

“救い”なのか、それとも“罠”なのか、誰もが判断を迷っていた。

 

シリオンはその場に立ち尽くしていた。

尾をゆらりと揺らし、耳を伏せる。

 

依頼はもはや達成された。もうここにいる意味はないし、さっさと邪兎屋から情報を聞き出せばいい。しかし、薄暗い何かが猫又の心を縫い付けている。

 

「(……自分に何ができる?私はただの赤牙組の元組員だ。大企業に楯突く力なんてない。邪兎屋だって、結局は何でも屋だろう……)」

 

迷いの波が胸の奥で渦を巻く。

 

そんな中、先に動いたのは邪兎屋だった。

ニコは従業員たちと何か確認を終えた後、突如兵士の横に立ち、住民たちに向かって朗々と宣言した。

 

「訴訟代理人は、あたしたち邪兎屋が請け負うわ!不安な人は署名の際に名前を預けて、あんたたちの声を、絶対に踏みにじらせないわ!」

 

その言葉に、シリオンの心臓が大きく跳ねた。

 

「(……戦うのか?)」

 

自分が依頼を受ける前、邪兎屋はシルバーヘッドを殺した標的だった。

復讐のために、彼女たちに依頼を行うつもりだった。

 

だが、目の前の彼らはーー

疲れた顔のまま、しかし住民のために体を張る者たちだった。

 

その中心でニコは腕を組み、わざとらしく口角を上げた。

 

「つまり、この不祥事をきっちり暴けたらーーあの大企業からどれだけ搾り取れると思う?」

 

彼女の声は軽く弾んでいたが、その瞳には笑みよりもずっと鋭い光が宿っていた。

 

「更に報酬はエレグから“色”をつけてもらえるんでしょ?もちろん、そっちの取り分も保証してもらわないと」

 

兵士は一瞬言葉を失い、硬い顔のままニコを見返した。

 

「……ああ、そ、そうだ。この件は、マックス本人からも話があるはずだ」

 

「“あるはず”じゃ困るわね」

 

ニコはさらに一歩詰め寄り、艶やかな桃色の髪が兵士の胸元をかすめた。

 

「きっちり数字を押さえときなさいよ。あたしたち、タダ働きはしない主義なの」

 

兵士は気圧されたように、「……お、おう」と短く答えるしかなかった。

 

だが、猫又には分かる。ニコの声音の奥に滲むものーー

それは金の匂いだけではなく、この場にいる百人以上の命を守るための確かな決意だった。

その姿が、胸の奥に熱を灯していく。

 

猫又は改めて彼女たちを見た。

 

「(違う……私の思っていた人たちじゃない。この人たちは……)」

 

ニコの背中、仲間たちの真剣な横顔が脳裏に焼き付く。

やがて、猫又は一歩前に出た。

 

「……私も、最後まで協力する」

 

声が広場に響いた。

驚いたように振り返る邪兎屋の面々。

兵士の眉がわずかに動く。

 

「ただし、嘘だったら承知しない」

 

そう言いながら、猫又はその瞳に宿る迷いを断ち切るように睨みを利かせた。

 

ニコがゆっくりと笑い、頷く。

 

「なら、仲間ね。一緒に大儲けしましょう!」

 

カンバス通りの空気が、わずかに変わった。

住民たちの間に漂っていた不安の靄が、少しずつ晴れていくようだった。

 

猫又は自分の胸に手を当てる。

復讐よりも先に、守らなければならないものがある。

その決意が、静かに形を取っていく。

 

ーーそして、全員の視線が次に起こるべき行動へと集まっていった。

 

ーーーーーーーー

 

住民たちが委任状に名を書き始めた頃、ニコが不意に声を上げた。

 

「――猫又、あんたに任務を与えるわ!」

 

猫又の耳がぴくりと動く。

 

「任務?」

 

瞳を細め、首を傾げる。

 

ニコは片眉を上げ、いたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

「そう、任務。あんたの足と鼻、借りるわ」

 

その口調は軽いが、背筋には揺るぎない芯が通っている。

 

「あたしの知り合いにちょっと“強力”な人物がいるの。もしそいつが来てくれれば、ホロウで取れる行動はずっと広がる。そしてもう一つ、ヴィジョン側の戦力をものともしない奴らがいるのよ。しかもねそいつら、邪兎屋にでっかい借りがあるの、断れるわけないわ。上手くいけばこっちのカードが何枚も増える。」

 

猫又は尾をゆっくりと揺らした。

 

「……借り、ね。そいつら危険じゃないの?」

 

「危険? あはは、まあ強いって意味じゃ危険かもね。でもあんたなら平気でしょう?」

 

ニコの笑みは挑発的で、しかし不思議と信頼を滲ませていた。

 

「ここはあたしたちが見てる。住民も委任状も、全部任せて。あんたはその“助っ人達”を連れて戻ってきなさい」

 

猫又は一瞬、周囲を見渡した。

兵士は無言で頷き、邪兎屋の仲間たちも視線で「任せた」と告げている。

 

「……わかったぞ」

 

力強い声が、広場に響いた。

 

猫又は踵を返し、カンバス通りを抜けるホロウへと足を踏み出す。

 

足裏が地面を打つたび、尾が風を切る。胸の奥で、鼓動が早まるのを感じながらーー

 

一人、助けを求めるため外へと飛び出した。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

工事を請け負ったヴィジョンの改修プランがニュースで報道されていた。テレビの向こう側のヴィジョン・コーポレーションの代表パールマンは得意げに笑みを浮かべてリポーターの質問に答えていた。

 

「パールマンさん今回業界の新星である白祇重工に見事入札で勝利されました!何かコメントはありますか!?」

 

「ああ、白祇重工は我々も非常に尊敬している相手であり、見習うべき同業者でもある。彼らもきっと、次回はいい結果を出せるだろう」

 

話題は移る。

 

「では次に旧都地下鉄改修工事をめぐってマックス・コーポレーションが“爆破解体の危険性”を指摘しています。この件について、どのようにお考えでしょうか。」

 

この話題は現在実にホットなものとなっている、どの放送局でもエレグを叩けば笑えるほどの視聴率が稼げる。そのため()()()()()、大半の局はエレグに不利な偏向放送を行っている。

 

興奮したリポーターがパールマンに詰め寄る。

その質問にヴィジョンは戸惑うこともなくリポーターに淀みなく答え始めた。

 

つまり()()()()()()()である。

 

「危険性? ーーあれは、事実を装った妄言にすぎんよ。」

 

彼は肩をすくめ、冷ややかに笑った。

 

「我々ヴィジョンの計画は行政の認可を正式に得ているのだ。安全性を度外視して進めるなどあり得ない。エレグ・マックス氏が提示した“内部資料”とやらは、そもそも不正に持ち出されたもので、内容も歪曲されておる。彼は、自分の傘下の会社が入札で敗北した悔しさを“公益”という仮面で飾っているだけにすぎん。」

 

リポーターがさらに食い下がる。

 

「しかしマックス側は、避難計画や解体工程の簡略化を複数の専門家に精査させたと主張しています。これについては?」

 

「専門家? 誰が? 名前も出せない“匿名の意見”にどれほどの信憑性があるというのだ。マックス氏は若くして急成長を遂げた経営者だ。だが、彼のやり方は“勢いだけの実業家”そのもの。派手な記者会見で注目を集め、株主や市民を煽る。その間に自社の株価は落ち、取引先は不安を募らせておる。彼が守ったのは都市ではなく、“自分のカリスマ性”だな。」

 

「つまり、エレグ・マックス氏は――」

 

パールマンは一拍おいて続ける。

 

「彼は“改革の足を引っ張る存在”だ。私に言わせれば未来を恐れるあまり、過去の栄光にすがる若き守旧派。彼が都市の未来を語るなら、まずは自社の混乱を収拾すべきでしょうな。」

 

パールマンは一切の迷いなく、言葉を断ち切った。

 

「ヴィジョンは、計画通りに進めます。新エリー都の未来は、恐怖や中傷では止まらない。」

 

ほんのりと余裕の笑みを添える。

拍手のない舞台で自分だけが喝采を聞いているような、自信と芝居心が同居する笑みだった。

 

「成程、大変興味深い回答でした……!噂のマックスコーポレーションとヴィジョン・コーポレーションのTOPS入れ替えが本当に現実になるかもしれませんね!では次の質問ですが、プロジェクトにおけるコスト削減の秘訣をお聞かせください。」

 

「こ、今回のインタビューに…そんな質問はないはずだが?」

 

先程まで問題なく答えていたパールマンが急に狼狽える様子がカメラに映し出される。

 

ーーここまでね。

 

パールマンの隣にいた社長秘書のサラはパールマンに助け舟を出した。

 

「パールマンさん、これは生中継です。ーーパールマンが申し上げたいのはヴィジョンがこのプロジェクトにおいて決して不正なコスト削減を行っていないということです。今回の爆破解体にはパールマン直々に現場に向かい、市民の皆様の代わりに最後の瞬間まで立ち会う予定でございます。」

 

回答を引き継ぐ形で前に出るサラは取材を締めくくる。

 

「あ……ああ、そうとも!これから技術スタッフと共に、列車で爆破エリアの監視拠点に向かうつもりだ。」

 

 

 

取材も終わり、肩の荷を下ろしたパールマンはゆっくりと息を吐いた。取材スタッフの気配が消え、彼の足取りは軽い。

一先ずサラは彼を労うことにした。

 

「お疲れさまでした、代表。」

 

「ふん、拍子抜けだな。」

 

パールマンはネクタイを指先でゆるめながら、口元に意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「“天才起業家”エレグ・マックス、あれで反撃のつもりか。若さだけが取り柄の芝居役者にしては、まあ頑張ったほうだろう。」

 

どちらかといえば芝居をしていたのはパールマンの方だが、サラはおくびにも出さず控えめに微笑む。

 

「記者たちも、あなたの言葉をそのまま記事にするでしょうね。」

 

「当然だ。」

 

パールマンは低く笑った。

 

「若くして成功しただけの小僧が感情に身を任せ勝手に破滅していく……!世間から天才だと称賛され自身の力を過信し、数多くの敵を作り続けた報いだな。株価も下がったままに加え、他企業からの圧による孤立。今回の件で、自身の身の程をわきまえるだろう……!」

 

サラは目を細めてパールマンを見た。彼が抱いているのはエレグに対する醜い嫉妬。

 

今回の件に便乗し彼を蹴落とそうとする他企業のほとんどが目の前の彼と同じ思いを抱いていた。だからこそ、その思いを利用し此方の都合の良い展開にしたのだが……。

 

「………」

 

何故だろうか、嫌な予感が消えない。

 

 

エレグ・マックスは少年と呼べる歳で起業。

二十代のうちにTOPS財政ユニオン入りという偉業を果たし、まるで都市の未来を見透かしているかのような計画で新エリー都の資本を一気に惹きつけた。

努力の積み重ねを飛び越えたような成長。そして市民が口にする“希望”という甘美な言葉。

 

新エリー都における彼の影響力は計り知れず、彼の行動指針からして我々とは絶対に分かり合えない。だから何度も讃頌会の信者たちを送り込もうとし、内側から力を削ごうとした。

 

しかし、すべて失敗。まるで全てを見透かされているように信者たちの正体はばれ、治安局に突き出されたり、行方不明となった。彼に関わる全ての企業への潜入を試みたり、関係者を取り込もうとしても不発。まさかあの膨大な傘下企業を単独で完璧に管理しているのだろうか。

 

讃頌会は要警戒対象としてエレグを位置づけ、なるべく関わらない方向に舵を切った。最初こそは楽しんでいても最終的には自分も賛同した、あれは明らかに()()だ。

 

今回の競争で彼の系列が現れたのは驚いたが、結果は御覧の通りだ。彼は現在劣勢どころじゃないほど崖っぷちに位置している。

 

長年讃頌会を悩ませてきた存在がここまでいいようにされるだろうか……。

 

計画は順調で何も問題はない、しかしこの不快な感覚をどうしても拭うことができない。

 

今現在エレグはメディアから姿を消した。あれだけ、ヴィジョンを糾弾する内容を報じていたが、ここ数日自宅に籠り姿を見せない。

 

世間では体調悪化や、他企業からの圧に耐えきれず心を折ったなどと言われてはいるがサラは確信があった。彼が泣き寝入りで終わることなどありえはしない。パールマンはもう勝負はついたと考えているが確実に何かアクションを起こすはずだ。

 

部下を使い、エレグの動きを監視し、何かあればすぐに連絡が届くようにしている。

ホロウ内に動員する私兵隊の数もエレグに恨みのある企業と協力を取り付け、当初の予定より増員した。

 

モニュメントに封印された()()を回収するまで気を抜くことはできないだろう。

 

「……このまま動かないでくれると助かるのだけれど」

 

サラは黒い絹のような闇が続くトンネルの奥をじっと見つめて呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「このだるまのおっさんのことを信じちゃだめだ!こいつは嘘をついている!」

 

突如ドアを開け部屋に入ってきた猫又に、エレグとパールマンのどちらが正しいかを論争していた兄妹は驚き、テレビから彼女へと視線を向けた。

 

フェアリーが接近を前もって伝えていたがそれでも準備など出来ていなかった。

 

「えっと、どちら様?あ、もしかしてうちに入会したいの?」

 

「六分街で一番のビデオ屋へようこそ。ビデオを3本レンタルするだけで元が取れるよ、お得だろう?」

 

当然初対面のため、身分を誤魔化す二人であるが猫又は食い下がる。

 

「いや、確かにお得だけど、今住んでるとこにそういう機材は……ってちがう!そんなことしてる場合じゃないぞ!あんたたちは『パエトーン』だろう、プロキシのあんたたちに依頼がしたいんだ!」

 

「ええとパエ、トーン?食べ物の名前か何か?」

 

「お客さん、何かの間違いじゃないですか?我々は見ての通り普通のレンタルビデオ屋で……」

 

リンは若干怪しいがパエトーンの名前が出ても二人は顔に出すことなく誤魔化す。

瞳には少々の警戒が見て取れた。

 

猫又は荒い息を整え、真正面から名を告げた。

 

「警戒しなくていい、私は猫又。ニコに頼まれてここに来た。」

 

その名を出した瞬間、兄妹の空気がわずかに変わる。

妹は目を細め、兄は険しい表情を緩めた。

 

「……ニコの知り合い?」

 

「本当なの?」

 

「本当だ!ほら、証拠としてボンプもここにある。カンバス通りが危ない。住人たちを守るために力を貸してほしい!」

 

脇に抱えていたボンプを二人に見せる。実際にそれはニコと共にいるボンプであった。

 

言葉を交わすうちに、兄妹の警戒が徐々に和らいでいく。しかし、事態が複雑で説明するのが難しいのか猫又の話は要領を得ない。

 

彼女が言うもう一人の助っ人は此方から連絡して呼んでおいたが、ここに来るまで時間が掛かるし、到着まで待つしかないだろう。

 

アキラがどうしようかと頭を悩ませていると、フェアリーがボンプの視覚情報を読み取ることを提案する。

 

そんなことができるのとリンが驚いていたが、その返事は肯定される。

 

「自分がバカだった、もっと早くFairyを頼るべきだった、と仰ってください」

 

「ちょっと!」

 

かくしてリンのプライドを犠牲に、視覚映像が画面に映し出される。

 

映像の中では兵士と猫又がニコと出会い、そのまま依頼を受けてホロウ内部を最短で突き進む映像であった。驚いたことにエレグの発言は全て真実だったということだ。

 

画面は住民であふれるカンバス通りを映している。

 

「そんな……!酷い」

 

「ああ、決して許されないことだ」

 

衝撃を受けた二人は猫又の依頼を迷うことなく受けることを決めた。絶対にヴィジョンの計画を阻止しなければならない。

 

その時だった。

 

「マスター、ただいまニュースチャンネルにて、今回の依頼に関連しているとみられる情報が放送されています。お見逃しなく。」

 

フェアリーがビデオのチャンネルを切り替え、耳をつんざくような緊急ニュースが流れた。

 

『速報です。生中継でお送りいたしますーーまもなく、ヴィジョンの最後の運送列車が出発し、デッドエンドホロウへと入ります!』

 

空気が凍りつく。

アキラが目を見開き、猫又の尾が鋭く立った。

 

「まずい!最後の列車がもう出発しちゃう!」

 

「時間がない」

 

連絡したもう片方の助っ人はまだ此方に着いていない。

だが待っている余裕など微塵もないと判断した一同は行動を開始した。

 

「先回りしよう! ホロウ内部で列車を止めなければいけない!」

 

アキラはH.D.Dシステムを起動し接続を開始する、リンは猫又にイアスを渡す。

猫又は狼狽えるもリンから手短に説明を受け、イアスを抱え現場へと急行した。

風が店内に吹き込み、リンが心配そうに叫んだ。

 

「気をつけて!」

 

振り返ることなく、猫又はホロウへ飛び出した。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

急ぎ現場に向かう途中でキャロットを無くしたというカリンと名乗るメイドと出会うことになった。彼女が手に持った巨大な電動丸ノコギリで道を切り開いてくれたため、時短となり調査員を装いながらも彼女をホロウの出口まで送ることに。

 

最近のメイドは戦えるのかと皆が感心し、エーテリアスを蹴散らし順調に進んでいたが、

 

途中見覚えのある女性と出会うことになった。

 

()()()()()()

 

カリンが喜びを露わにしながら、近づいていく。その声が届いたのか彼女はゆっくりと此方を向いた。

 

それは美しい女性だった。

 

漆黒の髪が背まで流れ、黒いメイド服の背中から夜空のような黒い翼が広がる。

羽根は星屑のような微光を宿し、ひと振りで空気を揺らす。

彼女はそっと唇を弧に描いた。その笑みは冷たさを帯びながらも、どこか柔らかな温もりを秘めていた。

 

「カリンちゃん……無事でよかった。もう随分探したんですよ。」

 

「うぅ、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 

彼女はカリンへと近づき、その大きな翼と共にカリンを包み込むようにそっと抱き寄せる。

カリンが驚いたように体を硬直させ、その姿が翼で覆われる。

 

暫く時間が経ち、翼が静かにほどけていく。

漆黒の羽根が一枚ずつ光を返しながら退き、やがてその腕もそっと離れる。

解き放たれたカリンは息をのみ、頬を朱に染めたまま、「あう、ぁう」と声にならない声を呟きながら彼女を見つめていた。

 

「謝罪は後にしてください……今は再会を喜びましょう?ーーそして、挨拶が遅れてしまい申し訳ありません皆様」

 

彼女はアキラと猫又に向きなおり、漆黒の髪を揺らしながら背筋を真っすぐに伸ばした。

黒い翼をたたみ、スカートの裾を片手で優雅につまむ。

深く一礼し、澄んだ声で静かに告げる。

 

「ーー家事代行会社より参りました、一介のメイド『クロエ』でございます。本日はカリンが大変お世話になりました。」

 

その所作は一片の乱れもなく、気品と温もりが同居する仕草に、場の空気が自然と引き締まった。

その凛とした気配と静かな微笑みに、男女の区別なくアキラや猫又は息を呑み、言葉を失ったまま視線を外すことができなかった。

 

そこでアキラは思い出す。カスタムショップの雇われのドクをお見舞いに行ったときに隣のベッドにいた女性であった。目が合ったかと思えばすぐに容態が急変したのか倒れてしまい、慌ててナースコールを押したものだ。

 

思わずあの時の、とアキラは呟いてしまったが、彼女は不思議そうに顔を傾げた。

そこで今はイアスの体であり彼女と初対面であると気が付き、慌てて何でもないよと誤魔化す。

 

その後、二人を無事に出口まで案内(クロエはキャロットを持っていたがアキラの案内する出口の方が近いため同行)し、別れることとなった。二人は深く感謝を述べ、従業員一同でお礼に伺うため名前を教えてほしいと頼まれたが曖昧に誤魔化し、別れた。……お礼には興味があったが。

 

そして列車を待つこと数分、ついに目的の列車が見えてきた。

 

「今だ!みんな行くよ!」

 

リンが指示を出し、列車へと近づく。

 

列車の金属音が、まるで怪物の心臓の鼓動のように響いていた。

猫又に投げられたアキラは列車の上部のハッチから侵入を開始する。緊急停止ボタンを押そうと中々苦労しつつも中に潜入する。

 

しかし視界いっぱいには、治安官の制服を着た武装集団が――。

 

「な!?ここは無人列車のはず、治安官が乗ってるなんてニュースでも聞いてないぞ!」

 

無人列車のはずなのに何故とアキラが驚き固まる中、銃口が一斉にこちらを向く。

 

通信機を持った一人が連絡を取る。

 

「あー、隊長。上から喋るボンプが落ちてきたのですが、パールマン長官に引き渡しますか?……はっ!今すぐ処理しますーー」

 

全員の引き金に力が入る。

 

その瞬間、窓ガラスが鋭い音を立てて割れた。

舞い散る破片の中を、二本の黒い尾が閃く。

 

「せやっ!」

 

猫又が風のように飛び込み、彼の肩を抱きかかえると同時に後方へ跳躍した。

 

「何事だ!?」

 

「侵入者だ、囲め!」

 

怒声とともに武装集団が一斉に動く。

列車内で跳ね返る足音と金属の擦過音が渦を巻いた。

 

「危にゃ!?」

 

猫又は爪を閃かせ、天井を蹴って軌道をずらしながら

銃弾を紙一重で避ける。だが、数が多すぎる。

 

じりじりと包囲が狭まっていく。

 

その時だった。

 

ーーガンッ!

 

鈍い衝撃が列車側面を震わせる。

鉄骨が軋み、異様な振動が走る。

 

「何だ!?」

 

武装集団が一斉にそちらへ視線を向ける。

 

続けざまに、窓が爆ぜた。

鋭く伸びる金属アームが闇から突き出し、近くにいた一人を鷲掴みにして外へと引きずり出した。

 

叫ぶ暇もなく、影は線路に消えた。

 

列車は大きく揺れ、銃を構えた者たちが体勢を崩す。

 

「まさか……」

 

アキラが息を呑み、かすれ声を漏らす。

 

暗闇から、重い着地音。

その影がゆっくりと現れた。

 

全身を鈍い銀色の装甲に包んだ知能機械人。

背から伸びる四本の金属アームが、かすかに電光を帯びて蠢いている。

 

「やっほー、プロキシ~。助けに来たよ~」

 

金属エフェクトのかかった声は、驚くほど陽気だった。

 

武装集団の一人が、恐怖と驚愕をごちゃ混ぜに叫ぶ。

 

「あいつは……『ヒール』! 伝説の……!」

 

知能機械人は愉快そうに笑う。

 

「自己紹介しとくね。ボクは『ヒール』の機械開発担当してるんだ~。コードネームは――――《オクトパス》って言えば分かる?」

 

その場にいた全員が息を呑んだ。

名を聞いただけで背筋が凍る、最近姿が公開された世間を騒がせる存在。

 

「たった一人だ! 撃て!!」

 

リーダー格の男が仲間に怒鳴る。

 

だがーー

 

引き金が引かれるより早く、オクトパスの四本のアームが閃光のように走った。

 

衝撃波。

金属が砕け、銃が宙を舞う。

わずか数秒で武装集団は床へ叩きつけられ、列車内は完全な静寂に包まれた。

 

転がる男たちは呻き声をあげているが、オクトパスは軽やかに片手を上げて言う。

 

「殺してないよ。みんな気絶してるだけ」

 

猫又は尾を揺らし、その尋常ならざる強さに息をのむ。

 

ニコが強力だと言う助っ人、一人はホロウの中でもリアルタイムの通信を可能とし最短ルートを短時間で算出。そしてもう一人は瞬く間に武装集団を片づけた伝説の存在。確かにこれであれば大企業に十分に太刀打ちできるかもしれないと希望が見えてきた。

 

オクトパスはくるりと振り向き、猫又へ向けて機械的なウィンクを送った。

 

「ヒールがニコたち邪兎屋にでっかい借りをしてる、強力な助っ人ってやつ。キミが猫又だね? よろしく~」

 

アキラが呆然と立ち尽くす中、オクトパスは軽く指を鳴らした。

 

「さて、情報を整理しよっか。でもここは危険だし、脱出が先だね。ボクは彼らが持ってた()()()()()()()()をしておくよ。列車は停止させておくから安心してね」

 

猫又は短く頷く。

 

「……わかった。」

 

アキラも息を整え、猫又の横顔を窺った後話しかける。

 

「……行こう、僕たちも確認したいことがあるし」

 

二人の返答に満足そうに頷き手を振るオクトパス。

 

「おっけー!じゃあまた後でお店で落ち合おう!すぐに行くからね~」

 

二人は破壊された列車の窓からトンネルへ向かって身を躍らせた。

 

背後には倒れ伏した武装集団と、停止したままの無人列車だけが残されていた。

 

「やれやれ、困ったリーダーだ……。明らかに動員されてる兵の数が増えてるみたいだし、敵を作り過ぎてるよ。こりゃあちょっと本気で取り組まないとね……!」

 

その中でオクトパスの独り言は周りの空気と共に流れていった。

 

 




次回で終わらせられそう……!持ってくれよ私の体ぁ!!
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