転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活 作:フライパンソルジャー
ぶちかましてやる……!
448:カラスメイド ID:zzztensei04
いやもうほんとカリンちゃん、この子は一体何なんですか……?ヴィクトリア家政の保護対象っていうか……尊い。尊すぎて息ができない。視界に入るたびに揺れる緑色のツインテール、あれですよ、あれ。ただのツインテじゃないんですよ!?プラスネジを模した髪留めで留めてるんですよ? どんなセンスしてるの!?けどそれが似合っちゃう子がカリンちゃんなんですね~~!
あの小さな手で、きゅって、クロスさせて、器用に結んでると思うともう……ぐふっ(尊死)
幽霊を怖がるくらい気弱なのに武器が誰よりも物騒だというギャップがたまらん!
あっ、あっ、無理無理無理無理無理!!!
何その顔!?その怯え顔やばい、やばすぎる!天使が恐怖に震えてる!尊死確定案件~~~~!!!自己肯定感の低いけどそんなことないよ!もっと自信をもってカリンちゃん!そうすればきっと――
449:デンキウナギ ID:zzztensei02
……報告だ
ついに郊外での発電施設が建設完了した
450:サソリ薬師 ID:zzztensei03
おお、最近“神”になったばかりのリーダー様じゃん
ついに降臨なされたか
451:軟体エンジニア ID:zzztensei05
報告じゃなくて“神託”でしょ?
お供え物は……単三電池でいいすか?
452:デンキウナギ ID:zzztensei02
黙れ、ぶち転がすぞ
453:軟体エンジニア ID:zzztensei05
ふふ、こっわ
454:サソリ薬師 ID:zzztensei03
ガチギレじゃん
455:サイ男 ID:zzztensei01
まあでもマジで住民たちの熱がすごかったんだよ
みんな「救われた」「神様だ」って泣きながら本気で拝んでたし
俺はすぐリーダーに全部押し付けて部下たちと事後処理に回ったけどな。……悪かった、リーダー
456:デンキウナギ ID:zzztensei02
ダイさん……?その時のこと全然許してねぇからな?
457:軟体エンジニア ID:zzztensei05
……開宗したリーダーの話は置いといて本題に入ろうよ
結局発電施設ってどうなったの?
開発に関わった身としては気になるんだけど、出力とか順調?
458:デンキウナギ ID:zzztensei02
開宗してねぇわボケ
……まあ、発電施設については――
459:カラスメイド ID:zzztensei04
切れちまったよ私の理性がよぉ……。何なんだよエレンちゃん……!いやもうほんと、何から言えばいいのかわかんない。存在が……暴力。圧倒的属性の暴力!黒髪ショートにピンクのインナーカラーって人類の理性を試す構成じゃん?しかもあの気だるげな赤い目つき……!あれ、ダメ。あの目で「……クロエさん?……何?」って言われると心臓が“命の危険”を察知して跳ねる。怖いのに嬉しい。どういう感情の構造!?左目元の二つ並んだ泣きぼくろ。あれわかってて配置してますよね???視線がそこに吸い込まれて、現実が遠のく。しかも左腕の二の腕にもホクロあるとか!え、細部まで設計が完璧すぎて神なの?彼女の属性はこんなもんじゃねえ、まだまだ止まらないぞ!なんといってもサメのシリオン特有のギザ歯と大きな尾……!無表情のままちらっと覗くのがやばい。噛まれてぇ……!(いや、違う、そうじゃない)。性格もダウナーでありつつも年頃のらしい一面があるとか本当に――――
460:軟体エンジニア ID:zzztensei05
……については?
461:デンキウナギ ID:zzztensei02
ドクが設計した動力機構、完璧に稼働した!
脱エーテル成功!出力安定率も想定値を超えてる!
462:軟体エンジニア ID:zzztensei05
シャッ! オラッ! ヨッシャッ!!
463:サソリ薬師 ID:zzztensei03
おぉ!おめー
464:サイ男 ID:zzztensei01
さすがだな。俺も手伝った甲斐があった
465:デンキウナギ ID:zzztensei02
いやほんと流石ドク。ナイス機械オタク、ナイスロマン!
後で寿司食いに行こうぜ!
466:軟体エンジニア ID:zzztensei05
回らないやつがいい!
467:サソリ薬師 ID:zzztensei03
いいな~
私も薬の特許出したんだから連れてけよ。久々に魚食いたいし
……ところで発電方法って結局何?
やっぱりクローン技術でリーダー量産して発電させるとか?
468:デンキウナギ ID:zzztensei02
人の心ないんか?そんなもん俺が許可するわけないだろうが!
ドク、説明してやれ
469:軟体エンジニア ID:zzztensei05
……実はね、ダイさんにもだいぶ協力してもらったんだ。
モチーフは映画のトニー・スターク、あのアークリアクターですよ!
470:サソリ薬師 ID:zzztensei03
なんか意外な人選……て、え!マーベル由来!?
てことはあれをマジで再現したの!?
471:軟体エンジニア ID:zzztensei05
まったく同一のものとはいかないけどね
やっぱフィクションだから、理論的に無理が多くて
プラズマ制御のために磁場閉じ込め装置、高効率変換コイル、冷却システムまで自作したけど……
472:カラスメイド ID:zzztensei04
うわぁ……また今日もリナさんが完璧すぎて呼吸するの忘れた。
あの人もう生きるクラシックなんだよ……?生まれに恥じぬ完璧な立ち居振る舞いの一つひとつが絵画!スカートの裾を持ち上げてお辞儀する仕草、手の角度、視線のやわらかさ……全部が歴史!しかもあの長いスカート!ちょっと動くたびに裾が揺れて布の流れがまるで指揮者のタクトみたいなの。優雅で、正確で、音楽的なの!それに笑顔もやばいの。あれ完全に“母性の概念”の完成形……!あの安心感、あたたかさ、やさしい支配力……あれは母性という名の絶対王権!もう無自覚に世界を支配してる。天然の威厳。無意識の支配者。私?もうとっくにその支配下ですけど?むしろこの身をリナ様に喜んで差し出したい。もう宗教レベル。私、リナ教、入信済み。新たな宗教がここに――
473:サソリ薬師 ID:zzztensei03
あーはいはい、なるほど、なるほど(諦め)
で、結局どこで詰まった?
474:軟体エンジニア ID:zzztensei05
……燃料だね
水素核が融合してエネルギーを出す核融合燃料が見つからなかった
つまり装置はできても一番重要な“心臓”がない。動かせない
475:サソリ薬師 ID:zzztensei03
アークリアクターの燃料ってパラジウムじゃなかった?
水素吸う金属だし、原作でも使ってたろ?
476:軟体エンジニア ID:zzztensei05
そこがSFだったみたいでさ……常温核融合は確認できなかったんだよ
まあトニーが天才過ぎるってことかもしれないけど、ボクじゃあパラジウムを結局燃料にすることはできなかった
477:サソリ薬師 ID:zzztensei03
じゃあどうしたんだよ。代わりの元素でも見つけたのか?
478:軟体エンジニア ID:zzztensei05
ううん、ゼンゼロ世界には燃料の条件を満たす元素は存在しなかった
だから……作ってもらった
479:サソリ薬師 ID:zzztensei03
もらった?あ、ダイさんが手伝ったってことは……(察し)
480:デンキウナギ ID:zzztensei02
察しの通り
頭おかしい話だが、陽子数を補うための元素を“空間”内で生成する実験をやった
ダイさんのフィジカルで高原子核を衝突させて、ドクの場制御装置でエネルギー変換したんだ
481:軟体エンジニア ID:zzztensei05
ボクとリーダーで影響範囲を考えてホロウの内部の隔離空間で実施したからね
正直あの“物理法則ごと破壊する”フィジカルはマジで危険だった
実験場所から十分距離をとっても衝撃の余波に当てられた……(戦慄)
482:カラスメイド ID:zzztensei04
許しがたい存在ですよライカンお兄様!あの白い髪、狼の耳、首筋を撫でるたびに光の加減でふわって揺れる毛並み……。……本当に美しい。これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう!しかも執事服のプロテクター……あれ絶対わかってて着てますよね!?手首や胸元をほんの少しだけ拘束するようなデザインで“制御してる感”がえげつないんです!ああ!癖に刺さるんですよ、私の癖に刺さり過ぎて新しい扉が……!――ああもうとっくに開いてたわ!……ふう。
しかも昔のやんちゃだった姿を知る私からしてみれば今の完璧すぎる執事のお兄様なんてギャップで心臓止まりますってば!あの乱暴な喋り方も喧嘩腰の睨みも消えてまるで貴族の教本から抜け出したみたいな物腰!そんな礼儀の塊みたいな立ち居振る舞いの中に揺れる尻尾を視界に入れられるともう私の理性が――
483:サイ男 ID:zzztensei01
おぉん……ああ……二人に言われた通りに動いて、最後に全力で“ぐっ”てやったら全部光って終わった
正直俺も何が起きたかよく分かってない
484:サソリ薬師 ID:zzztensei03
……なるほど(思考放棄)
とにかくスーパーパワーで新元素が生まれてアークリアクターが完成したってわけだな
……ダイさんについてはあまり深く考えすぎない方がいいな
485:軟体エンジニア ID:zzztensei05
うん、それはそう
けどお目当ての元素以外にも、放射線バリバリの危険な未知の元素がいくつも生成された
理論上あり得ない“黒い元素”とか、崩壊エネルギーが常識外れのやつも……。流石に管理不能ぽい奴がわんさか……
486:サソリ薬師 ID:zzztensei03
いや詳しく分からんけどそれ絶対ヤバいやつじゃん!?
どうしたんだよそれ!?
487:軟体エンジニア ID:zzztensei05
慌てて目当てのものを回収した後、残った分はダイさんに頼んでホロウごと消し飛ばしてもらった
幸い外部への影響はゼロ。生成時のデータも回収済みだから次は目的の元素だけ生成できるはず
488:デンキウナギ ID:zzztensei02
小規模ホロウで助かったな……
情報統制もかけてもみ消せたし、話題にもなってねぇ
489:サソリ薬師 ID:zzztensei03
うわぁ……相変わらず規格外というか、もう慣れたと思ってたけどドン引きですわ
490:サイ男 ID:zzztensei01
……なんかすまん
491:軟体エンジニア ID:zzztensei05
いいってダイさん!むしろまたお願いするから!
492:カラスメイド ID:zzztensei04
さあ遠慮せずに私に抱きしめられてくれ、アキラ!今回は固い金属スーツ越しではないのだからこの機会を逃すわけにはいかないのだよ!……ふおおお!ふわっとしてて手のひらが沈む!なのに弾力もあって押したらほんの少しだけ押し返してくる!え、何それ?なにその金属と思えない物理法則を裏切るやさしさ?金属の冷たさなんて微塵もない。まるで抱かれるために作られた柔らかさ!このまま目的地まで連れて行って差し上げ――
493:デンキウナギ ID:zzztensei02
ああもううるせえんだよ!!クソカラス!!!
こっちは重要な話してんだっての!!!
494:サソリ薬師 ID:zzztensei03
(拍手)、……ようやく言ったか
495:軟体エンジニア ID:zzztensei05
リーダーがキレた――!
496:サイ男 ID:zzztensei01
そりゃキレるわ
497:カラスメイド ID:zzztensei04
ああ、ごめんごめん!皆への愛が溢れてつい
いや~、美少女になれて最高だわ……!私が適当にしてても、皆優しく相手してくれて……幸せ過ぎる!
498:サイ男 ID:zzztensei01
いや別に……
容姿だけじゃなくて、お前の無意識の気遣いにも彼らが惹かれているように見え――
499:デンキウナギ ID:zzztensei02
止めてくださいダイさん……!こいつをこれ以上調子に乗らせないで下さい!
500:サソリ薬師 ID:zzztensei03
現状を知ったらどう反応するか分からないからな、このたらし……
501:軟体エンジニア ID:zzztensei05
……というか自分の現状をある意味で客観視できていないでしょ?
502:カラスメイド ID:zzztensei04
おおっと!これはもうすぐ停電が起こるな!そろそろトリップ状態から意識を戻して働きますかぁ!エーテリアスどもめ、喰らえ全力!時短を行ってレインちゃん救出RTAするんだよ!
―――ふ、ミッションコンプリート……!雅さんとの全力鬼ごっこに比べればシャッターを通り抜けるなんて温いぜ!後はアキラがリュックを拾う前に中のレコーダーを止め――
503:軟体エンジニア ID:zzztensei05
ありゃこれは驚いた、イベントスキップならず
504:サソリ薬師 ID:zzztensei03
そりゃあ完璧に妨害を突破されたら反乱軍の奴らも焦るだろうしな……
でもまあこのくらいは誤差だろ
505:カラスメイド ID:zzztensei04
ふふ、確かに!このくらいならなんてこと――
ーーーーーーーー
アトリウムに辿り着き、僅かな安堵の静寂を破ったのは――曲だった。
まるで舞踏会のホールで流れるような華やかな旋律。
けれどそれはどこか金属のように冷たく、そして悲しかった。
音源はアトリウムの中央に転がるひとつのリュックサックから。
誰もが息を呑み、その異様な光景に視線を奪われる。
「……音楽?」
エレンが低く呟く。
リナが警戒の目を向け、ライカンがそっと構える。
突如投げ込まれたリュックに疑問が渦巻く――なぜ、誰が、どこから。
だがアキラだけは気づいていた。
(……あれは、レインのリュックだ。)
レインの手がかりかもしれないとアキラは皆の制止を振り切るように一歩踏み出した。
確かめなければ――。
その瞬間リナの叫びが響く。
「ガイド様、上に――!」
反射的に顔を上げた。
霧を裂いて影が落ちてくる。
「くっ――!」
刹那、エレンとカリンが同時に跳ぶ。
閃光のような斬撃が交差した。
しかしそれは軽やかに身をひねり、空中でかわした。
床に舞い降りた影。
その姿が照明の光に照らされる。
それは――バレエの踊り子であった。
全身が金属のような素材に覆われ、スカートに見える部分は鋭利な刃の花弁のように広がる。
顔には目も口もなく、ただ鉄の仮面が無機質に輝いている。
だがその動きはしなやかで、優雅で、まるで音楽と一体化しているようだった。
旋律に合わせて踊る。
それは生命ではなく“舞う機構”。
華麗にして、残酷なエーテリアス。
マリオネット・グレイベール
旋律はまだ続いていた。
華麗で、しかしどこか鋭い。
音楽に合わせ踊り子のようなエーテリアスは舞う。
その一振り一歩がまるで殺意そのものを具現化したようだった。
「……ダンスのお誘いとお見受けしました。お相手を務めさせていただきます」
フォン・ライカンが一歩前に出た。
低く響く彼の声にヴィクトリア家政の面々が即座に応じる。
エレンとカリンは刃を構え、クロエはナイフを逆手に持ち替え、リナは指の先端をわずかに輝かせてドリシラとアナステラに指示を出す。
全員の動きがまるで楽団が一斉に調律を始めるように整っていく。
だがそのときだった。
グレイベールの仮面の奥がふと一点を見据えた。
顔はない。だが確かに“視線”があった。
「……?」
その先にいたクロエが訝しげに眉をひそめる。
グレイベールはまるで獲物を狙うように彼女を見つめていた。
そして音楽が一段高まる。
グレイベールの身体が微かに震え、次の瞬間動きが変わった。
腕が四本に見えた。
「なっ……!?」
全員の驚愕の声が響く。
いや、増えたのではない。重なっていたのだ。
金属音とともに影がずれるように分かれる。
二体目。
背後から現れたエーテリアスはグレイベールと同じ姿、同じ動き、同じ冷たい仮面。
マリオネット・ブラックベール
まるで鏡に映したかのような双子の踊り子。
フォン・ライカンが息を呑み、低く呟く。
「なんと、……姉妹とは」
舞踏会の旋律がさらに重なり、二体の踊り子は音に合わせて同時に一歩を踏み出した。
その動きはまるで“対の死”そのものだった。
――そして、戦いの幕が上がった。
「各員、周囲に散開!プロキシ様は安全な場所に隠れていてください」
音楽が止まぬままヴィクトリア家政が動く。
ライカンの号令ひとつでエレンとカリンが左右に散開。
リナが二人の従者を操り、電気属性の攻撃を繰り出す。
まるで訓練された楽団のように誰一人として無駄のない動きだった。
だが双子のエーテリアス、マリオネット・ツインズも同様だった。
舞踏のようにくるりと回転し、互いの間合いをすり抜けながら攻撃を重ねる。
その流れはまるで二人で一つの振付を踊っているかのようで、刃がぶつかるたび金属音が音楽に混ざり合った。
「速い……!」
カリンが息を呑む。
その中でなぜかエーテリアスの視線は常にクロエへと向けられていた。
片方が牽制し、もう片方が突き立てる。
標的は明確にクロエであった。
「私を……?(本当に何で?)」
クロエの呟きは霧に消えたが、返答の代わりに鋭い刃が閃いた。
彼女は即座に反応し、ナイフを滑らせて弾く。
弾かれた刃が宙で舞い、霧を裂くように光を散らす。
それはまるで――踊りだった。
クロエの動きは流麗で、指先ひとつに至るまで計算され尽くしている。
スピンし、身を傾け、相手の一撃を受け流す。
その姿に周囲の仲間さえ息を呑んだ。
「……本当に踊っているみたいだ」
遠くで見守るアキラが思わず呟く。
ナイフが銀の軌跡を描き、エーテリアスの刃が火花を散らす。
音楽と衝突音が重なり、戦場が一つの舞台と化していた。
「………っ」
クロエの動きを見たツインズの体がわずかに震える。
それは彼女に対する怒りからか?……それとも――
戦闘は拮抗している。
ヴィクトリア家政もマリオネット・ツインズも、どちらも一歩も譲らない。
互いの動きが完全に噛み合い、攻撃と防御の波が美しく交錯していた。
だがその均衡の裏で何かが蠢いていた。
双子が突如手を取り合った。
その動きはまるで次の“振付”に入る合図のようだった。
「……!」
そしてクロエだけがその意味を悟った。
「皆さん!彼女たちから離れてください!」
突如二体は周囲に刃を隙間なく、散弾のごとくバラ撒き、縦横無尽に苛烈な突撃を仕掛けはじめた。刃が壁に突き刺さる音、床を裂く音、悲鳴にも似た金属音が交錯する。
「くっ!」
ヴィクトリア家政の面々はそれぞれの武器を構えて火花を散らしながら防ぎ、紙一重で身をひねり回避する。
舞台のような戦場に切断の軌跡が幾重にも描かれていく。
やがて双子は旋回しながら上空へと舞い上がり、標的をただ一人――クロエへと定めた。
「クロエ!」
ライカンの警告が飛ぶが、とんでもない勢いと共に双子の刃が彼女へと真っ直ぐ突き立てられようとする。
しかし、クロエは降り落ちる凶器に怯むことなく一歩だけ踏み出した。繰り出すは最小限の動き。風が髪を裂き、スカートの裾を掠める。
その動きはまるで“次の振付”を知っているかのように正確だった。
次の瞬間――
「……っ!?」
鋼の音が交錯し二つの影がよろめく。
クロエの手には既に二本のナイフが突き立っていた。急降下と同時に二体の体を切り裂いたのだ。
マリオネット・ツインズの体が軋み、その何も窺えない表情からは一瞬だけ“驚愕”という感情を浮かべる。
クロエはゆるやかに身を翻し、優雅にスカートの裾をつまんで一礼した。
「お二方、……僭越ながらお相手を最後まで務めさせていただきます」
未だ舞台の幕は下りない――。
ーーーーーーーーー
激しい衝突音の中、アキラはただ見つめていた。
ヴィクトリア家政と双子のエーテリアス――。
舞うように、斬り結ぶように音楽に導かれた戦い。
(……音楽?)
ふと胸の奥で違和感が弾ける。
敵が現れたのはあの旋律が流れ出してから。
ならば――。
(あれが“呼び水”になっている……!)
アキラは息を殺して周囲を見渡す。
床に転がったままのレインのリュック。その内部からまだ微かに音楽が流れていた。
「……!」
一歩、二歩。
音も立てず、戦闘の合間を縫って近づく。
アトリウムの中には生じた裂け目があった。向こう側には渦巻く霧の外。
(ここなら……!)
アキラはリュックの中身を掴み上げる。それの冷たさが手のひらに伝わった。
そして次の瞬間――彼は声を張り上げた。
「おーい!怪物!こっちだっ!」
その叫びに戦っていた全員の視線が向く。
マリオネット・ツインズも動きを止めた。
音楽がかすかに高鳴る。
アキラはその勢いのまま、音楽プレーヤーを思い切り裂け目の向こうへと投げた。
金属音が鳴り響き、音楽プレーヤーが霧の中に消える。
「――ッ!」
するとまるで糸に引かれるように二体のエーテリアスが同時に動いた。
舞うように、滑るように――音楽の後を追う。
やがて裂け目の中へと消えた。
アトリウムには再び静寂が訪れ、残されたのは音のない余韻だけ。
「……お見事です。プロキシ様」
ライカンが低く言い、自身の肩を軽く払う。
「まあ、まさかあの音楽に引き寄せられていたなんて……」
「ほんと、助かったよ。クロエさんが執拗に狙われてたからさ……」
リナが安堵の笑みを浮かべ、エレンも息を整えながら言った。
アキラはまだ鼓動の速さが収まらず浅く息を吐く。
だがそのときクロエが一歩前に出た。近くにいたカリンが心配するように話しかける。
「クロエさん?」
「……まだ、終わっていません」
その声は静かだが鋭い。
彼女はアトリウムの奥、通路に繋がる向こう側を見据えていた。
「そこにいらっしゃる方々。四名様ですね」
一瞬空気が張り詰める。
クロエは淡々と続けた。
「小型ミサイルの照準をこちらに向けていらっしゃるようですが……下ろしていただけませんか?
お話ができれば、双方にとって有益かと存じます」
その声音はまるで礼儀正しい通告のようだった。
しかし、確信に満ちていた。
向こうから小さく息を呑む音が聞こえる。
図星を突かれたのだ。
姿は見えないがクロエの言葉が完全に届いているのがわかる。
「……応じる気は、ないようですね」
クロエがわずかに目を伏せた瞬間。
――閃光。
轟音とともに無数のミサイルが発射された。
炎の尾を引いて、一直線にクロエへ。
「クロエっ!」
アキラの叫びが響く。
だがクロエは動じない。
その瞳にはわずかな光が宿っていた。
「……確認できました。では、こちらも――」
ミサイルが矢のように飛来する。クロエは瞬時に数本のナイフを抜き放ち、回転させながら放った。
鋭い金属音――炸裂。数発のミサイルが空中で散華する。
「エレン、待ちなさい!」
ライカンの制止が響くより早く、エレンはすでに前へ疾駆。
残る弾頭を剣で斬り払い、爆風を切り裂く勢いで敵陣へ突っ込む。
「くっ――!?」
隠れていた敵が慌てて通路へと身を引いて、撤退を行うがエレンの一閃が閃いた。
金属音と悲鳴が続き、すぐに静寂。
追いついた面々が見たのは床に転がる気絶した敵兵。
ライカンはため息を漏らし、頭を押さえる。
しかし彼が周囲を見回すと、数を数えて眉をひそめる。
「三人……?四人いたはず……」
そのとき上方から柔らかな声が降ってきた。
「――残る一名様はこちらに」
見上げれば、クロエが翼を広げて宙に浮かんでいた。
腕には身動きを封じられた敵兵を抱えている。
「安全のため、上空で待機させていただきました。さあ……お話を伺いましょうか」
クロエに抱き抱えられた敵兵はまるで夢でも見ているような顔を覆面の中でしていた。
柔らかな腕の中に押さえつけられ、抵抗もできない。
だがその温度が戦場のものとは思えないほど穏やかで、男は逆に混乱していた。
クロエはゆるやかに地へ降り立ち、まるで舞台の幕間を飾る女優のように優雅な微笑を浮かべながら彼を床に下ろす。
「お怪我はありませんか?」
「い、いえ……」
掠れた声が漏れる。言葉を発するたびに喉が震え、心臓が痛いほど鳴った。
その直後ライカンが一歩前へ進む。
彼の低く、しかし整った声が響く。その瞳には容赦のない光が宿っていた。
「さて――お尋ねしますが、あなた様の所在と目的をお聞かせいただけますか」
礼を失わぬ紳士の言葉遣いでありながら、その裏に込められた冷たい圧は刃物よりも鋭かった。敵兵は唾を飲み込み、観念したように口を開いた。
「お、俺たちは……反乱軍の一員だ。その……うちの部隊のスポンサーから依頼があったんだ。バレエツインズのB棟屋上でそいつの代わりにあることをやれって……」
「……申し訳ありません。もう少し、具体的な内容を伺えますでしょうか?」
クロエの腕の中で彼が語った内容はすぐに状況を理解させるものだった。
この建物に侵入した者をB棟へ近づけさせないよう警備を任されていたこと。
アキラたちが中に入り、探索している際に発生した停電。そして先ほどのエーテリアスの暴走――それらすべてが彼らの仕掛けたものだった。そして最後に、彼らの隊長はアキラたちを肝試しに来た連中ではなく、小娘を助けに来た連中であると察したらしい。
小娘。その言葉を耳にした瞬間、アキラの体がびくりと反応した。
「待て、今『小娘』って?レインは今どこにいる?彼女に何をしたんだ!」
「あのこむ……お、お嬢さんなら隊長とB棟の屋上にいる。当分は命の危険もない!」
アキラの怒りの声に怯えた彼は慌てた様子で弁明を行い、それをライカンが冷静に指摘した。
「今しがたの発言……あなた様の部隊がレイン様を誘拐した事実を認めた……と捉えてよろしいでしょうか?」
その声音は淡々としていた。だが圧力は先ほどよりも遥かに重く、敵兵は顔を真っ青にして頷くしかなかった。
一瞬の沈黙の後、クロエが静かに口を開いた。
「……これ以上はここでは落ち着いて話せませんね」
彼女はゆるやかに周囲を見回す。壁の焦げ跡、散乱した瓦礫、戦いの余熱。そしてエレンが眠そうに首を揺らして立っていた。
「皆さんもお疲れでしょうし、一度外へ出て休息を取りながら詳細を伺いましょう。無理に問い詰めても正確な情報は得られませんから」
ライカンは小さく頷き、アキラのへ呼びかける。
「……プロキシ様、彼女の言う通りかと。焦りは判断を鈍らせます」
「……ありがとうライカンさん、確かにそうだね。……もう長いことホロウの中にいる。フェアリー、近くの脱出口までの案内を頼むよ」
その後クロエが先導し、一行は敵兵を伴って静かに出口へと向かっていく。
外に出た瞬間、冷たい夜気が肌を撫でた。
ホロウの内部に漂っていたエーテルがようやく遠のき、全員が一息つく。
クロエは静かに振り返り、皆の顔を順に見渡した。
「……お疲れさまでした。ひとまず安全圏までは離れられたようですね」
敵兵は拘束されたまま地面に座らされている。
ライカンが周囲を警戒しつつも、表情にはまだ険しさが残っていた。
アキラも同様に遠くにそびえるB棟の屋上を見つめている。
そこにレインがいる。
短い沈黙の後、クロエが一歩前に出た。
夜風に漆黒の髪が揺れる。
その目にはどこか決意めいた光が宿っていた。
「……一つ、提案がございます」
その言葉に皆が顔を上げた。
クロエの瞳は揺らぎひとつなく、どこか決意を帯びている。
「提案?」アキラが訝しげに眉を寄せる。
「万が一敵の戦力が此方の予想を超えるものであれば、私たちでは太刀打ちできないかもしれません。しかし、危険を伴いますが、最も確実にレイン様へ辿り着ける方法があります」
彼女は自身の提案を皆に告げ、そして短い沈黙が走った。
クロエは視線をアキラへと向けてわずかに微笑んだ。
その表情には何かを覚悟した者だけが持つ静かな強さが宿っていた。
「……本気、なんだね」
アキラが呟く。
クロエは答えずにただ夜空を見上げた。
そこには雲間から覗くB棟の屋上、レインがいるという場所を見つめていた。
ーーーーーーー
そして時間が流れ、夜風が荒々しく吹き抜ける――。
バレエツインズB棟の屋上。
そこには、無機質な機械音と共に人影が揺れていた。
反乱軍に脅されて飛行船の掌握を行ったレインは両手を縛られ、膝をついたまま冷たいコンクリートに転がされていた。
視界の端では反乱軍の男たちが妨害装置を操作している。
彼らが持つ液晶のモニターに映るのは司法府の飛行船の航路。
「……飛行船の進路変更、完了」
誰かがそう呟くと、別の男が満足げに笑った。
「これで依頼は完了だな、墜落は不幸な事故として扱われる。ホロウ内では治安局も真相の知りようがないだろう」
笑い声が風に流れる。
レインの唇が震えた。
(……これで、本当に……墜ちるんだ)
だが彼女は涙をこぼさなかった。
感情を見せればすぐに“はったりだ”と判断されることを知っていた。
自分の命が危ういことなど、とうに分かっていた。
だからこそ外部へSOSの通信を行った。
結果として通信はバレてしまったが、奇跡的にその行動は外部に情報を流したと敵に誤解させた。
時間は稼げたはず。きっと、誰かが気づいてくれる。
しかし彼女の希望は脆く崩れる。
反乱軍の隊長が低い声で言った。
「……侵入者が来ている。ホロウ内での戦闘が続いているらしい」
「侵入者?誰です?」
「先日、小娘を取り戻すために建物に入ってきた只者ではない連中だ。どうやら諦めていなかったらしい。……奴らがここまで来れば我々の退路はない」
隊長は鋭く言い放つ。
「任務は終わった。もう、このガキは不要だ」
「で、でも……雇い主からは強く“どれだけ情報を漏らしたか突き止めろ”との命令が――」
「依頼主の最優先事項は果たした。もう十分だ」
隊長は吐き捨てるように言い、足元の時限爆弾を指した。
「これで全て終わる。奴らも、こいつも、まとめて消える」
その言葉にレインの血の気が引いた。
腕を掴まれ、強引にホロウの壁へと引きずられる。
「やめてっ……!お願い、離して!」
抵抗するレインの声が夜気に掻き消される。
だが男の力は圧倒的で、足が浮いた。
「下で燃えるホロウの中でせいぜい仲間を待つんだな」
冷たい風が吹き上がる。
夜景の光が彼女の瞳に滲んだ瞬間――。
――ヒュゥウウッ!
何かが風を切る音が聞こえてきた。
「ぐおっ!?」
空から飛来した何かに驚き、レインを掴んでいた腕を咄嗟に離した隊長。
先程自分がいた位置にはナイフが突き刺さっていた。
「一体だれが……」
次の瞬間、黒い影が月光を遮り屋上に舞い降りる。
闇夜の中、二枚の翼が音もなく広がった。
「……彼女に触れないでいただけますか」
静かな声が屋上に響く。
月光を受けて降り立ったその姿は黒衣を纏うメイド、クロエだった。
冷たい夜風が彼女の髪と翼を撫でる。
ただ立っているだけで、場の空気が変わる。
「……なっ、貴様――!」
隊長の声が震えた。
月光を背に降り立つクロエの姿を見て彼はようやく理解した。
「建物の中で我々の妨害をものともしなかった……あの連中の一人か」
クロエはわずかに頷く。
その目は氷のように静かで、それでいて鋭く光っていた。
「ええ。ご明察の通りです。そちらがこの計画に相当な戦力を投入していることは承知していました。下で仲間たちが騒ぎを起こせば注意はそちらへ向く。……その隙を突き、こうして気づかれることなく屋上まで辿り着いたというわけです」
「……そういうことか」
隊長は思わず呟いた。
視線がクロエの背にある“黒い翼”へと向かう。
――まさか地表からここまで飛来するとは。
驚嘆と恐怖が入り混じった声が喉を震わせた。
「化け物め……いや、“ヴィクトリア家政”か」
「はい。以後お見知りおきを」
クロエの声には一片の揺らぎもない。
その淡々とした返答がかえって男たちの神経を逆撫でした。
だが隊長はまだ余裕の笑みを浮かべていた。
「ふん、見事な度胸だな。だが一人で来たのが運の尽きだ」
指先が軽く上がる。
その合図と同時に、武装した反乱軍の兵士たちがクロエを囲んだ。
その数は三十人以上。
前衛には厚いシールドを構えた兵士たち、後方にはライフルを構える射手。
銃口が月光に鈍く光る。
「この人数を相手にナイフだけでどう対処するつもりだ?」
隊長の嘲りの声にクロエは静かにスカートの裾へ手を伸ばした。
からん、と金属音が鳴る。
黒衣の奥に隠されていた複数のナイフが淡い光を返した。
その姿はまるで舞台に上がる前の踊り子のようだった。
クロエはゆっくりと構えを取る。
風が吹き、黒い翼が広がる。
その表情には怯えの欠片もない。
「私は――ご主人様に仕える“メイド”です」
静かな声が屋上に響いた。
「任務を果たすためなら、何人を相手にしても退くことはありません」
月が雲間から顔を出し、彼女の黒衣に光を落とす。
その姿はまるで夜空から降り立った黒い天使のようだった。
隊長が息を呑む。
「……撃て!」
銃声と閃光が夜を裂く。
ーーーーーー
レインは目の前で繰り広げられる光景が現実のものとは思えなかった。
銃口が一斉に火を噴き、閃光が夜気を裂く。だが、彼女──クロエはそのすべての弾道の隙間を、まるで振り付けられたかのような滑らかさで抜けていった。
舞台の上を跳ねるバレリーナのように静かで、優雅で、そして恐ろしく正確だった。
彼女のスカートが翻るたび、銀の閃きが走る。
それがナイフだと気づいたのは敵兵が一人、二人と音もなく倒れていった後だった。
撃ち出すでもなく、振り回すでもなく、まるで“差し出す”ように放たれるその動作。
そこに怒りも憎しみもなかった。ただ、完璧な所作としての“行動”があった。
レインの目には、彼女の姿が“戦う”のではなく“舞っている”ように映った。
それは敵を制圧する動きでありながら、どこか祈りにも似た静けさを湛えていた。
冷たい夜風の中で黒い翼が一瞬、月光を受けて煌めく。
(……綺麗……!)
その瞬間レインは思った。
この人は誰よりも強く、そして美しい。
自分が死を覚悟したこの場所で、彼女の舞いは確かに“生”を示していた。
だがその美しさの中に、わずかな“乱れ”が混ざり始めているのがレインには分かった。
「くっ……!」
「おおお!喰らえ!」
銃弾が金属を叩くような鋭い音を立てて弾かれる。
彼女のナイフがシールドに弾かれ、虚空を切り裂いて消える。
黒い影が舞うたび、ひとつ、またひとつと閃きが途切れていく。
道理である。それほどまでに“数”という脅威は恐ろしい。
訓練を重ねた防衛軍の軍人も、優秀な治安官も、凄腕のスパイも、たとえS級エージェントであろうとも正面からぶつかれば劣勢に追い込まれる。
実際、雇われた反乱軍の総戦力は建物の警戒任務についている者を含めればヴィクトリア家政をも上回っていた。
そして屋上にはその多くの構成員が集結している。どれほど彼らの雇い主がこの計画に力を注いでいるかが見て取れる。
「陣形を崩すな!上空に逃げないように囲え!」
「武器は徐々に減っていっているぞ!」
「撃ち続けろ!」
敵は怯まない。
重装の兵士たちが徐々に間合いを詰め、クロエの逃げ道を潰していく。
シールドが壁のように迫り、銃火がその隙間を焼く。
彼女は避けながら、舞うように回転しては刃を投げるが──決定打にはならない。
「……まずい」
思わず声にならない息がレインから漏れた。
それでもクロエは一歩も退かない。
月光を背に、黒い羽が散った。
その光景はまるで夜空の中で散り落ちる羽衣のようで──
レインは胸の奥で何かが軋むのを感じた。
美しすぎて、恐ろしくて、そしてどうしようもなく儚い。
(このままでは、彼女が――)
レインの不安は現実となった。
反乱軍の一人がクロエへと照準を合わせる。
「今だっ……!」
――パァン!
乾いた銃声が夜気を裂き、次の瞬間クロエの身体が小さく揺れた。
「……!」
息を呑んだレインの目の前で、クロエは両腕を交差させ、閃く金属の破片で弾丸を受け止めていた。
――ガキィンッ!
火花が散り空気が震える。
だが、その手の中のナイフが甲高い音を立てて砕けた。
それはクロエが所持するナイフの最後の一本であった。
レインの胸がぎゅっと締めつけられる。
もう武器はない。
黒いスカートの裾が風に揺れ、クロエの両手は空を掴むように静止した。
「まさかここまでやるとはな……」
低く、隊長の声が響く。
だがその声音には称賛ではなく、警戒が滲んでいた。
「包囲を狭めろ。まだ
重装の兵士たちがシールドを構えながらじりじりと詰め寄る。
銃口が一斉にクロエへと向けられ、月光を鈍く反射した。
レインは唇を噛んだ。
叫びたいのに声が出ない。
彼女の背中があまりに静かで、あまりに強く見えて――まるで“彼女はこの結末を初めから受け入れていた”かのようだった。
ーーーーーーー
「……どうやら、ここまでのようですね」
クロエの静かな声が、夜風に溶けていった。
その一言に包囲していた反乱軍の兵たちは一瞬勝利を確信する。
だが、クロエがゆっくりと顔を上げた瞬間、その印象は裏切られた。
その瞳は確かな“決意”で燃えていた。
諦めの影など微塵もない。
そして不安そうに此方を見るレインに視線を向ける。
「……!」
月光の下で彼女はふわりと微笑んだ。
それはまるで「大丈夫」と告げるように温かく、そして儚い笑みだった。
「……確かに、私には切り札がございます」
クロエは小さく息を整えながらゆっくりと周囲を見渡す。
「ですがこれを使うということはメイドとしての誇りを貫けなかったということ。……非常に歯がゆいものです」
その言葉に兵たちは一瞬だけためらった。
だが隊長は眉を吊り上げ、怒号を放つ。
「――撃て!」
轟音が夜空を裂く。
無数の銃口から放たれた弾丸が雨のようにクロエへと降り注いだ。
「それではご覧ください……“諸君”」
その声が夜風に溶けるや否や、周囲に金属がぶつかり合う硬質な響きが一斉に広がった。
ガンッ!ガガガッ――!
火花が散り、風が爆ぜる。
クロエの身体を包むように黒い翼が大きく広がっていた。
その羽根の内側にはまるで
「なっ……!」
隊長の声が驚愕で掠れた。
クロエの身体を何かが覆い始めた。
最初は翼で、次いで肩、胸、腕、脚――金属の装甲がどこからともなく出現し、流れるように彼女の身体を包み込んでいく。
銃弾が当たるたび、火花が散り、甲高い金属音が鳴り響いた。
そのたびに装甲は形を変え、まるで彼女の意思に呼応するかのように密着していく。
やがて、その背から深紅の翼が展開された。
鋼鉄の羽根が夜風を切り裂き、月光を反射する。
白銀の装甲と紅のラインが交差し、硬質な光が舞い上がるたび、誰もが息を呑んだ。
「な、なんだ……これは……!」
「嘘だろ、あれって……!?」
兵たちは震えた。突如現れたその存在に――!
今も尚ネットを騒がせ、世間を恐れさせるアウトロー集団。伝説の組織『ヒール』。
明らかとなった構成員は目の前の彼女を含めてすべて人ではないはずだった。
だが今、先ほどまでメイドであった者が彼らの思考に矛盾を与え、動きを凍らせてしまった。
風が吹き、翼が再びわずかに震える。
装甲の金属がわずかに軋み、甲高い音を伴いながら共鳴する。
夜空に響くその音は静かな警告のようであり、同時に舞台の開幕を告げる鐘のようでもあった。
「……私は『ヒール』所属。現地偵察担当、コードネーム――」
息を呑む隊長の前で、クロエの身体がさらに微かに光を増す。
そして――
「――ファルコン」
その名が告げられた瞬間、屋上に静寂が訪れる。
「………!!」
風が止み、銃口を向ける兵士の手も、息も、全て止まったかのようだった。
深紅の翼と白銀と深紅のラインが交差する硬質な装甲が月光に煌めき、まるで夜の支配者が現れたかのように空間を支配した。
クロエ――いや、ファルコンは銃口を向けた反乱軍の前で軽やかに一歩踏み出した。
「さて――」
その声は低く、けれどどこか愉しげだった。
先ほどまでの優雅なメイド口調は影を潜め、そこにあるのはどこか芝居かかった舞台の上に立つ
「驚かせてしまい申し訳ない、反乱軍の諸君。お騒がせついでに申し上げよう。今宵の夜空に舞い降りたのは何物にも代えられない至宝を盗み出すため。そしてそのお宝とは――捕らわれてしまった美しき姫君、この薄汚れた屋上に咲く唯一の花……《レイン様》という名の宝石だ」
彼女の視線が両手を縛られ膝をつくレインに向けられる。
《レイン様》――その言葉にレインの心臓は跳ねた。
目の前の伝説は彼女を目線の中心に据え、その存在そのものを“報酬”として演出する。
指先がゆっくりと、しかし確実に伸びる。装甲に覆われた金属の指先はまるで観客に小道具を差し出すかのように反乱軍に向けられる。
「さあ諸君、星降る夜に群れるは無粋というもの。今宵は特別公演につき、余分な客には退場してもらおう……!」
言葉は静かだが、そこに込められた意思は揺るぎない。
翼の動きがまるで舞台の幕の開閉のように敵の視線を惹きつける。
存在そのものが戦場を支配し、敵の精神を支配する――まさに
ファルコンは両腕を広げ、観客に向かって一礼するように頭を下げる。
「これから起こるのはただの戦闘ではない。私、ファルコンによる一篇の劇!そして、栄えある主役はもちろん……レイン様。――準備はいいかね?」
その言葉はまるで劇の開幕を告げる台詞のように朗々と響いた。
それは実に大胆な予告状であり、まさに戦場が怪盗の舞台に乗っ取られた瞬間だった。
コテハン名カラスメイドのプロフィール紹介第一弾
突然ですが『ヒール』陣営の一人であるファルコンことクロエ・ナイツについてお話します。
表では兄と共に礼節を弁えた優雅なメイド
裏ではもう一人の兄の英才教育を受けた怪盗
掲示板では己の欲望を身内に隠しもしない淑女(笑)
これが転生者の一人、クロエ・ナイツである……!
因みに彼女が表にいる時は、基本的にゼンゼロのネームドキャラの前では大体多幸福からトリップ状態に陥る。そのため戦闘以外での行動はほとんど無意識の産物という信じられないものである。
目の前の人物が可愛い仕草を見せれば躊躇いなく素直に「可愛い」と口にし、推しに貢ぐような勢いで常に相手の利益を最優先にかつ自分の欲望が満たされるように動く。結果として多少強引に手を繋いだり、抱き上げて運んだりと周囲に誤解を生む行動も多い。
だが本人に狙ってやってるわけではなく、むしろ純粋すぎる好意ゆえの無自覚のまま人の心を掴んでいく。そのため実情を知る仲間たちからは見た目はまあ天使、実態は精神汚染兵器と比喩されることもしばしば。
端正な顔立ちの転生メンバーの中で最もビジュアルが良く、容姿の優れた魅力的な人物が多いゼンゼロ世界でも彼女の美しさには、男女問わず目を奪われてしまう。
例えホロウの中で音楽に惹かれる優美な彼女たちでさえーー