異世界迷宮で奴隷生活を   作:Doro

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待機命令

「なるほど、魔法使いに……」

 

「はい」

 

ベイルの奴隷商館、アランの執務室にて。

予定通り、アランに時間を取って貰うことに成功。

 

問題はどう説得するか、なのだが。

 

「相分かった。先方に連絡は入れておこう。沙汰は追って伝える」

 

「突然のお願いにも関わらず、快諾していただき感謝致します」

 

俺は深々と頭を垂れる。

これについてはさして心配はしていなかった。

アランは魔法使いになるための条件の一つを、俺の前で詳細に語ってみせたのだ。

俺も勘違いとはいえ、自爆玉への理解を示している。

このタイミングで切り出して、口から出まかせを疑うのも難しいだろう。

 

アランの反応は即断即決だった。

俺が魔法使いになれる確信があると見抜かれているな。

 

魔法使いが貴族のステータスだとするなら、育成メソッドは確立されていても不思議ではない。

先達の成功談を子孫に語り継ぐくらいのことはするだろう。

村人Lv5は複数のジョブの解放条件でもあるようだし、村人としての経験を積むことも必要条件の中に含まれており、周知されているのではないか。

 

前触れもなく突然村人に戻されたときから、違和感はあった。

盗賊を村人に戻す行為がどれほど大変なのかは知らないが、金銭的にも人脈的にも結構な無理を通していないだろうか。

異世界なのであてにならないが、一般的な保釈金の相場は数百万円だった筈だ。

ただの奴隷にそこまでするとは思えない。

つまり、盗賊になった者を商館に置くのは、一般的な行いではないのだ。

 

あのタイミングで村に居合わせて、盗賊の手下だと疑われるのは妥当だろう。

それはそうだ。同時に奴隷堕ちした男は、実際に盗賊と繋がっていたのだ。

遺族の手前、穏当な手段を取っただけで、泳がせていたに過ぎない。

一方で、それ以外の可能性も考慮していたということなのだろう。

 

考えてみろ。

施錠された奴隷用の部屋の外で、護衛を除く俺以外の奴隷を何度見た。

片手の指で数えるくらいしかないだろう。

あぁ、本当に泳がされていたんだなあ。

監視されているとは思っていたが、奴隷ではなく盗賊として、か。

 

村人に戻れたのも、盗賊の急襲を防ぐ原因になり、結果的に自爆玉の脅威から他の全員を護ったからだ。

あの夜は寝返る、或いは逃亡するなら絶好の機会だしな。

俺にかけられた疑惑が一部を除いてほぼなくなり、晴れて村人になれたというわけだ。

 

なぜ盗賊だったのか。

なぜ村人になれたのか。

ようやく得心がいった。

 

「もしかして、初めからそのおつもりだったのですか?」

 

「可能性の一つとして予想はしていた、というだけだ。お前の素性は気になるが、まあそれはよい。これはあくまでビジネスだ。肝要なのはお前に魔法使いの素養があるか、だ。現時点では賭けだがな」

 

形のいい口髭をしごきながら、悠然とした語り口調でアランは笑った。

俺が情報を伏せているのも、自分を売り込みに来たのも、お見通しというわけだ。

魔法使いになれると確信している理由までは分からないけれど。

実際になれるのだから、アランの読みは的中したことになる。

 

「今まで黙っていたわけではありません。なにぶん昔のことで、記憶が不明瞭でして。両親からは一言も聞かされておりませんので」

 

「先日のやり取りで思い当たった、というわけか」

 

目を閉じて、呟くように俺の発言を聞くアランが信用しているかどうかは定かでない。

魔法使いになれるのならそれで構わないということだろうか。

詮索しないでくれるのは有難い。

 

「ではカレーよ、お前はこれより二階の部屋へ戻り、以後は外出禁止とする。迷宮探索も同様に禁ずる。ジョブ変更に失敗した場合は、追って指示を与える。質問があるならするがよい」

 

俺の話が途切れたところで、アランは矢継ぎ早に命じてきた。

 

外出も探索も禁止。これは分かる。

今までが特例だったのだ。

他の奴隷と同じになっただけだ。

また高価な魔法使いの可能性がある奴隷を、事故等で失わないためにも妥当な判断だ。

 

質問。質問かぁ。

うーん。

 

「今の話とは関係がありませんが、質問なら一つございます」

 

「話してみなさい」

 

「私は、奴隷らしくありませんか?」

 

「そんな質問をする辺りが既に奴隷らしくはないな。生来の奴隷ならば己の身の上に疑問を持つことはなかろう」

 

興味があったので訊いてみたが、やはり奴隷らしくはないらしい。

異世界にやってきて、いきなりお前奴隷と言われたところで、心の底からは奴隷になりきれない。

言動には注意を払っているつもりだが、どこか浮いているのだろう。

 

「まずお前には根本的に、畏れが足りぬ」

 

「畏れ、ですか……つまり、主人に対する敬意が足りないということですか」

 

「もっと根源的なものだ。主人と奴隷の関係性に限ったことではない。帝を頂に、貴族諸侯が周囲を固め、大商人や資産家が金の匂いを嗅ぎつけ、やがて市ができ、人が集まる。町に住めぬ者は畑を耕し、獣を飼い慣らし、糊口を凌ぐ。国とはそうして成り立つものだ。人の生まれによる違いは途轍もなく大きい。そこには絶対的な差がある。物乞いや百姓が騎士や貴族を畏れるのが当然であるように、な。奴隷となってもそうは変わらぬものだ。お前にはそれがない。上に立つ者ではない。かといって下でもない。まるでそんなものは初めから知らぬとでも言うかのように」

 

すっと目を細めてこちらを睥睨するアランに、背筋が寒くなる思いがした。

奴隷を扱う商売を長年しているせいか、身分や階級には一家言あるらしい。

俺は身分制度のない現代社会から来たから、異質なんだろうな。

 

「そもそも、複数の言語を操れるくせに文字の読み書きはできないなどと、ふざけているのかと疑うところだ」

 

「返す言葉もございません……」

 

ですよねー。

俺もそう思います。

参ったな。言い訳できねえ。

 

「まだあるが……もうよい。お前の追及が目的ではないからな。他に質問がないなら、今日はもう下がれ」

 

「は、はい。失礼致します」

 

アランは顔が引き攣っている俺を見て、言い募るのをやめたようだ。

藪蛇だったか……。

早々に居住まいを正し、執務室を辞する。

 

……アランから見た俺は、得体の知れない存在だったのだろうか。

傍から見て怪しいところが多すぎるからな。

 

 

 

 

ひとまず、壁は越えた。

アランが後押ししてくれるのなら、あとは失敗しないようにするだけだ。

今の内に予行練習をしておこう。

 

キャラクター再設定からジョブ設定をチェックして、ファーストジョブを魔法使いにしてみる。

セカンドジョブを奸雄、サードジョブを探索者にしてジョブ設定を終了する。

 

前に試したとき、ファーストジョブに魔法使いを設定できなくて焦ったんだよな。

原因はファーストジョブのレベルによって、ボーナスポイントの総量が決まることにあった。

村人Lv5で39ポイントを使い切った状態からでは、魔法使いLv1にジョブチェンジできなかったのだ。

公式のジョブチェンジの仕様がどんなものかは分からないが、こんなところで躓いたら笑えない。

 

ちゃんと変更されたのを確認して、再度ファーストジョブを村人にする。

ジョブはサードもセカンドもチェックを消し、ファーストジョブのみにする。

セカンド以降のジョブ項目をチェックすると、空欄にしておいても自動的に全部何かしらのジョブで埋まってしまうのだ。

 

 

 カレー 男 20歳

 村人Lv5

 

 

ボーナスポイントは使い切らず、余らせておく。

キャラクター再設定と鑑定、詠唱省略のみである。

ファーストジョブのみが常識なら、これで条件は他の人と同じだろう。

 

 

 

 

居室待機となった。

同部屋の住人は、俺を含めて全部で五人。

種族の内訳は、人間族三名、ドワーフ族一名、獣人族一名。

俺が来た当初は人間族が四名だったが、一人売却され狼人族が入ってきた。

 

狼人族の男(名はマーク)は、俺同様に今年奴隷になったそうで、これを初年度奴隷という。

初年度奴隷の納税額は、奴隷になる前のままなので、買い上げた主人にはその年度分の納税義務が発生する。

納税額は、年間で自由民十万ナール、農民三万ナール、二年目以降の奴隷一万ナールだ。

自由民高くね。

 

マークはブラヒム語を喋れない。

俺が話し相手になれるかと思ったが、マークが何を言っているかは分からなかった。

どうやら獣人語は設定していなかったようだ。

実際に話してみるまで、どの言語が理解できるか分からないのは不便だな。

 

そんなわけで、マークは教育係にブラヒム語を習っている。

数カ月で別の言語を習得するのは大変だろうが、たぶんブラヒム語は奴隷としてやっていくなら必須だから頑張れ。

それにブラヒム語が話せるようになれば、ボーゲンも交えて会話ができる。

 

ボーゲンといえば。

以前俺に対して、ブラヒム語と礼儀作法ができないと労役は許可されない、と言っていた。

だが実際のところは労役どころか外出が許可されていない。

あれは、どういう意味だったのだろう。

 

ボーゲンはいったい、どこでその情報を手に入れたのか。

答えは従業員だ。

アランから従業員には、俺を泳がせるように通達があった。

部屋の内外を出入りしても咎められなかったのはそれが理由だ。

 

本来なら外出禁止とだけ説明すれば済むのだが、ボーゲンは外に出る俺の様子を何度も見ている。

だから従業員は言い訳を用意する必要があった。

そしてボーゲンも初年度奴隷だから商館の実情は知らなかった。

 

ふむ。こんなところか。

ボーゲンは善意で色々と言ってくれるが、当然間違えることもある。

話を鵜呑みにするのは良くない。

元を辿れば原因は俺だしな。

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