悪役令嬢、不登校を決める。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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5:別視点、王子

 

ヴァネッサが学園をズル休みしダンジョンに潜り始めたころ。

 

彼女のメイドであるグレタ、彼女が出した早馬が無事に到着。『体調不良による欠席』という通達が学園中に伝わっていたのだが……。そのせいで学園は上へ下への大騒ぎに陥っていた。

 

なにせ現在のヴァネッサの身分は公爵令嬢。しかも王子の婚約者、である。つまり次の時代の王を支える未来の王妃であり、国母。公爵という貴族で一番偉い人の大事な大事な一人娘な上に、そんな属性までついているのである。その行動の一つ一つが、大きな波紋を呼ぶことは避けられない。

 

しかしその影響を受けぬ者もいるわけで……。

 

 

「殿下。」

 

「あぁ、ロランか。ヴァネッサのことだろう? 体調不良で休むということは自身も聞き及んでいる。」

 

 

従者に声をかけられながらも、ゆっくりと窓の外を眺める存在。色鮮やかな金髪と、透き通った青い瞳。彼こそが『ルシアン・アルマン・ド・オルレヴァン』。この国の第一王子にして、ヴァネッサが前世遊びまくっていた『すいらび』の攻略対象の一人だ。

 

自身の婚約者が体調不良と聞いても、凛とした姿を崩さない彼。その様子に安堵しながらも、彼の従者であるロランは口を開く。

 

 

「それはようございました。」

 

「それでなのだが……。入学式、ずらしてもらった方がいいのだろうか? あぁでも他の生徒もいるし難しいか。あ、あと。やはり見舞いは行った方が良いよな。うむ、やはりそうに違いない。ろろ、ロラン! 私も欠席の連絡を! それと馬車、いや馬を出してくれ! あぁそうじゃない! もう走っていく!」

 

「殿下!?」

 

 

失礼、かなり影響を受けていた。

 

そもそも彼、より正確に言うならば『すいらび』に出てくるようなルシアンは、冷静沈着な男だった。

 

次の王としての役目を果たすためか、常に落ち着きを忘れず物事を俯瞰して見ようとする姿勢。鋭さを感じる目つきから威厳を感じながらも、何か困難に襲われた者がいればその者の隣に立ち共に物事を考えようとする姿勢。その両者を持つのが、彼だ。民を引っ張り前へと進む能力と、多くの者に自然と支えられる能力。その二つを過不足なく発揮できるように実践していたのが、ルシアンという存在だった。

 

一部のプレイヤーから『絶対に受け、後ろ弱そう。というか弱い。ロラルシてぇてぇ!』という不名誉な印象を受けていた彼だが、とにかく誰かが体調不良を起こしたとしても『自分も休んでお見舞いしに行く!』という人間ではなかったのだ。

 

 

「お、おやめください殿下! 入学式、入学式ですぞ! 両陛下もいらっしゃる上に、多くの貴族たちが参列するのです! 殿下までお休みになられては式が崩壊しますッ!」

 

「うるさいぞロラン、離せ! これ以上ヴァネッサに嫌われたらどうするッ!?」

 

 

まぁ何故かというと……、やはりヴァネッサのせいである。

 

彼女が王子との結婚を望んでいないのは周知の事実だが、彼にとっては全くの逆。むしろ望んでいるまであったのだ。無論婚約が決まった際は彼もそれほど乗り気ではなく、『確かに王妃となるならば公爵レベルの家から嫁を貰わないとだし、結婚も政治の一つだから』と少し冷めてた目で見ていたのだが……。

 

両者の顔合わせの際、たまたま彼らだけの空間が出来た時。ヴァネッサはこう言ってしまったのだ。

 

 

『あ、殿下。わたくし別に愛人とか全然気にしませんので、もし他にお好きな方がいらしたら、仰ってくださいね。ちょっといい感じに調整して、その方と殿下のお子様が正式な王に成るよう動きますので。あ、それが駄目な感じなら婚約者も辞退させていただきますので……』

 

 

その言葉は、ルシアンにとって酷く衝撃的だった。

 

公爵家からすれば、自分たちの血筋から王が誕生するかもしれないという状況である。真面な貴族であれば『自分の子以外を王に仕立てる』など絶対に言わない言葉だ。ヴァネッサが元現代日本市民で原作を知っているからこそさっさと身を引きたい、などと知らない彼からすれば全くの未知の存在。自然と彼は、彼女に興味を抱いて行った。

 

何故そのような結論を“顔合わせ”という初対面の場で言い放ったのか。

 

それまで浮わついた噂など一切ない自身に対し何故“ほかに相手がいる”という前提の話し方をしたのか。

 

この疑問を解消するために、ルシアンは積極的にヴァネッサと交流を持とうとしたのだが……。

 

 

『あ、申し訳ありません殿下。ちょっと今からウチの兵と剣振りまわしてきますので……。』

 

『いえいえ、私なんかよりもっと良い方が見つかりますって。』

 

『お嫌ならすぐに言ってくださいね? 社交会の場ですが、手を繋いでるように見せれば大丈夫かと思いますので。』

 

 

もう全部断られた。

 

ちょっと良い所を見せようと頑張ってみても、一応賞賛の声は帰って来るがどこか空虚。社交の場に出ても一切手は握ってもらえず、距離は相手が不快に思わない距離。

 

一歩近付けば十歩ぐらい離れていくのが、ルシアンから見たヴァネッサだった。まぁ彼女から見れば、自身の破滅に繋がる存在なので仕方のない話かもしれないが……。彼からすればたまったものではない。

 

しかしこれほどまでに自身に靡かない存在であれば、他の女性との可能性を模索するのが普通。本人からの許可も出ているし、と考えるのが常人だろうが……。

 

 

(あぁそうだとも、不可能だからこそ面白い! いや、もう面白いという感情ではない!)

 

 

なんとこの王子、『不可能に直面するほどその障害を乗り越えたくなる』という人間だったのだ。

 

無論ヴァネッサもそれを理解していたためこの性格に引っかからないように動いていたつもりだったのだが……、『王子と主人公が繋がる』という情報を知っていたが故に、距離間の構築に失敗した。そもそも王子からすれば見たこともない主人公など恋愛対象ですらない、という前提条件がヴァネッサの頭からすっぽ抜けていたのだ。

 

 

(あぁヴァネッサ! どうやったら君は振り向いてくれるんだい!)

 

 

自然と彼はヴァネッサの心を掴むという無理難題に挑んでいき、最初は単なる『挑戦』だった心が、いつしか『恋心』に。彼女が引けば引くほどその心は燃え上って行き……。原作と同様の側面を持ちながら、ヴァネッサが関わった瞬間単なる暴走機関車となるのが、この世界の彼だった。

 

 

「で、殿下! 落ち着いてください! むしろ入学式休んだ方がヴァネッサ様の好感度下がりますよ!」

 

「な!? 本当か!」

 

「や、やっと落ち着いた……。えぇその通りですよ殿下。入学式とありますが、これも公務の一つです。ご欠席なさるヴァネッサ様の分までしっかりとお勤めを果たしたのち、その様子をヴァネッサ様にお伝えするためお見舞いに向かう。そちらの方が絶対いい筈です。」

 

 

それを早く言わないか! と言いながら、さっきまでの慌てぶりはどこへやら。即座に身だしなみを整え式の予定や、参列者たちの名前を頭に入れ始める王子。

 

 

「ヴァネッサ様が関わらなければ本当に素晴らしい方なんですけどね。あと多分、体調不良ならあちらのお屋敷に向かって負担を強いるより、お手紙の方がいいとは思うのですが……。この方の文、ヴァネッサ様が関わると気持ち悪くなるんですよねぇ。」

 

「うん? なんか言ったかいロラン。」

 

「いえ、何も。あぁそれと、新入生代表のスピーチですが、ヴァネッサ様についても述べておいた方がいいかと。王家と公爵家の不仲を勘違いし、寄って来る方がいらっしゃるかもしれません。」

 

「何ッ!? それは困るッ! ヴァ、ヴァネッサに嫌われてしまっては、私は……!」

 

「あぁはい。だから結束は固い、みたいなことを入れるべきかと。」

 

「ふむ……。こんな感じか?」

 

 

ロランのサポートを受けながらも、すぐに原稿を書き直し頭へと叩き込んでいく王子。そんな彼の意中の存在が、現在ダンジョンで奇声を上げながら遊び回っている上に、さっさと婚約を破棄したいと思っていると知れば確実に大変なことに成るだろうが……。

 

今はまだ、別のお話。

 

 

 

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