転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活   作:フライパンソルジャー

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感想でエレグさんが責められてて笑いました。まあ残当ですね。

上からカリジャナリ099様、スナノハ様、ウルト兎様から頂いたファンアートです!皆さまありがとうございます!

ゼンゼロ公式立ち絵風、マオ・ガーガン
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ifネメシスとプロメテウスの機体。赤がネメシス、青がプロメテウス(AI生成)
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エレクトロマスク
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その気になってたお前はお笑いだったぜ

 

エレグ・マックスがCEOに就任して以降、外部からの妨害が成功した例は一度もない。

それは偶然でも、幸運でもなかった。

彼自身が自社を守るという一点において、徹底的であることを選び続けた結果だった。

 

新エリー都において巨大事業を回すという行為は、敵意と欲望が渦巻く海へ身を投じることと同義だった。

 

エレグの企業が加盟するTOPS財政ユニオンは、表向きには巨大な複合企業体として都市経済を支える中枢を担っている。しかしその内側で循環しているのは信頼ではなく、濃密で粘ついた悪意だった。

 

莫大な資金、影響力、利権――それらを巡って企業同士は水面下で牙を剥き合う。平穏は幻想であり、無防備でいることは死を意味する。

 

利益のためならば法も倫理も踏み越える。スパイの潜入、裏社会の人間を雇っての妨害工作、情報操作、資金の攪乱。それらは例外ではなく、TOPSでは珍しくもない日常的な手段として共有されていた。

 

同盟関係は書類の上にしか存在せず、油断した瞬間に背中から刺される。

一つの契約、一つの共同事業ですら、どこに罠が仕込まれているのか分からない。

 

新エリー都の市民からTOPSが嫌悪されるのも無理はなかった。

その多くは傲慢で、強引で、都市を人の暮らしではなく、数字や資金としてしか見ていなかったのだから。

 

エレグはその渦中に身を置きながらも、同じやり方を選ばなかった。

それは単純な反発心や、理想論から来るものだけではない。

 

むしろ彼は深く理解していた。

自分の企業を、そこで働く人間を、そして事業の先にいる市民を守るためには中途半端な善意など何の役にも立たないという現実を。

 

だから彼は誠実であろうとしながら同時に徹底した。

妨害は必ず起きる。

ならば、異分子が紛れ込んだ瞬間に探知し、企業活動がかき乱される前に排除する機構が必要だった。

 

そのために彼は過去、CEO就任時に、グループ全体の管理体制を一新している。

 

表からは見えない監視網と判断基準は、外部勢力にとって不可視の壁となり、見事なまでに機能していた。

 

裏社会、競合他社、そしてTOPS内部を含む巨大企業群。

それぞれが送り込んだスパイや工作員は、所属を問わず同じ結末を迎える。

 

弾かれる。

排除される。

あるいは、より深く利用される。

 

特に多かったのが讃頌会の関係者だった。

理由は明白である。

 

エレグという存在が、讃頌会の計画を幾度となく潰し続けてきた障害そのものだったからだ。

 

そのため、弱体化を狙い、内部から崩そうとしたとしても不思議ではない。

 

讃頌会は世間では犯罪カルト集団と認識されており、単独で動くことは極めて稀である。

 

多くの場合、適当な大企業と秘密裏に契約を結び、その背後で計画を進め、資金と影響力を増幅させる。

 

だが、エレグの企業グループはエネルギー、物流、金融、医療、研究、インフラと、幅広い分野を持つため、広範に事業を展開していた。

結果として、讃頌会が触れようとする計画と偶然にも頻繁に交差する。

 

「うわ、ここ讃頌会関わってんじゃん。潰そ」

 

そのたびにエレグはまるで部屋でゴキブリでも見つけたかのような反応を見せ、迅速に彼らの計画をお釈迦にし、自分たちの事業を成功へと導く。

 

エレグの事業以外の労力を犠牲に、讃頌会の力は世間から知らぬ間に削られ続けていった。

 

さらに、企業グループ内部調査の過程で摘発された讃頌会関係者は、定期的に治安局へと引き渡された。

 

その回数はもはや珍しいものではなく、巧妙な仕込みによって、それらはすべて”ブリンガーの手柄”として処理されるようになっていた。

 

――一体なぜこのようなことをしたのか?

 

理由は単純だ。

帳尻を合わせるためである。

 

ブリンガーは治安官であり、同時に讃頌会の手先でもある。

その事実を、エレグは原作知識によって、当然のように把握していた。

 

ブリンガーが権力を得るためにTOPSへ擦り寄り、影響力を強めようとしていることも知っている。

 

しかし、エレグによる影響で、その成果が芳しくないものとなっていたのだ。

 

エレグの事業が成功を重ね、他のTOPS勢力への牽制となっていたこと。

そして何より、ブリンガーからの直接的なアプローチをエレグが徹底して無視していたこと。

 

だからこそ、エレグは考えた。

将来的に、彼が副総監の立場にいなければ困る、と。

 

ならば、ちょうどいい。

 

讃頌会の関係者を「身内」で処理させればいい。

評価を与え、権力を持たせ、その裏で敵の血を薄める。

一石二鳥だ。

 

エレグはブリンガーのアプローチを利用し、彼と連絡を取り、摘発した讃頌会関係者を通報する。

それは実に合理的で、躊躇のない判断だった。

 

ブリンガーの内心など、エレグは知る由もない。

だが結果として彼の評価は着実に上がり、治安局内での発言力は増した。

 

途中、何度か彼が距離を取ろうとした形跡はあったが、エレグは気にも留めず、淡々と摘発情報を彼に流し続けた。

 

結果、帳尻は合った。ブリンガーは副総監の座に就き、治安局内で確固たる地位を得る。

だが同時に異変も生じていた。

 

「……最近、讃頌会をまったく見ないな」

 

ふと漏れた独り言には冗談めいた調子が混じっていたが、内心はそうではない。

TOPSなどの企業からの妨害は相変わらず続いている。

にもかかわらず、讃頌会だけがまるで霧のように姿を消していた。

 

讃頌会がエレグの事業圏から距離を取り始めたのだ。

 

彼の名が絡む案件は避けられ、彼の企業が進出する地域は最初から候補から外される。

エレグと関わること自体がリスクでしかないと過去の経験から学び、最上位の警戒対象に位置付けるという当然の結果だった。

 

回避。

撤退。

生存のための、決死の判断。

 

それを察したエレグは危機感を覚える。

完全に手を引かれてしまえば、表に引きずり出すことも、叩き潰すこともできない。

 

「このままじゃあ、秘密裏に闇討ちするという手段しかなくなってしまう!でもあいつら至る所にいるからなぁ。労力がとんでもないぞ!……仕方ない、こうなったら――」

 

原作時に讃頌会が動かないなんてことになったら大変困る。

 

そこでエレグは一度、意図的に劣勢を演じた。

油断したところを引きずり出し、まとめて潰すための罠を張る。――それが、先のヴィジョン事件である。

 

競合企業を複数巻き込みながらも、最終的には莫大な利益を得る。

外から見れば、見事な手腕。

だが、その代償もまた、確実に支払われていた。

 

――讃頌会は完全に学習した。

 

当然の流れであるが、以降彼らがエレグに手を出すことは二度となくなってしまったのだ。

 

エレグ・マックスという名前は、彼らにとって”触れてはならない印”になった。

 

どんなに隙を晒しても完璧に避けられるようになった。それこそが最大の問題である。

 

「あかん、正直やり過ぎたかも……!非常に不味い!もうすぐ市政選挙だというのに!」

 

そのため、慌てたエレグは次の選択肢を口にする。

 

「もう……、一回死んで油断を誘うしか……」

 

ぽつりと零れたその言葉に、深い感慨や悲壮感はない。

覚悟を決めた英雄のそれでもなければ、絶望した人間の響きでもない。

それは思考の末に行き着いた結論であり、選択肢の一つを読み上げただけのような声音だった。

 

死の偽装による劣勢の演出。

その判断に至るのは、少なくともエレグにとっては自然な流れだったのだ。

 

彼は決して気が触れたわけではない。

降りかかる火の粉を払っていたら、遂に相手が手を出さなくなってきた――それに対する最終手段である。

 

無論、擁護できるかと問われれば微妙なところではある。

だが少なくとも、衝動的な自滅行為ではなかった。

彼は一貫して、讃頌会を“表に引きずり出し、利用するため”に動いている。

 

もっとも、いきなり”エレグCEO、死亡”という情報をばら撒けば、都市は混乱するだけだ。

市場は荒れ、治安局は過剰反応し、何より肝心の讃頌会が疑念を抱くだけで終わる。

 

彼らは今、異様なほど慎重になっている。

そして何より、エレグ・マックスという存在の危険性を骨身に染みて理解している。

 

騙すには、“納得できる理由”が必要だった。

 

死亡に至る必然性。

疑う余地のない経緯。

 

だからこそ、エレグは事前に布石を打っていた。

 

そもそも、讃頌会は敵が多い。

それはエレグの企業グループだけではない。

公的機関も、他陣営も彼らの明確な敵である。

 

近年、悪しき計画が立て続けに潰されていることを考えれば、それは明白だった。

アキラたちの活躍により計画の主要ルートを断たれ、彼らは何度も路線変更を強いられている。

そして、その変更先が星見家の秘密であった妖刀となり、加えて、市政選挙の日までに星見家の発言権を落とさなければならない。

 

つまり讃頌会は計画を実行するとき、必ず六課と衝突する。そこにエレグは目を付けた。

 

彼が利用したのは、かつてHIAによるVRシステムの六課襲撃事件に関連して、意図的に垂らしておいた“餌”だった。

 

あの日、外部へと流した六課との対立を示す戦闘記録。

協力していたという記録は一切見せない一部だけを切り取った情報。

内部のみ加工されたある組織の構成員三名のデータ。

 

それらはすべて本物であり、同時に罠でもあった。

 

まんまと讃頌会は、その断片の中に“強力な協力者”の存在を見出した。

 

エレグを殺害できる可能性を秘めた組織。

 

六課に恨みを持ち、さらに引けを取ることのないその戦闘力。

 

さらに言えば、讃頌会がその組織の構成員三名分の詳細なデータをすでに取得しているという、無視できないアドバンテージ。

 

それは、慎重すぎる讃頌会の判断を一歩だけ前に押し出すには十分だった。

 

そして、ネットワークを介した慎重な接触の末、その組織は“幸運にも”讃頌会への協力を了承する。

 

 

 

 

――それが、エレグの張った網の最後の一節だったことに気付かずに。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

――讃頌会の計画が始動した当日。

時は、郊外でアキラたちが謎の傭兵団に襲撃された直後へと遡る。

 

郊外に立ち尽くす人影。

 

「………」

 

風が吹くたびに乾いた空気と砂が立ち込め、視界を遮る。

 

讃頌会が雇った協力者――”ヒール”は、讃頌会にとって最大の障害であると判断された人物、エレグ・マックスを排除するため、讃頌会が雇った傭兵団と共に作戦を遂行した。

 

パールマンを餌にした誘導。ヒールの構成員が狙撃によりエレグを撃ち殺したことを合図に、傭兵団が一斉に関係者もろとも制圧する流れであり、それはあのエレグの殺害を完遂させた。

 

人影はゆっくりとポケットから端末を取り出し、耳元へと当てる。

 

「――報告する」

 

郊外の廃工区画。

風が崩れたコンクリートを撫で、遠くで変電設備が低く唸っている。

 

標的であり、撃ち殺されたばかりの人物――“エレグ”は、通信端末を片手に立っていた。

その視線は荒れた地平へと投げ出され、何の感慨も宿していない。いや、ほんのわずかであるが愉悦の色が滲んでいた。

 

上等なスーツの胸元には真新しい血が滲み、乾いた地面に赤黒い染みを広げている。

弾丸が着弾した跡は、確かに致命的に見えた。

少なくとも第三者の目には、そう映る。

 

だが、その血液の大半は、事前に用意されていた輸血パックの中身だった。

 

防弾ベストの内側、衣服の隙間に仕込まれた複数のパック。

弾着の衝撃とほぼ同時に破裂するよう設計されたそれらは、瞬時に大量の血を噴き出させる。

 

心臓を撃ち抜かれた――そう錯覚させるためだけの演出。

 

あの場に医者はいない。

混乱した銃撃戦の最中、倒れ伏して動かなくなった人間を検死する余裕など誰にもない。

ましてや、撤退を急ぐべき状況だった。

 

ただし、誤算が一つだけあった。

 

感覚の鋭いシリオンが現場にいたため、エレグは即興で自分の心臓を電気的に停止させている。

 

結果、普通に死にかけた。

 

その後、車に放り込まれ、傭兵団のチェイスにまで付き合わされる羽目になったのだから、本当に危険な橋だった。あとちょっと抜け出すのが遅れれば本当に死体となっていたことだろう。

 

そんな勝手にピンチに陥っているエレグ(馬鹿)の隣。

 

瓦礫に腰掛け、疲労を隠しもせず項垂れているのは、今回の作戦で“狙撃手として推薦させた”ヒールの構成員、ファルコンだった。

 

標的と狙撃手。

殺されたはずの男と、その引き金を引いた者。

 

讃頌会の関係者がこの光景を見れば、思考を停止しかねないだろう。

 

エレグが通信端末に向けて放つ声は、完全に加工された音声。

エレグは、讃頌会と協力関係を結んだ“ヒール”のリーダー、エレクトロとして通信を繋ぐ。

 

「標的、エレグ。我々の仲間の手によって心臓を貫通。即死だ。その光景は、そちらが雇った傭兵どもも確認しているはずだ」

 

――殺された本人がいけしゃあしゃあと自分の死を淡々と報告する。

 

電話の向こうでは、労いの言葉が返ってくる。

声色は軽く、心なしか弾んでいるようにすら聞こえた。

 

恐らく邪魔者が消えたことで内心、狂喜乱舞しているのだろう。

一言、嫌味の一つでも言ってやりたくなるが、自制する。

今は欺瞞に徹する局面だ。

 

「……現場に残された大量の血痕は写真付きで送信済みだ。識別コードを確認しろ」

 

案の定、死体が回収できていないことへの不満が返ってくる。

それは想定済みだ。

 

「ふん。この結果に不満か?高望みが過ぎるな。そもそも、こちらが聞いていた話と違う」

 

声に意図的なノイズを混ぜ、苛立ちを演出する。

 

「郊外でパールマンを餌に邪魔者を排除する。それだけの仕事だったはずだ。――現場に六課が来るとは聞いていない」

 

吐き捨てるように続ける。

 

「奴らの前で、使えない傭兵どもと一緒に追撃しろと?死体を運び出せと?随分と無茶を言ってくれる。我々はお前たちの下についた覚えはないんだが?」

 

言葉は冷たく、容赦がないままに、さらに畳み掛ける。

 

「情報の不備のせいで、奴らは包囲を抜けた。傭兵も何人か捕まったと聞くし、捕虜になれば、こちらの情報が洩れる可能性もある。……杜撰すぎる計画だ。これでは協力関係そのものを見直す必要がありそうだな?」

 

沈黙。

 

現場の不満を突きつけ、協力解除をちらつかせれば、向こうも黙るしかない。

讃頌会は余裕のある組織ではない。

急速に実力を伸ばし始めた六課に対抗できる勢力として、ヒールを失うわけにはいかない。

 

「……ああ、分かればいい」

 

声色を少しだけ和らげる。

 

「こちらも六課を排除したい。お前たちが渡してきた星見雅の弱点――星見家の秘密。あれは使えるからな。お互い、目標に向かって頑張ろうじゃないか」

 

互いの利益をなぞるように言葉を重ね、信頼を補強する。

向こうも最後までヒールを利用するつもりだろう。

ならば、こちらも同じことだ。

 

讃頌会は、勝利を確信していることだろう。

 

エレグ・マックスは死に、ヒールという刃は自分たちの手中にある。

 

最大の障害は消え、盤面は一気に開けた。

 

だから奴らは動き出す。

資金を回し、人を走らせ、計画を加速させる。

 

――それこそが、エレグの狙いだと知らずに。

 

「お前らの要望通り標的は排除した。次はこちらの番だ。六課の戦力を削るために分断してくれ。孤立したところから確実に排除してやろう」

 

エレグは、ヒールのリーダーとして通信機に告げる。

 

殺された本人が自分の死を踏み台に、次の仕事を要求するという完全に異常な状況であった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

331:デンキウナギ ID:zzztensei02

という訳で今回は死を偽装して奴らを油断させたのでした

現在の状況としては讃頌会がエレグ死亡をほぼ確信。勇み足のまま計画を始動させた様子だ

そして俺は人目を忍んで新エリー都に戻ってきました……と、このまま外部からアキラたちを助けつつブリンガーたちの動向を見張るぜ……!

 

332:サソリ薬師 ID:zzztensei03

何が?まじで

 

333:軟体エンジニア ID:zzztensei05

もう、相手が可哀そうだよ……!讃頌会じゃなかったら絶対に許されなかったよ!

ようやく最大の障害が排除できたと思わせて、後から全部ひっくり返す予定とか!倫理が迷子にも程があるよ!

 

334:サイ男 ID:zzztensei01

可哀想なのはエンゾウさんだろ。お前の代わりに治安局に連れてかれてんじゃねえか

家具落としただけで、遺体発見したみたいな事件性のある声を出すなよ

 

335:デンキウナギ ID:zzztensei02

まあ、アレはナイスプレイ!まさかアキラの電話に出ている最中に攻撃を受けるとはな……。フェアリーも俺たちの連絡先に助けを求めたらしいし……。あの後は、エンゾウさんが連れていかれること以外は原作通りになったのか?

 

336:軟体エンジニア ID:zzztensei05

大まかにはそう。たまたま六分街を訪れてた朱鳶たちも「事件ですか!?」って、こっちに駆け付けてくる事態になったけど、臨検は無事引き継いでた

悲鳴については最近アキラたちから借りた映画の内容がサスペンスだったのが悪いね

 

337:カラスメイド ID:zzztensei04

エンゾウさんは犠牲になったのだ……

いや、彼もそうだけど、リーダーの偽造死で悲しんでる人が一番可哀想だろ!!そして作戦に巻き込まれた私もな!!

 

338:カラスメイド ID:zzztensei04

わ、私は悪くない!コイツが撃つように強要してきたんだ!誰がどう見てもあり得ないタイミングで「ここ撃てば一番それっぽいから……!」って指示出してくるんじゃねえよ!!

非業の死をバッチリ決めやがって!狙撃した犯人が私だとバレたらどう責任取ってくれんねんコラァ!!

 

339:軟体エンジニア ID:zzztensei05

く、クロエが切れすぎて情緒がおかしくなってる……!

 

340:サイ男 ID:zzztensei01

それは大体いつものことだろ。……けど本当に反省した方が良い。今、郊外陣営はお通夜状態だ

みんな相当無理してる。特に猫又は……正直、見てて心が痛いな。誰も”作戦”だなんて思ってない。ただ一人、守ってくれてた奴が死んだと思ってる

 

341:デンキウナギ ID:zzztensei02

っすーー……。はい……それは、確実に敵の油断を誘うためとはいえ大変変申し訳なく……

 

342:カラスメイド ID:zzztensei04

……は?ダイさん。それ、マ?

 

343:サソリ薬師 ID:zzztensei03

何だ?マジで殺っちまうべきだったか?

この後どの面下げて登場するつもりだ。事態をややこしくしないためにも本当に消えてもらった方が良いんじゃないか?

 

344:軟体エンジニア ID:zzztensei05

そうだね。今からでも遅くないね。丁度、試したい新作があるからこの罪人にぶち込んでくるよ

電気ウナギの電圧耐性、実験してみたいし

 

345:デンキウナギ ID:zzztensei02

ちょ、ちょちょっと待ってくれ!?いや、流石に今回の件は反省してます!本当に!

アキラの声も、皆の反応もガチだったから!あれは心から俺を想ってくれたって心から理解したから!

本当に、もう二度としないと反省してる!!

 

346:デンキウナギ ID:zzztensei02

そのままカーチェイスに持ち込まれても全員が必死に俺(死体)を庇ってくれて……正直、死んだフリしてる場合じゃなかったとは思う

けど、正直もう引き返せなかった。あの場で今更、「実は生きてました~」は流石にぶん殴られるだろうし、何より讃頌会が完全に騙されてたからな。報告時の反応を見る限り、俺が死なないとあいつらは動かなかったと思うんですよ!

 

347:サイ男 ID:zzztensei01

それは……まあ、分かる。理屈としてはな。ただもうちょっとやり方があったような気もしないでもないが、シチュエーションが確実に最悪すぎたな。結果として、狙って皆の情緒を殺しにいったみたいな構図になってる

 

348:サソリ薬師 ID:zzztensei03

シーザーたちのことだから、リーダーを撃った敵に対するヘイトが凄いことになってるだろうな……

 

349:カラスメイド ID:zzztensei04

ちょ、マジで……!?お前ぇ!ふざけんなよ!

ここまで仕出かしたんだから最後までしっかりと成し遂げろよ!?

 

350:デンキウナギ ID:zzztensei02

分かってる、分かってる!無事ブリンガー倒したら絶対に関係者に謝罪してくるから!安心してくれ!

 

351:軟体エンジニア ID:zzztensei05

安心できる要素がもう皆無なんだよね……

 

352:デンキウナギ ID:zzztensei02

と、取り敢えずアキラから救援要請を入れられた時にフェアリーが機能停止にされたからな、次の行動はパールマンの奪還からだな!とはいえ、戦力的には六課で十分すぎるからアキラには遠隔で見守って、危険になったら助太刀する形をとると伝えよう……!

ドクはそのままスーツに着替えてステルスで動向を追って欲しい!マオとクロエは指定の位置に、ダイさんは時が来るまで引き続き郊外で待機でお願いします!

自分は総仕上げとしての準備とブリンガーたちの動向を窺うので!それでは!

 

353:カラスメイド ID:zzztensei04

あ!?露骨に話を終わらしやがった、コイツ!

 

354:サイ男 ID:zzztensei01

まあ、この無茶な作戦も今回限りなのは確かだろう。俺が讃頌会側だったらこれを機に二度とリーダーに関わろうとは思わんだろうからな

 

355:サソリ薬師 ID:zzztensei03

それはそう。殺しても何故か生きている人物ですからね……。向こうから見れば完全に怪異の類でしょう

 

356:軟体エンジニア ID:zzztensei05

もし、リーダーがこの後何気なく現れたなら……果たしてどういう反応するんだろうね

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

その後、エレグは割と強めな仲間たちからの批判を浴びながらも、讃頌会に対して冷静に“協力者”として振る舞い続けた。

 

アキラたちの手助けを仲間たちに任せ、自分は讃頌会に細かなサポートを裏から行い、作戦は順調なものであると奴らに錯覚させた。

 

ブリンガーが柳との舌戦において追い詰められ、彼が論理も感情も崩れかけた瞬間でさえ、エレグは姿を見せないまま介入している。

 

インカム越しに与えられた短い指示は、議論の焦点をずらし、時間を稼ぎ、ブリンガーに“自分で立て直した”という手応えを残した。結果として彼は救われ、同時にヒール陣営への信頼を一段深めたこととなる。

 

それ自体は心底どうでもいいが、あの場で雅を讃頌会に連行させなければいけなかった。

 

その判断は決して衝動ではなく、それなりの利点が存在したからだ。

 

彼女が常に帯刀している、星見家に代々受け継がれる妖刀、”骸討ち・無尾”。その存在こそが、讃頌会にとっても、エレグにとっても今回の計画における要だった。

 

妖刀と言われている通り、強力な力を発揮する一方で、継承には相応に重い代償が要求される。

 

継承のたびに行われてきた星見家の儀式は口に出すのも憚られるものであり、雅が自分の母を失った直接のきっかけである。

 

今回エレグが目をつけたのは、讃頌会がその刀の力を利用するために、”使用される技術”だった。

 

それは星見家の伝統とは異なるアプローチ、利用する者が讃頌会という点に目を瞑れば、実際素晴らしい技術であることは確かだ。だから、今一件でそれを盗むことに決めた。

 

その過程で、讃頌会が妖刀の力を手に入れ、雅が星見家の華々しい武功の裏に積み重なった歴代使用者たちの叫びと真正面から向き合うことになるのは避けられない。一時的に意志に呑まれ、正気を失いかけることだろう。

 

それでも、それらすべてを天秤にかけた末、エレグは”利は十分にある”と判断した。

 

雅自身の成長。骸討ち・無尾の完全な理解。そして、讃頌会の技術の獲得。

 

そして今、それは成された。奴らが使用する予定の護送車には既に仕込みをしており、サラが刀から力を奪った瞬間のデータは確保される。

 

必要なデータはすべて揃い、技術情報も既に複製される。ここまでくれば讃頌会はもはや用済みである。

 

エレグは仮面を脱ぐように、その姿を表舞台へと現した。

 

――すべてを、終わらせるために。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そして、現在。演説会場にて。

 

「な……!な、な……!」

 

開いた口が塞がらないとはまさにこのことだろう。

エレグは薄く笑みを浮かべながら、明らかに動揺を隠しきれていないブリンガーの眼前に立っていた。

 

「おやおや……」

 

その笑みは勝者の余裕であり、同時に長い欺瞞に終止符を打つ者の冷酷な宣告でもあった。

 

エレグは、目の前で完全に言葉を失っているブリンガーの顔をまじまじと眺めた。

 

その表情は、まるで未知の存在に遭遇したかのような恐怖。

理解が追いつかず、現実を必死に拒絶しようとする者の顔だった。

 

(まったく……まるで化け物でも見たような顔をして)

 

内心の様子を隠し、とぼけながらもブリンガーに話しかける。

 

「どうかなさいましたか?ブリンガー長官。何やら顔色がよろしくない様子」

 

声音は丁寧で、柔らかい。

それがなおさらエレグの異様さを際立たせ、ブリンガーを恐怖に誘う。

 

ブリンガーは喉を鳴らした。息を吸おうとして、うまくいかない。

視線が定まらず、言葉が喉の奥で絡まる。

 

「……い、いや……それ……は」

 

「それは……?一体なんでしょうか。私、とても気になります」

 

言い淀む様子を見て、エレグは愉快そうながらも小さく首を傾げる。

 

その二人の様子を、横にいたヨシダが不審そうに見咎めた。

 

「エレグ?ブリンガー長官?何か問題が?」

 

「――ああ、いえいえ」

 

エレグは即座に割って入った。

 

「どうやら彼は少しお疲れのご様子のようで。演説前ですし、緊張なさるのも無理はありません」

 

そう言ってから、ヨシダの方へ向き直る。

 

「ヨシダさん、申し訳ありませんが彼と少々お話が。すぐに戻りますので、先にお席へお向かいいただけますか?」

 

「……そうか。わかった」

 

一瞬だけ訝しむ視線が交差したが、ヨシダはそれ以上踏み込まなかった。

この場では、エレグの言葉は自然だったし、拒む理由もない。

 

ヨシダの足音が遠ざかる。

人の気配が薄れ、重厚な照明と静寂だけが二人を包んだ。

 

「――さて、これで話しやすくなったのでは?ブリンガー長官。あなたはどうやら私に何か言いたいことがあるようだ」

 

完全に二人きりの空間。

その瞬間、ブリンガーの肩が大きく震えた。

 

「……な……なぜ……」

 

声が、掠れる。

 

「……なぜ……生き……て……」

 

言葉は途切れ途切れで、意味を結ぶ前に崩れ落ちる。

 

 

エレグはふっと息を吐き、もう隠す必要はないというように口調を変える。

柔らかさの奥にあったものが、はっきりと顔を出す。

 

「……ああ、“なぜ生きているのか”、がそんなに気になるのか?」

 

「!?」

 

一歩、距離を詰める。

 

「随分な大物を雇って、私を殺そうとしたな?そんなに私が邪魔だったか?讃頌会の勤勉さには頭が下がる思いだ……だが」

 

微笑みが、嘲りへと変わる。

 

「まさか、あれしきのことで私を殺せると本気で思っていたのか?この――”寵愛を受けし体に”」

 

「なっ!?……き、貴様!?まさか……!?」

 

信じられないというように目を見開き、ブリンガーの顔から血の気が引いた。

その言葉の意味することを知らない訳ではなかった。

 

何を想像したのかは、エレグは完全には分からない。

だが、少なくともブリンガーがこちらにとって都合のいい方向に誤解したことだけは確かだ。

 

エレグは静かに判断していた。この男は情報源として利用する。

謎多き讃頌会の秘密を少しでも暴いておきたかった。少なくともそれは、”今の自分たちには”重要な情報であった。

 

だが、その前に排除すべきものがある。

ブリンガーを縛っている、あまりにも強固な“始まりの主”への信仰心だ。

 

ならばそれを利用し、組織への不信を煽らなければならない。

そのためなら自分を偽ることもいとわない。

 

エレグは、ゆっくりと胸に手を当てた。

まるでそこに、かつて撃ち抜かれた致命傷が残っているかのように。

 

「……あなたの信仰は立派だと思いますよ」

 

声音が、妙に真摯になる。

 

「疑わず、迷わず、すべてを捧げてきた。その姿勢は確かに尊い。ですが――」

 

一拍置き、視線が鋭く突き刺し、口元が歪む。

 

「結局、重要なのは“どれだけ尽くしたか”ではない。“かの存在にどれだけ選ばれているか”ではありませんか?……そうでしょう、ブリンガー長官?」

 

ブリンガーの喉が鳴る。

 

「……ありえない……なぜ、貴様のような者が「――あなたは」……っ!」

 

エレグは被せるように言った。

 

「“かの存在”が、本当に何を望んでいるか――考えたことはありますか?」

 

言葉を与えない。

 

「そして、あなたの所属する組織が“言葉を都合よく解釈している”だけだとは、疑ったことは?」

 

さらに一歩、詰める。

 

「一度でもありますか?」

 

ブリンガーは、瞠目したまま、何も言えなかった。

思考が完全に停止している。

 

エレグは、その肩にそっと手を置いた。

友愛にも、慰めにも見える距離。

 

そして、囁く。

 

「……少なくとも私は、“流れに身を任せる”のが正解だとは思いませんがね。いずれ来る“大きな転機”を――見逃さない方がよろしいかと」

 

ブリンガーは、目を見開いたまま、黙ってエレグを見返した。

恐怖と疑念と、言葉にできない何かが渦巻いている。

 

エレグはその視線を満面の笑みで受け止める。

 

「それではブリンガー長官。演説、楽しみにしています。――どうか、頑張ってください」

 

そのまま何事もなかったかのように踵を返し、先に客席へ向かったヨシダのもとへと向かう。

 

背後に残されたブリンガーは、自分の信じてきた“始まり”に初めて亀裂が入った音を確かに聞いていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

照明に満ちた会場、その中心、壇上に立つのはブリンガーだった。

 

磨き上げられた演説台。

そこに置かれた紙束は何度も推敲され、暗記され、完璧であるはずの原稿。

だが、それを見下ろす彼の視線は定まらず、指先は微かに震えている。

 

「……み、皆様の、ために――」

 

声が、最初から弱い。

張りもなく、抑揚もなく、会場を満たすにはあまりに頼りない音だった。

 

「皆様のために、わ、私は――」

 

同じ言葉がまた落ちる。

意味を持たないまま、宙を漂い、床に転がる。

 

途中で止まり、息を吸い、言い直す。

だが、文は途中で折れ、話は始点を失い、言葉は前後を噛み合わせることができない。

用意されていたはずの筋道は既に彼の頭の中から剥落していた。

 

客席の空気が徐々に歪む。

 

「これは……何とも……」

 

困惑した様子で、ヨシダは無意識に身じろぎした。

 

彼だけではない。演説を聞きに来た人々のざわめきが抑えきれずに会場内に広がっていく。

 

困惑。

疑念。

そして、じわじわと滲み出す失望。

 

――本当に、これが演説なのか。

 

そんな問いが、言葉にされぬまま会場全体に共有されているようだった。

 

エレグは口元に手を当て、肘を軽く膝に乗せたまま、壇上を眺めている。一見すれば、真剣に耳を傾ける聴衆の一人だ。

とはいえ、それはテレビ局のカメラが会場を巡回し、時折こちらに向けられているから、形だけを綺麗に整えているにすぎないが。

 

「ええ、酷いものですね……」

 

囁くような声だった。隣にいるヨシダにしか届かない音量。

その言葉とは裏腹に、口元を覆う指の奥でエレグは密かに嗤っていた。

 

「み、皆様のために」

 

再びその言葉が壇上から落ちてくる。何度目かも、もはや数える気にもならない。言葉の輪郭は崩れ、呂律すら危うく、息の吸い方も不規則だ。緊張か、恐怖か、あるいは別の何かか――いずれにせよ平静とは程遠い。

 

エレグは表情を崩さない。

むしろ、わずかに頷き、理解を示す仕草さえ見せてみせる。

 

内心では、この光景が何を意味するのかを冷静に分析していた。

台本が飛んだのではない。思考そのものが既に制御を失っている。

 

演説台の上で晒されるその無様さをカメラは容赦なく拾い続ける。

会場のざわめきも、困惑も、不信も、すべてが生中継だ。

 

エレグは静かに結論づけた。

 

(――これはもう止めようがないな)

 

その醜態は、もはや隠しようもなくSNSに晒されていた。

短く切り取られた映像と、歪められた音声。飛び飛びの言葉と、意味を失った言葉の虚ろな繰り返し。

 

もはや彼が望む選挙戦など、叶うはずもない。

 

まあそもそも、エレグがここに来る途中でヴィジョンとブリンガーの繋がりを示す証拠を届けたのだからどんなに素晴らしい演説をしようとも、演説が終わる前には出頭を命じられることだろうが。

 

エレグは内心で嗤いながらも、表情には一切を出さず、周囲へと注意を巡らせていた。

 

(だが、そろそろ時間のはずだ……)

 

壇上のブリンガーもまた、同じだった。あの男は何かを待っている。必死に、縋るように――。

 

その時だった。

 

「ん?今なんか落ちてきた」

 

「おい……あれ見ろよ!」

 

どさり、と。

上方から何か重たいものが落下したような音が会場全体に響き渡る。

 

一斉に視線がそちらへ向く。

 

照明の縁、影の溜まる位置にひとりの女性が立っていた。

刀を手に、狐の耳を持つ執行官。歴代最年少の虚狩り、星見雅。

 

「わぁ……凄い!雅さんだ!」

 

「嘘!?本物!?」

 

数々の実績を持つ彼女の登場に、会場の空気が変わり、色めき立つ。

 

ブリンガーは彼女の姿を認めた瞬間、顔色を変えた。

だがそれは恐怖ではない。安堵だ。

 

「こ、これはこれは……!光栄なことだ……!」

 

声に調子が戻る。

いや、戻った“ふり”をする余裕が生まれたのだ。

 

「あの星見雅執行官が私の演説に足を運んでくださるとは!皆さま、彼女に盛大な拍手を!」

 

白々しい歓迎の言葉。

もはや台本など不要とでも言いたげな振る舞いだった。

 

(いや、明らかに無理じゃないか?例え、上手く事が運んで星見家の発言権を取り上げたところで、これじゃあもう当選は不可能だろ……!)

 

エレグは内心でそう吐き捨てる。あの醜態はもう取り返しがつかない。

それでもなお、舞台の主役に返り咲いたつもりでいるらしい。

 

エレグの視線はブリンガーではなく、星見雅へと向けられていた。

 

彼女の足取りはどこか虚ろだ。

焦点の合わない視線。しかし、その奥から放たれる圧は常軌を逸している。

 

彼女の周囲を取り巻く蒼い狐火、研ぎ澄まされた殺意――否、もっと原始的で剥き出しの何か。

ざわめきは一瞬で凍りつき、言葉にならない圧迫感が観客席を押し潰すように広がった。

 

「み、雅さん……?」

 

「おい、なんか様子がおかしいぞ」

 

「ブリンガーの醜態に怒ってるんじゃないか?」

 

その様子に観客たちも気づき始めていた。

ざわめきが再び広がり、恐怖と困惑が入り混じる。

 

(やはり、格段に強くなった彼女であっても吞まれてしまっている……)

 

エレグは静かに息を吐いた。

 

ブリンガーたちの策略により、理性を持たない星見雅がこの場で暴れれば星見家の失墜は避けられないだろう。

 

雅から放たれる殺気に、会場全体が気圧されている。

 

(――まあ、まったく問題はないがな)

 

そんな状況の中でも余裕は一切崩れない。

エレグは、口元だけで微かに笑った。

 

既に彼女の代わりに“暴れてくれる悪役”は用意してある。

彼女がどれほど剣を振るおうと、その権威が脅かされることはない。

 

なぜなら、エレグが用意したのは、誰もが納得する“敵”だからだ。

 

――バリィィンッ!

 

耳を裂くような破砕音。

 

「きゃあ!?」

 

「――っ!?何だ!」

 

突如、近くの照明ランプが撃ち抜かれ、爆ぜるように粉砕された。

闇が落ち、同時に火花が散る。

 

ガラス片が雨のように降り注ぎ、悲鳴が遅れて追いつく。

重たい音を立てて床に叩きつけられる残骸に、全員の視線が吸い寄せられた。

 

「おい!上に誰かいるぞ!?」

 

その叫びに導かれ、無数の視線が上へ向く。

 

そこにいたのは――影。

 

高層建築の縁に佇む、異形のシルエット。

光を反射する金属光沢の装甲。

夜を裂くように大きく広げられた、巨大な深紅の翼。

 

まるで、街全体を覆う夜の帳が意志を持ったかのようだった。

 

「……え……?あれって……」

 

その姿を認めた聴衆の一人が零す。

 

それは知能機械人であった。近頃、世間を騒がせている決して無視できない存在。

対ホロウ六課との邂逅からその姿が知られ、ネットを介して爆発的に新エリー都に広まった伝説の組織。

 

悪役(ヒール)の一人――、”ファルコン”は微動だにせず会場を見下ろしていた。

 

その視線は冷たく、無機質で、しかし圧倒的な存在感を放っている。

 

突然の襲来に、わっと会場全体が一気に騒然となった。

恐怖は明確な形を得て、悲鳴は逃げる理由を手に入れる。

 

エレグは、その光景を見据えながら満足そうに口角を上げていた。

 

視線の先には、完全に混乱し、先ほどまで貼り付けていた白々しい余裕の仮面を跡形もなく剥がされたブリンガーの姿。

そして、その上空に君臨する悠然としたファルコン。

 

(ふはは!残念だったな!思い通りに行かせると思うなよ!ヒール(俺たち)に六課の誰を狙うか指示を出してなかったお前らが悪い!さあ、ヒーローショーの開幕や!)

 

内心で、快哉を叫ぶ。

 

悪役は現れ、舞台は整った。

 

ファルコンの出現が雅の放っていた殺気に決定的な理由を与えてしまったのだ。

 

ヒールが来た。因縁のある六課の課長、星見雅が反応するのは当然だ。

だから、あの殺意は正義だと――!

 

そんな無言の理解が観客の間を伝播するように一気に広がっていく。視線が一点に集まり、空気そのものが色を変えた。

 

エレグは肩の力を抜いた。

 

これでいい。

星見雅がこの場で何をしようと、その原因はヒール(自分たち)に押し付けられる。

 

(さあ雅さん!存分に暴れるといい)

 

 

――この瞬間、エレグは決定的なことを忘れていた。

 

今の星見雅は、理性を失った“虚狩り”だということを。

 

「――危ない!!」

 

唐突に叩きつけられた叫び声。

 

「――え」

 

それが自分に向けられたものだと理解するよりも早く、エレグの視線は反射的に走った。

 

視界に飛び込んできたのは、銀色の閃光。

 

空気を切り裂き、一直線に迫る刃。

星見雅の刀身は、すでに彼の目前まで到達していた。

 

蒼き燃え上がる刃がエレグを襲う。

 

(――まず……!?)

 

その理由を考える余裕すら、エレグには与えられなかった。

避けることができない、と確信した刹那。

 

空間が、ぐにゃりと歪んだ。布を無理やり引き裂くような異音が響き、次の瞬間、金属同士が激突する。鈍く重たい衝撃音が会場を震わせる。

 

――ガキィインッ!

 

「うわ!」

 

火花が散り、衝撃波が遅れてエレグの身体を打つ。

 

星見雅の一太刀はエレグに届くことなく、強引に弾き返されていた。

 

弾いたのは尻尾を持つ異形の影。鋼鉄の躯体がしなり、関節の可動に合わせて冷たい光が走る。

 

――知能機械人、スコーピオン。

 

ヒールの構成員。

その名と姿を認識した瞬間、会場は再びざわめきに包まれた。

 

「きゅ、急に何もない場所から現れたぞ!?」

 

「確か、”スコーピオン”だ……!ヒールの……!」

 

悲鳴が上がり、席を立つ者が現れ、理解が追いつかない視線だけが宙を彷徨う。

 

エレグとスコーピオンの視線が、ほんの一瞬だけ交錯した。

言葉はない。

立場上、交わすことなど許されていない。

 

だが、それで十分だった。

 

(あ、あぶねーー!マジでよくやった、マオ!)

 

エレグは表情を崩さぬまま、内心で最大級の賛辞を叩きつける。

 

これで筋は通る。

雅が狙ったのはエレグではない。潜伏していたヒールの構成員であると。まだそう“処理する”ことも不可能ではない。

 

希望が、胸の奥でかすかに芽吹く。

 

弾かれた雅は、空中で無駄なく体勢を整え、音もなく床へと着地した。

洗練された動き。迷いはない。

 

即座に刀を構え直す。

 

だが。

 

その鋭い視線は依然としてエレグを捉え続けていた。

 

(……なんでだよ!?どう見ても俺じゃないだろ!ほら、怪しげな機械人が隣にいるでしょうが!)

 

内心で、思わず突っ込みを入れる。

 

論理も、状況も全てを無視している。

まるで彼女の中では最初から標的が決まっていたかのようだ。

 

再び刀が向けられる。

 

(まずい……!)

 

本能が、これ以上ないほど明確な警鐘を鳴らす。

 

(このままではせっかく作ったシナリオが台無しだ!……しょうがない、悪く思わないでくれよ雅さん――)

 

雅が踏み込む。

床を蹴る、その一瞬。

 

(――”動くな”)

 

エレグは、“命令”を発動した。彼の体を電気が覆い、ほんの一瞬淡く光る。だが、その異変に気づいた者は、この会場に誰一人としていなかった。

 

ガチリ――!

 

「――!!」

 

雅の動きが唐突に止まる。

 

あまりにも不自然に。

 

踏み込みの途中で凍りついた身体。

まるで時間だけが彼女を置き去りにし、周囲の世界が先へ進んでしまったかのようだった。

 

「……シッ!」

 

その致命的な隙をスコーピオンが見逃すはずもなかった。

 

一気に距離を詰め、鋼の脚を振り抜く。

空気を叩き潰すような、強靭な蹴り。

 

「っ!」

 

雅は即座に鞘でそれを受け止めたが、衝撃を完全に殺しきることはできなかった。

 

衝突の瞬間、鈍い音が鳴り、身体が浮く。

 

身体が宙を舞い、彼女は後方へと大きく吹き飛ばされる。

 

そして同時にファルコンとスコーピオンは勢いを殺すことなく踏み込み、追撃の構えのまま彼女を上下から挟み込む。

 

三つの影が交錯し、激しい衝突音を残したまま近くに出現していたホロウへと消え去った。

 

会場に残されたのは――沈黙。

 

つい先ほどまで悲鳴と混乱が渦巻いていた会場が、まるで嘘だったかのように静まり返る。

 

砕け散った照明器具がぶら下がったまま微かに揺れ、床には無数のガラス片が星屑のように散乱していた。

 

何が起きたのか。

何が終わったのか。

 

人々は佇み、理解が追いつかず、ただ時間だけが先に進んでいく。

 

「はぁ~……びっくりした」

 

エレグはゆっくりと深く息を吐いた。

 

表情はあくまで平静。

だが胸の奥では、確かな安堵と、まだ解けきらない緊張が、重く絡み合うように渦を巻いていた。

 

「エレグ!」

 

「っはい!?」

 

駆け寄ってきたヨシダが彼の肩に手を置く。

呼吸は荒く、額にはうっすらと汗が滲んでいる。

 

「大丈夫か? ……あの星見雅が、君を斬るつもりなんじゃないかと肝を冷やしたよ。でも、どうやら会場に潜伏していたヒールを攻撃するつもりだったみたいだ」

 

――見事な勘違いだ。

 

エレグは内心でそっと息を緩めた。

少なくとも、一般の目にはそう映ったということ。

それならば、この場は取り繕える。

 

「……ええ、そのようですね。本当に驚きましたよ」

 

穏やかに頷き、落ち着いた声音で応じる。

 

「ご心配なく。自分は大丈夫です。一先ずこの場は―――!」

 

言葉を続けようとした、その瞬間。

 

エレグは、人波のわずかな揺らぎから異変を察知した。

 

恐怖による混乱ではない。

混乱に紛れ込ませようとする意図を持った動き。

 

(チッ……!次から次に、面倒な)

 

ブリンガーの部下たちだ。合図を待ち、引き金に指をかける直前の独特の緊張が走っていた。

 

視線を巡らせると、祭壇の上にブリンガーの姿はすでに無かった。

作戦の失敗を悟り、逃亡。残った部下に“暴れろ”と指示を飛ばした。そんなところだろう。

 

だが、それはさせない。

 

発砲が始まる一拍前に、エレグは電気を操作し、静かに指先へ意識を集めた。

 

――次の瞬間、会場全体が光を失う。

 

「照明が!?」

 

「ママぁ!怖いよ!」

 

「何も見えない……!」

 

照明。

非常灯。

壇上のスポットライト。

壁面を走る誘導灯に至るまで、すべてが一斉に沈黙する。

 

完全な暗闇に、人々の悲鳴が上がり、場の秩序が崩壊しかけた、その刹那。

 

「皆さん、落ち着いてください!」

 

闇の中で、エレグの声だけがはっきりと響いた。

 

「ただの停電です!設備トラブルによる一時的なものでしょう!走らず、押さず、その場で落ち着いて、ゆっくり出口へ向かってください!」

 

よく通る、落ち着き切った声。

企業の会見や非常時対応で幾度となく人々を導いてきた、信頼を前提とした声音だ。

 

人々の動きが、目に見えて緩む。

暗闇は恐怖を生む。

だが同時に、“理由”を与えられた人間は従う。

 

(これで良し……!この隙に――)

 

その裏側で、エレグは音もなく動き出していた。

 

闇は、彼の領分だった。

 

視界は不要。

電流の流れが、すべてを教えてくれる。

金属の位置。

人体を流れる微弱な生体電流。

緊張によって変化する筋肉の収縮。

 

それを頼りに、暗闇の中でバレないように闇討ちを決めていくエレグ。

 

銃を構えようとした男の腕が、唐突に跳ねる。

警棒を抜こうとした手が痺れて力を失う。

 

奪う。

引き寄せる。

叩きつける。

 

闇の中で、鈍い衝撃音がいくつも重なった。

 

「ごっ!?」

 

「ぐえっ!」

 

「ぎ!?」

 

壁に。

床に。

柱に。

 

だが、悲鳴は上がらない。

すべて、意識を刈り取られる前に終わっている。

 

ブリンガーの部下たちは、何が起きたのかすら理解できないまま、床に伏した。

 

(……ラスト!)

 

ゴッ!と、最後の一人を床に沈め、エレグは深く息を吐いた。

 

そして、そんな様子など一切悟らせずに残った仕事を完遂する。

 

「テレビ局の方!」

 

声を張る。

 

「カメラの照明、使えますね!その光を出口方向に向けてください!」

 

一瞬の間。

だが、すぐに返事が返る。

 

「は、はい!今やります!」

 

業務に慣れた人間の反応だ。

大型カメラの補助灯が灯り、闇の中に白い道が生まれる。

 

「ありがとうございます。皆さん、その光の方向が出口です。係員の指示に従って、ゆっくり進んでください!」

 

エレグは避難者一人ひとりに声をかけながら、気絶した男たちを物陰へとまとめていく。

 

高齢者には腕を貸し、足元の不安定な者には立ち位置を示す。

泣きそうな子供には目線を合わせ、静かに頷いてみせる。

 

「大丈夫ですよ。こちらです」

 

「もう少しです……足元、気をつけて」

 

「慌てなくていい。私は後で向かいます」

 

企業人として。

責任ある大人として。

そして裏で“片づけ”を行う者として。

 

そのどれもを彼は同時にこなしていた。

 

やがて、人々は次々と会場の外へと流れ出ていく。

悲鳴は消え、代わりに安堵の吐息が夜に溶けていった。

 

遠くで、サイレンの音が近づいてくる。

 

(……これで、讃頌会の狙いは潰えた)

 

エレグはテレビクルーに軽く一礼し、ヨシダを促す。

 

「行きましょう。ここから先は治安局の仕事です」

 

出口を抜けると、夜風が頬を撫でた。

 

誰にも気づかれず。

だが確かに、多くの人間を救ったまま。

 

――すべて、想定通りだったと言えるだろう。

 

会場の混乱は沈静化し、避難は滞りなく進行。

治安局の到着も目前。

ブリンガーは逃げたが、行動圏はすでに絞られている。

 

あとはポート・エルピスに向かい、捕らえるだけ。

そのはずだった。

 

「!……ヨシダさん、我々も避難を――」

 

低く告げ、出口へと足を向ける。

 

予想外なことに、ホロウでは、雅と戦っている二人が苦戦しているそうだ。

 

一度ヨシダさんを安全な場所へ送り、スーツを纏ってから加勢を――。

 

そう考えた、その時だった。

 

「――エレグ?」

 

背後から、戸惑いを帯びた声。

 

「……!?」

 

嫌な予感が背筋をなぞる。

エレグは一瞬だけ目を伏せ、それから振り返った。

 

そこに立っていたのは、二つの影。

 

一匹のボンプ。

そして、その隣に並ぶ女性治安官。

 

(……あ、ヤバい)

 

思わず、思考が止まりかける。

女性治安官、朱鳶さんの方は治安官ということもあって、出会えば少々後ろめたい気持ちが滲むが、それは今は問題ではない。

 

肝心なのはもう一方だ。

 

自分の“死”を目撃したはずの人物。

イアスを通じた、アキラである。

 

戸惑いと驚愕が入り混じった声が、震えながら漏れる。

 

「……本物……!生きて、いる……?」

 

感情の整理が追いつかない、正直すぎる声音。

エレグは小さく息を吐き、乾いた苦笑を浮かべた。

 

「あ、あはは……これは、困りましたね」

 

死んだはずの男が目の前に立っている。

致命的な矛盾。

 

夜の出口に、冷たい沈黙が落ちた。

 

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