悪役令嬢、不登校を決める。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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7:別視点、護衛

 

 

 

「……槍が気に入られたのでしょうか? 良く振り回しておいでですし。」

 

「いや、単に近接がお好きなだけだと思うぞ。剣を使ってないのは“まだ勝ち切る自信がないから”だろう。ご自身の身に何かあれば、我らがどうなるかをご理解してくださっているからの動きだ。」

 

「……だったらダンジョン入って欲しくないんですけど。」

 

「それはそう。」

 

 

ダンジョンを進みながら、そんな会話をする男女。

 

その内容から察せられるように……。彼らは公爵家に雇われ、ヴァネッサを守ることを命じられた護衛達である。普段は屋敷の警備を行ったり、外出時に傍へと控えその身を守るだけでいいのだが、本人の無茶振りによってダンジョンに行かなければならなくなった人たちでもあった。

 

宮仕えは辛いよ、的な雰囲気を醸し出す二人だが……。

 

 

((まぁ結構給料もらってるし、あんまり愚痴をいうのもなぁ。))

 

 

などと。内心考えていたりする。

 

というか二人とも、業務内容に少しの不満はあれど、仕える相手に対する不満はほぼなかった。正式な雇い主であるパパ上こと公爵にも、現在仕えているヴァネッサにも、だ。

 

そんな現在魔物相手に槍をぶん回し大笑いしている公爵令嬢だが、前世は何でもない一般市民の出。ブラック企業によって精神を破壊された過去を持っているが、それ以外は現代日本においてどこにでもいる様な人間だった。まぁそんな存在が、急に公爵令嬢に成ったりすれば……。

 

 

(お嬢様お優しい方ですし、無茶なワガママは初めてみたいなものですから。聞いてあげないとですよねぇ。マジでダンジョンはやめて欲しいですが。)

 

(ほんと、お貴族様らしくない人だよな。普段もそうだが、普通お嬢様が槍振るいながら笑うか? あとこれ、もし何かあったらどうなるんだろ? いやそれが起きないようにするのが俺らだけど……。この首で足りるか?)

 

 

まぁ、こんな感じになってしまう。

 

基本、人の上に立つことに未だ慣れていないヴァネッサである。

 

メイドのグレタのような幼いころから構ってもらっていた相手に甘えることはあれど、大体の平民を『対等』とみるのが彼女だ。口調こそお嬢様っぽい感じにしているが、しんどそうな人がいれば気遣うし、本来公爵家の人間と口を利くのを禁じられているような身分の相手に対し雑談を投げかけちゃうような人間であった。

 

使用人や護衛から『貴族らしくないというか、貴族として大丈夫なの?』と思われることは多々あれど、『仕えるのに不満はなく、支えてあげなきゃ』と思われているのが、彼女だった。

 

 

「休みの日に服買いに行こうとしたらお嬢様が普通について来て滅茶苦茶ビビりました。しかも着せ替え人形にされましたし、口調滅茶苦茶崩してらしたし……。」

 

「まだいい方だろ。こっちは食堂で昼食ってたら『それ美味しいんですの?』とか言いながら出てきて、隣に座った上に『一口貰える?』とか言われたんだぞ?」

 

「え、ソレ差し上げちゃった奴です?」

 

「あぁ、正直それだけで心臓止まりそうになったんだが、満足された上にお礼としてその日の夕食に呼ばれた。美味かったんだろうけど、公爵様も一緒だったせいでほんとに味しなかった……。」

 

 

そんな会話を交わしながら、“ヴァネッサの前”を進んで行く二人。

 

実は彼らは『先行チーム』であり、お嬢様であるヴァネッサが進む道をあらかじめ調査し、トラップなどの解除。同時に魔物の間引きなどを行う者たちだった。先方を警戒しながらも後ろをちょくちょく振り返っているのも、それが理由である。

 

本人が『ダンジョン行きたいですわー!』と言っていたとしても、原作など知らない彼らからすれば、ヴァネッサは未来の王妃様である。その行動を止めることが出来ないのであれば、最大限危険を減らしながらオーダーを果たす必要があったのだ。

 

ちなみに、『追跡チーム』がヴァネッサの後ろに6名ほどついており緊急時に飛び出せるよう準備しているし、『待機チーム』の30名ほどがダンジョンの出入り口を封鎖し入場者を制限、彼女の安全のため貸し切り状態にすることで出来る限りの安全を確保している形になる。

 

なお、後日ヴァネッサのポケットマネーからボーナスが支給されるとのこと。

 

 

「にしても、皮鎧というのもいいものですね。防御力は気に成りますが、軽くて動きやすいです。普段は金属ですからまだなれませんが……。」

 

「そう言えばそっち、騎士学校とかの出だったか。そりゃ皮は使わんわなぁ。」

 

「ですです。そういうそっちは冒険者の斥候上がりなんでしょう? だからこそ先行を任されてるわけですし。」

 

 

何でもない会話を交わしながら、適切に罠を解除し、迫りくる魔物の数を調節していく二人。

 

曲がり角からこっそりと顔をだし、ヴァネッサの戦闘の様子を確認。そこから既に彼女の限界が2体ということを把握した彼らは、出来る限り魔物が固まらないように差配していた。普段の金属鎧から皮鎧に変えたのも、より軽量化し速度を上げることで、ヴァネッサがどこに進もうとも2体以上の敵と鉢合わせないよう調整するため。

 

ダンジョンの広さや、自然発生する魔物を考えるとかなりの重労働な事が想像できるが……。走りながらも雑談に興じる余裕から、二人の練度の高さ。レベルの高さが伺えた。

 

 

「あ、また魔物壁に叩きつけてる。……相当ストレス溜まってたんでしょうか?」

 

「…………王宮側の奴らがいないから言えるけど、例の婚約。お嬢様からすれば相当に不本意だったらしいからな。殿下とお会いする前、基本凄い顔していらっしゃるし。」

 

「やっぱそれ関連ですかねぇ。……多分言っちゃダメな奴ですけど、御実家にいた時は寝室で枕に向かって叫ばれてましたし、お嬢様と話すその日の殿下はめっちゃオドオドしてましたから……。あまりよくないんでしょうね。」

 

 

護衛である二人でも、主人が王子との婚約を嫌がっているのは理解していた。

 

というかヴァネッサがイヤイヤ言いながらどうにかして撤回できないかを模索しているのは公爵家の殆どが知っていることであり、ヴァネッサ直属のものであれば全員が知っていた。

 

しかしまぁ既に決まってしまったことであるし、王家もノリノリ。ヴァネッサの父である公爵もノリノリ。しかもそれが娘の為を思っての行動である。婚約という“家と家の契約”が為されてしまった以上まだ子供でしかない彼女がどうにかするのは難しいし、雇われている上に身分の差がある彼らが意見することを許されない案件だった。

 

 

「まぁ確かに、親としては良い所に嫁いでほしいというのは理解できるのですが……。」

 

「本人からすれば、ってやつだよなぁ。子の心親知らず、親の心子知らずってやつか。」

 

「ですねぇ。……ちょっと待ってください。」

 

「どした?」

 

「お嬢様、後ろからついて来てないんですけど。」

 

「……い、急いで引き返すぞ!」

 

「まずいまずいまずい! お嬢様ァ!!!」

 

 

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