「わぁー!」
目の前に広げるのは、ランテラ街を歩く大勢の人、人、人。中にはちらほらと獣人や、少し人間と外見的容姿が似ている亜人。更にはドワーフや兎人などこの国でも妖精族ほどではないが珍しい種族が市場を闊歩していた。昼間の賑わうランテラ街を見たことがなかったロディアは感嘆の声を漏らす。
「人がいっぱいだね!」
そう言い振り向いたロディアはリグのローブを被りながら笑顔で言う。
「•••••••えぇ...」と死んだ目をしながら相槌をするリグ。「でしょー!」とこれまた楽しそうに笑うメルア。メルアとロディアは楽しそうに街を見物していく中、まるで恨めしそうに、悔しさも入り混じったような声が小さく聞こえた。
「•••••••しい...」
声に気付き、メルアとロディアが振り返ると、リグが顔を埋めて立ち止まっていた。
「リグどうしたの?」
するとリグはまだ恨めしそうな声を出す。
「•••••••おかしい...」
「なぁに?」
「明らかに...おかしい...」
まるでうわ言のように呟き続けるリグ。
「店主、なんで、なんで...」
「—————こんな服を、選んだんですか...!」
そう言ったリグは恥ずかしさのあまり、顔を赤らめ少しの怨みの視線をメルアに向ける。
視線を向けられたメルアは含みのある笑みで首を傾げると
「どうしてそんな顔をするの?折角の
「店主〜〜〜〜ッ!!」
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—————時は遡って十数分前。
メルアによる朝食中の外出宣言に少し心配の表情で顔を見合わせた2人。
「どうしていま、外出に?」
「ちょっとロディアの服を見に行きたくて。ほら、これから一緒に生活するとしてもここレストランだし、人目につく姿は良く無いでしょ?」
そうしてメルアはロディアの背に目を向ける。そこにはクリーム色の半透明な羽が時折りパタパタ動いているのがわかる。妖精族の羽は大きさを調整できる為いまは小さくなってはいるが、それでも30センチ程の大きさをしており人前に晒せばすぐに見つかる危険性があるだろう。
「ここもいつまでも休業出来る訳じゃない。だからいっそその羽隠せる服とか探したいなって」
それにリグも素直に納得する。確かにいまの休業状態を続けていればこの先生活がままならないのは事実。だが問題もまだある。
「でもロディアはどうやって外に出れば?今の服じゃ外には...」
「うん、だから羽が隠せる服が見つかるまではリグのローブで隠そう」
「————え?僕のローブですか?」
そこでリグは苦い顔をした。
「うん!そのローブならロディアの全身も隠せるしピッタリだなって!」
笑顔で言うメルアはリグにとって鬼の顔のようであった。だが理に適っていることは事実。それに
「分かりました」
「ありがと、リグ!」
「でもそうなると僕の衣服は...」
リグの服はローブとセットで着る服の為、ローブがないことには着ることが出来ない。かと言ってリグ自身は服は余り持ち合わせていない。
「あ、それなんだけど————」
そう言ってリビングを飛び出したメルアはすぐに戻ってくると、手に持つ可愛らしい女性物の洋服一式を差し出す。
「これ、来てみて!」
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ときは現在に戻り、リグは私が持ってきた女性ものの衣服を着ることになった。街のベンチに座って拗ねるリグを必死に宥めていた。ちょっとやり過ぎてしまったみたいだ...。
「•••••••••••」
「ごめんごめん!そこまで拗ねないで?ちゃんとリグに似合うように選んだんだよ?」
リグは白のカットシャツの上からコートを羽織り、リグのイメージカラーに合った水色のロングスカートという格好をしていた。その姿は、どこか大人な雰囲気を醸し出しつつ、リグの女性のような顔立ちを全面に押しだす服装だった。
「•••••••だからと言ってなぜ髪も?」
「それはほら—————服装に合わせて、ね?」
普段は首筋辺りで纏めていた長い髪も、今回は右の横髪を高い位置で留めてサイドテールのようにしていた。これも全て嫌がるリグに無理やり施したものだ。
「というかどうして女性ものの格好なんですか..!」
「••••••••だってリグって可愛い顔してるから...ねぇロディア?」
そして後ろで好奇な目でリグを見つめるロディアに同意を求める。その手には数分前にレストランの常連さんが営むパン屋で買った、焼きたてメロンパンが握られていた。
「うん!私もお兄さんの顔見たときは女の子かと思った!」
「〜〜〜〜〜〜ッ!」
怒るに怒れない理由だったためかリグはしばらく悶々としていたが、やがて諦めたように肩を落とした。
「はぁ...わかりました。本当はこんな動きにくい格好は好きではないんですが...折角店主が選んでくれたみたいなのでこのまま着ておきます...」
うなだれながらも立ち上がるリグに内心ホッとする。今度からこういう悪戯はたまにやるようにしよう。
「それでお姉さん、行きたいお店って?」
覗き込むように話しかけるロディアに目を配らせ、
「この道を少し歩いて曲がった路地にあるちょっとした老舗。この街でもあのお店のことを知ってる人は少ないんじゃないかな?」
人同士の繋がりが強いカーメルの中でもひとしきり繋がりが強いランテラ街。大抵の店同士にも繋がりがあり、今日までそうした繋がりで街を守ってきた長い歴史がある。そんなランテラ街の住人でも知っている人が少ないお店があることには、移ってきた当初の私自身最初は驚いたものだ。私がその店を知ったのは本当に偶然。運良く見つけられただけなのだ。
「本当に、そのお店にはロディアの羽を隠す服があるんですか?」
「そこまでは、ね。私もそこまで行くことはないから。ちょっと自信ないなぁ...」
レストランの経営者としては雑貨店によることが無い上、必要な物を買うなら他の店で良いため余り来ることはなかった。
そんな感じに話をしながら道を曲がり少し進むと、ツタの掛かった白レンガの壁に囲まれた小さな店があった。店前には不思議な花が咲く植木鉢や、どうやってバランスのとっているか分からない不揃いな大きさの木製ボールが2つシーソーのように転がり続けるおもちゃが置いてある。いかにも魔道具屋と言った感じだ。
「•••••••ここが...」
「凄くワクワクするね...!」
「まぁなんというか、本当にオシャレだよね」
私もこういうお店に憧れたことはある。いやまぁ充分自分のレストランもオシャレな自信はあるのだけれど街中のこういう店は憧れるのだ。カーメルに来たばかりの頃、右も左も分からないまま街を彷徨い、歩き疲れた所にこの店に偶然出会ったのだ。
「とりあえず入ろっか」
いつまでも見続けていても仕方が無いので店に入るよう提案。頷いた2人を見て、店の扉に手を掛けようとしたそのとき、勝手に扉が開いた。
「え?わわわっ」
開いた扉に気を取られていると2人の男性が出てきた。1人は店の店主であり、一度私が会ったことのある初老の男性だ。そしてもう1人はマントを全身に羽織り、深く帽子を被った男性だった。顔はよく見えないが体格と雰囲気でなんなくそう理解する。
「••••••••••••••••••••」
「••••••••••••••••••••」
その男は困惑する私のことをしばらく視界に入れたあと、リグとロディアに目を向けてまた静かにこちらを見続けていた。
“なに?この人...”
あまりにも喋らずこちらを見続ける相手に不気味さを感じる。しかもこの感覚は何故か既視感があった。2人の様子を見たいが一瞬でも目を逸らせばこの圧に飲み込まれそうだった。だがそのとき——————
「おい、店の前で立ち止まるな。迷惑だろ。せめてもうちょっと前に出てやれ」
そう言ったのは店の店主である初老の男性だった。いかにもと言った不機嫌な顔で客であっただろう男に対して圧をかける。その様子に、男は一度店主の顔を見る。そして「フッ」と小さく笑ったあと、
「悪い、コイツらに興味を惹かれたんでな」
と言って店から離れる。
「見送り悪いな」
「客には相応の礼儀は尽くす、それだけだ」
そして男は、店から離れるように歩き出そうとして、またこちらを振り向く。だがそのとき、リグが私とロディアの前に出る。
「僕たちに言いたいことがあるのなら、はっきり言ったらどうだ?」
あまりのしつこさからか、リグは我慢できないとばかりに堂々と声を上げる。それを聞いてか、男はまた小さく笑うと、
「いや、なんでもないさ。こちらの勘違いってやつだ、悪かったな」
そして男は路地を歩いていくと、人混みの中から姿を消した。
「なんだったんだろう...」
「分かりませんが、あまり良い気はしませんね」
「でもなんだろう、あの人...」
会ったことある気がしなくもない、そんな気が一瞬した。雰囲気や声の感じがなんとなく会ったことのある人物の物に思える。だがそんな疑念も一瞬で消え去る。
「ロディア、平気?」
まだロディアはこういうことは苦手だろうかと思い声をかけるが、返ってきたのは予想に反して明るい声だった。
「私は大丈夫だよ!」
「そ、そう?怖くなかった?」
「私、こういうのには慣れてるし。それにあの人、そこまで怖く見えなかった」
「••••••••そうなんだ...」
そういえばロディアは幼い頃からそういう怖い経験をしていた。あまり良いことでは無いと分かってはいるが、彼女が悲しまないのならそれはそれで良かった、と思いたい。
すると店の店主が仏頂面でこちらを見ながら声をかける。
「おいお前ら、聞こえなかったか?店の前で立ち止まるな。ウチに用があるんだろ、客ならさっさと入れ」
「「「ご、ごめんなさーい!」」」
そう店主に急かされ、私たちはその不思議な雑貨店に足を踏み入れた。