異世界迷宮で奴隷生活を   作:Doro

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夜襲

偵察の盗賊を、館の前で目撃してから数日。

危機を感じてからのアランの動きは速かった。

アランが元々持つ情報網はかなりの物だったようで、調査を開始してすぐに襲撃を目論む盗賊の一味を特定。

計画ばかりか主犯の男の情報まで手にしていた。

 

俺がそれを知っているのは、防衛戦への参加を許可されたからだ。

盗賊に関する情報提供を行い、調査が進む中で、盗賊の顔を知るという証言の裏付けが取れたため、ほんの少しではあるが意見も求められた。

その結果、部外者への口外の一切を禁じるという条件付きで参戦することになったのだ。

 

今、俺はアランとその護衛達の横で武装し、待機している。

 

この世界に月はない。

星明かりだけの空は暗く、地球よりも賊が跋扈するのに適している。

今宵は盗賊団の襲撃作戦が決行される夜である。

 

想定では、盗賊達の館への侵入経路は二つ。

正面にある客用の大扉と、反対側にある従業員・奴隷用の勝手口だ。

 

賊の狙いが一種の報復ならば標的はアランなので、目的地は一階にある館主の私室になる。

奴隷にされた仲間の奪取が目的なら、エントランスホールの傍にある階段を登った奴隷の居住区を目指すだろう。

或いは両方かも知れない。

 

そこでアランは防衛用の布陣を考えた。

まず護衛部隊を二つ編成し、片方に自分が入る。

そしてアラン自身は私室には残らず、別動隊を自分の部屋と近辺で待ち伏せさせる。

 

一方、アランのいる本隊は、階段上の二階でこれまた賊を待ち伏せする。

主人や商品である奴隷を護ると同時に、階下から来た賊に高所の利を生かした戦いを仕掛けることができる。

当然、住み込みの従業員は上の階へ避難済みだ。

 

理に適っている。

防衛だけが目的なら、これで十分だ。

 

だがこれでは、恐らく討ち漏らしが出る。

攻めてくる盗賊は、村を襲い、騎士団に討伐されかけて逃げ延びた残党だ。

そいつらが町へと舞い戻り、短期間で手下をかき集め、夜襲をしてくる。

 

ここで逃がせば、何度でもしつこく食い下がるだろう。

少なくとも、頭目の男は討ち取る必要がある。

私兵を館の周囲に潜ませて、挟撃を仕掛けるべきだ。

 

そう思ったので指摘してみると、そこまでは私兵の数が足りないという。

俺が考えた件はアランも危惧しており、頭を悩ませているようだ。

ゴッゼルに援護を要請する提案もしたが、騎士団に借りを作り過ぎるのは良くないと難色を示された。

その辺の事情は、俺にはよく分からない。

 

だから俺が伏兵役を買って出た、というわけだ。

 

…買って出たんだけどさあ。

 

「お願いします、お館様。私も戦わせて下さい」

 

「その話はもう済んだ。お前は他の奴隷と共に隠れておれ」

 

装備品の確認を終え合流すると、獣人の娘さんが防衛戦に参加しようとしていた。

対するアランは渋い表情をしている。当然だ。

 

 

 ロクサーヌ ♀ 16歳

 獣戦士Lv6

 

 

「これはいったい……彼女は?」

 

「盗賊退治をされるとお聞きしました。どうか私にも武器をお与え下さい」

 

名前はロクサーヌ。犬みたいな耳のある……たぶん狼人族という種族の娘だ。

俺の居室にも新たに狼人族の奴隷が入ってきたからおそらく合っている。

奴隷商館では男女は別階に隔離されており、フロアの扉も施錠されているため、大半の男女は互いに顔を見る機会すらない。

 

これが女の奴隷か。

ロクサーヌは異世界人の俺から見ても凄まじい美人だ。

おまけにスタイルがいいのも丸わかりで、これは確かに他の男奴隷には目の毒だと思った。

かく言う俺もここでの禁欲生活はまあまあキツい。

 

で、そのロクサーヌがこんな深夜に居室の外にいる。

彼女が今回の作戦に参加する予定など、ある筈もないのはアランの言からも明らかだ。

 

「この作戦は極秘事項だ。なぜ君が知っているんだ」

 

「その、話しているのを偶然耳にしてしまい、黙っていられなくなって……申し訳ありません」

 

「……緘口令を敷いた意味を問い直さねばならぬな」

 

見逃してはならない点なので問い質すと、ロクサーヌは躊躇いながら白状した。

従業員から漏洩していたらしい。ありがちなヒューマンエラーである。

普段、彼女の姿は室外で見ないのでだいぶ無理を言って出てきたのだろうと思われる。

勝手に出てきていないよね?

アランは溜め息を吐いている。……トップに立つって大変だよねえ。

 

何か言ってやりたいが、今は非常時。

戦いを厭わず名乗り出たロクサーヌを強引に戻すのは得策ではないかも知れない。

俺は手にしていた剣を、アランにも見える形でロクサーヌに手渡す。

 

「あ、あの?」

 

「これは護身用であり、同時にアラン様を護る武器だ。いいか、この場から動くな。万が一護衛が突破されたら、アラン様を護るのは君だ」

 

「……やむを得まい。カレーよ、そろそろ持ち場につけ。スペアの剣は武器庫なり一階の護衛達から借りるなりするがよい」

 

「分かりました。では、行って参ります」

 

この場に残るなら、ロクサーヌにも武器は必要だろう。

勝手な予測だが、容姿端麗なロクサーヌには高値が付く。

アランとしても傷がつくのは避けたいので、前線には立たせたくない。

但し奴隷だから、主人であるアランより優先することはない。

これでいい筈だ。

 

アランも時間に余裕がないと判断したのか、反対はしなかった。

俺は遊撃手なので、行動は独立して行う。

護衛の脇をすり抜けて、ひとり階段を下りる。

 

階下へと下りていく間際、ありがとうございます、とロクサーヌの声が聞こえた。

 

一階は護衛の奴隷が既に息を潜め待機しているので、静まり返っている。

廊下は明かりもなく暗い。

周囲に誰もいないのを鑑定を使い確かめると、武器庫も私室の前も通り過ぎる。

 

勝手口にほど近い一室、調理場に入ると、物陰に身を隠す。

キャラクター再設定からサードジョブを消して、ボーナス武器五を出した。

 

己の手で人を殺めたことには当然、悔いはある。

人を殺すことには、未だに忌避感がある。

だが、この世界で生きるなら戦うことは避けられないだろう。

ごく普通の村人たちだって、賊から村を守るために戦っていた。

自分の身は自分で守るのだ。

 

……そうやって暗がりに身を潜めながら、俺が決意を新たにしていると。

戸が軋むような音がして、やがて複数の足音からくる微かな振動があった。

盗賊が来たのだ。

 

賊どもは慎重に歩いているのか、すぐに調理場の前を通り過ぎたりはしなかった。

見取り図などはなくて、手前の部屋から順番に見ていく感じだろうか。

 

俺が潜伏場所に調理場を選んだのは、早期に発見されにくいと踏んだからだ。

盗賊も目的地が分かっていれば直行するだろうし、そうでなければ部屋を総当たりする必要がある。

ただ、調理場は入り口の扉もないし、部屋の様子も寝室とは異なるから、詳しくは見ない可能性が高い。

 

「ここは違うな」

 

案の定だ。賊の一人は廊下から室内を覗き込んだが、どうみても寝室ではないので調べるのをやめたようだ。

ややあって、足音が遠ざかる。

ひとまず、すぐに発見されず賊の背後を取るという第一関門はクリアした。

 

しばらくはこちらが襲われる危険が小さいなら、あとはどのタイミングで仕掛けるべきか。

俺には鑑定があるから、この暗闇の中でもどこに誰がいるかはだいたい見える。

奇襲を掛けるため、頃合いを見て部屋の入口近くに移動するのがいいか。

そう思い、物陰から移ろうかと考えた時。

 

調理場に誰かが入ってきた。

 

 盗賊Lv4

 

 盗賊Lv2

 

下っ端の盗賊だ。一度通り過ぎたのに何の用だろう。

あれか、盗賊って貧しくて飢えているイメージがあるし、食糧をちょろまかす魂胆なのか。

可能性としてなくはないが、作戦行動中じゃないのか。

それとも行き掛けの駄賃というか、これも指示の内なのか。

 

二人組は物陰に隠れた俺に気付かず、横を通り厨房に入る。

増援が来ても厄介だから、各個撃破しておこう。

 

逆方向を向いている盗賊に忍び寄り、首を斬り落とす。

残る一人が異変に気付き、こちらを振り向いた瞬間、袈裟懸けに斬り払った。

 

一つ大きく息を吐いて、額を腕で拭った。

汗は掻いていない。

鑑定結果は、盗賊の装備品のみを映している。

起き上がっては来ないだろう。

 

……鉄の剣で村人を殺すのには攻撃が二回必要だった。

なら、レベルが一桁の盗賊を殺すのに、フラガラッハなら一撃という計算は正解か。

 

二人組を斃したことで物音がしたが、こいつらは油断したのか武器を抜いていなかったので、幸い騒音というほどではない。

いや、食糧を持ち出すから剣を鞘に納めていたのか。

 

などと考えていると、やや離れた部屋から激しい音が聞こえてきた。

戦闘が本格的に始まったのだ。




アランが立てた作戦には「盗賊と繋がりのある男を一階の個室に移動させ、泳がせて内側から盗賊を入れさせる」というものがありますが、キーマカレーはそのことを知りません。
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