「「「ご、ごめんなさーい!」」」
店主の男性に急かされ、私たちはその不思議な雑貨店に足を踏み入れた。
一歩店に踏み入れた途端、視界に入ったのは途轍もなく広い店内。陳列棚が無造作に並び、人形や雑貨が数えきれないほど置かれている。足元には大量の雑貨が入った箱がこれまた、ギリギリ足の踏み場があるというほどに置かれていた。
「••••••相変わらず、だなぁ...」
「あぁん?文句か?」
「いゆいや!雰囲気に合ってるなって!」
慌てて言葉を返すと店主の男は「ふん」と鼻を鳴らして店の奥に進んでいく。するとロディアがちょこちょこと近くに寄ってくる。
「ちょっと怖いね...」
「元からああ言う人だからね、本当は良い人なんだけど...」
さっきの人物に対しては恐怖は感じなかったらしいロディアだが、ここの店主に対しては多少怖いらしい、いまいちロディアの怖さの基準は分からない。
「ん?」
「なんでもないよ!」
余程耳が鋭いのか遠くでもこちらの言葉に反応してくる。大声で話そうものなら怒鳴り声が飛んで来そうだ。すると今度はリグが話しかけてくる。
「この店、なんだがおかしくないですか?」
「この広さのこと?」
「えぇ、明らかに外から見た外装以上の空間があるように感じます」
リグの疑問は最もだ。この店は外から見れば小さなカフェくらいの広さしかないように見えるが、中は大きい畑2.3個ほどの広さがある。誰だってここに入れば気付くだろう。
「私も良く知らないんだよねぇ、ほら、あの人あまり会話してくれなさそうでしょ?」
「まぁ、確かに...」
生憎私自身も一回来たというだけで詳しくは知らないのだ、どうやっているのかは知らないが、恐らく魔法か能力の類であることは間違いないだろうとは思う。
「ここにそのロディアのための服が?」
「さぁ....?」
「おい、早くこっちに来て用件を言え。どれだけ俺を待たせやがる」
「は、はぁ〜い...」
またもや威圧感のある声に急かされ、私たちは店の奥のカウンターで新聞を読む店主の元へ向かった。
「随分と久々に顔を出したな、小娘。今回はちゃんと客として来たんだろうな?」
「あ、アハハ〜...久しぶりロイスさん...お客かどうかはロイスさんの品揃え次第かな...」
ほぼ一方的な会話に思わず後退りしそうだった。私の言葉に睨むように鋭い目をするロイス。口元は不気味に口角が上がっている。ぶっちゃっけ怖い。初めて会った時からこうで、正直この人との会話はプレッシャーしか感じないのだ。
「言ってくれるな、小娘。店の前でぶっ倒れてたあのガキが今じゃ立派な店の看板背負ってやがんのか。せめて街の人間として開店挨拶くらいはしやがれ」
「あは...アハハ...ごめんなさーい...」
全くその通りである。あまり近づき辛いこともあり、あえて避けていたことは口に出さない。ロイスは次にロディアとリグを見定めるように交互に見た。
「コイツらは?お前の友人か?この街じゃあまり見ねぇ顔だな?」
「2人は訳あって私の店で雇ってる(一応ロディアも)の。紹介するね、1人目に雇ったリグ!自慢のホール担当!それでこっちはまだお手伝いさんのロディア!まだどこも手はつけてないけどこれから教えていくつもり!」
「こんにちは、いつかホール脱却を夢見るリグと言います」
「こ、こんにちは...!お、お姉さんに弟子入りするロディア...です...!」
中々個性的な自己紹介をする2人に「ふん」と一蹴するロイス。中々に無慈悲である。
「お前、ちゃんとこの2人を養えてんのか?雇ってる以上はちゃんとした福利厚生は与えてるんだろうな?」
「あ、当たり前だよ。衣食住と給料、共同で働く以上はちゃんとしっかり提供してるよ...!」
「本当かァ?今年で...14だったか?そんな若い奴が経営者してて福利厚生をしっかり理解できてンのかァ?」
「う、うん...」
とても信用出来ないというような鋭い目で私を睨むロイス。大丈夫。ちゃんと理解してる。お店を開く時から、この辺りの勉強を欠かすなと恩人たちに言われたのだから。
するとリグが私の前に立つ。
「心配の言葉感謝します、ロイスさん。しかしお言葉ですが、彼女はちゃんと店のオーナーとしての責務を全うしているように存じます。いつも仕事後にはご飯を僕のために別で分けて作ってくれています。個人の部屋は自分で管理すると2人で決めたのに、部屋の掃除を僕の見ていないところで健気にやってくれていたりと、契約以上の報酬を与えてくださっています。雇われて約一か月の僕が保証します、どうかそれ以上の言葉は辞めていただきたい」
リグが擁護してくれたのが嬉しいというより、リグの部屋をこっそり掃除していたことがバレていた新事実に目を逸らしたくて、とても感動することが出来ない複雑な心境である。
「お姉さんどうしたの?顔が暗いよ?」
純粋なロディアは律儀に心配してくれるが、その心配はかえって辛い。するとリグの熱意が伝わったのかロイスは睨むのをやめ、やれやれと言った素ぶりで首を振る。
「はっ、わかったわかった。今の小娘でも2人を雇って生活するくらいの余裕があるなら文句はねぇよ。この話は辞めだ」
なんとかこの話題から解放されたことに少しホッとする。またリグのおかげで助かっちゃったな、リグと話し合うことについては保留にしておこう。
そこでようやくロイスが本題についての話を進める。
「じゃあ本題だ。改めてようこそ、
それ聞いてリグとロディアに目を配らせ、ロイスに目的の品について話す。
「実は、姿を変える服を探してるの」
「姿を変える服ゥ?一体なんだってそんなもんがいるんだァ?」
「実は...ロディア、良い?」
そして私は背中に隠れるロディアに確認をとる。ロディアは小さく「うん」と言ったあと、ロイスの前でローブを脱ぐ。
ロイスはロディアの隠れていた羽を見て一気に顔が険しくなる。その瞬間、辺りの空気が氷のように冷たくなるのを感じた。
「妖精族...」
「この子はいま、私のとこで匿ってるの。お願いロイスさん、このことは他言無用でお願い。この子、多分誰かに狙われてるの!」
私の言葉を聞いてもロイスは顔を崩さない。
正直、こうなる覚悟は出来ていた。仕方がないのだ、リグの話によると基本妖精族は見かけたら国家に連絡するというのがこの国の一般常識なのだから。すぐに連絡しないだけロイスはまだ優しいのだ。
「そんなことはどうでも良い。いずれソイツをどうすんだ?国に引き渡すのか?お前の所で匿い続けるのか?流石の小娘でも、この国の妖精族の扱いを知ってるはずだ。だから答えろ、俺の目を見て答えろ。話はそっからだ」
「それは...」
「お、お姉さん...」
この目は、本気だ。
一言でも甘い言葉を言おうものなら私たちを追い出して国に連絡を入れるだろう。そんな空気を纏っている。流石のリグも口を挟めないほどの圧を放っている。
「わ、私は...」
もしここで本当のことを彼に話したとして、彼はどう思うだろうか?馬鹿馬鹿しいと言って一蹴されるんじゃないだろうか?ここで嘘を吐いて、この場をやり過ごそうか?全てを一蹴されて全部無駄になるくらいなら、万が一にかけて、嘘で逃げたほうが安全なんじゃないだろうか?きっとそれが一番安全だろう。変に危険を晒すわけにはいかないのだ、この子は私が守ると決めたのだから。
「•••••••••••」
ふと必死に私の腕を掴むロディアに目を向ける。ロディアは恐怖でもなく、心配の表情でもなく、ただ諦めたように俯いていた。
ここで嘘を吐いたとしても、この街でロディアを匿う以上いずれ打ち明けなければならない日がきっと来るだろう。それはロディアにとっての幸せにはならない、隠れることを強制するのは自由を縛る行為に過ぎないのだから。
それにロイスにはこういう嘘は絶対に通じないだろう。商人というのは嘘を見抜くことに長けている。もしここで嘘がバレてしまったら、きっと目的の服は買わせて貰えない。そうなってしまえば本末転倒だ。
「•••••••••••」
私は微笑んで、ロディアの頭を優しく撫でる。私より頭一つくらい小さいロディアの身長は、ちょうど頭を撫でやすく、表情が見やすい。顔を上げるロディアは不安な顔を見せるが、私の顔を見て決心したのか、小さく頷く。
そして私は真っ直ぐロイスの目を見る。そしてニヤリと笑うと、嘘偽りなく、胸に手を当てて、本当のことを話す。
「——————
「•••••••••••••••••••」
長い、長い沈黙。聞き届けたロイスは静かに目を閉じ、頭を手で押さえ考え込む。時に「はぁ」とため息を吐いたり、カウンターに突っ伏したりと相当悩んでいるように見える。そして長い沈黙のあと、ついにロイスは目を開ける。
「本気だな?」
「
即答の返事に意表を突かれたのか、目を丸くするロイス。ロイスはそこでまたため息を吐くと、静かに話す。
「••••••••••今のところ、姿を隠す服については聞いたことがない」
「••••••••••え?」
「本題はこっちだろ、また話題を変えて悪かったな」
「いや、そうじゃないでしょ!」
何事も無かったように話を戻すロイス。とてつもなく早い切り替え速度に私たち3人は唖然としてしまう。
「もっとこう、何かないの!?心配とか、そういうの!」
「柄じゃねェよ。ただあまりにも自信満々に言うもんだから馬鹿馬鹿しくなっただけだ」
なんともまぁあっさり言う。先程の噛みつきようはどこへ行ったのやら。
「新しい国家が信用ならねぇのも事実だ、納得さ。••••••••ただまぁ、言ったからにはやり通せよ。例え重罪人になろうが、家族を名乗るのなら守り通せ。ソイツにはお前が必要なんだ、良いな?」
静かに口角を上げ、満足そうに私を見るロイス。
そんな様子に思わず胸を撫で下ろす私たち。
「わかってる、この子が幸せに生きれるように私とリグが全力で守るよ」
「•••••••••あぁ、あとたまには顔見せにこい。何かしらのサポートはしてやる」
そしてロイスは私たちの頭を順番にぐちゃぐちゃと撫でる。どうやらロイスの信頼を充分に得られたようだった。そしてロイスは改まったようにふと言う。
「それで本題の品だがな...」
そういえば忘れかけていたここへの目的。危惧していた難所を乗り越えたことですっかり頭から抜け落ちるところだった。
ロイスは、バツが悪そうな顔で言う。
「いまお前たちが求める服は、無い」
「え゛」
折角難所を乗り越えて信頼を得たと言うのに、結局ここが外れだったことに私は膝から崩れ落ちる。
「う、嘘でしょ...?」
この街に仕立て屋はあっても服屋なんてものは無いため、実質ここが最有力候補であり唯一の場所だったために流石の私も立ち上がることが出来ない。
「店主!しっかりして下さい!まだ希望はあるかもしれないんですから!」
「そ、そうだよお姉さん。私なんとかこの羽隠せるように努力するから!」
2人は必死に私を慰める。魂が抜けたように脱力した私にそのような慰めは効かない。
するとロイスが馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに制止する。
「待て待て!まだ全部聞いてねぇのに悲観するな!」
「え?」
疲れ気味に顔を上げる私にロイスは改まって言う。
「実はついさっき興味深いもんを仕入れたのさ」
そう言ってロイスはカウンターの下からあるものを取り出す。
「何それ?」
「聞いて驚けよ?」
そしてロイスは自信満々に取り出したものを見せて言う。
「こいつはな、
段々とテンションが上がってきたのか、ロイスは機嫌良くそう言った。