魔銃と人のリコレクション   作:ハメット

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怖い人と優しい人

『いい?ここから逃げれたらすぐに優しい人に助けを求めること!』

 

『サーラは一緒じゃないの?』

 

『アタシは今日でロディアとお別れだからね、もう会えないよ』

 

『えっと、私、足が震えるよ?』

 

『違う違う、“足が震える”の使い方間違ってる。えっとね、そういうときは“怖い”か“寂しい”って言えばいいんだよ』

 

『あ、うん、ごめん。でも私、これからもサーラが言葉教えてくれないと、寂しいよ...』

 

『アーハハ...そんな可愛い目で見つめられてもどうしようもないよ?』

 

『でも、でも...』

 

『まぁまぁお気にしなさんな。んーそだなぁ、じゃあこうしよっ、ロディアがここから逃げ出して幸せになったら会いに行ってあげるよ』

 

『“幸せ”ってなに?』

 

『あーそういえば教えてなかったね。えーと、ここから出て、色んな人に支えられて、ロディアが人生モーマンタイに生きれるように〜みたいな?』

 

『良くわかんない』

 

『うんアタシも。まぁそうだね、一言でロディアに言うとするなら〜』

 

そう言って麦色の長い髪を弄んでいた少女はニカっと笑って言う。

 

 

『“アタシを忘れられるぐらい、人生楽しむこと”かなっ!』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「良かった!やっと起きたんだね!」

 

「魔法がかけられた心配は要らないみたいで良かったですね」

 

「あの、えっと、わたし...」

 

私たちが安堵する傍らで目の前の女の子は困惑した表情で見つめてくる。

 

「あっごめんね。起きたばかりだからびっくりするよね...。私はメルアマリード・アルフレデリア。メルアって呼んで!」

 

「僕はリコグレース、リグと覚えて下さい」

 

「メルア...?リグ...?」

 

「まだ落ち着かないよね。ちょっと待って、ミルク淹れてくるから」

 

そして私はキッチンに一旦戻り、温めたミルクのカップを持ってきて女の子にそっと手渡す。女の子はしばらく不思議そうな顔でカップのミルクを見つめていた。

 

「はい、温かいミルクだよ」

 

「ミルク...?」

 

「??お気に召しませんか?」

 

「・・・みずじゃないの?」

 

「えっ?」

 

「温かいミルクです、甘くて美味しいですよ。もしかしてご存知無いですか?」

 

「えっと、良く分からない...いつもみずを飲んでたから...」

 

思わずリグと顔を合わせる。妖精族がいかに希少な種族と言われていたとしてもミルクを知らないなんてことあるのだろうか。飲んだことは無くても存在くらいは知っていてもおかしくは無いと思うのだけど...。

 

「とりあえず、疲れてるみたいだしこれでも飲んで落ち着いて?大丈夫、変なものは入ってないよ」

 

「••••••うん」

 

女の子は少し迷ったあと、ミルクを飲み始めた。すると途端に目を輝かせ、羽が機嫌良くパタパタと動かし、ミルクを一気に飲み干した。

 

「美味しい!」

 

「良い顔です、元気は出たみたいですね」

 

「貴方たちは、良い人みたい...」

 

女の子の元気な姿が見れたので、とりあえずリグと胸を撫で下ろす。そしてようやく安心した顔を見せた女の子に向かって静かに質問する。

 

「ねぇ、君の名前を教えてくれないかな?」

 

「私の名前...。えっと、サーラはロディアって呼んでくれた」

 

「ロディアね...わかった。そのサーラって人は家族の人?」

 

「ううん、友達だよ。でもお父さんとお母さんはいない」

 

「••••••そのサーラって友達はいまどこにいるか分かる?」

 

「分からない...。会いたいけど、ずっと前にどこか行っちゃった」

 

「••••••そっか。じゃあここに来るまではどうしてたの?」

 

「ずっと狭い部屋に閉じ込められてて、血を抜かれた」

 

「血を?どうして?」

 

そしてロディアは困った表情で顔をうずめた。

 

「••••••分からない、サーラが言ってた。だから私、そこから逃げたの、それで、追いつかれちゃって...。だからまた逃げて...ここにいた」

 

「•••••••そうなんだ...。ありがとうロディア。良く頑張ったね。ちょっとここで待ってて」

 

そう言ってリグと顔を合わせるとロディアのそばを離れ、声を潜める。

 

「あまり感じの良い話は聞かなかったね...」

 

「十中八九、なにかしらの悪事に利用されてたんでしょう。妖精族には様々な狙われる理由がありますからね」

 

リグの表情は暗く、私も良い気分にはなれない。滲み出る年相応の幼さ、あの幼さで、どんな風に今まで生活をしてきたのだろう...。

 

「••••••私、あの子を放っておけないよ」

 

「はい、事情が事情です。僕も見過ごせません」

 

リグも頷く。

長期間の拘束生活、親もいない、唯一の友達だったサーラという人物もいない。いま聞いただけでもとても過酷な過去だったことが分かる。そしてなにより、同じような体験がある身として、ロディアと関わった身としては、私はロディアの事情を他人事として見ることは到底出来なかった。そして私たちはロディアの元に戻る。

 

「待たせてごめんね、ロディア」

 

「ううん、平気。我慢することには慣れてるから」

 

「••••••そうなんだね。ねぇ、ロディア。しばらくウチに泊まっていかない?」

 

「え?」

 

「ロディアは逃げる場所のアテとかあるの?どこに行けば良いとか、どこに行けば安全とか」

 

「••••••ない。とりあえず逃げないとって思ってたから...」

 

「だよね。だったらその場所が決まるまで、ここにいたら?」

 

「••••••でも私、迷惑かけちゃう...。なにも出来ないし、また怖い人たちが来ちゃうかも...」

 

「良いよ、どんなに迷惑かけられても貴方を見捨てる理由にはならないよ。それにきっと、このまま逃げても貴方じゃ危ないと思うからね。その間は私たちで面倒見てあげるからさ」

 

「でも...」

 

ロディアがまだ決められずに悩んでいたその時、不意に誰かのお腹が『ぐぅ〜』と鳴った。その音は紛れもない目の前の彼女からのものだった。リグは確かめるように、顔を赤くしてお腹を抑えるロディアの顔をじっと覗き込む。

 

「お腹、空いてますか?」

 

「あう......」

 

「お腹、空いてますか?」

 

「うぅ....!!」

 

リグの静かな圧に耐えかね、コクリ...とロディアは頷いた。それを見てリグは満足そうに微笑んだ。容赦ないなリグ...。でもお腹を空かせているということは、ここは私たちの出番だ。

 

「分かりました。料理のことに関してはここが1番です、ですよね店主」

 

「もっちろん、まっかせといて!レストラン『フレミア』オーナーの実力見せてあげる!ロディア、ついて来て!」

 

「え?う、うん!」

 

そして私たちはロディアを食事場のカウンターに案内する。ロディアは食事場を興味津々に見ていた。

 

「わぁ...!綺麗、お城みたい...!」

 

「ちょっと待ってて!パパッとなにか作っちゃうから」

 

「手伝いますね」

 

「ありがとっ」

 

少しリグと相談した結果、店で取り扱っていたキノコと鶏肉のクリームシチューが余っていたのでそれを応用したパスタと、豆が大量にあったからポタージュを作ることにした。ロディアはまだ体が休まりきってないから、冷たいものや胃に重い油系は無しと判断した。

 

「先にパスタ茹でてて!」

 

「ならクリームシチューも温めておきますね」

 

「よろしく!」

 

パスタの方はリグに任せ、私はポタージュの方に取り掛かる。テキパキと動く私たちを、ロディアはオロオロと眺めていた。

 

「•••••••••(オロオロ)」

 

カウンター席はお客さんが調理場を見る1番の席であり、料理人もお客さんの視線に気付ける席、そのため私もロディアの視線には気付く。

 

やっぱりまだ落ち着かないみたい...。

 

その時ふいに、ロディアと目線が合った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

この人たちはどうして私に優しくしてくれるんだろう。

 

 率直な疑問が頭に浮かぶ。昔のことなんて覚えてない、気付いた時からもう私は悪い人たちに檻へ入れられていた。私に分かることは自分が妖精族なこととサーラに貰った名前だけ。記憶が無い私にある価値は精々この妖精族としてのこの体だった。なんのためにこの体を使うのかなんて一切分からない。

でも毎日言うことを聞いていれば、最低限()()()()()()()。だから要求されることが私が()()()()()()。“生きろ”、それがサーラに出会った時に言われた言葉だったから。だから私はなんとしても生きなきゃいけない。

 

でも、この人はなにも要求してこない。ただ私のために食べ物を用意してくれている。縛られている訳でもない。いつでも逃げていいと言っているみたいに。

正直、まだこの人たちがサーラの言う“良い人″なのか分からなかった。私は生きなきゃいけない、だからまた悪い人たちに捕まるのは嫌だ。サーラも私が妖精族である以上、あまり人を信じちゃ駄目と言っていた。だからまだ信じちゃ駄目、駄目なんだから...。

 

そう思って待ってる間、この場所と2人から目を離さないようにする。すると偶然お姉さん...メルアさんと目が合った。

 

「う...あ....」

 

「あっ••••••••」

 

なんと言えばいいか分からない、ただ私は居心地が悪くなる。向こうも驚いたみたいで、目を丸くした。でも途端に片目を瞑ってウインクした。“もうちょっと待ってて"...ってことなのだろうか..?メルアさんとそれ以上目を合わせることはなかった。

 

「••••••••」

 

本当に..."良い人"、なのかな...?

 

 

「はいっ‼お待たせっ‼温かいスープとクリームパスタだよっ‼」

 

「これ、が...?」

 

出てきたのは見るからにドロッとしている液体と、細い糸のようなものにまた何かの液体がかかった()()()。どちらとも私には馴染みのない、食べ物と言えるかわからないものだった。でも—————。

 

「良い...匂い...」

 

食べたことも、見たことも、感じたこともないはずなのに。目の前の料理から漂ってくるその香りは、今まで食べてきたごはんよりとても‟美味しそう"だと思った。そうするとまたお腹がなって、早く食べたいと催促してくる。

 

「・・・食べて、いい?」

 

思わず警戒するのも忘れて、二人に聞く。

 

「良いですが、その前に...」

 

だがリグさんに静止されてしまう。そして二人は顔を合わせて、メルアさんが私の横に座る。

 

「ロディア、教えてあげる。ご飯を食べる前には、必ず()()()()()()()()()()があるの」

 

「そうなの?」

 

「うん、ご飯を食べるときは両手を合わせて、ご飯を作ってくれた人、それとこれから頂く食材に対して感謝してこう言うの!」

 

そしてメルアさんは両手を合わせて、目の前の料理に向かって静かに言う。

 

「"いただきます"ってねっ‼」

 

そして彼女はまた可愛らしくはにかんでウィンクした。

 

思わず目をぱちくりとさせる。感謝?どうして?今までなにかを食べる時に()()なんてしたことがなかった。ただ生きるために食べなきゃいけないと思ったから。だから()()する意味が分からない。

でも、なんとなくだけど、()()しなくちゃいけないと思った。

 

自分でも小さいと思える両の手の平をぎこちなく、ゆっくりと合わせる。

 

「••••••こう...?」

 

「そっ!それから“いただきます”って言うの」

 

「••••••い、いただきます...!」

 

「よく出来ました!」

 

そう言われて、彼女の笑顔に見届けられて、改めて目の前の()()()を見る。心なしかそれは、さっきよりも美しくて、美味しそうに見える。そして私は、渡された食器を持って()()を掬い上げると、一思いに口に運んだ—————。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

きっと彼女は今日という今日を生きるのに精一杯だったはずだ。だから“いただきます”なんで言葉を言う余裕もなかったのだろう、ロディアにいまの言葉の意味が完全に伝わっているかと言えばそれは無理な話だ。

 でもここはレストラン『フレミア』、ご飯を頂く場所。どんな人であっても作法は絶対だ。

 

一口目のパスタを口に運んだ途端、ロディアはしばらく顔をうずめて動かなくなってしまった。なにも言わず、手を止め、ただ下を向き続ける姿に、料理が口に合わなかったのかと少し心配したが、その不安は杞憂に終わることになった。

 

「••••ロディアさん?」

 

「••••••••••••••」

 

「••••大丈夫ですか?」

 

「••••••••••••••」

 

リグが心配し、声をかけてもロディアは反応しない。だがそれと同時にテーブルに幾つかの水滴が流れていた。

 

 

————そう、ロディアは、“泣いていた”。

 

 

「•••••おい、しい...おいしい...」

 

涙を拭いながら、ロディアはポツリと呟いていた。

 

「••••おいしい...いつもずっと...味がしないものを、食べてたからっ...!!こんなにおいしいものを食べたの、初めてでッ!!ごめんなさい...どうしても...泣いちゃうの...ごめんなさい...!!」

 

泣かないように、涙を止めようと涙を拭うが、それでも彼女の涙は止まらない。そんなロディアを見て私たちは思わず目を合わせる。そして2人で涙を拭いながら、優しくロディアに言う。

 

「謝らないで?貴方が謝ることはないんだよ。泣いてもいい、ゆっくり食べてね」

 

「今は気にせず、泣いたって構いませんよ。僕もその気持ち、よく分かりますから。いまは僕たちがいますから、遠慮なく聞きますよ」

 

それを聞いてホッとしたのか、笑顔でロディアはポツリと————

「••••••うん...ありがとう、ございます...‼︎」と言って、フォークをぎこちなく、震える手で握り、また料理を食べ始めた...。

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