「•••••••なんか」
街中の帰路を辿る途中、不意に言葉を漏らす。
「なんかロイスさんの見方変わったかも」
最初は頑固な印象を抱いていたのが、今回の件で意外とそんな性格ではないことに驚かされてしまった。最初は印象通りだったのに、最後まで私たちのために優しくしてくれたことには意外としか言いようがない。
「意外...というのもあれですけど、あの性格が素の性格だと思いますよ。勢いは怖い印象でしたけど、言葉に怖さとかは少しもありませんでしたから」
リグは隣から覗き込むように言う。
確かに...最初、言われてみれば圧は怖かった。だが本当に圧だけ。私たちの事情を理解したうえで深くは探らず、でもロディアの、そして私たちのことを気にかけてくれている気遣いを感じた。恐らく、根はとても優しい人物なのだろう。
「••••••••••」
するとロディアが静かになっていることに気づいた。店から帰り始めたときは明るい笑顔を見せていたのだが、今はとても静かだ。
「ロディア、どうかした?元気ないの?」
「———ぇ。ううんそんなことないよ...!ただちょっとぼーっとして...」
「本当に...?」
「うん...」
「•••••••••••••」
そんなことを言うロディアは少し目を逸らす。するとロディアの気持ちを代弁するようにリグが口を開く。
「••••••伝えたいことがありそうですね」
「え?」
「お、お兄さん...!?」
「すいません。でも言わないとロディアの気持ちが晴れないと思いましたので」
動揺するロディアにリグは真剣な目で返す。
「リグ、知ってたの?」
「いえ、ただ先程から話したいことがありそうだったのはわかっていたのですが内容までは...」
なるほど、どうやらリグは私が気付かない間にロディアの様子の可笑しさに気付いていたらしい。
「それでロディア、話ってなんのこと?」
「••••••••えっと、実は...」
するとロディアは予想外の言葉を放つ。
「ごめんなさいお姉さん。本当はわたし—————」
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「「——————
わたしがそう告げるとメルアさんとリグさんは一緒になって声を上げる。
「ごめんなさい...!」
「「•••••••••••••」」
2人は確かに驚いた様子だが、わたしの思った以上には驚くことはなかった。まるでわたしがこのことを言い出すのがわかってたように。
「店主、意外と冷静ですね?僕は少し驚いたんですが...もしかしてわかってたのですか?」
「いや、私も今初めて知ったよ。でも、なんだろうね...不思議とそんな予感がしてたのかも」
そしてメルアさんは改まってわたしに問いかけてくる。
「なにか嫌なことでもあった?私たち、まだロディアのことをあまりわかってなかったかな?」
「ううん!それは違うの!ただわたし、2人に迷惑かけてるって....」
「••••••••もしかしてさっきの話...」
それはついさっきのロイスさんとメルアさんの会話の一部。
『流石の小娘でも、この国の妖精族の扱いを知ってるはずだ。
するとメルアさんは少し焦った表情を見せる。
「違うよロディア、私は—————」
だがわたしはメルアさんの言葉を遮って首を横に振る。
「違うのはわたしなの、お姉さん」
わたしは荒れる息をなんとか整えて話し始める。
「わたし、自分でも気付いてたんだ...わたしが誰かに追われてるってこと。サーラから少し聞いてたの」
「サーラって...友達って言ってた...」
「うん。サーラはあまりそのことは言わなかったけど、『妖精族は危ないことが良くある』って。その時は分からなかったけど、サーラに言われた通り捕まってたところから逃げてみて初めてわかったの。“そういうことなんだ”...って」
そう、最初からわたしは2人が隠さずとも知っていた。わたしが目覚めて初めて会った時からわたしはその事情を知りながら2人の側にいたのだ。
「それに、妖精族は耳が良いの。だからわたしがあの家で起きてすぐの時にしてた2人の話、ちゃんと聞こえてたんだ...」
なにかメルアさんが言おうとしていたけど、わたしは頭を下げて必死に謝る。
「本当に、ごめんなさい!2人を危ないことに巻き込むのをわかっててわたし、全部隠してた...ごめんなさい!」
「••••••••••••••」
2人はなにも言わず、ただじっとわたしを見る。とても息が苦しくて、胸が痛かった。もっと早く打ち明けていれば、こんな思いをすることはなかったのかと、少し考えてしまう。
「•••••••••••」
「ごめんなさい...色々してもらったあとにこんなこと言ってごめんなさい...やっぱり————」
「——————それは、違うでしょう」
すると突然リグさんがわたしの言葉を遮った。珍しくリグさんは普段の落ち着いた雰囲気から真剣な顔つきでわたしと目線を合わせる。困惑するわたしにリグさんはなんともないように平然と言い放つ。
「なんで謝るんですか」
「——————え?」
「なんで自分が悪いみたいに、君は泣いてるんですか」
わたしはそこで初めて自分がいつの間にか泣いていることに気付いた。急いでわたしは流れる涙を拭う。そこにはさっきまでのリグさんの優しい表情はなかった。一切の無表情。その周りには静かな冷たい空気を纏っていた。
「••••••••••だってわたし...居るだけで2人に迷惑をかけるのに、お兄さんとお姉さんを騙して...わたしは2人の優しさを利用して...」
「違いますよ」
そしてリグさんはメルアさんをチラリと見ると堂々として言う。
「——————隠してたことなんてどうでも良いんですよ」
「——————え...?」
「自分が言いたくないことを言わなかったらそれは悪なんですか??全然違いますよ。君は生きたかったんですよね?なら君が何か憂うことじゃない。君は生きるための最善の選択を取っただけですよ。
——————僕らはロディアの立場を充分にわかってるつもりです。だからロディアが自分の置かれている状況を言えないでいることになんら不思議じゃない。
言ってしまって、見捨てられるのは怖いでしょう。だから僕たちは何も責めません。むしろ、いま僕らと向き合って告白してくれたことが嬉しいんです。僕らは何一つ迷惑なんて思ってません、だから一緒にいましょう?」
「———————!!」
その言葉はわたしの心臓を静かに揺らす。それでも目に溜めた涙は見せない。その言葉はとても嬉しい。こんな立場じゃなかったらどれだけ嬉しかったのだろう。
でも...だけどわたしは—————
「••••••••で、でも...わたし...まだ2人に迷惑をかけるのが怖い...わたしがいたら...2人は捕まってちゃうかもしれなくて...それで...」
「••••••••••気持ちは分かりますよ、僕も店主に拾われた時は同じことを思いましたから。でも——————」
「
「うぅっ...!!あぁっ...!!でも...でも...わたしっ.......!!」
もう、口は正しく動かない。この人はわたしが何を言っても、全てを受け入れてわたしを引き留めてしまう。嬉しいはずなのに拒絶してしまって、涙が流れて...否定したいはずなのに胸はとても熱くなって...わたしの心はもうぐちゃぐちゃで、言葉がもう口から出せない。
「それに——————」
そしてリグさんはわたしの両肩に手を置いて静かに微笑む。
「今まで何も言わなかったってことは言い換えれば、
「ね?店主?」とリグさんはメルアさんの方を見る。しばらく黙っていたメルアさんはふふっと笑う。
「もう、リグが全部言っちゃったよ。でも...うん、そうだね。何度考え直してみても、やっぱり私もまだロディアとは一緒に居たいかな。ロディアは分からないけど、
2人の笑顔はどちらも眩しくて、わたしのことを見る目は昨日会った時と変わらない。
そうなんだ...この2人は...わたしがどうあったとしても、変わらないんだ。
「リグ...さん...メルア...さん...」
全てを知る前であったとしても、全てを知ったあとであっても2人は変わらずわたしを同じように見てくれる。わたしは今まで、“優しい人”の定義が分からなかった。その全ての認識がサーラという例しか無かったから。
でもその答えは、いまやっと少しだけ...ほんのすこしだけど、わかった気がする。わたしが妖精族であっても、関わっちゃいけない立場でも、変わらず“ロディア”として見てくれる2人はきっと、その“優しい人”なのだろうと。
目は涙で腫れて、足は震えて、顔はぐちゃぐちゃで、胸は痛いけど、わたしは“ずっと聞きたかった言葉”を伝える。
「わたしっ...わたしっ...!!まだっ...2人の側に...居ても良いのかな...?」
それを聞いた2人は一瞬驚いた様子だったが、満足そうに笑い合う。そしてわたしを嬉しそうに見て言った。
「「もちろん‼︎ようこそフレミアへ‼︎」」
「———————!!!!」
胸の痛みは2人の言葉で痛くなった。どういう気持ちが今の自分に似合うのか、いまは分かる。
「——————えへへ...嬉しいはずなのに涙が止まらないや...」
この涙がいつ嬉し涙に変わったのか、それは自分には分からない。————もしかしたら、涙が流れた時から既に変わっていたのかもしれない。もう、身の丈に合わない心配はしない。ここまでしてくれる人たちには、2度と出会えるか分からない。わたしは2人に精一杯の感謝を伝える。
「———————ありがとう......!!」
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時は数時間後、夕陽が街全体を包み込む始める時間。とある街中の馬車内ではダーナーが焦る気持ちを抑えるかのように膝を打っていた。そして外からの足音が入ってくるなり、目に期待の眼差しが宿る。
「来たかッ...!」
するとそれを見越したかのように1人の男が馬車内に入ってくる。入ってくるなりダーナーの向かいの椅子に座ると間に挟んであった机に足をかける。それはダーナーの依頼を引き受けていたコズだった。
「遅いぞッ‼︎」
コズはダーナーの気持ちも汲まずに飄々とした様子で語る。
「いやはや、遅くなってすまないなダーナー殿。一段落ついたもんで報告に来たんだ」
「全くだッ!宣言した夜よりかは早かったにせよ一体調査に何十時間かけるつもりだッ!その間に
「フハハハハッ!そうなってしまったら流石に笑い話にもなりませんなぁ!」
「笑い事ではないッ!いいか!?あのガキは俺たちの全てなんだ!これからもずっと俺たちの飯の種になって貰わんと困るんだッ‼︎」
「フハハ!まぁまぁ聞いてくれダーナー殿。そうならないために裏から根回ししておいたんだよ」
「なに?それはどういうことだ?」
「俺の伝手でな。もし
「なんだと?あの国家の犬どもをか!?そんなこと普通の裏稼業の奴ではできんぞッ!?」
さらっととんでもないことを言うコズ。簡単に言うが、国家を欺くというのはそう簡単に出来ることではない。並大抵の賄賂などでは動かない厳格姿勢。それを嫌でも知っているダーナーは信じられないとばかりに目を見開く。
「まぁ昔のよしみでな。これは俺だから出来るのであってアンタらじゃ無理だから諦めな。それでも知りたいなら紹介料からだ」
“深入りする人間は死ぬ”。
コズの言葉は静かにそれを暗喩していた。それを分からないダーナーではないため、素直に引く。
「•••••••••わかった、とりあえず褒めてやる。で?妖精族のカギはどう捕まえる?」
「捕まえるのは匿ってる奴らの住居だ、これほど条件が揃ってる場所はない。ターゲットたちは留守にしていたため既に用意は済ませている、ここで仕掛けよう。そこでアンタたちにやって貰うことを伝える」
「わかった、決行は?」
そしてコズは不気味に薄く笑うと静かに言う。
「—————決行は今日の21時、夕暮れ過ぎだ」
——————と••••••••。