異世界迷宮で奴隷生活を   作:Doro

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教えを乞う

 

「するってぇと、随分遠くから来たんだな」

 

「田舎というか、人里離れた秘境さ。おかげで世情には疎いんだ」

 

「そらぁまた辺鄙な所だな。そんな場所じゃあ、迷宮攻略も苦労しただろうよ」

 

「迷宮に入るのは許可が下りなくてね。その辺のことはさっぱり分からないんだ」

 

「お前さんにも分からんことがあるか。どれ、知りたいことがあるなら俺が教えてやる」

 

とある日の午後。

部屋に置いてある、簡単な教本を読んでいた俺は、同居人と雑談をしていた。

出自については適当にぼかす。余人には分からぬ事情があると察してもらえると有難い。

 

話題の中で、迷宮についても訊いてみる。

転移前に、フィールドとダンジョンの両方がある世界を設定したのを覚えている。

もしも、ここがあの設定通りの世界だと仮定するなら、迷宮があるのは当然なのだろう。

迷宮が人の暮らしに密接な関わりがあるものならば、知っておいて損はない筈だ。

 

ボーゲンから聴いた話によると、なんでも迷宮とは一種の生き物なのだそうだ。

迷宮にとって、人とは餌であり、魔物を生み出して人を襲わせることで、成長するのだという。

だから迷宮の中で力尽きると、死体はやがて迷宮に取り込まれて消化されてしまう。

 

しかしそうなると、迷宮に入らない方がいいんじゃないのかという疑問が浮かぶ。

だが、そういうわけにもいかなくて、人の出入りがないと迷宮は活発になるそうだ。

活性化した迷宮は、外の世界にどんどん魔物を送り出してしまい、その地域はまともに人が住めなくなる。

 

一応、魔物を倒せなくても時々迷宮に足を踏み入れるだけで、多少の抑制効果はあるそうだ。

だから一般的に、迷宮に入ることは推奨される行為らしい。

正確には、人が入ってこないと餌を求めて勢力圏を拡大しようとするということか。

 

この世界は、人と迷宮の殺し合いのようだ。

初期設定では、確か他国との戦争は少なめにしたんだよな。

迷宮という人類共通の敵がいるから、人同士で争っている場合ではないということか。

 

迷宮の脅威は分かった。

ではそんな脅威に対し、人類が攻勢に出るにはどうすればいいか。

それが、迷宮の討伐である。

 

迷宮は50階層以上のフロアに登場するボスを倒すとクリアとなり、消滅させることができる。

裏を返せば、迷宮とは最低でも50階層まであるということか。

放っておくと迷宮は増殖するので、迷宮の討伐は人類の宿命とのこと。

 

それだけに迷宮の討伐という偉業には、相応の名声と栄誉が得られる。

叙爵して貴族になる者もいるのだとか。

 

そうか。この世界の貴族というのは、領地をまとめ、世界の脅威と戦う者なんだな。

 

自由民は何なんだろうな。俺の初期設定は自由民だったみたいなんだが。

もう奴隷でカレーだけど。

 

迷宮に潜む魔物と、ドロップアイテムのことも聞けた。

実に興味深い話だった。

 

ボーゲンが特に熱心に語ったのは主にドロップ品についてだ。

魔物が落とすアイテムは、装備品の素材になる物もあるので、ドワーフ族としてはやはり気になるという。

一般的な装備品は、大半がドワーフの鍛冶師による作品であり、迷宮攻略には欠かせない。

 

「鍛冶師は人気職なんだね」

 

「おぉよ。地元にゃ腕利きの鍛冶師や隻眼もいたが、なれる奴ぁそんなに多くねえ。装備を作るスキルを覚えられるのは一握りの職人だけだ。俺も修業したんだが芽が出なくてよぉ」

 

鍛冶師は分かるが隻眼というのは何のことだろう。まさか片目ではないだろう。鍛冶師と同系列の何かを指す言葉のようだ。

 

「鍛冶師になるのは難しいのか?」

 

「探索者のレベルが10になったら、志望者ぁ鍛冶師ギルドで適性を見てもらうんだ。そこで合格したものが鍛冶師のジョブに就ける。鍛冶師と言やぁドワーフの花形、スキルで装備品を作れるようになれば引く手数多よ。食っていくのに困るこたぁねぇ」

 

鍛冶師について熱く語るボーゲンだが、彼のジョブは残念ながら戦士だ。

そして鍛冶師もジョブの一つで、誰でもなれるわけではないという。

探索者レベル10か。探索者のジョブについては先日教えてもらった。

一度迷宮に入れば探索者にはなれるそうだ。

そして、レベルの概念は一般的と。

 

ん、あれ?

鑑定スキルを持たない人には、他人のジョブやレベルは見えていないよな。

だからインテリジェンスカードを見て身分証明を行うのだが。

確かカードでジョブの確認はできるが、レベルの表記はなかったように思う。

 

「……レベルって、確認できるのか?」

 

「アイテムボックスの話をしただろう。探索者として経験を積むと、アイテムボックスの容量がデカくなる。十カ所の空きに十個ずつアイテムが入るとレベル10だ。容量ぁ最大で五十まで増える」

 

アイテムボックスという、迷宮産アイテムの収納スペースがあることはつい先日知った。

どうやら、探索者のレベルが見えているわけではなく、スキルの成長で判断しているようだ。

 

「ということは、他のジョブのレベルというのは……」

 

「いやあ、聞いたことねえな? 経験を積んで強くなるのは、どのジョブも一緒だがよぉ」

 

レベルがあるとされているのは探索者だけらしい。

そういうものか……?

探索者にレベルが存在するのなら、他のジョブにもあると考えるのは普通じゃないのか。

 

いや、逆か。

レベルがあるという論が先に来ているのではない。

俺が特殊だからレベルありきで考えてしまっているだけだ。

 

見分ける方法が探索者のスキル以外に無いから、レベルはあくまで探索者にのみ適用される概念なのか。

そしてレベルが見えてしまう鑑定スキルは一般的じゃない。

うぅむ。表立ってレベルの話はしない方がいいな。

 

俺の頓珍漢な発言も流してくれるボーゲンには感謝しかない。

今の内にどんどん質問していこう。

この後はまた水汲みが待っているのだ。

 

その後、ジョブ―――主に迷宮を攻略する為の役割を意味するもの、についても情報を得た。

迷宮探索に欠かせない、パーティー編成を行う探索者。

前線に立って魔物と戦う、戦士や剣士。

回復魔法を駆使して仲間を助ける僧侶や神官。

便利な移動魔法を操るのは冒険者。

 

これらはいわゆる戦闘職なんだろう。

俺が迷宮に興味を持っているから、ボーゲンが優先して教えてくれたのだ。

 

奴隷商館の男奴隷にも数多く見られる戦士と剣士。

探索者と冒険者の複雑な関係性。

 

僧侶がいるのか。なら、魔法使いはいないのか。

という俺の問いには、魔法使いなんて貴族しかいねえ、平民に分かることじゃねえよと言われた。

 

ジョブ魔法使いはあることを確認。

世話係に訊いて分からなければ、アランに訊くか。

気軽に会える間柄ではないけれど。

 

「今日も行くのか?」

 

「ああ、水汲みだ。ボーゲンもやってみるか? 汗を流したら水を分けて貰おう」

 

情報交換も一通り終え、午後の労働作業に入ろうとする俺を同居人が呼び止めるので、作業に誘ってみた。

 

「お前さん、何を言っとるんだ。必修課程が終わらん者が労務に就くのは禁止されとるわ」

 

「えっ」

 

「何を驚いとる、当然じゃろ。礼儀作法とブラヒム語の履修。この二つが満足にできん間はそうそう外を出歩けんわい」

 

結果は見ての通りである。

うん、これは俺が悪いわ。

何事も優先順位というものがある。

 

いや、俺も疑問に思ってはいたんだよ?

こんなに好き勝手に動いていいのかって。

他の奴はあまり参加してこないなって。

ちゃんと正当な理由がありました。

 

まぁ、生活態度の良し悪しは本当に個人差があるので、全面的に俺の勘違いではないのだが。

 

……そっかあ。その二つかあ。

俺が一言も止められないのは数日であっさりと両方合格と判断されたからか。

 

さすがにじとっとした目を向けられたので、俺は申し訳ないと頭を下げて、その場を立ち去るのだった。

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