『“
今から数ヶ月前、一つの仕事に頭を悩まされているといきなりそんな言葉を偉大なる“星詠みの魔女様”に言われた。“相変わらず”遠回しで分かりづらい言い回しをする姿に俺は少しイライラする。
同僚の彼女は空気も読まず、気分が晴れない俺に向かってそんなことお構いなしと魔女は言った。
『今はそれ以上観れないし今からなにか気を付けることもないからとりあえず意識しておくくらいはしておいてね〜』
『それ、いま言うことか?』
『気分転換だよ〜、ちょっと落ち込んでるようだったからさ』
『それを“空気が読めない”って言うんだマヌケ』
『あ、認めるのね?』
『•••••••••黙れ』
『でも“今の予言”は本当よ?良いことってのはちゃんと保証してあげる』
『うるせぇ』
俺は短くソイツをあしらう。そして仕事部屋から出て行こうとする。いまコイツといると気分が悪くなりやがる。
『あら、仕事?』
『•••••••••言っただろ、仕事の引き継ぎだ。しばらくは戻らん。“ブラウド”に伝えとけ』
『大丈夫、“もう伝えてる”』
『••••••••チッ』
これ以上コイツと会話する必要はないため、この場を後にしようとした途端、魔女が一言口にする。
『部下のこと、残念だったわね』
『——————ッ‼︎』
魔女はさっきとは一変し声色を変える。その一言は今の俺の全てを見透かしたような言葉。
その言葉に俺はただ一瞬立ち止まった。そう、
その言葉が例えカマだったとしても、全てを知っての言葉だったとしても、足を止めた時点で俺はそれを“認めた”ことになる。
その“認めた事実”を認めたくないが、ただ小さく———————
『それが分かってるのなら、それ以上口を開くな』
そう俺は魔女を置いてドアを閉めた。
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夕刻、白いレンガで建てられた家々には暮れゆく夕陽の光を反射する。街灯がポツポツと灯き始め、昼間賑わっていた広場の店は点々と店を閉めていく。
空は西は暗く、東はオレンジ色に染まる。至極当たり前で、特別なにか不思議なことではないけれど、その光景はとても綺麗だ。
ロイスの店を出て、ロディアが正式に私の家に来ることになって数十分後。私とリグはロディアを落ち着けるため、街の北端にある公園のベンチに3人で座っていた。
ここは丘の上にあるので街と夕陽を一緒に見ることができる。今はもうすっかり落ち着いたみたいで腫れた目の周りも収まっている。
——————のだが......
「••••••••ロディア?」
「どうしたのお姉さん!?」
「••••••••腕、いつまで抱いてるの?」
「ずっと‼︎」
「キツいなぁ...」
「そろそろ姿勢が...」
ロディアは元気になった。それもきっと彼女の迷いが晴れたからだろう。おかげで見た目相応のとても良い笑顔を見せるようになった。それについては私とリグもとても嬉しく思う。そう、とても嬉しい思う。
そこで私はロディアを改めて見る。
「〜〜〜〜‼︎(ギュッ)」
ロディアは満足そうに私とリグの腕を抱き寄せる。
そう、私たちは想像以上にロディアに懐かれてしまった。いまロディアは私とリグの間で腕を長時間にわたって抱きしめていた。身長が近い私は兎も角、身長の高いリグはずっと中腰状態をキープしていて表情は険しい。
「•••••••あの〜そろそろ私たち限界なんだけど...」
「もうちょっと!もうちょっとだけお願い!」
「••••••••••アハハ...わかった...あともうちょっとね...」
「ウッ...」
不味いリグが限界だ。でもあんな眩しい笑顔でお願いされたら誰だってOKするに決まってる。少なくとも私は断れる自信はない。“可愛いは罪”って本当なんだろうな、と私は胸の内で語る。
それにしても、と今のロディアを見てみて思ったことがある。
“そういえばロディア、自分から私たちに触れてくることなかったな...”
思い返せば、ロディアは触られることを嫌がることはなかったが、自分から接触しにくることはなかった。確かに知らない人にいきなり触れ合いに行く人はいないと思うしそれが普通なのだが、ロディアはちょっと違った。
思い出すのは昨日ロディアをお風呂に入れたとき。髪や体を洗っているとき、手を近づけて引っ込めるような仕草をしていたのを私は見ていた。
そのときは体に気になる所があるのかと思っていたけど、今思えばロディアからも私たちに近づこうとしていた証拠だった。それを理解したあとでいまのロディアを見てみるとずっとそれを押し殺していたことがわかる。
それ理解してしまったからこそ、彼女の願いを拒むことは出来ない。それが彼女のいま1番の願いなのだから。
するとロディアは満足したのか私たちの腕をそっと下ろす。そして私たちの前に立って笑顔でお礼を言う。
「ありがと!お姉さんお兄さん‼︎」
その笑顔がとても愛らしく思える一方で、どこかその仕草が寂しく思わせる。彼女はきっと本気で満足しているのだろうけど、どうしても私の目からはまだ痩せ我慢しているようにしか見えない。
私はそんな彼女の頭をそっと優しく撫でる。
「———————へっ!!??!」
相当びっくりしたのか素っ頓狂な声を上げるロディア。
「これからはいっぱい甘えても良いからね」
「う、嬉しいけど!お姉さんっ!?」
カーっと顔が赤くなっていくロディア。
「お、お姉さんの頭撫で...!?」
「じゃあ僕のほうにもたまには甘えに来て下さいね」
「お、お兄さんのも!?」
するとリグも便乗してロディアの頭を撫で始める。どうやらリグも私と同じことを思っていたらしい。リグの頭撫でも追加されてロディアは赤くなる顔を両手で覆い、プルプルと震え始める。
「二人の、頭撫で...?これ...これは...ぁ...!」
私的には“ちょっと愛でた〜”くらいの愛情表現だったのだけれど、ロディアは何故かとても興奮した様子。あれ?この子変なスイッチ入ってない?するとロディアは慌てて止めようとする。
「も、もう大丈夫...!!2人の気持ちはわかったから....!だから...!その...もう......」
興奮具合を隠したい為か私たちを思ってかは分からないけど、なんとか止めようとするも、ロディア自身の声は小さくなるばかり。それを見て私たちは顔を見合わせると撫でる手を早くする。
「!!??!は...ぁ...!わっ...ぁ...!」
もう驚き過ぎて言葉すらままなっていない。こんな可愛い様子止めるわけない。私の手元にカメラがあるなら、フィルムを使い切っていたかもしれない。しばらく続けると最終的にロディアはプルプル震えて俯くばかりになってしまった。
そこで私たちは撫でる手を止める。
「すいません、ちょっと悪戯したくなりまして」
「ごめんごめん!ロディアがとても可愛いかったから...!」
「•••••••••むぅ...」
ちょっとからかい過ぎて頬を膨らませるロディア。でも満更でもなかったらしく、撫でる手を止めたことの方に落ち込んでいる様子だった。
「••••••••お詫びにまた今度やってあげるから、ね?」
するとロディアはあからさまにパァと目を輝かせる。これで良いの???なにこの可愛い生き物は???守りたすぎるこの笑顔???私まで狂いそう。
そしてロディアは期待の眼差しでリグの方を見る。リグはアハハ...と浅い笑いが出るばかりで断ることも出来ず承諾する。
「—————分かりましたよ」
「——————‼︎ありがとう!2人共大好きッ‼︎」
その返答にロディアはさらに目を輝かせる。その時私たちはまた全く同じことを思っただろう。
——————“守りたい...”と。
気付けば、もう辺りは暗くなり始めていた。東に傾いていた夕陽は地平線のより上には半分も残っていない。その景色さえも綺麗で魅入ってしまいそうになるが、もう帰らなくてはならない時間だ。
「そろそろ、帰りましょうか。夜になれば危ないですから」
「そうだね」
「うんっ!!」
ロディアは元気よく頷いた。
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十数分後には僕らはレストラン“フレミア”の前まで帰ってきていた。家を目の前にして安心したのか店主とロディアは安堵の表情を浮かべる。
「やっぱり我が家が1番安心するね〜!いや〜それにしても今日は結構疲れたね〜」
「わたしも...足痛い...」
「あはは、確かに今日は沢山歩いたからね〜。今日は湯船にでも浸かろっか!ロディア、一緒に入る?」
「えっ!?お姉さんとお風呂...!?(ジュル...)」
店主の質問にもはや決定事項のように2人で入ることを想像するロディア。2人は楽しそうに会話をしながら家へ入っていく。それを見て僕も思わず安堵する。
正直な所、帰りになにか襲われるんじゃないかと内心警戒していたがなにもなかったことがなによりだ。2人に続いて僕も家に入っていく。ここが森の中なのもあって中はとても暗く、外よりも暗く感じる。
「ちょっと待ってね、いま灯り点けるから」
そこで店主は足早に家中のランプに灯りを灯していく。そこで店主は一つのランプの怪訝な表情をする。
「あれ?」
「どうかしました?」
「このランプの蝋燭、こんな短かかったっけ?」
そこで店主は僕にそのランプの蝋燭を見せる。その蝋燭は10cmほどの長さをしており、灯芯が少し焦げている。新品の蝋燭が12cmなので2cmほど溶けていることになる。
「別に普通なんじゃないですか?」
「ううん、そんなはずないよ。ここのランプは出入り口の近くで他の蝋燭より早く溶けやすいから頻繁にここの蝋燭は新しくするの。ここの蝋燭は最近新しいものに変えたばかりだからこんな短いのはおかしいよ」
店主は自信ありげに説明する。僕が来てから店主がここの蝋燭を数回ほど変えているのを見たことがあった。僕がここに来たのは今日から3週間前。この短い期間にこれだけ変える意味としては納得の理由だ。
つまり、誰かが••••••••••••。
その時僕は部屋の違和感に気付く。他のランプがいつもより激しい勢いで燃えている。普段静かに揺れるだけの灯火が今はボウボウと揺らめいている。明らかにおかしい燃え方。
何かがおかしい!何が......!?
「空気かッ......!!」
「え?なに?きゃっ!?」
気付いたときにはもう店主を抱えていた。そして近くにいたロディアに叫ぶ。
「ロディア!店主とローブを被って下さいッ!!」
「え?お兄さん?」
「早くッ!!」
「え!?う、うん!」
突然のことに驚きつつもロディアは急いでローブを店主と被る。ただ事ではない様子に状況を把握出来ていない店主は困惑して僕に問う。
「リグ!?どうしたの!?」
「••••••••••敵です...!!もう既に仕組まれていたんです...!!」
「「———————!!!!」」
その一言にロディアは顔が一気に青ざめ、店主は顔が引き攣る。
「今から外に—————‼︎」
「気付くのが遅いな」
「「「————————‼︎‼︎」」」
中よりは安全な外に連れて行こうとしたとき、後ろから別の声が僕の声を遮る。
振り返ると中折れ帽子を被り、黒のコートを羽織った男が背を向けて立っていた。僕たちはその男の姿に見覚えがあった。
それは、昼間にロイスの店ですれ違った
先程まで居なかったはずの男は客席ルームの真ん中で指を鳴らす。僕は素早く2人を後ろに下がらせ、臨戦体制に入る。
「護衛としては50点、気が緩んでいたんじゃないか?だが気付くまでの速さは100点だ」
「お前は...誰だッ...!!」
「いまいるか?俺が誰だってな」
そして男は鳴らしていた人差し指から小さな炎を作り出す。火の属性魔力で作り出した炎だった。
「———————!!!!」
「——————まずはここから逃げ出すことじゃないか?もちろん、“2人を守りながら”......な?」
そして男は人差し指の小さな下に垂らす。僕はそれよりも早く2人を抱えて走り出していた。まだ僕の足が速い!まだなんとか安全な場所に2人を連れて行ける!
そして出入り口に踏み出した瞬間、不意に足が傾く。
「なっ——————!!!!」
それは一瞬。足に電撃が走ったような感覚。それとともに足から力がほんの一瞬だけ抜けた。それは、見えないトラップだった。
そして後ろからあの男の声が聞こえる。
「素直に出す訳ないだろう。まぁ、この可能性に気付いただけ合格点だがな」
投下された炎は床に落ちる寸前だった。もう時間は無い。3人無事に脱出は諦めるしかなかった...。
だが——————
「店主、ロディア、申し訳ありません。頭を打たないようにだけ気をつけて下さい」
「「———————えっ...?」」
そして、抱えていた2人を思いっきり外に放り出した。
「リグ—————-ッ‼︎」
「お兄さ—————‼︎」
そしてそれと同時、炎は床に落ち、家内全体に充満していたガスに引火する。
次の瞬間、とてつもない衝撃が辺りを包んだ—————