異世界迷宮で奴隷生活を   作:Doro

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第1章 奴隷商館
奴隷商館


俺は今、ベイルという町の奴隷商館に居る。

商館の主はアランという奴隷商人だ。

鑑定で確認したところ、ジョブも奴隷商人だった。

 

建物内には商品となる奴隷が、かなりの人数住んでいる。

そして、俺もここで暮らす奴隷の一人となった。

 

何故、こんなことになったのか。

盗賊と誤認して村人を殺めてしまったからだ。

 

 

騎士からの呼び出しに応じ、奴隷商人が村に訪れたのは、太陽が高く昇った頃だった。

 

騎士のゴッゼルと、奴隷商人のアラン。

二人は俺に質問を投げ掛け、俺も答えられる範囲で答えた。

苗字があるようだが、家族や親族はいるのか。手持ち金はどの程度あるか。

 

家族や親族は、もういないと答えた。

元の世界へ戻れない限り、二度と会うことはないだろう。

手持ち金もない。無一文だ。

というか、この世界の通貨単位さえも知らない。

 

アラン曰く、村で起きたことは村の規則で解決するそうだ。

この村では不測の事態があり、働き手がいなくなった場合は村の誰かを奴隷として売却することで、税金の支払いや生活の資金に充てるという。

しかし、今回働き手がいないのは俺の責任だ。

故に、俺が賠償金を支払い、不足分は俺自身の売却金で賄うとのこと。

 

本来、ジョブが盗賊になった者は奴隷にすらしない。

が、俺が自由民であること、犯行時の状況などから一方的に殺すのはどうもまずいらしい。

何より、今後苦しくなる村での生活を考えると、どうしても先立つ物は必要だということで。

俺を奴隷に堕とすことで、報復と賠償を兼ねる。

 

―――と、ゴッゼルが補足した。

 

 

失敗の理由は色々とあるが、鑑定も併用して相手をちゃんと確認しなかったのが悪い。

逐一鑑定スキルを使い、情報を確認する癖を付けるようにしなければ。

 

あとはセカンド以降のジョブをセットしておくことか。

設定できるジョブが一つだけだと、知らぬ間に上書きされてしまうことがあると学んだ。

いや、複数あっても油断はできない。

 

念の為、ジョブはサードまで設定しておいた。

新たにジョブ獲得の条件を満たしても、これで三つ目に配置されるのではないか。

キャラクター再設定と鑑定、詠唱省略をチェックして、ポイントは残り30となった。

 

「インテリジェンスカードか……」

 

左手の甲をじっと見る。

自分の手からカードが出てきたのはびっくりした。

しかし、ああいう手段を取って身分証明を行う必要があるというのは、常に相手のジョブや身分が見えているわけではないということだ。

俺が見ている鑑定結果も、他の人には見えている様子はない。

鑑定スキル持ちは少ないのかも知れない。

 

また、カードで確認できるジョブも一度に一つだけのようだ。

盗賊がファーストジョブになり、村人は自動的に外れたので確信は持てないが。

鑑定スキルで見える他人の情報も、見えるジョブは一つだけだしな。

 

いずれにせよ、鑑定での確認を怠らないことだ。

同じ過ちは二度としたくない。

あんな思いはもうたくさんだ。

 

ちなみに、俺のジョブは盗賊のままだ。

奴隷商人にできるのは身分の変更であり、ジョブを変更することはできないそうだ。

売却の際に盗賊にしておくことはないと言っていたので、ジョブはどう変更するのかと訊いてみると、その時になれば教えると言われてしまった。

ジョブチェンジの方法を下手に教えると、非合法に変えられる恐れがあるということか。

それはそうかも。

 

俺にはキャラクター再設定がある。

その気になれば、今すぐにでもジョブを村人に戻すことはできる。

まぁしないけど。

 

アランも奴隷にいつまでもタダ飯を食わせておくつもりはないだろうし、時が来ればジョブの変更も行うだろう。

何かの拍子にチェックが入って、その時にジョブが変わっていたら新たなトラブルの元だ。

それに、逃げ出してジョブを誤魔化したところで、俺がこの一帯でお尋ね者になるのは変わらない。

 

どうもこの世界に、本格的な盗賊の更生施設は存在しないようだ。

商館に来た経緯を考えれば、裁判所すらないのだし、刑務所もないだろう。

指名手配犯は一生追われる運命なのだ。

俺の命を狙う連中を退け、生き延びる為には、罪のない人をまた殺さねばならなくなる。

逃げては、いけない。

 

俺は、俺の境遇については、これ以上悲観しないことにした。

ただ一点を除いては。

 

 

 カレー 男 20歳

 盗賊Lv1 村人Lv1

 

 

鑑定スキルを使って自分を確認。

はい。俺の名前、カレーだそうです。

苗字持ちの自由民や貴族も、階級が奴隷になると家名を失う。

キーマの部分が苗字だったらしい。初めて知った。

 

今の俺は、ただのカレーだ。

アランからカレー呼びされた時には、不覚にも笑ってしまった。

悲しい気持ちと同時に、改めて自分の名前がカレーであることがツボにはまった。

その時の俺はたぶん泣き笑いしていただろう。

 

このままではカレーと呼ばれる度に笑ってしまう。

なので、せめてキーマと呼んでもらうことにした……のだが、アランには却下された。

奴隷となったお前はもうキーマではない。身の程を弁え、仕える者としての節度を身に付けなさい、と苦言を呈された。

 

キーマの方がまだ人名っぽいのに。

…はぁ。良くないのに溜め息が出る。

 

 

奴隷となって数日が経った。

ここでの暮らしがどんなものかというと、実は意外と快適である。

最初は奴隷なんていったいどんな扱いを受けるのかと不安に駆られていたが、日に二度の食事とボロだが寝床も用意されていて、なんだか拍子抜けしてしまった。

おまけに仕事もない。

 

その代わり、奴隷として必要な教育を受けることができる。

商館で行われる教育の最たるものが、ブラヒム語の習得だ。

スキルの詠唱はブラヒム語で行われるので、奴隷の必修科目らしい。

俺は最初の設定で習得済みだが、話すことはできても文字は分からない。

教育係のおっさんにお願いして、読み書きを教えてもらうことにした。

 

こうしてみると、生活は質素だが何もないというほどではない。

安物だが筆記具とパピルスもあるしな。

肝心の進捗の方は、文字や単語の並びの法則が日本語とは色々と異なるので苦戦している。

熟すには今しばらくの時を要しそうだ。

 

仕事はないと言ったが、しようと思えばできる。

商館での生活に使う物資の運搬や井戸水の汲み上げといった力仕事。

館内の清掃、貸与される衣服の洗濯などの家事・雑事。

他に迷宮の探索班なんてものもあるそうだ。

 

まぁそれでも、住んでいる奴隷全員が従事するほどの仕事があるかというと、ない。

必然、特に何もせず一日中のんびり過ごす者もいる。

そして、それで文句を言われたりすることもない。

しかし俺に言わせれば、生活態度の悪い奴を好んで買う者はいない。

奴隷の普段の暮らしぶりには、商館の職員が目を光らせている筈だ。

 

最初は、犯罪奴隷である俺が割と好き勝手に動いていいのか、と思ったものだが。

奴隷は大きく分けて、人頭税の未払いからの口減らし目的の奴隷堕ちと、何らかの罪を犯した者とに大別される。

罪人は俺以外にもそれなりに居るということだ。

 

そういうわけで、模範囚たる俺は本日も井戸水を汲んでは洗い場などに運ぶ。

作業の際には、余ったボーナスポイントを腕力に振ってみた。

多少は楽になった気がする。

 

次は持ってきた水で、廊下の雑巾がけを行う。

ボーナスポイントは敏捷に振ってみた。

 

あとは一番きついのがトイレの清掃、汚物処理だ。

これも水が必要。衣類の洗濯にも水が使われる。

こうしてみると、飲用水の他にも水がいかに欠かせないかが分かるな。

ボーナスポイントが効くか分からないが、器用に振ってみた。

 

迷宮探索というものもしてみたいが、基礎知識すらないのでこれは保留だ。

 

そういえば、スキルの中には値引交渉や買取交渉なんてものもある。

商館で何か入り用になった際の買い物で検証してみたかったので、立候補した。

値引き得意です、自分やれます!

しかしアランからは「懇意にしている商人との取引は私自ら公正に行っている。勝手に価格を変えられては信用に関わる」と断られてしまった。

 

まぁ、分かっていた。

というか、盗賊を外に出そうとするわけないよね。

他の奴隷もだが、外出はアランの護衛と探索チーム以外は禁止である。

商館に出入りしている商人相手に試してもいいと思うのだが。

 

そして夜。

一日の終わりには、水を運んだ代わりに、優先して体を拭く為の水を分けてもらう。

風呂がないのは異世界人にはきつい。

だが身綺麗にしておくのは、贅沢ではなく衛生面の意識の問題であると言いたい。

 

ひとまずはこんなところか。

古びた毛布を掛けて、俺はごろんと横になる。

 

商館に来てから、新たなジョブを得たり、レベルアップの機会は未だにない。

この世界で生きる為に、何らかの強さは手に入れたいが。

思うように機会は訪れないのであった。




ミチオ君みたいな立場じゃないとチートスキルを駆使するのは難しい(と実感するためのお話)
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