魔銃と人のリコレクション   作:ハメット

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新生活の予熱

 食事を終えたロディアの食器を洗いながらリグはそう物思いにふける。ロディアとメルアはお風呂に入っている。流石にお風呂はリグも手伝う訳にもいかないため、2人がお風呂に入ってる間にキッチンの片付けをしているのだ。そんな折、リグはロディアが料理を美味しそうに食べている光景を思い出す。

 最初は人間の食事は合うのだろうかとか、今まで過ごしてきた環境のことを考え、ちゃんと食べてくれるのかとか。そんな心配をしていたが、そんな考えに反してロディアはメルアの食事を残さず食べた。メルアやリグが言葉を挟む隙もないほど。

 

(良かった...)

 

リグも手伝ったが、尊敬する人のご飯なのだ。喜んで食べてもらえるのはメルアを慕うリグにとっても嬉しいことだった。今更ながら、なんとなくロディアが料理を口にしたときの反応はここに来たときの自分自身に見えたような気がした。それがなんとなく不思議で、おかしくて、小さくクスッとリグは笑う。

 

「ふぅ、さて」

 

部屋の用意をしなくては。明日からはロディアもここで一緒に住む家族のようになる。その部屋の用意をメルアから頼まれていた。ロディアは良い子だ。リグ自身も最近ここに住まわせてもらって3週間ほどしか経っていないが、一緒に住むホームメイトとして仲良くできればと思う。

 

“どんな日々になるのだろう...”

 

なんて、そう思ってリグは新しい生活の夢を感じて部屋の用意に向かった。

 

 

 

 

「あーうー...」

 

「ほらロディア、目瞑って!」

 

「うん...」

 

そしてメルアがロディアに頭からお湯を被せる。今まで体を綺麗にするという経験がなかったロディアにとっては慣れないもので、とても不思議な感覚だった。

 

「大分髪綺麗になったねー!」

 

メルアはそう言う。ロディアのミルク色の髪は元々綺麗だったところから更にサラサラになりながら艶やかな光を発するように透き通るほど輝きを増していた。体も綺麗にしたので、メルアはロディアを湯船に浸からせた。

 

「どうして体を綺麗にするの?」

 

「どうしてって、そりゃ女の子だもの。綺麗にしなくちゃ折角の綺麗な顔が台無しだよー?」

 

「別にわたし、気にしない...」

 

「ダメダメ!体が不清潔なのはロディアにとってよくないし綺麗さは女の子の武器だよ?私の恩人も『清潔は保ちなさい』って言ってたんだから!」

 

「•••よくわかんない」

 

「確かにロディアにはまだ分からないかも。でもお風呂に入っていったら自然にわかるよ。きっといつか好きになると思うよ?」

 

「••••••そうなの?」

 

「うんうん!」

 

「•••••••••」

 

メルアの言葉にロディアは言われるがままに頷いた。

 

 

 

 

少しして、ロディアがお風呂から上がり、着替えを終えると、2人はリグが用意していた部屋へ向かった。部屋は元々使っていなかった工具やその材料置き場だったため、メルアだけでは片付けが難しく長らく放置していた。なのでリグと2人で片付けからする予定だった。————が、リグは1人で、それも短時間で全て片付けたどころか丁寧に掃除を済ませ、家具の用意まできっちり熟していた。

 

先に片付けを任せていただけのはずなのだが、流石はリグだろう。想像の遥か上をいく。リグの規格外エピソードはまだまだ増え続けるだろう。

 

「もう慣れたはずだけどやっぱりちょっとドン引き...」

 

「ははは、ご冗談を」

 

「いや本気」

 

「え?」

 

思わず半笑いで涙目になるリグをメルアは「嘘嘘」と嗜め、ロディアに手招きする。

 

「とりあえず、ここが今日からロディアの住むことになる部屋ね!大体の家具は揃ってるはずだし、家の中の説明はしたからトイレの場所も大丈夫だよね?」

 

「うん、大丈夫」

 

「よし、なにかあったら私かリグに言ってね!いい?」

 

そう言われロディアはコクリ、と頷く。それを確認した2人も同じく頷き、「おやすみ」と部屋を後にしようとした。するとロディアは2人を何気無く引き留めた。

 

「待って」

 

「?」

 

「どうかしましたか?」

 

一瞬、ロディアは迷った。この胸の内を今この2人に伝えるべきか。それと同時に幾つもの更なる迷いも出てくる。ガッカリするだろうか、心配するだろうか、それとも怖がるだろうか....。

 

だがすぐに思い直し、

「うん、わかった。ありがとう、こんな私のためにしてくれて」と言うと、()()()()の笑顔を作って2人を見送った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【翌日】

 

 

ロディアは暖かな陽射しが当たる窓辺のベッドから体を起こした。一瞬辺りを逡巡すると、今度は自分の腕を見つめる。今までなら、寒く暗い地下牢で朝1番に叩き起こされ、鎖で重い腕を引きずって1日が始まっていたことだろう。だが今は鎖の繋がれていない手首、誰にも叩き起こされない朝、明るく暖かい部屋。何もかもが逆だった。

それはロディアにとって“信じられない出来事”であり、しばらくの間呆然として腕を見つめ続けていた。

するとドアの外からノックが聞こえた。ロディアにとっては突然のことなので思わず素っ頓狂な返事をする。

 

「ひゃいっ!!」

 

「あ、起きてますか?リグです、店主が昨日渡すのを忘れていた着替えを持ってきました。入っていいですか?」

 

「だ、大丈夫...です...」

 

——————返事を皮切りにリグが部屋に入る。手には緑と白地の布が使われている普段着と一体化したワンピースと、その他リボンブーツや髪留めなどがあった。

 

「おはようございます。今朝は良く眠れましたか?」

 

「うん、初めてゆっくり眠れた...嬉しい...」

 

「良かったです...!」

 

リグは心から嬉しそうな表情で微笑む。

 

「とりあえず今日ロディアが着る服を持ってきたので着替えてみて下さい。店主のお古らしいのですが、サイズ等は店主によると『ロディアの身長は私よりちょっと下だから大丈夫!』とのことです」

 

と言ってリグは持って来た着替えをベッドに置くと部屋を後にしようとする。

 

「では僕は行きますね、服の着方などは大丈夫ですか?」

 

「大丈夫」

 

「分かりました、では僕は店主の手伝いに戻ります。店主が朝ごはんを用意してるので着替え終わったらリビングルームまで来て下さい。場所は分かりますか?」

 

「分かる、と思う」

 

本当はもう少し自信がないが、それ以上の心配はかけないためにあえてそう言った。

 

「なら良かったです、それでは」

 

相変わらず可愛らしく微笑んで、リグは礼儀正しく部屋を後にする。

 

とりあえず、渡された着替えてみる。数分後、部屋にかけてあった鏡を覗いてみるとそこにはワンピース姿の可愛いらしいロディアが写っていた。

 

「か、可愛い...!」

 

全体的に布が薄めの長袖ベルトのワンピースで、白地をベースにロングスカートの緑のレースや手首の小さいリボンがお洒落な雰囲気を出している。『自然の緑』を感じるデザインになっており、他には白のタイツや、ロディアが裸足だったため黒のリボンシューズ、前髪避けに髪留めなどを身につけている。

 

鏡の前で手を広げてみたり、体を動かしてみると、とても着心地がいい。サイズがぴったりであり、メルアがしっかり吟味して選んだ服であることが伝わってくる。

 

ロディアには鏡に写る自分が他人のようにしか見えなかった。まさか自分がこんな服が着れるとは思っていなかったからだ。少し鏡の自分に見惚れていると、思い出したかのようにハッとした。2人がご飯を作ってくれているのだ、遅れるわけにいかない。名残惜しくも鏡から離れ、ロディアはすぐさま部屋を後にした。

 

 

 

 

「あ、きたきたおはよー!」

 

あのあと少し迷いながらも、記憶を頼りなんとかリビングルームに辿り着くと2人がパンを乗せた皿を並べて食事の準備をしていた。入って真っ先にに気付いたメルアが元気に駆け寄ってくると、新しい服に身を包んだロディアをマジマジと見つめる。

 

「可愛い!やっぱり私のセンスだね!ロディアならこの服が似合うと思ったの!」

 

フフン!と胸を張るメルアにお礼をする。

 

「ありがとうメルアさん、私もこの気に入った」

 

「うんうん!女の子は可愛くなくっちゃね!もう朝ごはん出来たから座ってて!」

 

そう言われたため皿が置かれた椅子に座る。更には甘い香りが漂う食パンが3枚重なっており、蜂蜜やバニラがかけられている。

 

「これ...なんだろう...?」

 

「フレンチトーストですよ」

 

返事の主は先程別れたリグだった。全員分のフレンチトーストを作り終わったのか、最後の皿を片手に、もう片方の手には食べるために必要なカトラリー(ナイフとフォーク)が握られていた。

 

「フレンチトースト?」

 

「甘くてフワッとしている食パンです。おやつやスイーツみたいなものですね」

 

「甘い...」

 

生まれてこの方ロディアは甘いものを口にした経験がないため、ロディアにとっては想像がつかない表現だった。

 

「ま、食べてみたら分かるよ!」

 

リグに続いてキッチンから出て来たメルアがそう言って席に座る。リグもメルアの隣の席に着く。そして2人が手を合わせるのを見て、ロディアも手を合わせ、3人は——————

 

「「「いただきます」」」

 

と言った。

 

「ほらっ、食べてみて」

 

そう言われフォークを手にフレンチトーストを切り取る。見た目は液体の染みた食パン。それを意を決して口に運ぶ。

—————その瞬間、口の中に蜂蜜の甘さとバターの香ばしさが広がり、モチっとした食感が味の深みを生み出す。それに堪らずロディアは目を見開く。

 

「甘くて美味しい...!」

 

—————思わず頬が落ちそうだ。パンがこれほど美味しいものだとは思わなかった。今までロディアが食べて来たパンは味のしないものがほとんどだったため、彼女自身どうしても信用できない部分があったが、良い意味で見事に予想を裏切られた。

 

そこからロディアは2人が見守るなか、無我夢中で食べ続けた。それを見た2人もホッとして自分たちの分も食べ始める。

—————と思ったときメルアが声を挙げる。

 

「あ、そうそう」

 

ロディアはもちろんだがリグも同じくメルアに目を向ける。どうやらリグも知らない話であるらしい。

 

2人が疑問の顔で彼女を見つめると、メルアが落ち着いた表情で淡々と言う。

 

「今日、店閉めてみんなで街に遊びに行こう」

 

 

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