悪役令嬢、不登校を決める。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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12:主人公ですわ!?

 

「ほいっ、っと!」

 

 

軽い掛け声を挟みながらレイピアを振るっていきます。

 

王子がお屋敷に突撃してきてから3日後、自身はまたダンジョンにやってきています。最初はゲームのようにBGMがなく冷たく張り詰めた空気に緊張こそしましたが、今ではもう実家のような安心感すらあります。冷たさしか感じない無骨な石壁と地面、静けさに包まれ自分と敵以外の音が聞こえない空間! あぁやっぱりダンジョンでこうでなくっちゃ!

 

あ、ちなみに今日も普通に登校日なのでズル休みですわ! 体調不良(超元気)ですわ~!!!

 

 

「グギャッ!?」

 

「お命頂戴! っと。周囲に新たな敵影無し。無事勝利ですわね! ……にしても、王子からの見舞い品。結構な量でしたわよねぇ。」

 

 

すでに入学式から3日という時間が経過していることもあり、屋敷には私宛に見舞いの品が届き始めています。本来このような情報はあまり広まらないものなのですが、入学式という他の貴族がやって来る場所に欠席したのが駄目だったのでしょう。社交の場に出ていないので詳しくは解りませんが、結構広まっているご様子。そのせいかお付き合いのある方々から、見舞いの品を頂き始めています。

 

ご自身の領地で作られている果物の干物や、刺繍付きのハンカチ、あとは軽い小物だったり本がメインだったんですけど……。王子、いえ王家から送られてきた見舞い品が一番ヤバかったのです。

 

 

「クッソ長い殿下からの謝罪文に、王妃様からのお手紙と手製のハンカチ。ついでに王家貯蔵のお薬一式と、滋養に良い食べ物。あとお抱えのお医者様まで来たからもう大変、って感じでした。」

 

 

ちなみにハンカチが一番ヤバいです。

 

王妃の紋だけでなく王家の紋まで刻まれているので『王妃自らが作り上げた上に、これ持ってる限り全部王家が尻持ちしてあげる』ってことを証明しちゃう品です。めっちゃ分かりやすく言うと、黄門様の印籠みたいなやつです。見せるだけで皆へへー! ってなる奴です。

 

確かに婚約が成立すれば私も王家に入りますけど、何で小娘にこんなの送っちゃうんですか王妃様。お見舞いの品には重すぎますよマジで。こんなの使えるわけがないので、神棚に飾っておく以外の使い道がない奴です。まぁこの世界に神棚は存在しませんが。

 

い、いや。お見舞いじゃなくてお詫びの意味で送られたのは理解してるんですけど……、ね?

 

 

「な、なんで『喀血』の方。最良と言いながらもまぁないでしょって考えた方に勘違いされちゃうんですか?」

 

 

グレタも私も、そう上手くいかないだろうなという風に考えていました。

 

確かに髪の周りに血の匂いが残っていたり、匂い消しを大量に着けたがゆえに不信に思われたのはこちらも把握していましたが、『ヴァネッサが滅茶苦茶重い大病を患っちゃった!』と勘違いされるのは予想外です。あまり大事にすると他の貴族が騒いじゃうので王妃様から送られた手紙も、それとな~くって感じでしたが私がヤバい病を喰らっている前提で書かれてる感じでした。

 

んもう超気まずい。そして否定も出来ない。だってズル休みバレたらヤバいですし……。

 

 

「勘違いされてて気まずいというか……。いや王子が来襲する可能性がかなり減ったので私としては嬉しい限りなのですが、結構なものを貰っちゃった手前、申し訳なさが勝るというか……。」

 

 

本来こういう頂き物にはちゃんとお返ししなきゃなんですが、持ってきてくださった使者様から『王妃様より返礼は不要と強く言いつけられております。どうかよしなに。』みたいなこと言われたので、マジで無償で貰っちゃった感じになるわけです。確実に私の体調を気遣い、多くの手間暇がかかる王家への返礼品はしなくていいというご配慮であることは解るんですが……。

 

こんな状況で、何も返さないのはわたくしたちの精神衛生上よろしくありません。

 

なのでお医者様は『我が家にもおりますので』という形で帰って頂きましたが、お返しの品はもう爆速で送っちゃいました。いらないって言われても相手は王家、礼には礼を返さなければ公爵家の名が泣きますからね。

 

ただ私個人からの贈り物に成っちゃうと、使者様のお顔を潰し王家の配慮を無視しちゃうことに成りますので……、勝手にパパ上のお名前を拝借。グレタに色々見繕ってもらって『使者様にいらないって言われてたけど、めっちゃうれしかったから父が代わりにお返しします』てきな感じで送っておきました。ちょうど今頃王妃様に届いているはずです。

 

まぁ肝心のパパ上は王都ではなく領地の方にいるのですぐにバレる様な誤魔化しではあるのですが、何事も建前というのは大事ですからね。

 

 

「にしても、王子の手紙。何書いてあるんでしょう? あまりにも分厚い上に、なんか湿ってて気持ち悪いから触れてないんですが……。返信書かないとですよねぇ。」

 

 

グレタの優れた嗅覚によると大部分が涙によって湿っている様なのですが、なおさら触りたくありません。気持ち悪さが勝りますし、厚さ3㎝ほどの超大作なので、読み始めるのにも気力が要ります。

 

アレでしょうか? お手紙書くのが嫌すぎて泣いちゃった、的な。結構前からですが、あの人と話すとき、ずっとふわふわしているというか、心ここに在らずって感じなんですよねぇ殿下。他に思い人がいらっしゃるのなら別にそれでいいんですけど、此方としては内容の無い適当なお話に相槌を打つのは結構面倒なのです。王子として婚約者を大事にするっていうポーズを崩せないのは解るのですが……。

 

 

「せめて話す話題ぐらいは定めてほしいですよねぇ。……っと、折角のダンジョンなのです! 厄介なことは全部後回しにしちゃいましょ!」

 

 

そんなことを口ずさみながら、どんどんと奥へと入っていきます。

 

現在わたくしは、先日手に入れたレイピアを使用しています。ちょっとお屋敷で護衛さんたちから手ほどきを受け、実戦で使用している形です。確かに最初は慣れませんでしたが、あまり体格が良くない私に合っていたようで、これまで何匹かのコボルトを破壊して来ました。

 

 

「先日までの『ソード』と比べ、突き以外の攻撃が出来ないのは玉に瑕ですが……。これはこれで。」

 

 

レイピアはその細い形状の通り、突きに特化したあまりそれ以外の選択をしにくい武装となっています。

 

ゲームではあまり気になりませんでしたが、やはり現実になると勝手が変わるようで。これまで使っていた『受け』や『振り下ろし』などが使えなくなってしまったのです。こうなると選択の幅が狭くなり、戦闘に影響が出るかと思ったのですが……。

 

出来ることが『突き』に限定されたことで、ちょっとやり易くなったんですよね。これまではその状況に合わせ最適な行動を選んでいく必要があったのですが、レイピアの場合は1択のみ。つまり最適なタイミングが来るまで回避し続け、相手の隙が出来た瞬間に突っ込む。いまだ格下のコボルト相手としか戦っていませんが、これが上手く嵌りました。

 

 

「そもそも、私物理ステータスは貧弱。力押しされればすぐに負けるのを考えると、レイピアのような回避に重きを置いた武器が一番合っているのかもしれません。……個人の趣味には合わないんですけどね?」

 

 

趣味だけを考えれば、人よりも重くて大きな大剣とか大槍を振り回したいんですけど……。上手くいかないものですよねぇ。ま、私の趣味に必要以上の手間を使用人の皆様に強いているのです。そんな彼彼女たちが重視している私の生存率の向上を、こっちの趣味嗜好で踏みにじってしまうのはダメでしょう。

 

 

「今日もダンジョンの入り口だけでなく、周囲を護衛の皆様に守ってもらっているわけですし。ワガママ言うにも限度をわきまえ……、アレ?」

 

 

独り言を口にしながら歩いていると、何故か進行方向から足音。しかも魔物などの小さい音ではなく、人の足音です。

 

自身は足音だけで相手の装備を見抜けるような達人の耳は持っていないですが、その基本は護衛の人たちに教えてもらっています。訓練してる時とか、お食事の時に遊びに行って色々話してもらってますからね。耳だけは肥えているのです。その情報を思い出しながら再度耳を澄ませてみると……、人にしては結構軽め。おそらく小柄な女性の冒険者でしょう。

 

 

(ん~? でもなんか違和感ありますわね。)

 

 

先行している護衛の者たちであれば少し音が軽すぎますし、そもそもあの者たちは一切の足音を排除する術を持っています。少なくとも私に察知されるような音を出す様なことはありません。しかし現在このダンジョンの入り口をウチの護衛さんたちが固めているのを考えると、部外者は入り込む可能性はほぼありません。

 

 

(初心者向けのダンジョンですし、利用者はそこまで多くありません。未だ私は行けていませんが、グレタが冒険者ギルドに話を通してもらっているので、ほぼ貸し切り状態。なのに人がいるってことは?)

 

 

もしかして、我が家と王家の婚約を良く思っていない者たちからの刺客でしょうか?

 

あ、いや。別に婚約破棄に向けて動いてくれるのでしたら支援しちゃいたいぐらいなのですが、そのために殺されるのは絶対に嫌です。でもこちらにとって非常に都合がいい目的を掲げていらっしゃるので、末端であろうととっ捕まえて情報を手に入れておきたいところ。

 

というわけで後ろからついて来てくれている護衛の者たちに『危ないかも』というハンドサインを送りながら、恐る恐る足音の主を伺ってみますと……。

 

 

「ん~? なんか魔物の数が急に少なくなってきた気がする。もしかして他の人が近くで戦ってたりするのかな? ……1日中潜っちゃってたし、疲れちゃったや。明日授業日だったし、もう帰って休もうかなぁ。」

 

 

あ、主人公。

 

んで、その後ろから無音で剣を振り下ろそうとする先行チームの護衛さん。

 

あぁなるほど、貸し切り状態な上に、先行している彼らの警戒網をすり抜けて“私に近づいている”時点で危険って判断しちゃったわけですわね。彼らからすれば私の安全が至上命題なわけで。公爵家で王子の婚約者である以上、王家以外には『疑わしきは罰せよ』を適応しちゃってもギリセーフ。最悪護衛の首一つで収まるわけですから即排除に動くのもそう間違った話ではないし、そもそも主人公って平民の出ですから罰しちゃってもセーフに成るっていう……。

 

 

 

いやダメダメダメッ! 止ま、いや無理、割り込む! 私! 抜刀!

 

 

間に合ぇぇぇ!!!!!

 

 

 






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次回は原作主人公視点ですわ~!
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