異世界迷宮で奴隷生活を 作:Doro
翌日。
朝食後に歯を磨き、部屋で待機していると世話係から呼び出された。
あの件の準備が調ったので支度をせよ、とのこと。
ジョブチェンジのことね。
ぼかした言い方をするのは、他の奴隷に情報を与えないようにか。
まあ失敗する可能性もあるし、今明言することでないのは確かだ。
ちなみに一般の奴隷には、俺が元盗賊とは知られていないようだ。
護衛役の戦闘奴隷は知っていたが、それは例外だ。
廊下に出ると、待ち構えていた従業員に衣服を渡された。
普段着ている物より幾分肌触りがいい。
履物まで用意されている。
急いだ方が良さそうなので、その場で手早く着替える。
世話係に促され階段を降りると、護衛を数人従えたアランが既に待っていた。
「お待たせしました。いつでも行けます」
「うむ。では行くぞ」
今日は目隠しもロープもないのか、良かった。
外の景色も見られそうだ。
商館を出ると、探索者ギルドがある方向とは反対へ向かう。
村人に戻るときに通ったルートだ。
しばらく歩くと、特徴のあるエンブレムの建物へと入り、近くの壁の前にいる男性にアランが話し掛ける。
冒険者Lv17
「では頼むぞ。帝都までだ」
「はい」
壁際に立っていたのはジョブ冒険者の男だ。
商館で学んだ知識によれば、探索者の上位ジョブが冒険者だったな。
迷宮以外の場所を移動する魔法は冒険者が使うのだ。
料金の支払いをしないところを見るに、前金を払っておいたのか。
全員がパーティー編成され、冒険者が壁に向かい移動魔法を唱える。
移動魔法はフィールドウォークというらしい。
黒い壁が発生し、潜ると似た建物の壁に出た。
近くには他の冒険者が何人かいる。
ここが冒険者ギルドなのだろう。
あのときも、こうして各地を移動していたのだ。
帝都の巨大な建造物から出ると、賑やかな街並みがある。
ベイルとは比較にならない、圧倒的都会。
何といっても帝都だからな、さすがにこの国の首都だけはある。
冒険者ギルドを出るということは、目的地はここ帝都なのか。
大通りを歩いてしばらく進み、街の中心にある皇城が目前の立派な建造物に入る。
中に入ると、白髪交じりの男性がこちらに歩み寄る。
「いらっしゃいませ。こちらは魔法ギルドでございます。本日はどのようなご用向きでございましょう」
「予約のアランだ。ジョブ変更の件で話は通してある。確認を頼む」
「左様でございますか。少々、お待ち下さいませ」
…魔法ギルド。
ここでジョブの変更を行うのか。
名前からして魔法に関係あるものな。
建物の中は魔法使いばかりかと思ったが、武装した騎士が何人も立番をしている。
ギルド員なのか、それともただの警備員なのか。
「お待たせ致しました。確認が取れましたので、ご案内致します。こちらへどうぞ」
戻ってきた係員の案内に従い、カウンター横をすり抜け、奥の部屋へと進む。
奥の部屋は待合室になっており、更に奥にはもう一つ扉があり、すぐ横には騎士が控えている。
「試験に際して、魔法ギルドでは手数料として金貨一枚を徴収する取り決めになっております。この先は試験対象者以外は立入禁止となります。ジョブ変更者以外の方はこちらのお部屋でお待ち下さい。またジョブを変更される方は、お手数ですが身分証明のため、インテリジェンスカードのチェックにご協力をお願い致します。合わせて、装備をお持ちのときはこちらで一時預からせていただきます」
説明の言葉とともに、恭しく頭を垂れる案内係。
そして身分確認に預かり物とは用心深い。
盗賊では変更は許可されないのだろう。
つくづくアランの判断は正しい。
アランがアイテムボックスを開き、中から金貨一枚を取り出し、案内係に支払った。
俺はアランに軽く会釈をすると一歩進み出て、待合室奥の騎士に左腕を差し出す。
騎士がスキル詠唱を行い、左腕から出たカードを確認する。
「ジョブは村人です」
「ご協力ありがとうございます。確認も取れましたので、どうぞ中へお入り下さい」
無事インテリジェンスカードのチェックを終え、促されるままにひとり大扉の奥へ。
扉の先には同じくらいの大きさの小部屋と、中心のテーブル上には特徴的なオブジェ。
傍には老年の男性が控えている。
部屋には他に誰もいないようだ。
魔道士Lv33
初めて見るジョブだ。
魔法使いの派生か上位だろうか。
「ジョブの変更ですね。そちらのギルド神殿に左手を」
男性の示す先にあるのは、例のオブジェだ。
ギルド神殿
確かに鑑定スキルでもギルド神殿と出ている。
これが何なのかは全く分からないが、これでジョブを変更できるというのだけは何となく理解できる。
村人に戻るときにも何度か左腕を突き出していたからだ。
厳重なチェックの末にようやく見せられるのだ、普段からお目にかかれる物ではないだろう。
これが何なのか訊いてみたい。
だが考えてみればジョブを変更するなら誰でも見る機会はあるのか。
ないのは盗賊と、一生ただの村人で終わる人くらいだろう、たぶん。
あまり人を待たせても悪いので、意を決してギルド神殿の上部に左手を添える。
すると、ギルド神殿が一瞬淡い光を放つ。
「……今のは?」
「合格ですな。おめでとうございます」
何が起こったか分からないので訊いてみたが、上手くいったらしい。
確認のため、鑑定で自分を見る。
カレー 男 20歳
魔法使いLv1
ファーストジョブは、魔法使いになっている。
ジョブ変更は成功だ。
ありがとうございます、と男性に頭を下げる。
少し待ってみたが、魔道士の男性はにこやかにほほ笑むだけで、これ以上の説明はない。
俺は礼を述べて、小部屋を退出した。
待合室に戻ると、再びインテリジェンスカードのチェックが行われる。
騎士がジョブを読み上げ、アランにも俺が魔法使いになったことが確認された。
アランは笑うかと思ったが、表情に変化は見られない。
その後、案内係から説明が行われた。
魔法ギルドの存在意義、登録によって魔法使い同士で多少の互助があること、そして魔法使いが使う魔法に関する少しの説明。ギルドにある資料の閲覧許可。
興味があるのはもちろん魔法に関してである。
ジョブ設定でも効果と魔法やスキルについては確認できるが、あまりにもざっくりとした説明なので考察は難航していた。
初級魔法というカテゴリと、火・水・風・土の最低でも四種類の属性魔法があることは分かるのだが、肝心の魔法の名称が分からない。
あとは攻撃用の魔法だというのはだいたい想像がつくくらいか。
まあ、実際に魔法を放つ機会はないので、現状で分からないのは仕方がないか。
帰りがけに冊子を手渡された。
表紙の文字はブラヒム語で書かれている。
全部読み解くのは、若干時間がかかりそうだ。
冊子を綴じて、帰路に着く。
冒険者ギルドでは、行きと同じ冒険者が待っていた。
やはり、前以て予約をしておいたようだ。
町単位での移動には、冒険者の協力が必要なのか。
俺が最初に転移した村も、アランが来たのは移動魔法だった。
騎士団も移動魔法で来たのだろう。
この世界では都市間での人の行き来は活発に行われているようだ。
裏を返せば、まともな移動手段もないのにあんな田舎の村にいたよそ者の俺はその時点で怪しいのだ。
居合わせたときに盗賊の襲撃が重なり、ジョブを確認したら盗賊だった、と。
盗賊とは一犯でなるものではなく、罪を重ねた結果らしいので、俺は余罪ありと見做されるわけだ。
我ながらよく殺されずに済んだものだ。
商館に戻ると、冊子はアランの預かりとなった。
売却の際に主人へ奴隷と一緒に譲渡するのが規則だそうだ。
商館の奴隷が物品を所持するのは基本的に禁止されているので、これは諦めるしかない。
読みてえ……。
いざという時のために、読み書きをもっと熟しておこう。