転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活   作:フライパンソルジャー

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感想ありがとうございます!

アンケートは気楽にお答えいただけると幸いです。
この後の展開の参考にするのでアンケート結果が絶対ってわけじゃないです


もらい事故。完全に切れちまったよ……

郊外の地平線は、いつだって煙と砂に霞んでいる。

新エリー都の外側に広がる、治安局の管轄外とされる地。

この土地の経済は、今もなお化石燃料を基盤としている。掘って、燃やして、走る――それが郊外の生き方であり、祈りだった。

 

 

行政の代わりに荒野を繋いだのは、走り屋連盟と呼ばれる一見無法の輸送網だ。

舗装の剥がれた道路を昼夜問わず疾走し、燃料、物資、情報、時には人間そのものをも運ぶ彼らが、この地の血流となっていた。

 

そんな荒野の向こうから、都市の光を背負った男がやってきた。

エレグ・マックス――都市で数多の企業を束ねる巨大コングロマリット《マックス・コーポレーション》のCEO。

数年前、彼はこの郊外にリサイクル工場を建て、廃材と旧式機械を再利用することで一定の成果を挙げていた。

環境再生、雇用の創出――その言葉に当時は幾つかの町が渋々頷いた。

 

しかし、今回の目的は違った。

エレグが新たに提案したのは発電施設の建設。

それも火を燃やさず、()()()()()()()()()()()“新世代型変換炉”を中核とした、革新的なエネルギーシステムだった。

 

――そしてその計画は荒野の伝統に真っ向から喧嘩を売るものだった。

 

郊外の者たちの多くは“燃料”に祈りを捧げる。

掘り出した油は“大地の血”であり、得られる火は“命の息”である。

それは古臭い風習ではなく、この過酷な地で生きるための誇りであり、同時に絆でもあった。

 

シンダーグロー・レイクの火を捨てるという発想そのものが、彼らにとっては信仰への冒涜なのだ。

 

エレグは各地の町を回り、交渉を試みた。

しかし、彼を受け入れる場所はどこにもなかった。

都市で名声を誇る大企業であっても郊外では異物に等しい。

郊外の住民たちにとって都市の企業は侵入者であり、そして不快な存在だった。

そして、次にエレグが訪れたのは走り屋連盟の頂点に立つ組織――トライアンフの本拠地であり、郊外の象徴とも言える場所だった。

 

夕暮れ、マックスの車が荒廃した坂を登る。

耐久性に優れた都市製の車両。その異質な機体が錆びた看板の間を抜けるたび、通りの視線が突き刺さった。

郊外では油にまみれた作業着、古いタンクローリー、爆音を撒き散らす改造車――この地のどこにも“上等なスーツ”は似合わない。

 

やがて、廃材で組まれたガレージの奥に彼はその男を見た。

黒い防炎コートに、銀のネックレス、口元には威厳を帯びた髭が整えられている。頬には深い傷跡を持つ巨漢――“覇者ポンペイ”

郊外と走り屋連盟を支えるその男こそ、郊外の走り屋たちを束ねる“首領”だった。

 

エレグは彼に真っ直ぐと頭を下げ、口を開いた。

ガレージの鉄骨が外の風でかすかに軋む。埃と古い油の匂いが鼻を突く。

 

「本日はこのような場を設けていただき、誠にありがとうございます。」

 

「……都市の王様が、こんなところまで何の用だ」

 

ポンペイの声には荒野の砂と同じ、ざらついた重さがあった。

 

エレグは夕陽に照らされたガレージの奥を一瞥した。そこには油まみれの工具と、改造車の残骸が雑然と積まれている。

 

「私はただ、話をしに来ただけです。郊外に新たな発電施設を――」

 

「その話は聞いてる」

 

ポンペイは無造作に椅子へ腰を下ろし、分厚い手で煙草を揉み潰した。

 

「貴様の都市での名声は知っている。“火を使わない発電”……確かに革新的だ。だが貴様ほどの男が郊外の伝統を知らぬわけでもあるまい。もういくつかの町で門前払いを食ったと聞く。」

 

エレグは静かに答えた。

 

「もちろん、その誇り高い伝統は承知しています。私は“火”を奪うのではありません。もっと効率的で、より長く続く“新しい火”を――」

 

「言葉遊びだ」

 

ポンペイの声が低く響く。その低い声がガレージの鉄骨を震わせた。

 

「貴様は最初から郊外の連中が聞く耳を持たないことを理解している。必死に許可を取る気などない。ただ《態々交渉した》という建前を作りたいだけだろう。……一体、何を企んでいる、小僧。」

 

エレグは視線を落としたまま何も言わなかった。

錆と煙の匂いが重く漂い、静寂がその場を支配する。

 

ポンペイは椅子の背にもたれ、じっとその様子を見つめていた。やがて、低い笑い声が漏れる。

 

「……まあ、分からんでもない。都市の連中はいつだって“新しい何か”を欲しがる。だがな、ここはそういう場所ではない。」

 

エレグは静かに顔を上げた。

焼けた鉄のように濁った瞳がポンペイの威圧感を一層際立たせる。

 

「もうすぐ“ツール・ド・インフェルノ”が始まる。郊外の覇者を決める命懸けの祭りだ。この地の者は火と速度で自分の正しさを証明する。つまり、話し合いより先にエンジンが答えを出す。」

 

その声には拒絶も侮蔑もなく、ただ確固たる理があった。

エレグはわずかに頷くと、静かに立ち上がった。

 

「……なるほど。つまり、今はその“時期”ではないということですね。」

 

「そういうことだ、都市の男。お前の火がどんなに綺麗でも、この地の灰はそれをまだ受け入れる気はないだろう……」

 

ガレージの扉が軋みを上げて開く。

外では、爆音と砂塵が夕闇を切り裂いていた。

 

外で待っていたトライアンフの幹部、ポンペイの右腕であるルシウスは人好きの良い笑みでエレグに話しかける。

その笑みも、夕陽に照らされると、どこか鋭さを帯びて見えた。

 

「本日はご足労いただきありがとうございました、エレグCEO。よろしければ我々がお送りしますよ」

 

「…………」

 

その隣には、無言で立つ獣のような男、イヌ科動物のシリオン、モルス。

無骨な体格と獣の耳が、黄昏の風に揺れた。

 

エレグは小さく笑みを浮かべ、軽く頷く。

 

「そうですか、ではお言葉に甘えて――」

 

「ルシウス、モルス」

 

突然エレグの言葉を遮り、ポンペイの声が背後から鋼のように響いた。

 

「貴様たちには輸送ルートの再編を任せていたはずだ。……今すぐ、リストを持ってこい。」

 

ルシウスの笑みが一瞬だけ凍りつき、モルスもわずかに眉をひそめた。

そしてルシウスとモルスは一瞬顔を見合わせた。――そんな指示は受けていない。

 

エレグは、ふとその空気の変化を感じ取り、微笑んだ。

 

「ああ……お二人には既にお仕事があったのですね。それなのに、お気遣い頂き感謝します。都市へは自分で戻りますよ。本日はありがとうございました」

 

彼は軽く頭を下げ、静かに去っていった。

その背中を見送りながらポンペイは残った二人に低く呟く。

 

「……ルシウス。貴様を疑うわけではないが、アレには手を出すな。もし此方から仕掛ければ――()()()()()()。」

 

その言葉は警告であり、灰が床に落ちる音だけが静かに響いた。

その音はまるで――鉄を削るように冷たかった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

432:デンキウナギ ID:zzztensei02

当然のごとく郊外のいろんな場所で断られちゃった

まあ都市の企業が郊外に勢力圏を伸ばしに来たって捉えるよね普通は

 

433:サイ男 ID:zzztensei01

ポンペイさんかっけぇな、ちゃんとリーダーの話を理解した上で郊外の人たちが納得しないだろうからって理由で断ってるぞ

筋が通ってるな

 

434:カラスメイド ID:zzztensei04

リーダーの都市での評判も知ってるらしいし流石ゼンゼロ唯一のイケおじですな

 

435:軟体エンジニア ID:zzztensei05

まあ、発電については信じられないのも無理はないね

完全に新しい技術だし、都市内でもエネルギー基盤をぶっ壊す勢いでしょ

 

436:デンキウナギ ID:zzztensei02

都市だと手続きや検査で新技術が潰されるだろうから、郊外で実証して実績作ってから都心に持ってくるって算段

だから今回は試験的建設で、利益は別にいらないんだよな

 

437:軟体エンジニア ID:zzztensei05

規制の緩い郊外最高だね!

結果お待ちしてまーす

 

438:サイ男 ID:zzztensei01

この会話だけだと安全性に疑問を持たれるな……

 

439:サソリ薬師 ID:zzztensei03

てか何で今、郊外に企業展開を狙ってるんだリーダー?

郊外の連中は都市企業にはもう露骨に不信感出してるけど……

 

440:デンキウナギ ID:zzztensei02

もう新エリー都内では十分すぎるほど実権を握れたからな

この前ブリンガーを脅せたように、多少の無理もいけるようになった

ただこのまま都市内に籠ってると、奴らが動かない可能性があるんだよな

 

441:軟体エンジニア ID:zzztensei05

ああ、だから“郊外に事業展開する”って噂を意図的に流してるのか

確かに都市内でリーダーの会社を聞かない日はないし、次に郊外進出するのは自然な流れだね

てか噂というよりほぼ事実だね

 

442:デンキウナギ ID:zzztensei02

そそ、俺はこのままツールドインフェルノの下準備を進めさせてもらうぜ

4章まではあいつらの好きに動いてもらおう

今は、郊外進出狙った企業がポンペイの右腕と手を組んで、油田を破壊、そして郊外がエーテルエネルギーに頼らざるを得なくなる状況にする―――という計画を我々がオジャンにしてやる

 

443:カラスメイド ID:zzztensei04

>好きに動いてもらおう

ただし、邪魔をしないとは言っていない

 

444:サソリ薬師 ID:zzztensei03

>好きに動いてもらおう

ただし、”この掌の上で”な……

 

445:サイ男 ID:zzztensei01

けどこの調子じゃどこの郊外区画も受け入れてくれなさそうだな

 

446:デンキウナギ ID:zzztensei02

まあそうでしょうな、予想通りですわ

その場合は”アレ”を使いますんで頼みましたよ

 

447:カラスメイド ID:zzztensei04

ああ~、”アレ”ね

 

448:軟体エンジニア ID:zzztensei05

はいはい、理解理解

ホントに郊外進出を狙ってる他企業がかわいそ

 

449:サイ男 ID:zzztensei01

そういや俺もリーダーに何回か郊外ついていったけど、あの右腕――もう裏で企業と契約交わしてるみたいだな……

 

450:カラスメイド ID:zzztensei04

ポンペイおじちゃんを裏切った奴!……アイツ名前何だっけ?

金髪で、胡散臭い顔してたのは何となく覚えてるけど

 

451:軟体エンジニア ID:zzztensei05

あ~モルスだっけ?いやそれはシリオンの方か……

うわマジで思い出せないんだけど

 

452:サソリ薬師 ID:zzztensei03

……ルシウスなルシウス

私も実際に顔を合わせるまで出てこなかったけど

 

453:軟体エンジニア ID:zzztensei05

そっか、マオは郊外常駐だもんね

他にもシリオンって言ったら、あの……名前がヘムヘムみたいな人に会った?

 

454:サソリ薬師 ID:zzztensei03

作品が違うぞ、鐘突かせてやるなよ

……まあ誰の事か分かったけど、一応顔見知りくらいにはなったと思う

 

455:デンキウナギ ID:zzztensei02

メルエムじゃなかったっけ?

 

456:サソリ薬師 ID:zzztensei03

だから作品が違うって言ってんだ、二度言わすな

ベルラムだよベルラム、初めは警戒されたけど、意外と気のいいやつだった

 

457:カラスメイド ID:zzztensei04

プルクラちゃん可愛いよね!

 

458:サソリ薬師 ID:zzztensei03

急に何の話だよ

……まあ可愛いけど、特定のチームに属さないってところに親近感を感じたのか仲良くなった

たまに一緒にツーリングする

 

459:カラスメイド ID:zzztensei04

マジか~、裏山ですわ

 

460:軟体エンジニア ID:zzztensei05

ツーリングいいな~!

郊外はボクの最強カスタム電動バイクで駆け回りたいな!

 

461:デンキウナギ ID:zzztensei02

ああ、ドクのオリジナルバイクか、あれは正直カッコ良すぎる

 

462:サイ男 ID:zzztensei01

確かに。……あれ、特殊部品めっちゃ入ってるだろ

法スレスレどころか、アウト寄りだと思うが大丈夫か?

 

463:サソリ薬師 ID:zzztensei03

あれはすごい、多分郊外民が見たら目を輝かせるだろうな

適当に置いたら、一瞬で盗まれるぞ

 

464:軟体エンジニア ID:zzztensei05

大丈夫!ちゃんと法ギリギリのところで留めてる!

さらにボク以外が操縦できないようにセキュリティ完璧にしてるもん

もし傷つけようものなら……ただじゃおかないよ……!

 

465:カラスメイド ID:zzztensei04

お前ってバイク乗れる年齢だっけ?

 

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遠くで新聞配達のバイクが通り過ぎ、静寂の中に一日の始まりを告げた。

六分街の朝はまだ、金属の匂いと焼きたての豆の香りが入り混じっていた。

 

ブリンガー長官の任務として治安官の朱鳶と青衣の二人は住民にアンケートを取るため、勤務で鍛えた足で地下鉄駅の近くを回っていた。

 

「というわけで、今度の安全講習、皆さんにもぜひ参加していただきたいんです」

 

朱鳶は明るくはきはきとした声でチラシを差し出す。朝日を受けて赤いメッシュがきらりと光った。

 

通りで治安官二人に話しかけられ、何かしてしまったのかと最初は慌てていたマスター・ティンとエンゾウだが、ただのイベントのお知らせと聞き胸をなでおろす。ティンは金属の指先でチラシをつまみ上げ、蒸気を吐くコーヒーマシンのように静かに言った。

 

「治安局が市民向けに行うイベントですか。懐かしいですね。実は私も、何年か前に参加したことがあるのです。私はご来場の皆様に挽き立てのコーヒーを無償で提供したものです。――」

 

その声には、昔を懐かしむ少し感傷的な響きがあった。

 

「ですが惜しいかな、現在の治安局にはいたるところに芳香剤の香りが漂うようになり、コーヒーを味わいながら、気兼ねなくお話しできるような場所ではなくなってしまいました。」

 

朱鳶は眉をひそめ、少し戸惑いながら尋ねる。

 

「……それはどういう意味でしょうか?」

 

ティンはゆっくりと笑い、穏やかに言った。

 

「――ああ、コーヒー豆のお話ですよ。ですので私は、店のコーヒー豆がひとさまにため息をつかせるような運命を辿らぬよう…彼らをよく挽いてやらねば…イベントへの参加はお断りせねばなりません。残念です。」

 

青衣は隣にいたエンゾウに尋ねる。

 

「エンゾウどの、資料を拝見するかぎり、六分街でカスタムショップを経営しておるとのこと。講習に興味はおありか?」

 

エンゾウはサングラスを光らせ、軽く笑った。

 

「いや~うら若いお嬢さん二人に誘われちゃあ、当然参加しない手はないんだがなあ……。その日は親戚の結婚式があってよ。ほら、ウチの家系やたら親戚多いんだ」

 

「ふむ、なるほど……」

 

青衣は眉をわずかにひそめて口元に笑みを浮かべながらも嘘だとすぐに見抜いた。しかし強制はできない。大人しく引き下がろうとしたその時、飄々とした若い声が響いた。

 

「ええ~?初耳だけどなぁ、エンゾウおじさん断るにしても嘘はいけないんじゃない?」

 

全員が振り向くと、油染みのついたツナギを着た若者が立っていた。短く刈られた髪に、少年とも少女ともつかない顔立ち。ドク――カスタムショップで雇われているエンゾウの助手だ。

 

「おや、エンゾウさんのところの……」

 

「ドク!?お、お前なあ……」

 

ティンは目を丸くし、エンゾウは目をそらして苦笑いした。ドクは工具を指で回しながら朱鳶と青衣を見て微笑む。

 

「ボクは行きますよ、その講習。前から治安局の人たちがどんなことしてるのかちょっと興味あったし」

 

「ほんとうですか?」

 

朱鳶の目がぱっと明るくなる。

 

「うん。エンゾウおじさんの代わりにってことで、市民としての義務ですよ!」

 

ドクが笑えば、エンゾウは頭をかいて苦々しく笑うしかない。

 

「……まったく、こいつには敵わん」

 

こうして朱鳶と青衣は、ようやく参加者を得ることができた。ティンとエンゾウは気まずげに立ち去り、参加するドクは渡されたアンケートに答えていた。

 

「それで……参加者どのくらい集まったんです?」

 

ドクが尋ねるとは朱鳶は苦笑する。

 

「今のところ……あなた一人ですね。えぇと、ドク……ちゃん?くん?」

 

朱鳶はその中性的な容姿にわずかに戸惑い、ドクは慣れたように微笑む。

 

「敬語もいらないし、ドクでいいですよ!そっか……贅沢な個別講習だ。これはいっぱい質問を考えないとね……!」

 

冗談めかした声に、場が和む。

 

「なんとまあ謹直な若者であることよ、まるで朱鳶が二人に増えたようである……」

 

ドクはふと視線を逸らさず、青衣の方をじっと見つめた。青衣の整った顔立ちと、無機質とも言える落ち着き。ドクの目は輝きを増していった。

 

「……青衣さんって、ほんとにすごいですね。」

 

「……ふむ?」

 

ドクの言葉に青衣が頭に疑問符を浮かべたちょうどその時、向こうの通りから明るい声が響いた。

 

「おーい、朱鳶さん、青衣!おはよう。」

 

振り向くと、通りから二人の若者が手を振っていた。六分街のビデオ屋を営む兄妹――アキラとリンだ。朱鳶の表情が自然に和らぐ。

 

「アキラくん、リンちゃん、あなたたちでしたか。おはようございます」

 

「これ、僕と妹の分のアンケートだ。僕たちは講習に参加することにしたよ。」

 

挨拶を返した朱鳶にアキラが記入済みのアンケートを差し出した。そしてドクに気が付く。

 

「おやドク?君も講習に参加するのかい?」

 

「おはよう二人とも!勿論だよ!エンゾウおじさんの代わりとしてね!良かった~、二人も参加するんだね。このまま一人じゃ流石に寂しいから……」

 

「へ~なんか意外。ドクってば機械とかずっと弄っていてこういうイベントに興味ないかと思ってた」

 

「ちょっとリン、なんか失礼じゃない?ボクだって市民の一人として参加するんだよ!」

 

ドクは少し頬を赤らめながらも、目を輝かせて笑った。

 

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かくして若者ドク、アキラ、リンの三人が講習への参加を決めた。

しかし、ふとドクは首をかしげる。

 

「ねえ……どうして六分街の人たちは、こんなに参加したがらないんだろう?」

 

アキラも同じ疑問を抱いていた。

 

「確かに、ただの安全講習なのにね。理由があるなら知っておきたいな」

 

リンが肩をすくめる。

 

「せっかくだし、朱鳶さんたちの手伝いしてみようよ。人手、足りなさそうだし」

 

「いいね、リン!そうしようか」

 

早速アキラが何か手伝えることは無いかと申し出る。

 

「ですが……あなた達の手を煩わせるわけには……」

 

「こんなのはお安い御用だ、気にしないでくれ。」

 

「いいの、いいの!ボクも今日はやることなくて暇だったし!」

 

三人は朱鳶と青衣の了承を得て、手分けして町中を回ることになった。

しかし、結果は散々だった。

 

アシャさんも、スパイクさんも口をそろえて用事があると首を横に振る。

 

「堪忍な、その日の午後は丁度用事があってな」「体が悪くてのぉ」

 

笑顔の裏に、どこか避けるような気配があった。

 

三人は最後に後回しにしていた麺屋〈錦鯉〉を訪ねた。

湯気の立つ鍋の前で、腕組みをしたチョップ大将がいた。

 

「よう、アキラにリン、それにドク。客から聞いたぞ。あの治安官の嬢ちゃんたちを手伝って、チラシだか何だか配って回ってんだってな。ご苦労なこった。」

 

「チョップ大将、もう知っていたのか」

 

「なら話は早い!さあ此方に記入を――!」

 

紙を手に持ち、勢いをつけて迫るドクにチョップは太い腕で頭をかきながら苦笑した。

 

「ガハハ、まあ落ち着けドク。……悪いがその日は丁度用事があんだ。」

 

「ああ……やっぱりかぁ。勢いで行けるかと思ったのに……」

 

うっすらとチョップ大将も参加はしないだろうと予想していた三人は目を合わせる。

しかしリンは、一歩踏み込んで尋ねた。

 

「……ねえ、チョップ大将。みんな、どうしてそんなに参加を渋るの?」

 

チョップはしばらく黙っていたが、やがて低くつぶやいた。

 

「お前ら、チラシに描いてあるこの男……誰だか知ってるか?」

 

「ブリンガー長官だよね?今回のイベントの発起人だって」

 

「なら、こいつは聞いたことあるか。かつてのエリー都の時代、治安官にゃ『ホロウを征服した英雄』がいたって話を。」

 

それを聞いてドクが口を噤み、アキラが眉をひそめる。

 

「それは聞いたことが無いな」

 

チョップ大将は話始めた。

 

かつて彼は、平の治安官から叩き上げで六分街を担当していた。

困っている住民がいれば真っ先に駆けつける、人情味あふれる人物だったという。

しかし、ホロウから住民を救出し、奇跡の生還を果たして以降、彼はまるで別人のように変わってしまった。

 

チョップの顔にかすかな寂しさが浮かんだ。

 

「――それからだ」

 

以後、大企業――とりわけTOPSのような上層の連中と接触する機会が増え、彼の態度や言動にも変化が見られるようになった。

六分街の住民にとって、かつてのブリンガーはいなくなってしまったのだ。

 

「ああ。どうせ次の総監選のためのアピールだろって、そう思ってるのさ」

 

チョップは肩をすくめ、鍋の蓋を静かに閉じた。

 

リンが息を呑む。

 

「確かにそれはちょっと公平じゃないかも……。チョップ大将、教えてくれてありがとう。」

 

「まあそういうわけだ……悪いな。今回ばかりは、お前さんたちの力になれそうもねぇ」

 

三人は何も言えなかった。

理由を聞けば聞くほど、住民たちの冷淡な反応にも納得がいく。

 

結局、一人も新しい参加者を得られぬまま、三人は沈んだ顔で朱鳶と青衣のもとへ戻った。

 

ドクとアキラが申し訳なさそうに口を開く。

 

「――そういうわけなんだよ。皆、どうもブリンガー長官のことを……」

 

「力になれずに申し訳ない……」

 

報告を聞いた朱鳶は、一瞬だけ表情を曇らせ、それでも笑顔を作った。

 

「大丈夫です。彼らに取り次いでくれただけでも、十分感謝しています。……六分街では、これ以上アンケートを取れそうにありません。」

 

朱鳶が「今日のところは、私と先輩は局に戻りますね……」と告げたその瞬間だった。

 

「おい、治安官の嬢ちゃんたち――! ちょっと待ってくれぇ!」

 

慌てた声が通りに響く。振り返ると、通りの向こうからチョップ大将が走ってくる。

全力で走ったせいか息が上がっている。

 

「チョップ大将?どうしたんだい、そんなに息が上がるくらい走ってきて……」

 

「……てか大将って息切れするんだ……」

 

「上手く言えねぇんだが……とにかくあっちで事件だ!嬢ちゃんたち、早く来てくれ!」

 

その切迫した表情に、朱鳶と青衣は一瞬で表情を引き締めた。

 

「分かりました事件発生ですね、案内をお願いします!先輩、行きましょう」

 

チョップ大将の後を追い、二人は駆け出した。

その背中を見送ったドクたち三人も顔を見合わせる。

 

「……ただ事じゃなさそうだね」

 

「行ってみよう。放っておけない」

 

三人はそれぞれの足で後を追い、通りを抜けていった。

 

――現場は、裏通りに面した小さな住居の前だった。

大型トラックが斜めに停まっており、運転手と思われる男の怒鳴り声が空気を震わせている。

 

朱鳶が駆け寄ると、そこには見知った顔――マスター・ティンの姿があった。

 

「皆さん、落ち着いてください。私たちは治安官です、ここで何があったんですか?」

 

治安官の登場に現場の空気がやや落ち着く。

 

「やっと来たか治安官さん話はこうだ――」

 

天満エクスプレスの運送員、ケールが激しい怒りを露わにしていた。

彼がトラックを運転していると突如ドンという音が鳴り、慌てて確認するとトラックのコンテナが開いており、積まれていたアヒルたちが一斉に逃げ出したという。

車の傍には慌てふためくボンプ、オツリがいたらしい。

 

地面にはアヒルの羽毛が散乱し、混乱の跡が残る。

 

その中で、犯人であると疑われているオツリが必死に身振り手振りで「自分じゃない」と訴える。

現場に駆けつけたティンはオツリがそんなことをする子ではないと訴えている。

 

ティンは彼を庇い、オツリの潔白を主張するが、ケールの怒りは収まらず、「では何故コンテナが勝手に空いたのか」と疑念と怒号が飛び交う――。

 

ーーーーーーー

 

 

遠巻きに現場を覗き込む三人。

野次馬のざわめきに紛れて、リンが小さく呟いた。

 

「……マスターがあんなに興奮してるのは見たことないね……インスタントコーヒーのこと以外で。」

 

「別にボクはインスタント肯定派なんだけどね……。あ、マスターには言わないでよ!一生分のコーヒーを飲まされることになるだろうから……」

 

そんな冗談を口にするが、事態は思ったよりも深刻である。このままではオツリが犯人にされてしまう。

 

「僕はオツリが犯人だとは思えない。雑貨店のボンプたちとは長い付き合いだけど、皆誠実な子たちだ。」

 

アキラの言葉に、ドクは即座に大きく頷いた。

 

「そうだよね! あの子がやるわけない!あんなに真面目で、かわいいのに!」

 

その力強い肯定に、アキラとリンは顔を見合わせ、苦笑する。

 

「……ドク、本当に機械には甘いよね」

 

そう話しているうちに、現場の緊張が少しずつ解けていくのが見えた。

ケールが腕を組みながら頷き、ティンや住民たちが散っていく。

 

「もしかして、もう解決したのかな?」

 

リンがそう呟き、三人は足を進めて朱鳶のもとへ向かった。

 

朱鳶は手帳を閉じ、青衣と何かを確認していた。

リンが恐る恐る尋ねる。

 

「朱鳶さん、もしかして事件は解決?」

 

「リンちゃん、アキラくん、それにドクちゃん、あなた達も来たんですね。いえ、一応の取り決めをしただけです」

 

朱鳶は落ち着いた声で答える。「ちゃん付けになったか……」とドクの呟きが聞こえた。

 

「ケールさんには、逃げたアヒルを今日中に戻すことを条件に和解してもらいました。ティンさんや周りの人たちは、今それを探しに行ってくれています」

 

アヒル騒動の現場整理を終えた後も、朱鳶と青衣はその場を離れようとはしなかった。

本来であれば、後処理は所轄の治安官に引き継ぐべき案件だったが、報告や手続きに時間がかかること、そして住民たちに負担を押し付けたくないという理由から、二人は自主的に残ることを決めた。

 

その姿勢に感銘を受けたドクは声を震わせ、リンとアキラも自然と協力を申し出る。

こうして、治安官と市民たちが力を合わせて行う“アヒル探し”が始まったのだった。

 

リンとアキラの兄妹は、ドクに「効率よく探す方法がある」とだけ告げると、迷いなく端末を取り出した。

不思議そうに首をかしげるドクに、アキラが笑って答える。

 

「気にしないでくれ。ちょっとした物探しツールだよ」

 

リンが端末を操作するとその画面には街の地図といくつもの反応点が浮かび上がっていた。

 

「ほら、こっちの方に一羽いるみたい。みんなで手分けしてさがそう!」

 

五人はすぐに手分けして街中へ散り、それぞれのルートで探索を始めた。

車の影、ビデオ屋の駐車場、通りの隅――逃げ出したアヒルたちは思い思いの場所に潜んでいた。

次々と捕獲を重ね、やがて残るアヒルは一羽だけとなった。

 

「最後の一羽は……」

 

リンが画面を覗き込む。

 

「……カスタムショップの中?」

 

「え、うちの店?」

 

ドクの目がまん丸になる。

 

いやいやすっかり記憶にないや……わかった、行ってみよう!」

 

全員が急いでドクの勤めるカスタムショップへと走り出した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

雇われということもあり、ドクがカスタムショップの鍵を開け、慎重にドアを押し開ける。

中には、例のアヒルがぽつんと座り込んでいた。

 

「いた……よかった……」

 

ドクが胸を撫でおろす。

 

アヒルはぴょこぴょこと足を動かし、捕まえられても嫌がる様子もない。

リンが柔らかく抱き上げたその瞬間――

 

――ドォンッ!!

 

地面を突き上げるような衝撃音が街に響き渡った。

五人は顔を見合わせ、慌てて外に飛び出す。

 

交差点の先、道路の真ん中で一台の車が黒い煙を上げていた。

車の前にはエンゾウが立ち尽くしており、その横ではメーガンおばさんが青ざめた顔で狼狽えていた。

 

「治安官です!ここで何があったんですか?」

 

朱鳶は状況を確かめようと駆け寄った。メーガンおばさんが振り返る。

彼女は、まるでその出来事が夢のようで信じられないといった様子で、両手を震わせながら必死に訴える。自分には何も分からない、すべてが急に起きたことなのだと。

 

その必死さに、リンは気圧されて言葉を失い、かろうじて「お、落ち着いて」と小さく声をかけるに留まった。

 

「俺が説明する」

 

一方、エンゾウは比較的冷静だった。彼は一歩前に出て、状況を整理するように語り出す。

メーガンおばさんは自分の客であり、つい先ほど修理を終えたばかりの車を引き渡したところだったという。だが出庫しようとした瞬間、車が突然向きを変えて前方のボンプに衝突したのだと説明した。

 

「……以前にも似たようなことが?」

 

アキラはその話を聞きながら尋ねるが、メーガンおばさんは首を激しく横に振った。これまで一度たりともそんな現象は起きたことがなく、今回の修理もトランクの開閉ボタンが効かなくなっただけだったと訴える。

 

それでも、車は突然制御を失い、まるで意思を持ったかのように暴走した。彼女は震える声で、治安官である朱鳶に自分を信じてほしいと懇願した。自分は何も悪いことはしていないのだと。

 

エンゾウもまた、おばさんの言葉を裏付けるようにうなずいた。

 

彼自身もその光景を目撃しており、確かに車の動きは不自然だったという。だからこそ、自分も慌てて現場に駆けつけたのだと。

 

 

数分後、アキラの手によってボンプはかすかに目を光らせ、弱々しく立ち上がった。

 

「ンナ……(助かった……)」

 

その声に、メーガンおばさんが胸を押さえる。

 

「よかった……ほんとに……」

 

だが、空気は重かった。

メーガンおばさんの車の挙動、思い返せば今日起きた一連の流れは車が関係していると皆が気が付いたためだ。どう考えてもただの事故ではないと。

 

「……おかしいね」

 

リンが呟く。

 

「この間も車の誤作動があったって聞いたけど、まさかまた?」

 

「いや、どうだろう。こんな偶然あるかな?何か裏にありそうな……ぁあ!」

 

ドクがふと立ち上がる。

そして、何かを思い出したように顔色を変えた。

 

「ど、どうしたの!?」

 

アキラが振り返ると、ドクはすでにカスタムショップに駆け込んでいた。

 

「ま、待ってドク!」

 

リンとアキラが慌ててその後を追う。

 

 

店の作業スペースの隅でドクが一台のバイクの前に立ち尽くしている。

 

そのバイクは――まるで芸術品のようだった。

 

流線型のカーボンフレームは黒曜石のような艶を放ち、

側面には細やかな金属彫刻のような模様が刻まれている。

エンジンは存在しない。

代わりに、静かに輝く青白いコアユニットが心臓部に組み込まれており、

独自設計の磁気駆動輪と小型推進子を搭載していた。

 

ただ速いだけではない。

ドクが全身全霊を注いで造り上げた、“美しい機械”だった。

 

ボルトの一本、ケーブルの一本まで完璧に整えられ、メンテナンスツールの痕跡すら美しい。

タンクの縁には小さく「D」と刻印されており、

まるで自分の分身に名前をつけるかのように、ドクが初めて完成させたフルカスタムモデルだということが分かる。

 

誰が見てもそれが高性能かつ高級な特注車であるのは明らかだった。市販の電動バイクとは一線を画す構造。

外装パネルは航空機用の合金フレームで補強され、

内部には高感度センサー群と制御モジュールが組み込まれていた。

 

それは六分街の誰もが知っていた。

――ドクが朝も夜も磨き、少しの埃さえ許さない、ドクの“相棒”であることを。

 

しかし今、そのバイクは沈黙していた。

電源は入らず、コアユニットは光を失い、静まり返っている。

外装の一部には焦げ跡が走り、内部配線がわずかに溶けて垂れていた。

 

リンが息を呑む。

 

「……信じられない、あの子が……」

 

青衣がしゃがみ込み、バイクを調べる。

 

「……やられておるな。なるほど(くだん)の事件の原因が分かったぞ。……EMPだ」

 

ドクはその場に膝をつき、しばらく動かなかった。

手袋の指先でフレームをなぞる。

かつて滑らかだった黒の表面に、灰色の焼け跡が広がっていた。

その指がかすかに震える。

 

「……壊れてる」

 

まるで大切な友を喪ったような声だった。

その静けさの中に、重い感情が沈殿していく。

 

やがてドクは笑い出した。

それは笑いというより、音を伴った“ひび割れ”のようだった。

 

「……あは……あはは……」

 

顔を上げたドクの目は、まるで別の何かが宿ったように光っていた。

 

「――壊したの、誰だろうね

 

「―――っ!?」

 

その一言に、全員の背筋が冷たくなる。

優しかったドクの声から、静かに“何か”が抜け落ちていった。

 

まるでこの惨状を引き起こした何者かに、宣戦布告するかのように。

 

 

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