幼い少女は1人廃屋の隅で泣く。何度も何度も目を擦り、お腹の空いた腹部をさする。
なぜ泣いているのか。お腹が空いたから?見つかったら殺されるから?家族が殺されたから?一緒に生き残ったはずの友達が目の前で死んだから?
答えは少女にも分からない。ただ今は全てが悲しかった。
戦争で人が死ぬ。戦争でお腹が空く。戦争で悲しい悲鳴を毎晩聞く。その全てが少女にとっては地獄そのもので、苦痛で、悲しかった。
「なんで、こんなことになるの・・・?」
恐怖からか、追い詰められていたからか、少女は思わず声を漏らしてしまった。
「誰かいるなッ!」
「ひっ」
少女は敵軍の兵隊が近くにいるのに気づいてすぐに後悔した。
入ってきたのは『誇り』の意味を持つ十字架のシンボルを胸に掲げた礼装の男たちだった。魔法一強を主張する保守派の人間だ。男たちは入ってきて少女を見つけると一気に取り囲み、拘束魔法をかけた。
「隊長、ここにいるのはこの子供1人です」
「ふむ、逃げ遅れか?」
1人の男が報告すると、5人ほど男たちの奥からリーダーらしき男が近づいてきた。
顔立ちは若々しいが、少し荒っぽさが見え、官帽を被っているせいであまり見えないが髪色は赤に近い茶色、髪型はキリッと整えられていて、どこか清潔さを感じられる。
リーダーらしき男は威圧的に少女に問う。
「ここにいるのはお前だけか?」
少女はなす術も無くただ許しを乞うことしか出来なかった。
「や、やめて、ください・・・」
「質問に答えろ、時間はあまりかけられない」
リーダーの男が更に圧をかけて少女に質問する。
震える少女は首を横に振るので精一杯で、隅でさらに小さくなった。
「そうか」
「隊長、この娘の処遇はどうしましょうか」
「この娘も捕虜にしておけ、もう女の奴隷はいらないだろうが何かの役には立つだろう。だが俺の領地で審査を通しておけよ」
「はっ」
「い、嫌だ、嫌だ!」
少女は戦慄した。奴隷、という言葉を言われた人たちの結末を何回も見てきた。そのたびに胸が締めつけられる感覚がした。『奴隷』という言葉は少女にとってはなにに代えても聞きたくない言葉。それを次は自分が言われた。だんだん恐怖に体が染まって、動かなくなる。
男の1人が手を伸ばしてきた。
「いやだ!いやだよぉ!」
抵抗しようにも拘束魔法のせいで動けない。出来ることは必死に声を上げることだけだった。そして少女は自分に出せる最大の力を振り絞って叫んだ。
「————たすけてぇ!」
そのときだった。
—————バンッ!!!
銃声が辺りに響き渡った。
「・・・ぇ?」
「どうした!?」
隊長の男が驚いた様子で声を荒げる。すると————
「うっ・・・」
ドサッ
少女に手を伸ばしていた1人が胸を撃たれて力無く倒れた。
「なにっ!?」
「動くなよ」
「!?」
さっきまで聞こえなかった声がいきなり響き、隊長以外の慌てふためく男たちを黙らせた。
急いで少女がその声を追って目線を変えると、謎のローブを羽織りながらフードを深く被った謎の人物が、隊長の男の頭にボルトアクションライフルの銃口を押し当てていた。
「お前が西部エリア担当している捕虜回収部隊隊長コズだな?」
ローブの男が淡々とコズに質問する。それを聞いてコズは半笑いになりながら答える。
「ハッ、全く気配を感じない。探知魔法にも反応がない。いつどうやって俺に近付いたんだ?」
「答えろ」
「話はしない、か」
隊長の男は諦めたように頷き、質問に答えるように自己紹介をした。
「その名のとおり俺は祖国モーゼ国軍『保守派』少将及び捕虜回収部隊隊長、コズ・ファイエスタ本人だが、それがどうした?」
「近頃お前は捕虜の回収という名目を忘れ、自ら判断だけで住民の選別を行なっている。間違いないな?」
「なにか問題でもあるか?」
「戦争の条約として民間人の介入は“表向きでは”一切禁じられているはずだ。これは立派な条約破りだぞ」
「フハハハ、フハハハハハハハハハハハハハ!条約!条約だと!?今更そんなものを掘り出してくるのか小僧!」
「なにがおかしい?」
「馬鹿が、条約などこの戦争を名目上で互いに不利益にならないようにするために定められただけの古い綺麗事に過ぎん!いまでは両者ともに敵派閥の民間人を奴隷として扱っている!これがいまの時代の常識!この戦争において条約など当に破綻しているんだよ!」
「理解している。それ故に、我々はそれを正すために動いているからな」
「ほう?この腐った戦争の綺麗事を現実にしようと?素晴らしい志だ。そんな素晴らしい志を持って俺と相対するのであれば貴様はまず、先に条約を破っている革新派ではないのだろうな?かと言って『銃』を扱い、俺がお前のような兵士を把握していないということは俺たちと同じ派閥ではない。貴様何者だ?」
「それは伏せさせて頂こう。我々の名前が明かされるときにお前はこの世にいないかもしれないからな」
「そうか、残念だな。出来れば貴様の口から名を聞きたかったが、それは無理のようだ」
次の瞬間、コズはその言葉を合図に銃口を一瞬で払ったあと、強烈な後ろ蹴りを放つ。
「当たらない」
「舐めるな」
だがローブの男はそれを読んでいたかのように後ろにバックステップで避けたのと同時にコズの頭に目掛けて銃弾を浴びせた。それはコズの蹴りとほぼ同時。
「なるべく話し合いがしたいのだが」
「先制しておいてそのセリフか?」
しかしコズはその反撃を読み切り、銃弾を避けながら展開していた魔法陣から屋根を吹き飛ばすほどの威力の炎を飛ばし、その間に距離を詰め横蹴りを突き出した。だがローブの男は炎魔法を喰らっておらず、銃身で蹴りを受けると去なしながら銃口部分を手に持ち、柄の部分で思いきりコズを殴りつける。
「うおっ!」
「嘘だろッ!?あの隊長が正面から押されてるなんてッ!?」
「••••••凄い」
思わずコズの部下と少女が驚愕の声を漏らす。その一連のやり取りはまるで閃光のように一瞬の出来事で、周りの者から見れば目で追えないほどだった。
「ッ!ライフルの使い方間違ってんだろ!だがなぁ」
ガードしたもののコズは小屋の壁を突き破り外に吹っ飛ばされる。するとコズは相手に見えないよう体で隠していた左手の指で光魔法を銃弾のように飛ばした。
それは弾丸並みの速度で飛ばされる。並の人間では回避不可能の攻撃、その上まだローブの男はまだ銃を振りかぶっている。
「それで避けられるのか?」
「•••••••••」
そして魔法はローブの男を捉えた、はずだった————
「ほう?」
ローブの男はダメージを受けていなかった。正確には、“受ける以前に光魔法が掻き消えた”。
「ふぅむ、“
コズは目を細めてそう言った。そしてローブの男も口を開く。
「コズ、この子供を見逃してここで引け。今回僕は任務で来たわけではない」
「面白いことを言うな。じゃあなぜ俺の前に現れた?」
「・・・」
ローブの男は少し黙っていたがやがて口を開く。
「子供の声が聞こえた」
「はぁ?」
コズはしばらく呆気に取られた顔をしていた。だがその顔はだんだんニヤけ面に変わっていった。
「フハハハハハハハハ!実に面白い!その娘のために秘匿である自分の身を晒したのか!」
コズはしばらく手に顔を当てて笑い声を上げていたが、やがて笑いを収めると満足したように言った。
「良いだろう、ここは痛み分けにしといてやる。だが忘れるな、もうここは保守派の領地だ、次は無いぞ。そして次お前に会った暁には軍人として、本気で戦うと誓え」
「感謝する」
「隊長!?」
そこで声を上げたのはコズの部下たちだった。
「こちらはカルがやられてるんですよ!?痛み分けな訳無いじゃないですか!仲間の仇をみすみす見逃すんですか!?」
「なァに言ってんだお前ら、別にカルの奴は死んでねぇよ。ちゃんと死体確認したのかよ?」
「ええ!?」
部下たちが倒れた兵士の息を確認するとちゃんと息をしていた。
「本当だ!」
「知っていたのか」
ローブの男は予想外なようにコズに聞いた。
「撃たれたにしては血は出てない。それにもし仮にボルトアクションライフルでお前が本気で俺の部下を殺す気があるなら、ここまで近づかないはずだ。お前の目的が俺に話があるか、お前の撃ったゴム弾の射程の関係くらいじゃないとお前のような優秀なスナイパーがこんなヘマをするはずはない」
「僕の予想以上にあなたは賢いようだ」
「そらその逃げ遅れた嬢ちゃんを連れていけ、もう少しで他の部隊も来る」
「心得た、では失礼する」
そしてローブの男は隅にいた少女のそばまで行き、屈んで手を差し出した。
「待たせて大変申し訳ない、もうお嬢さんに危険は無い。安全な場所まで連れて行きます」
「あ、えっと、その、」
少女は目の前の男に顔を合わせられなかった。
この人が来なければ私は連れて行かれていた。助かったことによる安心感と、今までの恐怖がまだ抜け切ってないためにまだ心臓の鼓動が早くなっている。
だが、それ以上に思ったのは—————
「カッコよかった・・・」
ずっと隅から彼が戦う姿を見ていた。その間ずっと自分に背を向けて守ってくれていた。最後の攻撃も私を守るために退かなかった。その姿がとてもカッコ良くて、この人みたいになりたいと思った・・・。
「あの!ありがとう...ございます・・・!」
「っ・・・」
ローブの男は少し驚いたようだった。だがその刹那—————
「ふふ」
フードで良く表情はそんなに見えないが口元が少しほころび、左耳についていた耳飾りが小さく光ったように見えた。
「お安いご用ですよ」
そして少女は手を取り、この日の思い出を大切に胸に刻んだ。
『この人みたいになりたい』
そんな想いを添えて・・・。
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この日の出来事から2年後、『第一次魔銃戦争』は終結した。
情勢はというと、両軍共に多大な被害を出しながら最後の最後まで戦った。領地を奪い、奪われを何度も繰り返した。そして歴史に大きく刻まれると言われた大国モーゼ南部、ローメルにある首都クロス街で両軍残りの全勢力を賭けた戦いが幕を開ける。
最初は優勢だった革新派側の天秤が保守派に傾き、決着を目の前にしたと思ったその時、予想外なことが起きた。
なんと、第三勢力が現れた。
彼らは両軍が疲弊しきり、決着がもうすぐと言われた瞬間、両軍から裏切って姿を現した。両軍は突然の第三勢力に動揺しながらもなんとか抵抗するが、謀反と疲弊、そして彼らの魔法と銃を組み合わせた圧倒的な戦闘力の差で少数である彼らに両軍は鎮圧された。
彼らは鎮圧した両軍の前で、6部隊の隊長の中から更にリーダーらしき若い女性が前に出る。
その女性は墨の如く真っ黒な髪を腰まで流し、右耳にはアイオライトの耳飾りを着け、薄い青緑色の瞳、整った顔立ちをしており、西洋風の軍服の上からコートを羽織った姿をしていた。
彼女は胸のシンボルを見せて高らかにこう宣言する。
『両軍聞け!この地、“ローメル地区クロス街での戦い”の勝者は我ら『維持派』だ!この戦いの勝利を以て、これよりこの国の指揮権は我らにあり、両軍我らの指揮に従え!貴君らの身は我らが保障し、必ず祖国モーゼを公平の基に!安寧に導くと約束しよう!
これより皆が従い、この国を平和に導く我が名は“キルシスヴァルド・ラストオーダー”!『平等』の意味を持つシンボル、天秤を胸に掲げる者だッ!!!」
—————と・・・。
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戦争終結から2年後〜
ある日の朝、大国モーゼの西部にあるカーメル地区の森に少し大きめの屋敷があった。その部屋の一室のベッドで少女は鳥の囀り声を聞いて目を覚ました。
「ふぁ〜、今日も起こしてくれてありがとう〜」
時刻は午前6時を少し回った頃。いつもと同じ時間に起きれている。
「ん〜!」
少女は腕を伸ばして寝ている間に固まった体を解していく。ある程度伸ばしたら、次は着替えと洗顔を行う。少女が先に行うのは洗顔。起きたら最初は眠気を飛ばしてやる気を出すためだ。洗面台で顔を洗い、瑠璃紺色の瞳を瞬かせる。
「よしっ」
着替えは至って簡単で、ブーツを履いて、白のブラウスを着た後、黒紐を胸元でリボンを作り、上から紺色の肩掛けワンピースを着るだけ。ワンピースのスカートは足首元まで長く、ちゃんと綺麗か鏡に向かって揺らす。最後にレモン色の髪は丁寧に解かしたあと黒リボンの髪留めでサイドテールを作って終わり。
「良い感じ!」
そしてそれらの身の回りのことが終われば店を開くための下準備をするため、玄関の踊り場に降りればすぐ食事場へと向かう。
少女はテーブルに掛かっている布を1枚1枚取っていき、カーテンを開け、扉を開ける。外の食事テーブルの分も布を取るとランタンに火を灯していく。食事場の準備を終え、ついにキッチンで食事の準備を始める。昨日からの作り置きを確認し、足りない分を足して、残っていない料理は慣れた手つきで最初から作り始める。
だが少し問題が起きてしまった。少し材料が切れてしまっていた。
「うわ!やっちゃったぁ!んーと、どうしようかな?今から買い出しに行けば間に合うかな?」
時計を見てみれば今は午前8時。
「開店が10時で町まで片道15分。必要なのはレタスと牛乳ときのこ。必要なものは全部八百屋で買えるから・・・。ギリギリ大丈夫だね」
少女は急いで買い物鞄を持ち、町に向かって屋敷をあとにした。
少女は町に向かって森を歩いていく。木々は少女の何倍も高さのあるものが多く、太陽の日差しを隠してしまいそうなほどだが、木々の葉から漏れ出てくる日差しが心地良いくらいに暖かい。
すると目の前から鹿とウサギが少女を待っていたかのように近付いてきた。
「わぁ、2人ともおはよう!」
少女が頭を撫でてやると、2匹は嬉しく目を細め、耳を揺らした。
「ちょっと待ってね、はい!昨日の材料で余っちゃったにんじん!じゃあ私急いでるからまたね!」
少女がそう言い別れると2匹は少女のほうを向いてお礼を言うように頭を下げた・・・。
しばらく森を歩いていくと、ついに街が見えてきた。このカーメル1番の街、ランテラ街だ。
白レンガで作られた家々の屋根からは煙がもくもくと出ていて、市場は朝8時であってもとんでもない賑わいを見せていた。
市場に入ると早速横から声を掛けられた。
「おっ!メルちゃんじゃないか!今日も可愛いねぇ、買い出しかい?」
「オールさん!おはようございます!ちょっと材料切らしちゃってて・・・」
声を掛けてきたのは少女が小さな頃から世話になっている男性のオールさん。普段は牧場を営んでいて、市場では卵やお肉を売っている。レストランを開店するにあたってとても手助けしてくれた少女にとっての恩人の1人だ。
「今日はなんだい?お肉切らしちゃったの?うちの買ってくかい?」
「ごめんなさいオールさん。今日切らしちゃったのはお肉じゃないの」
「そうかそりゃ残念だ!レストラン最近行けてないけど順調かい?」
「とても順調ですよ。この前はお客さん100人くらい来てくれててんてこ舞いですよ」
「大盛況じゃないかそうか良かった!じゃあ今日は暇作って久々に行ってみるかね」
「味の腕上げたつもりなので是非どうぞ!」
「そりゃ楽しみだ!辛口評価してやるよ!」
そして少女はオールさんと別れたあと色んな人から声を掛けられた。ありがたいことに声を掛けてくれる人たち全員がレストランの客になったことのある人たちだ。
「自分で言うのもなんだけど人気者だな・・・」
そんなこんなで、目的の八百屋に着いた。すると奥から40歳くらいの女性が出てきた。
「おや?メルちゃん!久しぶりね〜」
「ミサさんお久しぶりです!料理の材料が買いたくて!」
「良いわよ、言ってごらん」
「レタスと牛乳と、じゃがいも4つください!」
「了解、ちょっと待ってね〜」
ミサも少女が小さな頃から世話になっている人物で、レストランを開くための料理スキルを伝授してくれた恩人だ。他にも相談役に向いていて、少女の生活に困った時に良く相談に乗ってくれていた。
ミサは手慣れた様子でレタスと牛乳を買い物鞄にいれ、じゃがいもを5つ入れて、少女に手渡す。
「はい、全部で460リルね。じゃがいも1つはおまけしたげる」
「ありがとうございますミサさん!はいっ!」
「まいどあり、レストラン大丈夫?1人で生活出来てる?」
「大丈夫ですよ!なんとかレストランも生活もできてます!」
「良い返事ね。最近はレストランに行くまでが大変で通えてないからね〜、歳って怖いわぁ」
「私が料理を持っていきましょうか?」
「大丈夫よ。無理させる訳にはいかないし、行くなら自分の足で行きたいもの」
「・・・分かりました!是非来てください!」
「うんうん、メルちゃんも頑張り過ぎないようにね。前にも言ったけど無理は1番の敵だからね」
「はい!」
そうして少女は気持ち良く、八百屋をあとにするのだった。
「元気ねぇ」
「ミサさん、あの子は?」
「あらマリさん来てたのね。知らないの?森のレストランの小さな店主さんよ」
「あんな小さな子供が1人でレストランをしてるのかい?大変だろうに」
「そうよ、でもしっかりしてる良い子よ」
「誰も止めないのかい?」
「最初は止めたんだけど、あの子自身がずっと夢に見続けてたことだからね。『あの人みたいに人を笑顔にするんだ!』とか言っちゃって・・・。心配にはなるけど、やらせてあげて正解だったわよ」
「良いねぇ、夢がある若い子がいて。私なんか戦争が終わって2年経ってもこの先が心配でね・・・」
「そうねぇ、国の復興は少しずつ進んでるけどお偉いさんたちはまだ揉めあってるからねぇ。確か王族の生き残りがいなくなって誰を建てて国を進めるかって問題になってるのよね」
そう言ってミサは目を細くして元気に去っていく少女の背中を見て呟く。
「心配事は出来るだけ早くなくなって欲しいものね」
※
屋敷に着くと早速残りの準備に取り掛かって、下準備を終わらせる。
「ふぅ、お店を始める前から疲れちゃった・・・」
時刻は午前10時前。
そろそろ開店頃だ。店の外を見ると既に数組のお客さんが来ていた。せっかくもう来て並んでくれているのだ。待たせる訳にもいかない。
そして少女は定員エプロンに着替え、気合いを入れる。
「よし!今日も頑張るぞ!」
顔をパチパチと軽く叩いて、店の入り口の扉を開ける。
「いらっしゃいませ!これより森のレストラン『フレミア』!開店します!」
※
「ご馳走さん、やっぱりメルちゃんの料理は美味いや!辛口なんて出来ないな!」
「ご来店ありがとうございましたオールさん!また来て下さいね!」
時刻は午後21時に近づいており、閉店は21時なのでもうすぐ閉店の時間。
今日は本当に疲れた。オールさんが帰り、やっと休憩出来る。今日はこの前の100人を超えたんじゃないだろうかと思うくらい人が来たと思う。辺りは暗く、フクロウが鳴いている。残り10分くらいあるが、まぁもう多分お客さんは来なそうなので閉店準備を始めることにした。
だがいざ始めようと立ち上がった瞬間——————。
コンコンッ。
オールさんで最後だと思って閉めていた入り口の扉からノック音が聞こえた。
「え?まだお客さんがいたのかな?」
自分の経験上、夜にはあまり人が来ない。
場所が場所なだけに、夜の森に来る人はそうそういないからだ。
そうして少女はそろそろと扉に向かった。そしてゆっくり扉を開けた。
「・・・はーい、あれ?」
だが扉の前に人の姿はなかった。不思議に思って外へ出てみるが・・・。
「誰かいますか?」
・・・・・・
「おかしいな・・・」
「すいません」
「ピィッ!!!」
突然後ろから声を掛けられたために悲鳴に近い声を出してしまった。
驚いて後ろを振り向くと、入り口扉の横に全身をローブで纏い、背中に布で覆った長物を背負った恐らく人がそこにいた。
“え?そのローブ・・・”
ローブの人物は焦って少女に声を掛けた。
「すいません!中々気づいてくれないもので声を掛けたのですが驚かせてしまった。申し訳ありません」
「だ、大丈夫です・・・」
今のでドッと疲れが出てきた気がするが人の前なので顔には出さない。そして今は本当の気持ちを押し殺していつも通りの笑顔で対応する。
「それで、どうされましたか?」
「今はまだお店は開いていますか?」
どうやらお客さんのようだった。少女は急いで時計を見ると時計は閉店前の21時を5分前を指していた。
本来なら、やんわりとお断りする。この人物のために閉店時間を遅らせるということは自分の時間も相手に提供するということと同義だ。
だが今回は話が違った。
「大丈夫ですよ、どうぞ入って下さい」
「ありがとうございます」
ローブの人物は礼儀正しくお礼をしながら少女に続いて食堂に入る。
声質的に男性っぽいが女性のように高い。
少女は客をキッチン前のカウンター席に連れていくと、水を渡して注文を伺う。
「ありがとうございます」
「いえ大丈夫ですよ。注文はどうされますか?」
「僕はあまりお金を持っていないので1000リン以内で食べられる料理を頂けますか?」
「私が決めちゃいますけど、大丈夫ですか?」
「ええ、店主さんに決めて貰えればそれを頂きます」
「かしこまりました」
少女はキッチンに戻ると手慣れた手つきで今日最後の料理を作り始める。
卵を割り、黄身を混ぜて少しふわふわになるくらいにフライパンで温める。そして皿に温めていたチキンライスと、卵をライスの上に乗せ、デミグラスソースをかける。おまけにパクチーを乗せて、きのこのスープをカップに注いで完成。
「お待たせ致しました、この店で1番安いオムライスです!」
「おお!ありがとうございます。でも店主さん、スープはメニューのオムライスに付いていませんが・・・」
「私からのサービスです」
「ふふ、分かりました。有り難く頂きます」
そしてローブの人物はフードを被ってまま料理を食べようとした。しかし、少女は慌ててそれを止める。
「お客さま!」
「はい?」
「料理を食べるときはフードは外して頂けますか?」
するとローブの人物はびっくりしたように声を上げる。
「フ、フードをですか!?」
「はい、ご飯を頂くときはフードを取るのがお食事のマナーですよ」
少女は笑顔で答える。ローブの人物はまだ渋るように聞いた。
「ど、どうしてもでしょうか?」
「はい、私はお食事を提供するときは料理を食べるときのお客さまの顔を伺うようにしてるんです。
私は人を笑顔にしたいと思って料理をお出しします。お客さまの笑顔を見れれば私の日々の励みになりますし、もし笑顔に出来なかったら反省して料理の味を見直す。これが私の料理人として大事な決まりなんです。ですからお顔が隠されるのは私のポリシーの反してしまいます。なのでフードは外して頂けますか?」
「・・・」
少女の想いを聞いてローブの人物も黙り込んでしばらく悩んでいたが、やがて意を決して答えた。
「・・・分かりました。夜分遅くに料理を作ってもらって、ご好意でスープも貰ったのであれば、僕もそれに答えなければなりません」
そしてそのお客さんは少し恥ずかしがりながらゆっくりフードを外した。
「・・・あの、変ではないでしょうか?」
「わぁぁ・・・」
思わず少女は感動の声を上げていた。
髪は天色のようで空に綺羅星の欠片を混ぜ込んだ綺麗な色をしていて、腰ほどの長さ伸ばし、首元付近で束ねられ、前髪の左側は三つ編みに編まれている。金色の瞳は本物の黄金のように煌めいていて、宝石のよう。左耳にはアウイナイトの耳飾りがつけられている。
そして若々しいのと同時にどこか幼さを感じさせる顔立ちはまるで—————。
「・・・女の子みたい...」
「いえ、僕はちゃんと男ですよ」
そう言って青年?はぎこちなく微笑んだ。そして確認するかのように少女に問う。
「これで大丈夫でしょうか・・・?」
一気にモジモジして始めて、どうにも落ち着かないつかないようだ。
『どうみたって女の子にしか見えない・・・』
だが少女はハッとして言葉を返した。
「あ、ありがとうございます!召し上がって貰って大丈夫ですよ」
「では・・・」
そしてようやく青年は料理にありついた。青年はオムライスを口にした瞬間、思わず綺麗な目を丸くした。
「お、美味しい!美味しいですよ店主さん!」
「それはとても良かったです!」
その言葉を最後に青年はもくもくとオムライスを頬張っていた。
青年の食事をするときの表情はとても純粋で、オムライスを口に含んだと思えば頬に手を当て噛み締める。スープを飲み始めたかと思えば舌を巻いていた。もうフードをつけていないこと忘れてるようでとても無邪気。それはまるで子供みたいで、見ている側にすればこれほどほっこりするものはないだろう。
青年は僅か5分ほどで全て完食した。
「本当に、美味しかったよ店主さん!ご馳走様です!こちらは代金です」
青年は綺麗な目を更に輝かせて言う。
「ええ、お粗末様です」
「では、僕はこれで・・・」
そうして彼は立ち上がるのを少女は急いで止めた。彼にはまだ聞きたいことがあるのだ。
「ちょっと待って!」
「どうされましたか?もしかして代金足りませんでしたか?」
「あいや、それは大丈夫なんですけど、あなたにどうしても聞きたいことがあるんです。まだ時間はありますか?」
「僕に?ええ、それは十分にありますが・・・」
そして少女はキッチンから彼の隣の席に座ると、真っ直ぐな眼差しで、意を決して彼に聞く。
だが・・・。
「あのね、前に私と—————」
コンコンコンッ
突如また入り口からノック音が聞こえた。
「・・・ごめんなさい、ちょっと出てきますね。少し待ってて下さい」
「・・・ええ、構いません」
少し変な空気になってしまった。それにしてもまたこんな時間に誰だろうか。閉店時間を書いてる看板は入り口に置いてあるのだけど・・・。
そして少女はまた入り口の扉をそっと開ける。
「どちら様ですか?」
するとそこには大柄な体格の男が4人立っていた。4人共頭に官帽を被り、この国の警察官の格好をしていた。
『警察!?』
そして先頭の男が口を開く。
「夜分遅くにすいません。我々は警察の者です。アルフレデリアさんで間違いないでしょうか?」
「ええ、間違いないですが・・・」
急な警察の来訪に少女に戸惑いを隠せなかったが、それ以上の違和感が頭によぎっていた。
『こんな時間に警察?』
そして警察を名乗る男は衝撃的なことを言う。
「貴方に国からの出頭命令が出ています。我々にご同行願えますか?」
「え?」
「!?」
これには後ろで話を聞いていた青年も流石に反応せざるを得なかった。訳が分からない少女は必死に説明を求める。
「ちょ、ちょっと待って下さい!いきなり出頭命令って・・・!私なにもしてません!理由はなんですか!?」
「すいません、罪状はこの場では申し上げられません」
「どうして答えられないの!?私が何をしたの!?」
「これ以上の言い訳は出頭拒否と公務執行妨害として取り扱います」
「どうしてっ!?」
「捕まえろ」
男たちは抵抗する少女を無理矢理捕まえようと中に押し入ってきた。少女が捕まえられそうになった次の瞬間、後ろから伊勢の良い声が響いた。
「待ちなさい」
「ん?誰だアンタは?」
「お客さん・・・」
それはなんと後ろでずっと話を聞いていたあの青年だった。男たちはその声に動きを止め、青年と向き合う。そして青年は口を開いて問う。
「話は聞いていた。この店主の出頭命令だな?だが些か不明な点がある。確認させて頂きたい」
「なんですかね美しいお嬢さん?」
「まず、令状について。警察が直接容疑者に出頭命令を伝える場合、必ず令状を提示し、罪状の内容を確認しなければならない。貴方たちはなぜ、罪状の確認も、令状の提示もせずに彼女を捕縛しようとしているのか」
「・・・」
「もう一つ、警察には民間人の家に伺う際は警察手帳の提示も義務付けられているはずだ。見ていたが貴方たちは手帳の開示も行わず公務を執行しようとしたな?」
「・・・」
青年は男たち静かに睨みつけて言う。
「これらを踏まえて聞かせて貰う。貴方たちは本当に警察の者だろうか」
男たちはずっと青年を睨んで黙っていた。だが青年を見て黙っていた口が不機嫌そうに歪んだ。
「チッ、どうやら俺たちは何か不運に見舞われたようだ。本当なら閉店して1人になった娘を攫って届けちまえばそれで仕舞いだったのによ。夜遅く、目撃されても良いように警官の格好までして完璧にしてたはずだった。
だがなんの間違いか、作戦決行日に限ってアンタという異分子が現れちまった。女、邪魔したお前もただじゃおかねぇぞ」
「やはりなにかおかしいと思えば、お前たちは盗賊か。答えろ、依頼主は誰だ?なぜ店主を狙う?」
「アンタの賢さには恐れ入る、だが俺たちにも事情がある。依頼主の名は明かせねぇ。なぜそこの娘が目的なのかは俺たちは聞かされちゃいねぇし、聞く気もない。金さえ貰えりゃなんでもする、それが俺らのポリシーだ」
男は不機嫌な顔から更に圧を強めた顔に変えてそう言う。
「理解した。だが店主は渡せない、僕はこの店主に恩がある」
「残念だが見ちまったアンタももうターゲットだ。ただでさえヤな依頼なんだ、とっとと終わらせるために娘は貰うし、アンタには死んで貰う」
『し、死ぬって・・・!?』
男たちはそう言って腰からナイフを出して構える。
「そうか・・・店主、僕の後ろへ」
「は、はい!」
そして少女は青年の後ろに回り、青年は背負っていた長物を手に取って戦闘の準備をする。
だが少女は青年の腕をそっと掴んだ。青年は振り返って少女の心配そうな顔を見て、優しく笑う。
「大丈夫です。僕に任せて下さい」
そして青年はまた盗賊たちに向き合う。そして先頭の男の男が飛び出してくる。
「間違っても俺らを恨むなよ」
だが青年は突撃してくる男のナイフの刃部分を持っていた長物で正確に殴って砕いた。男は一瞬で砕かれたナイフを見て思わず声を上げる。
「はぁ!?ぐッ!!」
青年はその隙を見逃さず、強烈な回し蹴りを浴びせる。咄嗟に腕でガードするもその力は体格以上に強く、10メートルは吹っ飛ばされてしまった。
「はッ!?リーダー!?」
「遅い、仲間が戦っているならカバーに来るもの」
「なにッ!?」
残りの男たちはその光景を見て一瞬酷く動揺していた。まさかリーダーの男があっさり吹き飛ばされるとは思っていなかった。その隙は青年が距離を縮めるには十分な時間だ。
男2人は距離を詰めてくる青年に焦ってナイフを横薙ぎに払うも、正確に見切られてしまい、青年の髪を掠めるに留まる。青年が1人のナイフを片手で払い落とし、1人は長物で殴られ気絶。もう1人は素早い青年の動きを追えず、先端部分で顎を突かれ怯んだところを肘で鳩尾を射抜かれ気絶した。
「なんだよコイツ!?」
最後に残った男は慌てながらも少女の元まで急いで向かう。
「せめてこのガキだけでもッ!!」
「きゃっ!」
だが青年は冷静に片手で長物を持ち直す。青年は長物に巻かれていた布を軽く振る。するとそれに呼応するように簡単に布が外れ、中から銀色に輝き鮮やかな華の模様が描かれたボルトアクションライフルが現れた。
「選択を、間違えたな」
青年がライフルで正確に男の頭部目掛けて発泡する。
バンッッ!!
「ひっ!ひぃッ!」
弾はちょうど男の眼前を通り過ぎ、当たるスレスレのところで店の壁に当たる。そして跳ね返ったゴム弾は男の頭目掛けて思いっきり被弾した。
「がッ!」
「これで最後」
青年は何事も無かったかのようにライフルに布を再度巻き付け直し、少女の元に駆け寄った。
「お怪我はありませんか?」
「凄い!凄いよお兄さん!カッコ良かったよ、ありがとう!」
少女は思わずそう声を掛けていた。その言葉を聞いた瞬間、青年の頭にある言葉が響いた。
“————カッコ良かった・・・。あの!ありがとう...ございます・・・!”
「えっ、君は・・・」
だが————。
「クソッ!テメェ何者だ!」
なんとが立ち上がってきた。リーダーは吹っ飛ばされながらもガードをしていたことによってなんとか意識を保っていた。だが体はもう吹っ飛ばされだ影響でボロボロになっていた。
「俺たちがただの一般人相手に無傷でやられる訳ねえ!答えろ!テメェは何者だッ!」
「いえ貴方が合図も無く突撃するから仲間も対応が遅れたんだろう。貴方はもうちょっと連携というものを—————」
「うるせぇうるせぇ!!誰なんだてめ...ぇは....」
だが威勢の良かったリーダーの顔は青年の胸のシンボルを捉えた瞬間、どんどん青ざめ、声のトーンを落としていく。
「お、お前!その!その『シンボル』はぁ!」
すると青年は体を動かした影響でローブが弛んでいることに気づいた。というかフードを付けずに今まで戦闘していたことに気づいた。慌ててシンボルを隠して言い訳をする。
「あっ!いや!その、これは・・・」
「と、とぼけるなッ!そのシンボルは、国家の選ばれた者した与えられない唯一無二の物だッ!」
「え!?」
思わず少女も驚いてしまう。
良く見てみれば今までローブで隠れていたが、青年のローブの下は正式な軍服を着ていた。
少女はあまりの衝撃についつい青年の顔を覗き込む。
青年は居心地があるそうにしていたが、そこまで迫られると青年は諦めたように肩をすくめた。そして心を決め、すぐに威勢よくその名を告げた。
「良いだろう、この場を借りて名乗らせて頂く。僕の名は“リコグレース・エル・フレンダ”!祖国モーゼ『元維持派』副将及び第六部隊隊長だ!」
少女はいきなりの告白の内容に今まで緊張が全て吹き飛んでしまった。
「えぇ!ええぇっ!?」
「なにぃぃぃッ!?」
少し離れたところでリーダーの男も驚愕の声を上げていた。
祖国モーゼ国軍『維持派』、この国の命運を賭けた戦争『第一次魔銃大戦』を終結に導いた英雄派閥だ。その数は『保守派』や『革新派』に比べて10分の1程度だが、1人1人の戦闘力は他の派閥を優に超えており、特に6人の親衛隊である部隊長は並外れた銃と魔法の技術を持ち、戦場で大活躍した。
戦争後は、『維持派』の1人部隊長である“キルシスヴァルド・ラストオーダー”という人物が国のトップに立った。彼女はモーゼを東西南北の4つの区に分割し、その内北部を保守派エリア、南部を革新派エリアへと指定し、それぞれの発展と交友を命じた。
そのあとは各エリアの様々な法の改正と国の復興を最優先に活躍しているという。
“なんでこんな所に『維持派』の、それも副将ともあろう人がこんなところに••••••••”
「出鱈目だッ!」
リーダーの男はまだ納得していないようだ。
「確かに半年前、『維持派』の人物が突然消息不明になったと世間で大騒ぎになった。その時は国のトップが総力を出して捜索するほどにだ!だがなぜそんな大物がこんな辺境地にいるッ!?あり得ねぇだろッ!」
「•••••••••」
リコグレースはしばらく口を開かなかったが、やがてこう口にする。
「一つ、僕はそのことで正しておかなければならないことがある」
そして真っ直ぐ目を向け、次の言葉を言う。
「僕はもう『維持派』じゃない。さっきも述べたように、僕は『元維持派』だ。そこは間違えないで欲しい。だから僕は大物なんかでもないし、誰かに称えられる存在じゃない」
「はぁ?それがなんだってんだ」
「僕はもう国家の人間じゃ無い、だから貴方達にどうこうするつもりはない。だからここは、引いて欲しい」
「•••••••••ッ!」
「•••••••••••」
しばらく2人は睨み合っていたが、やがてリーダーの男が「やれやれ」と言い、観念したようにその場に座り込んだ。
「わかったわかった、もう聞かねぇよ。俺たちは負けたんだ、敗者に口無しってな。そら、煮るなり焼くなり好きにしな」
その声を聞くと、リコグレースは口角を上げ、ジト目で少女の顔を伺う。少女は意味を理解すると、答えを返すように頷いた。
「いや、何もしない。さっきも言ったように僕はもう国の者ではない。それにこれは店主の意思だ、だから僕にお前たちをどうこうすることは出来ない」
「なんだと・・・!?」
リコグレースに合わせて少女も微笑んで言葉を放つ。
「今回はお兄さんのお陰で無事でしたが、結構的には何もなかったので貴方達をどうすることもしません。次からはもうしないで下さいね」
「う、ぁ・・・」
男はしばらく呆然となっていたが、やがて頭を下げた。
「はぁ・・・。こんな無垢な子供を狙っていたとは・・・。本当にッ、情けねぇ!今回は本当に、すまなかったッ!」
そして青年と少女は顔を合わせて微笑んだ。
※
そして少しして、男は他3人を起こし、店から出て行く所だった。
「・・・さっきも言ったが依頼主のことは明かせねぇ、これは俺らのポリシーだ。いくらアンタたちに恩があっても、いくら依頼主がクズでもそこだけは曲げれねぇ。すまねぇな」
「あぁ、承知している。それと、僕のことは他言無用で頼む。人に知られたくないんだ」
「わかった。なぜ姿を消したのか、なぜ正体を隠すのか諸々知りてぇが聞かないでおこう。店主さん、改めてすまなかった」
「大丈夫ですよ、次来る時はお客さんとしていらして下さい!」
「あぁ、そのときは礼金を持って訪れるとしよう。そして気をつけた方が良い、理由はわからねぇがアンタは今回みたいに狙われることが多くなりそうだ」
そして男たちは夜の森に溶けるように姿を消した。
「やっと一段落しましたね、今日の夜は予想外のことが多い気がします」
「ええ、ですが・・・」
リコグレースが店を見渡す。少女も続いて見渡すと、そこには嵐が去った後のように壊れた机や椅子などの家具や、壁がボロボロになっていた。
「ボロボロ、ですね・・・」
「・・・これは僕の責任でもあります。もう少し周りに配慮して戦えていれば・・・」
「そんなことはありません!私が助かったのは他でもない貴方のお陰です!壁は修繕できますし、机や椅子の替えは倉庫にあります!気を落とさないで下さい!」
「それでも、僕は恩人の貴方に迷惑をかけてしまったことが許せない。何か手伝わせて欲しいんです、駄目だろうか?」
そうやってリコグレースは頭を下げた。
少女は困った。少女にとっては青年の責任など一切感じていないのだ。だが青年の熱意は凄いもので、願いを聞いてくれないと一生動かない気さえした。
すると少女はなにかを閃いたように顔を上げると近くの椅子に腰を下ろした。
「それを答える前に少し話さない?」
そう言うと少女は隣の椅子をポンポンと叩いた。
「は、はい?」
「いいから!」
困惑するリコグレースの腕を引っ張って座らせると、少女はちょっと悩んだ。
「何から話せば良いかな・・・」
「・・・」
「・・・うん!まずは、ありがとう。私を助けてくれて」
「・・・はい。お安いご用です」
「ふふ、変わらないんだね。その返事」
「変わらないって言うのは・・・」
「そうだよね、4年も前だから、忘れてもおかしくないよね。貴方は私のこと、覚えてる?」
「・・・もしかして君は廃屋で助けたあの時の?」
「覚えてるのっ!?」
「つい先程、感謝を言われた際に聞き覚えのある言葉だなと思いまして。少しだけ思い出したんです。でも、そうか、あんなにか弱かったあの女の子が貴方だったとは・・・」
そこでリコグレースは懐かしいものを見るような目で、少女を見る。
「私!貴方のお陰で今凄く楽しいんだよ!色んな周りの人から助けてもらって、自分のやりたいことを見つけて、たくさん嬉しいことがあった。
これも全部、貴方のお陰なんだよ?いま生きらてるのも、私に夢をくれたのも、貴方のお陰。だからね、ずっとお礼が言いたかった。“ありがとう”って」
リコグレースは眩しい笑顔に、思わず恥ずかしくて顔を背けた。
「そんな、僕は、大したことはしてないですよ」
「そんなことないよ。私は、貴方に助けられたときの私みたいに、人を笑顔にさせられるようにって思ってこのお店を開いたんだから」
そして少女は青年の方を見て言う。
「私ずっと貴方にお礼が言いたくて、ずっと探してたんだよ?でも色んな人に聞いても『知らない』って言われちゃって困ってた。でも今日貴方に逢えて、名前も、どんな人かも知れた。まさか貴方がお国の偉い人だったなんて・・・。そりゃそうよね、そんな人にそうそう会えないもんね。ねぇ、どうしてお仕事辞めてこの店に来たの?」
青年は一瞬渋るような顔をしたが、すぐに口を開いた。
「それは、僕に、国の上の立場というものがあまりにも重すぎたからです」
「どうして?」
「僕は、上から指揮をするような立場に向いていない。どちらかというと、指示を受けて動く方が向いています。そんな僕には上という立場があまりにも苦しかった。それが一つ目の理由です」
「他には?」
「二つ目は、僕は国の立場そのものに相応しくないからです。誇れることではないですが、僕は1番戦いで戦果を上げたと言われました。人の命を奪って積み上げた戦果を、です。最初はなんとかそれで国を平和に出来るならと、耐えてはいたのですが・・・」
「うん・・・」
「実際に戦いで勝利をすると、次に国民にこう言われました、『戦争を終わらせた英雄』と。人の死体を作り上げた人間に、国民はそう言うんです。僕は『英雄』というのをとても良いこととして捉えることが出来なかった。そのせいで本当の正義というものが分からなくなって、逃げてしまったんです。
ここに辿り着いたのは本当に成り行きで、住む場所も、食料もないので何日も野宿をして、食べ物を探して、歩き続けて...そんなお腹が減ったときにこのレストランの話を聞いたんです」
そして青年は沈んだ目で小さく震える両手を見つめ、声を出す。
「僕は、沢山命を奪ったこの手が怖い、そして僕が勝手なことをしたせいでまたきっと多大な迷惑をかけたと思うと、少し後悔してるんです。僕はまだあそこにいなきゃいけなかったのかって、考えてしまう・・・」
それを見た少女は俯いて、青年の前に立つと頭を下げた。
「ごめんなさい、貴方に嫌なことを思いださせたよね」
「いえ!気になさらず!勝手に落ち込んでるだけですから—————」
「でもっ!」
いきなりの大きな声に思わず青年は目を丸くした。そして少女は真剣な顔で青年を見ると、言った。
「私は貴方が正しいと思う」
「えっ?」
「確かに戦争で人は死んじゃうことは悲しいこと。でもそれを貴方だけが背負うものじゃない!皆んなで背負って先に進むの!
貴方は背負うのが嫌になったんじゃない。他の人の分まで背負おうとしたの。だから“それ”から逃げたって私は貴方を責めないわ、だって貴方も人間だもの。自分の分だけ背負えば良いの。だからその先は自分の思うやりたいことをその分だけすれば良いのよ」
「・・・ッ!」
そして少女は青年の手を掴むとあまりにも眩しい笑顔で言う。
「だって貴方はこの手で私を助けてくれたでしょ?」
「あっ・・・」
青年は酷く動揺して、感動で肩を震わして、やがて泣いた。
「あぅ、あぁっ!うぅ、ぐすっ・・・!」
青年は言葉に出した以上に溜め込んでいたのだろう、腕で涙を擦っても擦っても、涙は止まらない。
「泣いて良いんだよ。私の恩人が言ってた、『無理は1番の敵だよ』って」
青年は少し泣いて、落ち着きを取り戻すとぎこちなく微笑んだ。
「ありがとう貴方にそう言って貰えるのなら、僕は今も胸を張って生きれる」
※
「お見苦しい所を見せて申し訳ありません」
「大丈夫だって。むしろありがとう、本当のことを言ってくれて」
「それで僕はなにをしたら良いのでしょう?」
「うん、決めたよ。じゃあね、これからお店を手伝うのと、私を守ってくれない?」
「え?それはどういう?」
少女の衝撃の告白にまだ理解が追いつかない青年は思わず聞き返してしまう。それに対して少女は不思議そうな顔をして続ける。
「そのままの意味よ?貴方、いま住む家が無いんでしょう?だから私が住む家を提供するから、お店を手伝って欲しいのよ。最近ちょっと忙しくて人手が欲しいと思ってた所なのっ!
それに、さっきの男の人たちが言ってたように何故か私これから狙われるかも知れないのよね。だから貴方が側に居てくれたら安心だなって!」
「それは有難い提案ですが、壁とか椅子は・・・」
「さっきも言ったけどそれは大丈夫よ。ただ私は困ってる貴方になにかしてあげられないか考えてこう言っただけ。もちろん嫌なら断ってくれても構わないよ!」
青年はまたもや意表を突かれて固まっていたが、すぐに答えを示した。
「ふふ、優しくて意地悪な提案ですね。であれば断ることは出来ません。これから僕は貴方のボディガード兼定員になります、よろしくお願いします店主さん」
「よろしく!お兄さん!あでも『お兄さん』じゃちょっと呼びにくいな、どう呼べばいい?」
「どう呼んでもらっても構いません、今は貴方が僕の上司ですから」
「そう?じゃあこれからは『リグ』って呼ばせて貰うね!『リコグレース』だから『リグ』!良いでしょ?」
「はい、とても良い名前です。ところで店主のお名前はなんと言うのでしょうか?」
「あっそういえば私の自己紹介がまだだったよね。私って興奮すると物事をすっ飛ばしちゃう癖があるから・・・」
そして少女は改まった様子でリグの前に立つと自身を持った目で堂々と答える。
「私の名前は“メルアマリード・アルフレデリア”!街の人からは『メル』とか『メルア』って呼ばれてる!これから貴方の店主になる女よ、よろしくね!」
「はい!こちらこそお世話になります、メル店主」
そうして森の小さな店主と一人の傭兵は初めて出会って6年経ったいま、こうして二人は運命の再会を果たした。そして少女メルアの店に一人目の定員としてリグが仲間になるのだった・・・。
年齢
・メルア14歳
・リグ19歳