異世界迷宮で奴隷生活を 作:Doro
盗賊の商館襲撃という脅威も去り、またいつもの日々が始まった。
朗報である。
俺のジョブがめでたく村人に戻った。
襲撃があった夜から二日後。
アランからジョブを村人にすると言われ、俺はそのままどこかへ連行され、気が付けば村人にジョブチェンジしていた。
どこか、というのは目隠しと耳栓をされ、どこをどう移動したのか分からないからだ。
途中で建物の中に入った後、同じ場所を何度も往復させられていたのは覚えている。
推測だが、壁に向かって移動魔法を使い続けていたのだろう。
感覚的には、電車の乗り換えみたいなものだ。
かなり遠出をしたのは分かる。
まぁ盗賊に場所を突き止められれば、碌なことにならない。
秘中の秘、というやつだろう。
最初は感情が追いつかなかったが、インテリジェンスカードのジョブ表記を見せて貰い、自分が村人に戻ったことを実感する。
それからしばらくは、鑑定で何度も自分を見てしまった。
自分が犯した罪の象徴とはいえ、ずっとファーストジョブに盗賊が貼り付いているのは精神に来るものがある。
村人認定されることの有難さを噛み締め、感謝しなければならないだろう。
◇
今日は主人の護衛としての動き、振舞いを教わっている。
奴隷にも幾つかの役割があるが、奴隷というのは概ね主人を護る者だ。
愛妾であればそんな役目は求められないが、護衛の任は大抵の奴隷が担う。
場所は中庭の広くはない空きスペース。
そこで武器を借りて、多少の訓練も行った。
先日の働きが認められたのか、教育係や戦闘奴隷の目の届く場所なら、武器の使用の許可が出たのだ。
俺自身、技術不足を感じているので、指導して貰えるのは有難い。
この世界には人を食う迷宮があり、盗賊は平気で村を襲う。
生き抜くためにも、強くなることは必要不可欠だ。
弱いのは、そうせざるを得ないか、強くなる必要がない者だけだろう。
そうでなくても、強くなっておいて損はない筈だ。
この調子なら、迷宮への探索にも引き続き参加させて貰えそうだ。
探索といえば、嫌でも確認しなければならないのがジョブ設定。
先日、新たに取得した奸雄というジョブ。
奸雄とは一般に、知略に長けた英雄などに対して、畏怖を込めて使われる称号だ。
その詳細が、以下である。
奸雄 Lv1
効果 HP中上昇 MP中上昇 腕力中上昇 体力中上昇
知力中上昇 精神中上昇 器用中上昇 敏捷中上昇
スキル バニッシュ 初回攻撃力アップ
奸雄の効果がすごい。
最初に見たときは、魔法使いを取得できていなかったのと字面の悪さのダブルショックで、ふて寝してしまったが。
今までに得たどのジョブより圧倒的に強い。
強いけど、なぜ俺にこんなジョブが。
奸雄には、悪知恵が働き裏切りを是とする一面があるとも言われる。
そして奸雄のジョブを取得したタイミングは、盗賊を斃した後だ。
俺は盗賊の一味だった……?
奸雄は果たして、盗賊を斃しただけで得られるジョブだろうか。
盗賊が盗賊を斃しただけで取得できるものではないだろう。
内輪揉めや勢力争いが日常的に起こるらしいし。
探索行で町を行き交う人を鑑定で見たが、奸雄なんてジョブは一人もいなかった。
盗賊の集団も見たが、その中にも確認できていない。
まぁ、効果は強力だが表沙汰にするものじゃないよな、知らんけど。
スキルの実態も気になるが、人目があると碌に効果を試せない。
検証できそうな部分から、探索の中で確認するしかないか。
探索への参加、二回目。
パーティーメンバーは、探索者、戦士、戦士、剣士、剣士、あと村人。
本日の俺の装備は、鉄の剣、革の鎧、皮の帽子、皮の靴。
念願の武器を手に入れた。
これでようやく戦闘に参加できる。
ジョブ編成は、セカンドジョブを探索者、サードジョブを奸雄にした。
怪しいと思いつつ、奸雄の強さには抗えなかった。
グッバイ、盗賊!
そしてレベリングのため、今回も必要経験値五分の一と、獲得経験値五倍をセット。
キャラクター再設定、鑑定、サードジョブ、必要経験値五分の一、獲得経験値五倍でボーナスポイントは35ポイント。
ボーナスポイントは1ポイント余っている。
ポイントが増えているのは、たぶんレベルアップの影響だ。
更に、今回は所持品が増えた。
出掛ける前に、魔結晶というアイテムを手渡された。
正確には、結晶を用意した教育係に、出発の際に自ら受け取りに行くのだという。
そんなことは知らない俺は、普通にやらかしていたのだ。
で、結晶を持ち魔物を倒すことで、討伐数に応じて色が変化して段階的に高値が付くらしい。
キャラクター再設定の項目に、結晶化促進というのがある。
どうやら魔結晶に力を溜めるのが速まるようだが、目に見えて効果が表れるとなると、下手に使えない。
魔結晶は借りた物だし、探索が終わったら返すのが規則だ。
前回の探索でのアイテムの売却金も、商館に渡したからな。
魔物を倒した数と結晶の色は比例するし、他の人の所持結晶と差が出るので、誤魔化しは効かないだろう。
金策に使えそうだが、今は無理だな。
ベイルの迷宮に来た。
前回は一階層のセーフティーゾーンまで到達した。
先輩探索者が先頭で迷宮へ入る。
前回同様、入り口の小部屋に出た。
「入り組み惑う迷宮の、勇士導く糸玉の、ダンジョンウォーク」
探索者が壁に向かって詠唱を行い、黒い扉が現れる。
再びそこへ入ると、別の小部屋に出た。
四辺の内、向かい合う二辺に出口のある小部屋。
俺は挙手して探索者に質問する。
「ここは前回の最後にいた部屋でしょうか」
「そうだ」
「ここは安全地帯なんですよね。魔物が出る通路にダンジョンウォークでは出られますか」
「出られないな。ダンジョンウォークの移動先は、敵の出ない場所に限定される」
「逆に、敵の出る場所からダンジョンウォークは使えますか」
「可能だ。迷宮の中でならダンジョンウォークは、基本どこでも使える。……ああ、戦闘中は無理だ。魔物に発見されてしまったら全滅させないと使えない」
ダンジョンウォークの仕様について、先輩に訊いてみた。
戦闘からの緊急離脱には使えないようだ。
もしできたらさすがに使い勝手が良過ぎるか。
「では、人が相手のときは?」
追加の質問に対し、先輩は顎に手を当て少し考え込んで答える。
「……使える。迷宮は盗賊が塒にしていることもあるし、用心するに越したことはないな。それと、中には評判の悪い探索者を囲っている盗賊もいる」
「やはり、そうなのですか」
迷宮で死ぬと、死体は迷宮に吸収され消えてしまう。
死体の隠蔽には適しているから、自分達にとって安全な階層をアジト兼狩場にする盗賊もいるとは思っていた。
そして、迷宮と外との移動を考えれば、探索者が加担しているのも自然である。
お高い店ではインテリジェンスカードのチェックが行われる場合もあるし、アイテムボックスを持つ利便性からも装備や物資調達の担当は探索者の役目なのだろう。
「村人になったんだろ? お前は染まってくれるなよ」
考え込む俺を見て、先輩探索者はそれだけ言って進み始めた。
探索は順調だった。
出てくる敵は相変わらずニードルウッドLv1が一体だけだ。
一階層では魔物は一体しか出ない。
前回、教えて貰った通りである。
そして俺も攻撃に参加した。
攻撃は敵が一体でも、パーティーメンバー全員が取り囲み、代わる代わる行う。
敵を倒すまでには時間がかかるので、一人が相手をし続けると魔物の攻撃を何度も受ける。
Lv1のニードルウッド一体を倒すのに、Lv30~40程度の前衛職の攻撃が十回くらい。
時折、探索者や戦士の盾防御を交えてテンポ良く攻撃しても、一分以上はかかる。
この先敵の数が増えれば、敵味方共に手数も増え、戦いは長期化するだろう。
得られる経験値は増えるかも知れないが、楽になるとは思えない。
分かってはいたが、楽しむようなものでもないな。
命が懸かっているのだから、それでいいのだが。
カレー 男 20歳
村人Lv1 探索者Lv1 奸雄Lv1
ここまでに倒した魔物は十体以上だが、盗賊を斃して以降レベルは上がっていない。
気長にやるしかなさそうだ。
その後、何度か行ったり来たりを繰り返して、通路の途中にある隠し扉を発見した。
黒い扉を通過すると、また正方形の小部屋に出る。
ここもセーフティーゾーンか。
部屋の奥側に、先客がいる。
先行していた別のチームだ。
彼らは縦列に並んでいる。
「あの壁の向こうがボス部屋だ。今は前のパーティーが戦っているな」
剣士がそう教えてくれた先には、ちょうど閉じた例の黒い扉が見える。
「戦闘が終わったら、扉が開くのですね」
「パーティー全員が部屋に入ると扉が閉じてボスが現れる。ボスを倒せば次の階層への扉が現れるって寸法だ」
ここはボス戦の手前の部屋のようだ。
特にセーブポイントのようなものは置いていない。
そして戦闘はパーティー単位で行われると。
「パーティー全員ということは、パーティーの誰かが迷宮の外に居たりすると」
「扉は閉じない。ボスとも戦えない。ボスを倒さないと次の扉は現れないから上の階層にも行けないぞ」
そんなことがあるのか分からないが、編成だけしておくことはあるかも知れない。
しばらく経つと前方の扉が開き、前に並ぶパーティーがボス部屋へと入っていった。
俺たちが最前列になる。
この後、初のボス戦だが、何か改めて準備をする必要はあるだろうか。
とは言っても、フラガラッハを見せられない今の俺は鉄の剣で攻撃するくらいしかない。
ここにいる他の皆と一緒だ。
経験値効率を捨てて、腕力にボーナスポイントを全振りするという選択もなくはないが。
ボスなのだから、たぶん経験値も多いのだろう。
折角レベル上げのチャンスなのだ、是非とも生かそう。
変更の余地があるとすれば、ジョブ設定で村人を効果の高い盗賊にするくらいだ。
絶対にやらんけど。
まぁ、大丈夫だろう。
Lv30以上の経験者五人が普通に挑もうとしている。
…などと考えているうちに、ボス部屋への扉が開いた。
奸雄は英雄とはトレードオフです。
両方は取れないという独自設定です。