異世界迷宮で奴隷生活を 作:Doro
導入
「自殺の決意をする前に」
とある夜。
ネットサーフィンをしている俺の目の前に、こんな胡散臭い見出しの広告が出てきた。
なんだこれは。俺は世の中にそこまで絶望はしていないぞ。
さっさとスルーして面白そうな動画でも観れば良かったのだが、気紛れと好奇心でクリックしてみることに。
飛んだ先のページは何かのゲームのメイキング用、らしき画面。
ざっとページ全体を見ると、この世界で生きるのが辛いなら別の世界で生きればいいじゃない、みたいな説明文の後に、チェック用の項目が幾つも並んでいる。
思わず脱力した。最近はどこも客を呼び込む為に色々と考えているのだな。
それにしてはどんなゲームなのか、タイトルやジャンルすら紹介されていないのは気になるが。
このまま帰ってもいいという気持ちを頭の片隅に置きながら、ページを下へと読み進めていく。
ゲームの経験は一応それなりにある。
小中学生の頃にド●クエやマ●オは遊んでクリアまでしたからな。
だが、世界観の設定や能力を開始前に細かく取り決めるゲームというのはしたことがない。
ちょっと試してみようか。
なになに、まずは世界を選ぶのか。
科学技術が発達した世界、海賊が跋扈する世界、古代世界、剣と魔法の世界。
国産RPGをプレイした経験上、剣と魔法のファンタジーなら多少は想像がつく。
少し考えてから剣と魔法の世界にチェックを入れた。
そのまま、幾つかの項目を選び、世界についての概要の設定を終える。
その次は……使用する言語?
ブラヒム語ってなんだ?
他にも幾つかの言語が並ぶが、どれも聞いたことがない。
こういうのには大抵元ネタがあるが、そこまでして知りたいことでもない。
複数選べるらしいので、先頭から順に選べるだけ選ぶ。
その後も埋められる所を全部埋めると、読み込みが始まり自動的に次のページに遷移した。
変なところで凝った造りだな。
新しいページに表示されているのは、各種スキルや能力の設定項目。
目の前に表示された数字がボーナスポイントで、この分だけスキルや能力に振り分けられる、と。
クリックすると、数字が変化して28と表示された。
もう一度クリック。数字は11になった。
どうやら、ボーナスポイントの数値はランダムで決定され何度でも振り直しできるようだ。
何度か数字を振り直した俺は、35で決定して次に進む。
もっと続ければいい数値が出るのは分かっているが、いざ始めたところでいつまで続けるか分からないゲームの設定に拘り続けたくない。
ソーシャルゲームも試しに始めてみたことはあるが、リセマラはしたことがない。
たとえガチャの引きが悪くても、来た手札で始めるのが俺の遊び方だ。
尤も、どれも長続きはしなかったのでもう少し力を入れても良かったのかも知れないが。
お次はキャラクター設定か。
ここまで淡々と進めてきたが、自分の分身を決定すると思うとちょっと楽しみになってきた。
それで、いったい何を決められるのかというと。
パラメータの設定、ボーナス装備の設定、それに呪文とスキル。
どこにどれだけポイントを振ればいいのか、すぐには見当がつかない。
パラメータに振って身体能力を強化するのは、RPGならレベルが上がれば解決する問題ではあると思う。
ここにはポイントを振らず、その下を読み進めることにする。
装備品か。開始直後の装備は概ね貧弱なので、序盤の助けになると思えば心強い。
難易度が比較的低いゲームでも、自分が敵より弱いからという理由で序盤は危険が多い。
それなりに強い武器や防具があれば、安定した旅をすることができるのではないか。
呪文は、パっと見で用途が分かるものと、そうでないものの両方がある。
ワープは理解できる。移動魔法は便利だろう。
メテオクラッシュやガンマ線バーストはたぶん攻撃魔法。
強そうだが使いこなすにはコスト面で辛そうだ。
何を選べばいいのか、今一つ決め手に欠ける。
そう思いながら、一番下の項目を見る。
キャラクター再設定。
……って、なんだ?
もしかして、ここまでに設定したものを再設定、つまりリセットする為のものか?
数々の決定項目の一番最後に出てくるのもそれらしさがある。
確認の為、やり直してもいいのだがどうするか。
適当に進めたので、ここまで大した時間も使っていない。
キャラクター再設定にチェックを入れてみる。
ボーナスポイントが1減って34になった。
それだけで、他には特に何も起こらない。
リセットボタンじゃないかー。
というか、あくまでキャラクターの再設定だから、今いるこのページ限定になるわな。
最初のページに戻るものではないようだ。
……あ、もしかして。
俺は今までずっと、キャラクターメイキングはゲーム開始前だけのサービスで、決定後に変更する余地があるとは思っていなかったが。
プレイ中にもこれで変更できるのか?
逆にこれを選ばないと、以降は一切設定を変更できない縛りプレイになるのか?
開始前から人を選びすぎじゃね?
ひとまずキャラクター再設定にチェックを入れておき、上に並んだ残りのスキルも見てみよう。
必要経験値減少に獲得経験値アップ。
かなり有効そうだが、違いが分からん。
必要経験値減少にチェックを入れると、項目が必要経験値二分の一に変化し、ボーナスポイントの残りが33になった。
続けて必要経験値二分の一をクリックすると、必要経験値三分の一に、ボーナスポイントの残りは31になった。
そのまま続けてクリックしていくと、必要経験値十分の一まで減少し、ボーナスポイントの残りは3になった。
同系統の項目を強化していくと、使用するボーナスポイントは2のべき乗であるようだ。
広く浅く使うか、一点集中するかは状況次第かな。
一旦、必要経験値減少の項目からはチェックを外しておく。
ボーナスポイントは34に戻った。
次は、ジョブ設定。
初期ジョブの決定かと思ったが、キャラクター再設定があるなら想像がつく。
おそらくは獲得した、または条件を満たしたジョブを複数設定・変更できるというものだろう。
組み合わせることで強さを発揮するビルドとかありそうだ。
重ねたジョブの分のパラメータまで反映されるなら、パラメータに直接ポイントを振るより効果的かも。
鑑定。これは重要そうだ。
戦闘に使うものより、生活や探索で役立ちそうなものが好きだな。
鑑定の項目にチェックを入れ、ボーナスポイントは33となった。
あとは詠唱短縮と詠唱省略か。
これはあって困るものではないな。
詠唱短縮で1ポイント、詠唱省略までチェックすると3ポイント。
ボーナスポイントは残り30ポイント。
項目は色々とある。ボーナスポイントも余っている。
が、今はこれでいいか。
決定を選択し、キャラクター設定を完了させる。
すると画面が切り替わり、警告文が表示された。
警告!
あなたはこの世界を捨て異世界で生きることを選択しました。
二度とこの世界に帰ってくることはできません。
続けますか?
はい いいえ
へえ。こういう演出まであるのか。
胡散臭い広告の見出しは、単なる釣り目的のものだと思っているが。
釣られた客を世界に没入させるひと工夫は忘れていないらしい。
俺はこういう気遣いは大好きだし、重要だと思っているよ。
はいをクリック。
最終警告!
本当に二度と帰ってくることはできません。
それでも続けますか?
はい いいえ
流石に二度は要らないかな。
再度はいをクリック。
瞬間、視界がぐにゃりと歪み、違和感を覚える間もなく俺の意識はたちまち遠くなっていった。
この主人公には原作知識はありません。
原作小説の存在しない世界なのかも知れません。