転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活   作:フライパンソルジャー

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オクトパス「これって……!」

ライノ「ああ、リーダーの勝ちだ」



選り取り戦略、どんでん返し、作為的な被害者

日々変わり果てていく赤牙組に嫌気がさして飛び出したあの日。

背中を押したのは自分の自由を求める衝動だったはずだ。

だが、結局心はまだあの場所に繋がれていて。

居場所のない野良猫を気取ってみても真実は違った。

孤独に苛まれ、夜の闇に沈むたび胸を締めつけるのは一人きりであるという事実。

 

それでもかつての組の方針は自分を形作った根の部分に今も残っていた。

何も持たなかった自分に初めて『仁義』という拠りどころを教えてくれた。

ただの力や欲望ではなく、仲間や大切な誰かを守り共に生きるための掟。

それは決して消えない灯のように心の奥底で小さくとも確かに燃え続けていた。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

ヴィジョンの隊員に案内され猫又は一人でヴィジョンの爆破解体本部にいた。

ゴミ箱に入れ拘束したパールマンの傍をしっかりと固め、妙な真似をしたらその首筋を真っ先に爪で裂こうと構える。

四方を固めるのは、治安局に偽装した装備を固めたヴィジョンの部隊。猫又がパールマンを人質に取ったことに動揺している様子だ。

 

(怖れるな……怯んだら、もう負けだ)

 

深呼吸でわずかな動揺を押し殺し猫又は強気に声を張った。

 

「今すぐ爆破工事をやめて住民を救い出せ!そうすれば、こいつーーパールマンを解放してやる!」

 

声が闇に鋭く突き刺さる。

だが隊員たちの視線は一切揺らがない、狼狽えてはいるが上の指示を待っているようだった。

 

 

やがて前に出たのは一人の女。艶やかに手入れされた黒髪をまとめ上げ知的で冷酷な視線を向ける女性、技術顧問兼社長秘書ーーサラ長官だ。

 

猫又は一瞬意外に思い目を見開いた。が、すぐに表情を戻す。

 

「あんたが今の責任者?私の要求は簡単。爆破を中止して、閉じ込められた住民たちの救出を約束すればこいつを返す。」

 

サラは冷ややかに笑った。

 

「……交渉のつもりかしら?随分と素人じみているわね」

 

猫又の心に苛立ちがよぎるが、声を荒げずに睨み返す。

 

「今ならまだ間に合うぞ。住民を見捨てれば、お前たちもただの人殺し集団として世間から糾弾されることになる。それでもいいのか?」

 

返答は乾いた鼻笑い。

 

「はっ……もし仮にそれをしたとして、我々ヴィジョンはこの件をどう世間に申し開きをすればいいのかしら?あなたの条件ではこちらが一方的に不利益を被るだけよ。取引としては成立していないわね。……そもそもあなたは誰?一人で交渉の場に来た度胸は買うけど、狩る側が狩られる側になる可能性だってあるのよ?」

 

冷淡な言葉に猫又の奥歯が軋む。

いかにパールマンを人質にしようと簡単には応じないことは分かっていた。ならば、ここは切り札を切る時だ。

 

猫又は深く息を吐き、余裕を装って名を名乗った。

 

「おっと自己紹介を忘れていた。私は猫宮又奈、猫又って呼んでもいいぞ。何を隠そう、私赤牙組の元組員なんだ」

 

その一言で隊員たちの間に小さなどよめきが走る。

 

「せ、赤牙組……」

 

反応を確認した猫又は続ける。

 

「こうすれば筋書きは作れる。住民を人質に取って工事を妨害したのは赤牙組の残党。張本人である猫宮又奈をヴィジョンは捕らえた。そうすれば、ヴィジョン社は世間的に被害者になれる。……全ての責任は私一人が背負えば済む話だ」

 

静かに結論を下し、猫又は覚悟を決める。

サラはそれを見透かしたように冷笑を深めた。

 

「自分が犠牲となって幕を引くの?なかなか殊勝なことをするのね。」

 

殊勝ーーその一言が胸を強く刺した。

猫又の中に一瞬後悔の影が広がる。

 

「殊勝?ははっ、私は帰る場所を失くしたただの野良猫。どこにも属さない私にはこれくらいがお似合いなんだ」

 

けれど、猫又の頭の奥ではニコたちの顔が浮かんでいた。最後の時まで自分の身を案じてくれた彼女たち……、でもその居場所は彼女たちだけのものだ。これ以上は巻き込むことなど出来ない。

 

居場所を失って後悔し続けるだけの野良猫で皆を救えるなら十分だ。

 

猫又は内心を押し殺し沈黙したサラに同意を促す。

 

「この取引でどうーーー」

 

だが次の瞬間、それすらも打ち消すような出来事が起きた。

 

サラは躊躇なく手にした麻酔銃をパールマンへ向けて引き金を引いた。

 

ーーシュッ!

 

細い針が突き刺さりパールマンの体が痙攣する。

 

「な……っ!?」

 

猫又は目を見開いた。

 

後ろに倒れたパールマンを冷たく見下ろしながら、サラは言った。

 

「決死の覚悟を決めていたところを邪魔してごめんなさいね。()()()()()()()()()()()。パールマンさんに人質としての価値などない。ーー彼はただの飾りよ。」

 

その声は冷徹で、揺らぎがなかった。

 

猫又は愕然とした。今まで信じていた交渉の土台が一瞬で崩れ去ったのだ。

そして理解する。

ーーこの事件の裏で糸を引いていたのは、この女だったと。

 

サラがわずかに笑う。

 

「次からは自分の切り札の価値を確認することね……さあ、どうするの?赤牙組の亡霊さん」

 

猫又の背筋に冷たいものが走った。

 

「……そうか、パールマンはただの操り人形……。爆破解体を企てたのはあんただったんだ!」

 

猫又の声が低く響いた。張り詰めた空気の中わずかに牙を見せるようにサラを睨む。

 

「どうして……どうしてこんなことをする!?このプロジェクトは人の命より大事なのか!」

 

サラは冷たい微笑みを浮かべると、猫又を見下すように吐き捨てた。

 

「貴女みたいな小物にわざわざ教える必要はないわ。早いところ目的を達成しないといけないの」

 

彼女の指先には小さなスイッチが握られていた。金属の冷たさが光を反射し、まるで悪意そのものが形を持ったように猫又の視界を突き刺す。

 

ーー嫌な予感が、全身を締め付ける。

 

猫又の心臓が跳ねた。直感が叫ぶ。

 

「……それは……なんだ」

 

わずかに震える声を抑え問いかける。

 

「知りたいの?もちろん爆破の起動スイッチに決まってるじゃない」

 

サラはこともなげに言い、くすりと笑った。

 

「私からも、存在しない住民たちにお悔やみ申し上げるわ」

 

その指がゆっくりとスイッチに掛かる。

 

「……そんな、待っ!だめだ!」

 

猫又が叫んだ瞬間、乾いた“カチリ”という音が周囲に響いた。

 

無情に押し込まれたその音が、猫又の心を深く抉る。

頭に次々と浮かぶ仲間たちの顔、ーーニコの無邪気な笑顔、プロキシの優しく頼もしい視線、ビリーの豪快な笑い声、アンビーの真剣な眼差し、兵士の覚悟、オクトパスの陽気な態度……そして、守りたかった住民たちの存在。

 

「……っ」

 

胸の奥から鋭い痛みが広がり強烈な失意が彼女を襲った。膝が崩れ落ちそうになる。

 

しかしサラは猫又の絶望など興味もないかのように近くの兵士に淡々と確認を取り始める。

 

全てはヴィジョンの手のひらの上、もうどこにも希望なんてものはないーーー。

 

 

 

「…………?」

 

しかし、サラの目の前にいた兵士は計器を見つめ焦った様子で口を開いた。

 

「ちょ、長官! 爆弾が……「起爆しなかったんだろう? 知ってるとも」……!?」

 

その瞬間だった。突如、朗々とした若い男の声が響き渡り兵士たちの視線が一斉に動く。

 

いつの間にか猫又の隣には()()()()()()()()()()()

 

その存在を認識した瞬間、場がざわめきに包まれる。

姿を現したその男は顔を伏せたまましばし沈黙した。

 

やがてーー。

 

彼はゆっくりと首を持ち上げた。

まるでこの場の支配者が自らの領域を見渡すかのように。

鋭い視線を左右に散らし誰もがその目に射抜かれたように身じろぎもできない。

 

そしてその口元が歪む。

にやり、と。世界の誰もが忘れられないであろう大きな笑みが浮かんだ。

次の瞬間。

 

空気を破裂させるようにその声が放たれる。

 

「ーー残念! 電波障害です!!

 

その一言は爆音のように広がり、壁を震わせ耳に焼き付いた。

意味を理解するよりも先に言葉そのものの迫力と異質さに場が呑まれる。

 

 

「なっ……!」

 

「……ありえない、どうしてここに……」

 

混乱と動揺が広がる。

そこにいたのは新エリー都であれば知らぬ者はいない本来ここにいるはずのない人物。

世間的に名を知られ、数々の伝説を築いた男――若きTOPSの一角、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

朗々と響いた声に会場の空気が一変した。

ヴィジョンの隊員たちがざわつき、サラでさえ眉をわずかにひそめる。

 

しかし、猫又だけは違っていた。

あまりにも強烈な衝撃に心を打ち砕かれ立っているのがやっとの状態だった。

頭の中では仲間の顔と失意が交互に渦巻き世界の輪郭がぼやけて見える。

 

ーー誰かが立っている。

 

視線をゆっくりと上げた。

そこにいた若い男の輪郭が滲む涙と錯覚のせいか懐かしい影と重なって見えた。

 

(……ミ……ゲル……?)

 

幼い頃に命を救ってくれた恩人。

遠い記憶に焼き付いている背中。

猫又はほんの一瞬、心の奥底でずっと追い求めてきた人物だと勘違いした。

 

「……あ、あんたは……」

 

震える唇から声が漏れる。

 

だが次第に焦点が合ってくる。

笑みを浮かべ軽妙に立つその姿。

あの恩人のものではない。もっと世間に知られ、華やかで、強烈な存在感を持つ人物。

 

艶やかな銀髪は整えられ、光を受けて淡く輝きまるで夜の闇に落ちる一筋の稲光のようだった。

切れ長の瞳は自信に満ち、何事にも動じぬ鋭さを秘めながらも不思議と人を安心させる温かさを宿している。

 

端正に整った顔立ちはまるで彫刻のようで口元に浮かぶわずかな笑みは傲慢ではなく、むしろ確信に裏打ちされた余裕を感じさせた。

上質なスーツを纏い、その一つひとつの動作に至るまで洗練された品格を漂わせる。

まるで舞台の上に立つ王者のように視線ひとつで人々を従わせる力があった。

 

ーーいや、違う。

 

「……エレグ……マックス……!」

 

現実がようやく脳に追いついた瞬間猫又の心臓が大きく脈打った。

世界が再び色を取り戻す。

 

そこに立っていたのは彼女が思い描いた幻影でも恩人でもなく、現実に存在する“天才起業家”――エレグ・マックスだった。

 

全ての視線を奪い去った彼は私の方を振り向く。

 

「……君は、よく戦ったな」

 

耳に届いたのは、不思議なほど穏やかで優しい声だった。

混乱と失意に沈んでいた猫又の心をまるで柔らかな手で支えるかのような響き。

 

「孤独の中、必死に踏ん張り続けた。誰の支えもなくたった一人で……それは本当に尊敬に値することだ」

 

猫又の心に熱いものが広がる。

誰にも理解されずに報われぬまま戦ってきたと思っていたその孤独を彼は認め、称えてくれたのだ。

 

しかし、次の言葉はさらに深く突き刺さった。

 

「ーーけれど、忘れていないか?君にはもう仲間がいたはずだろう」

 

「仲間……」

 

猫又は反射的に呟き、震える瞳を彼に向ける。

 

エレグはふっと微笑むと顎をわずかにしゃくって視線を横へ送った。

 

「ほら。君を大切に思ってくれている素敵な仲間たちが……助けに来てくれたぞ」

 

ヴィジョンの隊員の一人が何かに気が付いたように声を上げた。

 

「ま、待てよホロウに繋がるトンネルから、誰か出てきたぞ!」

 

猫又の視線がゆっくりとトンネルの向こうへ流れる。

 

そこから自信を浮かべ力強く歩みを進めるニコの姿があった。

その後ろには、アンビー、ビリー、プロキシ、兵士が、怒りで声を上げる住人たちを引き連れていた。

 

「ヴィジョンは命を軽んじたわ!ヴィジョンを倒すのよ!」「ヴィジョンの手は血まみれだ!その体の隅々まで、罪なき一般市民の血に濡れているんだ!」「いつまでも私たちの口を封じられると思うな!」

 

暗い街並みに差し込む光のように、仲間たちの存在は圧倒的な現実感をもって猫又の目に映った。

 

「……ニコ!それに……みんな!」

 

押し潰されかけていた孤独が音を立てて崩れ代わりに温かな熱が満ちていく。

 

ーーああ、自分はもう一人じゃない。

 

猫又はこみ上げるものを必死に堪えながら唇を噛みしめ、仲間たちの姿を見つめ続けた。

エレグはその様子を満足そうに見つめた後、ヴィジョンの部隊へと向き直る。

 

「どうだろうかヴィジョンの諸君!たった今君たちの悪事はこの場にいる勇気ある者たちによって完全に暴かれた!これからどう世間に申し開きをするつもりだろうか!」

 

サラの目が細められ、エレグと騒ぐ住民たちを見つめる。

 

「エレグ・マックス……やはり面倒な事態にしてくれたわね。貴方が動いたのであれば連絡が届くようになっていたはずなのだけれど、どうやってここに?」

 

その言葉はやや苛立ちを孕んでいた。エレグは珍しいものを見たと口先を吊り上げ、肩をすくめる。

 

「それは先ほど言っただろう?そろそろ掛かってくるだろうな」

 

意味深な発言の直後、突如サラに通信が入る。彼女は表情を変えないままポケットから端末を取り出して応答すると焦った部下からの連絡が。

 

『サ、サラ長官!良かった!やっと繋がりましたか!緊急事態です、エレグが自宅から突然姿を消しーー』

 

「………」

 

話し終える前に通話を切る。どうやら連絡を取れないようにエレグが仕掛けたらしい。端末を持つ手に力が入る。

 

「かなり高性能な通信端末のようだが私には関係ないな。今度からはアナログな伝達手段、伝書鳩でも使うことをおすすめするよ。……さて君たちはこれからどうする、交渉を続けるか?残念ながら先ほどの猫宮又奈さんの提案は君たちから蹴ったのだから取り下げさせてもらおう!」

 

「……総員、発射準備」

 

サラは静かな、冷気を帯びた声で武装隊員全員に命令を告げる。この場にいる者たちに銃口が一斉に向けられ住民たちが怯える。

 

「そ、そんな!?」

 

「あの女、本気だぞ!」

 

ヴィジョンはこの件を完全に闇に葬り去るつもりであると感じ取ったのだ。

しかし、エレグは余裕は揺らがない。

 

「おっと……交渉の場に武器なんか持ち出すなんて随分自信がないらしい。それじゃあ弁が立たないって自分で証明してるようなもんじゃないか?ーーでは任せますよ()()()()()()!」

 

向けられた銃口に怯える住民たちを庇うように前方に兵士と呼ばれていた男、ダイナ指揮官が立ちふさがる。

 

「各員取り囲め!」

 

短く、それでいて空気を揺るがすほどの大きな命令で。

刹那、周囲の影から無数の人影が飛び出した。

漆黒の戦闘服、最新鋭の装備に身を包んだ部隊が瞬く間にヴィジョンを包囲していく。

 

「住民の皆様をお守りしろ!」

 

「エレグCEOと指揮官を守れ!」

 

住人たちの前にはシールドを持った部隊が住民たちを守るように壁を作る。

銃口が入れ替わり、今度はヴィジョンの隊員たちが狙われる側に立たされた。

 

「こ、こいつらどこから!?」

 

「この武装……マックスPMCか!?」

 

現れたのはエレグの企業傘下の民間軍事会社、マックスPMCである。それはホロウ関係の事故や企業が反社会組織に対抗するために組織された会社だ。

 

その戦力は並大抵のものではなく治安局ですら質の面では上回るとされている。そのためエレグの傘下の中で最も危険視されていた会社であるが。今回イメージ戦略のたm………住民たちを守るため、エレグが呼び出したのだ。

 

「ダイナ指揮官ご指示を!」

 

武装で素顔を隠した年若い白髪の女性の声が響き、ダイナに指示を仰ぐ。

 

「最優先事項は住民の皆様の安全だ!敵が少しでも妙な動きを見せたら直ちに攻撃を開始しろ!」

 

「はっ!」

 

シールドを展開した部隊が壁を作ると同時に怒りと恐怖で揺れていた住民たちの顔に安堵の色が広がった。

背中を押されるように彼らの中から声が上がる。

 

「……守ってくれてる……!」

 

「俺たちを、庇ってくれてるんだ!」

 

理不尽に命を奪われかけた彼らにとってその武装の壁は絶望を遮る盾であり、明確に自分たちが“守られる側”だという実感を与えていた。

 

「エレグ様が……本当に私たちのために……」

 

「これならヴィジョンなんか怖くない!」

 

恐怖で震えていた老人が胸に手を当てて涙をこぼし、母親が幼子を抱きしめながら声を漏らす。

人々の心を押し潰していた重苦しい空気はマックスPMCの出現によって僅かに解き放たれていった。

 

 

……アイツマジでやってんな

 

この後の展開的にバレると面倒なのでスーツによる透明化及びステルス機能で周囲の様子を窺っていたオクトパスことドクは何とも言えない感情のまま呟いた。

 

そして、最前線に立つダイナ指揮官の威圧的な声がさらに住民たちの胸に力を与える。

 

「後ろにお下がりください!この場で一人たりとも死なせはしません!」

 

その宣言に住民たちは思わず声を合わせた。

 

「「おおっ!」」

 

彼らは初めて自分たちが“声を奪われるだけの存在”ではないことを信じられたのだ

 

 

……ダイさんもノリノリじゃん、いや……本心か?

 

 

 

完全に形勢は逆転した。自分たちを遥かに超える戦力に睨まれたヴィジョンは狼狽える。

エレグは満足そうにサラを見下ろす。

 

「二度も注意を逸らすような大変優秀なヴィジョンの部隊が相手なのであれば、気づかれずに距離を詰めることなど容易いのですよ!私が何の準備もせずにこの場に現れたと!?ははは、まったく……」

 

おかしそうに顔を覆うエレグ。サラは隣から必死に指示を仰ぐ隊員の言葉を無視しながら鋭い目つきで彼を睨んでいた。

 

しかし、顔を上げたエレグは先ほどの様子など嘘の様に冷めた声でサラを見据えた。

 

「…まったく、()()()()()()()俺を舐めてるのか……?

 

周囲の喧騒に掻き消された中、サラだけがその言葉を聞き目を僅かに見開いた。

豹変したエレグ、言いようのない感情が彼女の背筋を這う。

 

ヴィジョンの不幸は終わらない、次の行動を思いあぐねている間に騒々しいサイレンとライトが彼らを包んだ。

 

音と共に外のゲートが破られ、赤と青の閃光が差し込んだ。

 

「治安局だ!全員武器を捨てろ!」

 

怒号が飛び交い公式の治安局部隊が現場になだれ込む。

 

さらにーー報道用のカメラ、マイク、明かり。

競合他社であるマックス・コンストラクションと白祇重工がメディアの記者たちを引き連れ雪崩れ込むように突入してきた。

 

「そ、速報です!あのヴィジョンに重大な人命軽視が発覚しーー」

 

「現場にはエレグCEOの姿がーー」

 

「治安局の部隊よりも早くマックスPMCの制圧部隊が現場を抑え、住民を守るようにーー」

 

多数の報道局がカメラを向け、ヴィジョンの動揺は頂点に達し、戦場だった空間が一瞬にして公開の舞台へと変わる。

 

「サ、サラ長官どうします……!?い、いないぞ!」

 

最早隊員たちが頼れるのはサラだけである。しかし彼女の姿はほんの一瞬目を離した隙にまるで煙のように雑踏に紛れ、足跡すら残さず逃げ去っていたのだ。

 

「おぉう……逃げ足が速いな……成程そうなっていたのか」

 

目を丸くしたエレグであるがまあ問題はないと切り捨て、事件の収拾へと事を進めた。

 

 

「ダイナ指揮官」

 

「はっ」

 

「ここから先は治安局の管轄です。申し訳ありませんが現場の引き継ぎを頼みます」

 

短く告げられた指示にダイナは敬礼で応える。その表情は揺るぎなく、力強かった。

 

「了解しました。ーー全隊配置を整えよ!住民を守りつつ治安局へと状況を引き継ぐ!」

 

その号令が響いた瞬間マックスPMCの部隊は流れるように動き出した。住民たちを守る盾を崩さぬまま、治安局部隊との交代を開始する。その規律の高さは傍目にも驚嘆すべきものだった。

 

エレグは一歩引き、冷静にその様子を見届けながら再び猫又へと穏やかな視線を戻した。

 

彼は歩み寄ると少しだけ腰を落として彼女の目の高さに合わせた。その端正な顔立ちに浮かぶのは冗談めかした笑みではなく、真摯そのものの眼差しだった。

 

「猫宮又奈さん、今回は私の依頼を引き受けてくれてありがとう。君のおかげで私たちは何百人もの住民の命を救うことができた。本当に感謝する……!」

 

その声音は決して飾り立てたものではなく、確かな実感を伴った感謝の響きだった。

耳に届いた瞬間、猫又の胸に鋭くも温かな衝撃が走る。

 

「わ、私が……そんな、大したことじゃ……」

 

否定の言葉を返そうとするが、喉が詰まり声は弱々しく消えていく。

 

だが彼女の動揺を知ってか知らずか、エレグは一歩踏み出し猫又の手を優しく取った。

その瞳が真正面から彼女を射抜く。

 

「ひゃう!?」

 

不意の接触に猫又は体を震わせ耳まで赤く染まる。

周囲の視線も忘れ、ただ彼との距離の近さに呼吸が乱れていく。

 

「いや、大したことだ。どうか自信を持ってくれ、猫宮又奈さん……!」

 

その言葉は断言であり、迷いのない肯定だった。

彼の瞳に映っているのは他の誰でもないーー自分自身。

 

「君は実に勇敢だ。あの状況で己を顧みず住民の盾となり、さらに仲間を信じてここまで戦い抜いた!……君の勇気は何百人もの命を救ったんだ。本当に、胸を張っていい」

 

力強い言葉が矢継ぎ早に放たれるたび、猫又の心は熱に飲み込まれていく。

否定したいのに、どこかで肯定したくて仕方がない。

彼に認められたことが嬉しくてたまらない。

 

「わ、わかったから手を放して……!」

 

絞り出すように言葉を吐き、猫又は視線を逸らす。

頬は真っ赤で、涙すらにじみそうなほど感情がかき乱されていた。

 

ハッと気づいたようにエレグはゆっくりとその手を解いた。

 

「おっと、私としたことが女性に無闇に触れるものではなかったな。すまない、猫宮又奈さん」

 

わずかに咳払いを挟み、しかしその声色は真剣さを失わず続く。

 

「……だが、勘違いしないでくれ。私は礼として君を持ち上げているのではない。事実を述べているだけだ。勇気と誇りがなければ到底できないことを君は成し遂げた。だからこそ胸を張ってほしい」

 

猫又はまだ落ち着かず、俯いたまま小さく「……でも、私は……」と呟く。

 

その声を遮るようにエレグは静かに言葉を重ねた。

 

「今回の件を通じて……君はようやく“居場所”を見つけられたのではないか?」

 

彼の瞳は揺るぎなく、まるで猫又の内心を見透かすかのように真っ直ぐだった。

 

「もう君は一人ぼっちの野良猫ではない。仲間は君を信じ、君もまた彼らを信じた。だからこそこの結末に辿り着けたんだ。今の君に必要なのは……彼らと真正面から向き合う勇気だ」

 

言葉は柔らかく、しかし確固たる力を帯びていた。

 

「さあ、猫宮又奈さん。仲間に会いに行きなさい。きっとそこは孤独なんて感じる暇がない程忙しくて、それ以上に素敵な場所のはずだから……!」

 

 

ーーーーーーー

 

 

猫又はエレグの言葉に背中を押されるように歩き出した。心臓はバクバクと騒ぎ、足は妙に重い。それでも止まらなかった。

ーー怖がってばかりじゃ、また“野良猫”のまま。

 

「うわあ!」

 

突然前方に現れた誰かにぶつかった。顔を上げるとそこにはアンビーがおり、少し固まってしまった。

 

「っ、…ごめんなさい、少しあなたに用事があって……でもあなたも私たちに用があるみたいね、先にそちらの用件を聞いてからにするわ」

 

アンビーは申し訳なさそうに此方の要件を促した。後ろにはニコとビリー、そしてプロキシがいた。

 

「……あの」

 

猫又は小さな声で口を開いた。三人の視線がこちらに向いている。息が詰まるような緊張に、彼女は一瞬立ちすくんだ。だが唇を噛みしめ、勇気を振り絞る。

 

「わ、私……! ずっと居場所を探してたんだ。でも今日、あんたたちと一緒に戦って……やっと分かったんだ。私も……ここにいたいって」

 

頬が赤くなるのを誤魔化すように、猫又は両手をぎゅっと握り締めた。

 

「だから……お願い。私を……仲間に入れてくれないか……!」

 

沈黙。猫又は胸の奥が張り裂けそうで、視線を地面に落とした。

 

アンビーは猫又の目の前に静かに手を差し出した。

猫又の目が大きく見開かれる。アンビーは柔らかく微笑んだ。

 

「実はね、私たちもあなたを“邪兎屋”にスカウトしようと思ってたの」

 

「え……」

 

予想もしなかった答えに、猫又は思わず呆然と立ち尽くした。

 

そこに、ニコが鋭い声で割って入る。

 

「ええ、アンビーの言う通りよ!」

 

ニコは腕を組み、挑むような視線を猫又に向ける。

 

「あんたの勇気も力も、もうとっくに見せてもらったわ。あの地獄みたいな状況であそこまでやれるなんてなかなかできることじゃない。だから、ハッキリ言うわよ!」

 

ニコは一歩前に踏み出し、強い声で宣言する。

 

「猫又……いや、猫宮又奈。あんたを正式にスカウトするわ。邪兎屋の仲間として、あたしたちと一緒に歩んでくれないかしら?」

 

ビリーがにやりと笑い、両手を広げる。

 

「断るなんて選択肢はないだろ?歓迎するぜ、新入り」

 

胸の奥から込み上げてくる熱に、猫又は唇を噛みしめた。

自分がずっと求めていた言葉。自分の居場所をようやく見つけたのだと実感しーー。

 

「……!ありがとう!……本当に…そこまで言うなら、考えてやっても……いいぞ!」

 

猫又はこみ上げる涙をこらえ、笑顔を見せた

 

三人の輪の中に迎え入れられたその瞬間、猫又の胸の奥にずっと空いていた穴がようやく埋まっていくようだった。

 

ーーーーーーー

 

三人の輪に迎え入れられ、猫又はようやく安堵の吐息をもらした。頬はまだ熱く、胸の奥はじんわりと温かさで満たされていた。

 

そのとき、アンビーがじっと猫又の顔を覗き込み、小さく首をかしげた。

 

「……顔、赤いけど? もしかしてさっきのエレグCEOと何かあったのかしら」

 

「えっ!?」

 

猫又が慌てて両手で頬を覆う。その仕草を見たビリーがすかさずニヤリと笑った。

 

「おいおい、あの猫又が顔真っ赤って……お偉いさんと何イイ感じになってたんだ?」

 

「あら、それはすごいニュースね!」

 

ニコがわざとらしく口元を隠しながらクスクス笑う。

 

「住民を救った姿に依頼人の心も救っちゃったってこと?」

 

「ち、ちちち違う! そんなんじゃないから!」

 

耳まで真っ赤に染めた猫又が必死に否定する。だが三人は互いに顔を見合わせ、楽しげに笑い声を上げた。

 

ーーそして猫又の脳裏に、不意にあの瞬間が蘇る。

 

真っ直ぐに見据えてくる銀の瞳。力強く握られた手。自分の勇気を心から称えてくれた声。

 

「(……エレグ……)」

 

思い出した途端頬の熱はさらに増し、ますます真っ赤に染まっていく。

 

「おっと、さらに赤くなったぞ」

 

「図星だったんじゃない?」

 

ニコとビリーが追い討ちをかけ、アンビーまで小さく肩をすくめた。

 

突然猫又の傍の空間が歪み、オクトパスの顔が現れた。

 

「ぎにゃ!?」

 

当然驚き、毛を逆立たさせる猫又であるが、オクトパスは圧を持ったまま詰め寄る。

 

「ちょっと猫又……!詳しく説明して!今ボクは冷静さを欠こうとしている……!」

 

「ど、どうしたんだいオクトパス!というか今君が治安局に見つかると面倒なことになる、早く隠れてくれ!」

 

焦るアキラの懇願にオクトパスはぐうと呻いて、「ちょっと事情聴取が終わったらしっかり聞くからね!後でこのお店にみんな集合して!」と言い、姿を消した。

 

「ここ食べ放題の店じゃねぇか?いいなみんなで行こうぜ!」

 

「ええ、折角のお誘いだから行くわ」

 

「勿論誘った側の奢りで良いわよね、仕方なく行ってあげようじゃない!」

 

「ニコ、さすがにそれは……「それでいいからとにかく全員来て!」……いいのかい!?」

 

猫又は頭を抱えたが、その顔は恥ずかしさの奥でどこか嬉しそうでもあった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

現場を治安局に引き継がせ、振り返ったエレグはそのまま報道陣に向かって歩き出す。

 

ライトが彼を照らす中、記者たちが一斉にマイクを突きつけた。

 

「エレグさん、これは一体どういう状況ですか!?」

「ヴィジョン社との間で何があったんですか!?」

「告発は本当だったんですか?」

 

エレグは静かに口を開いた。

 

「本日、私たちはヴィジョン・コーポレーションの悪事を勇気ある若者たちと共に明るみにしました」

 

「この再開発は住民の命と生活を犠牲にするものであり、都市開発という言葉の陰で行われる隠蔽と利益誘導に過ぎません。マックス・コーポレーションはそれに抗い、事実を明るみに出すためすべての責任を負う覚悟で行動してきました。」

 

「今回我々が敵に回したのは企業ではない。腐敗です。」

 

沈黙が場を包む。彼はさらに揺るがぬ声で言葉を重ねた。

 

「都市は数字や工期ではなく、“人の生活”で築かれるものです。私はそれを信じています……!」

 

その瞬間、現場の空気が凍りついた。

スキャンダルの暴露者ではなく、“信念の執行者”としての姿がそこにあった。

 

誰もが言葉を失ったーーー彼の圧倒的なカリスマに、揺るがぬ信念の前に。

 

やがて、一人の記者がぽつりと呟いた。

 

「……マックスは、本気だったんだな……」

 

それはまるで嵐の後の澄んだ空気のようだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

数日後。

治安局によるヴィジョンの関係者逮捕と告発の正当性を裏付ける証拠が次々と報道され、世論は劇的に変化した。

 

エレグが真実を明るみにした瞬間すべてがひっくり返ったのだ。

それまで「無謀な理想家」「孤立したCEO」と嘲笑され、業界から切り捨てられかけていた彼とマックスグループはまるで風向きが変わるように劇的な逆転を果たした。

 

ネットの空気も180度変わった。一週間前まで「企業戦争の敗者」「騒ぎ立てるだけの正義面」と叩かれていたコメントは姿を消し、代わりに溢れたのは熱い支持の声だった。

 

「エレグさん、信じてた……!ずっと信じてたよ!」

「正義が勝ったってこういうことか」

「ヴィジョンと癒着してたやつら、今どんな顔してんだろうな」

「一度は叩いた自分が恥ずかしい」

「マックスグループ、これからは絶対に応援する」

 

メディアもこぞって彼の名を取り上げた。

「真実を暴いた天才起業家」「企業の暗部を告発した救世主」と大見出しが並び、ニュース番組では専門家やコメンテーターが声を揃えた。

 

「これまで過激だと揶揄されてきたエレグ氏の手法だが、結果的に数百人の命を救い、ヴィジョンの暴虐を暴いたのは事実だ」

「彼を孤立させてきた業界側こそ今後は世論の厳しい追及を受けるだろう」

「ヴィジョンによる危険な都市再開発計画、告発が暴いた“行政との癒着”!」

「真の都市再建とは何かーーエレグ・マックスの理念に再注目!」

「市場も反応。マックス社株価がV字回復」

 

冷え込みを見せていたマックス・コーポレーションの株価は事件報道を境に過去最高値を更新した。投資家たちはその“倫理的な強さ”と“潜在的影響力”を再評価し、資金は一気に流れ込んだ。

 

さらに、かつて彼から距離を置いた企業や投資家たちも一転して擦り寄り、提携を求める声が殺到する。

「彼のビジョンこそ未来だ」「マックスグループと提携したい」と、その声は業界の裏表を問わず広がった。

 

逆にエレグを公然と非難した企業はメディアと市民から批判に晒され謝罪声明を余儀なくされた。

 

当社は、マックス・コーポレーション及びエレグ・マックス氏に対する一部不適切な発言について深く反省しております……

 

 

 

そして皮肉なことにヴィジョンと連動して傭兵を送り込みエレグの失墜を狙った複数の企業は自らの信頼を失い、経営破綻に追い込まれた。

雇った傭兵たちのほとんどが()()()恐慌状態で雇い主の情報を吐き出し、裏の連携が白日の下に晒されたからだ。

その後、潰れた企業は次々とマックス傘下に吸収合併されていった。

 

快進撃は止まらない……!

他局が一切触れようとしなかった真実を白日の下に晒し続けた「マックス・テレビジョン」。

これまで「自社の宣伝媒体にすぎない」と揶揄されてきたその報道姿勢は一転、「最も公平で中立な報道機関」として新エリー都全域で高く評価された。

視聴率は急上昇し、影響力は大手局をも凌ぐまでに拡大した。

 

また住民を守るために誰よりも早く現場へ駆けつけたマックスPMC。

「私兵集団」「企業の武力」として危険視されていたその存在はこの時ばかりは命を盾にして市民を守り抜いた。

カメラが映したのは、戦闘ではなく“防衛”の姿だった。

 

ネットや市民の声も変わる。

 

「治安局より、よほど信用できる」

「命を守るためのPMCなら、これほど心強いものはない」

 

かつて”企業武力の象徴”とされたマックスPMCは、一夜にして”()()()()”と呼ばれる存在となった。

 

ーーマックスという名は、今や新エリー都の象徴的存在となりつつあった。

 

ーーーーーーー

 

その日も、エレグのオフィスは静かだった。

騒がしい報道や世間の喧噪は厚い防音ガラスの向こうでしか響かない。

 

窓の外を見つめ、彼はゆっくりとコーヒーを口に運んだ。

 

扉がノックされる。

 

「失礼します。ヨシダです。」

 

ヨシダは書類を抱えて入ってきた。その表情には柔らかな笑みが浮かんでいる。

 

「スリーゲートから連絡があったよ。ヴィジョンの失墜で計画は一度白紙になったけれどーーー次の設計案はうちに正式に依頼したいそうだ。」

 

エレグは微笑むことなく、ただ静かに頷いた。

 

「……ヨシダさん、覚えてますか。誰からも理解されなかったあの夜。」

 

「忘れようもないよ。」

 

「その時と今の声援はどちらも同じ“民意”です。でも私はどちらにも飲まれません。必要なのは静かな決意だけです。」

 

ヨシダは少し笑った。

 

「……まったく。そういうところが君らしいよ。」

 

そこでエレグはデスクの端に置かれた別の書類に視線を落とした。

 

「ただし、再開発事業そのものはマックス・コンストラクションとしては辞退する。今回我々は業界のルールを逸脱したし、多くの労力をヴィジョンの悪事を暴くことに割いた。住民たちのことも放ってはおけない、だからこそ……」

 

「だからこそ他の信頼できる競合に譲る、と?」

 

「ええ。唯一現場に赴き住民を守るために汗を流した白祇重工に。あの誠実さこそこの街に必要なものです。この件は大々的に報じさせてもらいます。……今回競合を勝ち取るために尽力してくださったあなたには大変申し訳ないことをしますが……」

 

ヨシダはふっと笑みを浮かべると静かに頷いた。

 

「ふふ、いやいや構わないよ……潔い決断だな。君の判断なら誰も否定できやしない。それに彼女たちであれば私も信頼できる」

 

オフィスには再び静かな時間が流れた。

だがその沈黙は確かに未来へと続く力を秘めていた。

 

 

 

 

 

マックス・コーポレーションは急速に信頼と事業を回復し、むしろ事件以前よりも強固なブランドと社会的地位を確立した。

新参TOPSでありながら、TOPS財政ユニオンの中でも上位の実権を握ったエレグの理念は、もはやただの経営哲学ではなかった。

それは新エリー都という都市に深く根を張る“根幹”そのものとなりつつあった。

 

そして人々はひとりの若き企業家が成し遂げた行動の意味をようやく理解し始めた。

それは単なる“告発”ではない。都市の在り方を揺るがし未来の方向を示す宣言だったのだ。

 

報道は彼を「都市の英雄」と呼んだ。だが、エレグ自身がその名を口にすることは決してなかった。

 

彼はただ、穏やかに言葉を紡ぐ。

 

「私が成し遂げたことはまだ“信頼を取り戻した”に過ぎません。……創るのはこれからです。」

 

静かな一言が未来を描き始める決意の鐘の音のように新エリー都に響いていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

512:デンキウナギ ID:zzztensei02

FOOOOO!気持ちええ!マジ最高っす、脳汁が止まんない!これが最高にハイってやつだあああ!!不正暴いた瞬間、株価ぶっ壊れ高値更新!!!!!投資家も資金ブチ込み!!!世間の手のひらドリル回転!!!!!!もう俺は神!!!!!!

 

513:軟体エンジニア ID:zzztensei05

……いやもうほんとに台無し、さいてー

 

514:サイ男 ID:zzztensei01

マジでいい加減にしろよお前

 

515:カラスメイド ID:zzztensei04

とうとう精神分裂し始めたぞこのリーダー

 

516:サソリ薬師 ID:zzztensei03

なんでだろうな……全て正しいことのはずなのに、リーダーが当たり屋にしか見えない

 

517:デンキウナギ ID:zzztensei02

うるさいお前ら!でも嘘手伝ってくれてマジ感謝!

見ろ!アンチ企業どもが謝罪声明出してる!ざまあみろボケが!

散々こっちを貶めといて、今度はお前らが叩かれる番だわ!

ふっは、土下座してるやんwwww

 

518:軟体エンジニア ID:zzztensei05

……なんなんですかこの裏表、正直ちょっと怖いんですけど

 

519:デンキウナギ ID:zzztensei02

世間よおおおお!!手のひら返すの早すぎだろ!?

腕大丈夫ですかああああ!?!?

 

520:カラスメイド ID:zzztensei04

裏と表がある人って怖いよね……鳥肌立ったわ

 

521:サソリ薬師 ID:zzztensei03

いやお前もやないかい……!

 

522:サイ男 ID:zzztensei01

それギャグで言ってんのかお前

 

523:デンキウナギ ID:zzztensei02

怖がるな!俺たちは無敵だ!!これが勝者のテンション!!!!

俺の二面性は武器だあああああ!!!

 

524:カラスメイド ID:zzztensei04

……表では「全ての住民のために」とか語ってた人が、裏で「無敵ィィィwww」って叫んでるとか、普通に虚しくなるんだけど

 

525:軟体エンジニア ID:zzztensei05

毎回リーダーが活躍するたびに悪い意味でギャップにやられるんだよね

なんか……着ぐるみの中身を見せつけられてる感じ?

 

526:サイ男 ID:zzztensei01

しかもこれ、全部嘘じゃないのが尚更タチ悪いな

 

527:デンキウナギ ID:zzztensei02

表では清廉潔白!裏では狂気!!

この二重構造こそ最強のブランディング!!!!

 

528:サソリ薬師 ID:zzztensei03

内情知ってるこっちからすると、ただの情緒不安定な人間にしか見えないんだよ

 

529:サイ男 ID:zzztensei01

とりあえずヨシダさんにマジで頭下げてこい、今回あの人が全部支えてんだろ

 

530:カラスメイド ID:zzztensei04

なんか知らんけどリーダーを褒め称えてる人たちに同情してきた……

 

531:軟体エンジニア ID:zzztensei05

わかる、涙出そうになるんだよね

 

532:サソリ薬師 ID:zzztensei03

リーダーが清く正しい姿でテレビに出るたびに裏でこうやって暴れてるの思い出すんだよな

ほんとに何とも言えない気持ちになる……

 

ーーーーーーーー

 

581:デンキウナギ ID:zzztensei02

……ふぅ、さっきは取り乱してすまんかったな。狙ったとはいえフラストレーションが溜まってたし、手のひら返しにイラついたし、舞い上がったのも事実だ

だがここからが本番だ!次の一手は新エリー都市政側への影響力を深めること。幸い今回の件で市長からも感謝状をいただいたからな、これはTOPSとしては非常に珍しい。だからこそ何としてでもこのまま距離を縮めて信頼を重ねてみせる!

一時的な熱狂に溺れず、持続的な成長基盤を築く、倫理と技術を両輪にした企業にするんだ!

ああ、やることが多いな全く……!

 

582:軟体エンジニア ID:zzztensei05

うわぁ……急に収まった、こわ。

ついさっきまで壊れたラジオみたいに叫んでたのに

 

583:サソリ薬師 ID:zzztensei03

こいつ一体いくつ感情隠し持ってんだよ、フリ〇ザ様くらい変態的に感情の形態残してんなこのリーダー

 

584:サイ男 ID:zzztensei01

さっきまで「狂王wwww」って叫んでたのに、いきなり冷静に戦略語りだすとか

落差が激しすぎて逆に怖いんだが

 

585:デンキウナギ ID:zzztensei02

経営者に必要なのは柔軟性だ、狂気も冷静も両方自在に操ってこそトップに立てるのだ!

 

586:カラスメイド ID:zzztensei04

まだ冷静じゃなさそうだけど?まるで操れていないんですけど?

 

587:サソリ薬師 ID:zzztensei03

あの、急に真面目なトーンでビジネス書みたいなこと語られても……

これってもう、人間の精神の限界を研究してる実験体みたいに見える

 

588:サイ男 ID:zzztensei01

論文作るか?

 

589:軟体エンジニア ID:zzztensei05

そういえば、あの事件の日に打ち上げ行ってたんだけど、恐ろしいことに猫又がリーダーに恋愛感情らしきものを抱いてたからちゃんと不安の芽は摘んどいたよ

 

590:カラスメイド ID:zzztensei04

は!?猫又ちゃんマジで!?ちょっと危ないって、こんなやつ!

 

591:サソリ薬師 ID:zzztensei03

よくやった、彼女が可哀そうだしな

そんな不穏なフラグなんぞへし折ってしまえ

 

592:デンキウナギ ID:zzztensei02

は!?おい、何やってんだてめぇ!?彼女になんて言ったんだ

 

593:軟体エンジニア ID:zzztensei05

裏でお金で女をとっかえひっかえしてるって噂流しといた、ピース!

 

594:カラスメイド ID:zzztensei04

ぶっはwww秘書を雇うたびに新規の産業スパイが入ってくるから、本当のことで草

 

595:サイ男 ID:zzztensei01

まあ、間違いじゃないな。

 

596:デンキウナギ ID:zzztensei02

お前ぇ!!ぶち転がしてタコ焼きにすっぞ、この野郎!!

 

 




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