メルアたちが帰ってきてすぐのこと••••••。
色んな種族が共生する世界、フレンダ。それぞれの種族はそれぞれの価値観、生き方、力差の諸々を互いに認め合い、尊重し、生きている。そしてこの世界の妖精族は、端的に言えばとても数が少なく、唯一の保全対象種族に当てられている。その理由は様々なものがあるが、数多くいる種族の中では極めて少数であること、生きるために必要なエネルギーが特殊な
「願いを叶える力?」
「ええ、僕も詳しい情報は知りませんが妖精族には種族特有の能力やスキルとは違うまた別の力があると言われています」
夜の外出から帰ってきて意外な客人の来訪に出会した私たちは、店前で眠っていた妖精族の少女を家にいれ、リビングのソファに寝かせた。介抱していると、ふと妖精族について気になったので洗い物をしていたリグから聞いてみた。
「でもそれってその、スピリット?エネルギーとは違うの?」
「恐らく...違うと思います。僕は魔力を扱うこともできませんのであまり確証のある話は知りませんが」
「希少な種族なので未知な部分が多いんだと思います」とリグは言った。種としての繁栄の仕方も、その
なんとなく全てを察した気がした。
「この子、悪い人から逃げて来たんだ」
「••••••そうでしょうね」
幼い姿に見合わない汚れたワンピース、ボロボロの体、そしてこのがっしりとした手錠。普通の状況ではないことは明らかだった。存在自体が希少な種族。そんな未知が溢れる妖精族に目をつけ悪用、または実験などを目的にする者も当然出て来てしまう。それ防ぐために妖精族以外の種族には妖精族には手を出してはならないと共通するルールが設けられているのだとか。
「とりあえずこの手錠外さないと...」
「任せて下さい」
そうリグは近づいてきて、少女に着けられている手錠を手に持つと、「んッ!」と言って両手の手錠を壊してみせた。
「終わりました」
「“終わりました”じゃないけど??これ結構頑丈だったよ??外すんじゃなくて壊してるんだけど??」
笑顔でひび割れた手錠を持つリグに思わずツッコミを入れてしまう。そこそこ頑丈さと重量感があった手錠を「んッ」の一言で壊さないで欲しい。え??軍人出身の人ってこんなこと出来るの??こんな華奢な体のどこにそんな力あるの??
「••••••とりあえず、このことはまた聞くとして。手錠はどうにかできたね。あとはこの子を起こさないと...」
まだ寝かせてあげたいけどこちらも事情を聞かないといけない。そして少女を揺さぶってみたり、声をかけてみたりしたけど...起きない。大分強く揺さぶってみたりもしたけど目を開けない。スゥスゥと寝息は聞こえるんだけどな。
「••••••起きないですね」
「••••••そんなに眠れてなかったのかな?」
「••••••逃げて来た相手に魔法をかけられてるとか?」
「え?普通に疲れてたとかじゃないの?」
「でもここまで起きないなんて...」
「それじゃあどうしたらいいの?」
「僕も店主も魔法は扱えないのでなんとも...」
私もリグもどんどん不安になっていく。私の知り合いには魔法を扱える人は知らないからどうしたら...
すると私たちの会話に間を挟む声が突如としてその場に響く。
「ねぇ」
その透き通るように滑らかな知らない声に思わず私たちは声の方向を向く。その声の主はついさっきまでソファで眠っていた少女だった。少女は澄んだ若草色の瞳でキョロキョロと周りを見渡して、少し不安そうな顔を見せると私たちに向き直る。
「••••••ここ、どこ?貴方たちは、怖い人?」
こうして私たちは本当の意味でやっと出会ったのだった。
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夜明けを迎えようとするランテラ街の広場には、幾数もの馬車が止まっていた。その馬車内では、何人もの男たちがため息を吐いている。
「駄目だ、みつかんねぇ」
「本当にちゃんと探したのか?」
「俺たちが通ってきた森のルートからランテラ街まで探知魔法使って探したが見つからなかったぜ」
「••••••もう、もう夜明けだ、流石に終わりだ...」
「く、クソ...!まだ
その様子を見ていたダーナーは予想通りと言わんだかりに鼻を鳴らした。
「ま、なんと無くは知ってたさ。恐らくもうどっかに潜り込んでる頃だろうな。相当ボロボロの体だ、そう遠くは行けねえ、恐らくどこかに拾われたと見るのが吉だろう。お前は何か分かるか?」
そしてダーナーは、後ろで窓の外を眺める用心棒の男に顔を向ける。
夜明け前の夜空というのは、黒という何色にも染まらない色が唯一色を変える瞬間であり、色としての黒という概念が壊されるただ一つの自然現象だ。黒という色に色を追加することは出来ても、黒という色はなにも変わらない。だがこの時ばかりの黒にはこの理論は通用せず、唯一相様を変える。なにも変わらないはずの色が、色を変える。この男にとってはそこが堪らなく好きだった。
見入っていたい気持ちを捨て去り、ダーナーの顔を向ける。
「そうだな、探知魔法が引っかからないという点が気になるな。妖精族というのは存在を構成するのが
「どういうことだ?」
訳が分からないと言ったような顔をするダーナーを置き、用心棒の男は1人の男に尋ねる。
「アンタ」
「••••••なんだ?あぁお前か」
戸惑う下っ端の男に躊躇いなく質問を投げる。
「探知魔法を使ったのはどの辺りだ?」
「探知魔法?大体は街だな、街から先は途方もねぇからやってねぇ。森の方面は
「やっぱりな」
「自己完結するな、説明しろ」
1人納得する用心棒にダーナーは痺れを切らす。用心棒は薄笑いを浮かべてダーナーに説明する。
「ランテラ街の近く、というか我々がこの街に来る途中に通った森はご存知だろう」
「そりゃあな、あの森を通らねぇと、迂回ルートになって2日はかかっちまう。嫌でも知ってら」
「実はあの森、異常地帯になっているんだ」
「そうだな、あそこは常に
「あぁ、地中深くにある霊脈にヒビが入ったせいで地面から大地の
「つまりガキは森に隠れてるってことか!だが、森にももちろん入念に探りを入れたぞ?」
「もちろんダーナー殿の予想通り、恐らく匿われているだろうな」
「あんな広い森に人がいるだと?いや待て、確か何回か前にここに来たときにどっかで聞いたぞ。“森でレストランを開く物好きな子供が居る”と...」
そこまでダーナーが言い進めると用心棒の男は指を鳴らした。
「当たりだ、ダーナー殿。捕虜はそこに居るだろう」
「良いぞ!やはりお前には期待するだけの価値がある!だが...」
「ダーナー殿の言いたいことは最もだ。“確証がない”。それに我々とて子供の家に大の大人数人で乗り込むのは流石に
「違う!俺が考えていたのは
「••••••••」
用心棒の男の顔が一瞬変わったことに気付かず、ダーナーは語る。
「レストランということは営業中は襲えんだろう、騒ぎになる。かと言って時間を掛けるのは....」
「そういう時のための俺なんじゃないのか?ダーナー殿?」
ダーナーがまた頭を抱えそうになっていると、用心棒の男が腰を上げて立ち上がった。
「お前...」
「アンタたちは昨日からずっと体を動かし続けているだろう。ここは、俺が調査してきてやるよ。まぁ報酬は受け取るがね」
「•••••••••」
少し考えたあと、ダーナーは不敵に笑った。
「良いだろう、
そして用心棒はダーナーを一瞥すると、馬車の出口に歩いていき、振り返る。
「この
用心棒の男は、確かにこの場でそう言った••••••。