※それもすぐ終わるかもしれません。儚い命…
ワタシの名前はエコールラブ。
しがないウマ娘です。
本日は中央トレセン学園に編入してきたばかりのワタシにトレーナーさんが就いてくださるということで、そのトレーナー室を訪れることになっています。
──しかし、本当にワタシなどの面倒を見てくださるのでしょうか。今から不安になってきました。出会い頭に「期待はずれだ、契約の件はなかったことにしてくれ」と言われて部屋を追い出されたら……どうしましょう……怖い……
とはいえ、約束の時間も間近。不安だからと遅刻など許されません。少しお腹も痛いですが、意を決してノック。こんこんこん。
「どうぞ、お入りください」
想定していたよりも高い──というか女性の声ですね。勝手に男性トレーナーさんだと思っていましたが、女性トレーナーさんのようです。
「失礼いたします、約束しておりましたエコールラブです。トレーナー契約の件で参りました。」
挨拶は丁寧に、悪印象を与えないように。扉を開けるとそこにはスーツ姿の女性。……お若いですね、歳の頃は20半ばほどとお見受けします。怜悧で理知的な印象を受ける目。口元が少し柔らかく弛んでいるおかげで優しそうにも見えますね。
「あぁ、あなたがエコールラブ…。私はトレーナーの稲村玲央よ。よろしくお願いするわね」
稲村トレーナー…。この方がワタシを導いてくださるトレーナーさん。
「え、エコールラブ……です。えっと…よろしくお願いいたします…」
うぅ、緊張して自己紹介も尻すぼみになってしまっています…こんなことではいけないのに……。
稲村トレーナーはワタシの表情を見て少し苦笑気味に声をかけてくださいます。
「あぁ、そんなに緊張しなくてもいいわ。私もまだ実績なんてほとんどない、トレーナー3年目の若輩よ。一緒に頑張りましょうね」
や、優しい方…。
「さて」
「…!」
稲村トレーナーの声に思わず背筋を伸ばしてしまいます。
「もう
見ていただいていたようです。どう評されるのでしょうか…。
「あなたは芝のレースは未経験だし、ダートを選択するにしてもあの走りは中央では通用しないわ。それだけ中央のレースはレベルが高いの。まずはその点、覚悟しておいてね。」
うぅ……予想はしておりましたが手厳しいお言葉。事実ですし、言い返せるような立場でもないので何も言いませんが。
「だからまずは、芝に慣れることとフォームの基礎作りから入っていくわね。とはいえ、地方重賞を無敗で勝っている……それも
「………」
素質がある、ですか。
いえ、仕方がないことなのですけれど。
「ただ、あなたが走ってきたのはダート1400mまでよね?まずはスプリントかマイルから試していくべきだと私は考えているわ」
「そう、ですね。いきなりの距離延長はワタシも不安です…」
長い距離を走るだなんて、そんなの。
イヤですし
いえ、嫌とまでは言うべきではありませんね。気が進まない、くらいに留めておきましょう。
「あなたの場合、もう出走資格を満たしている重賞もあるけれどどうする?」
「重賞……?今からだと……フィリーズレビューですか?」
「そうなるわね。例年通りならあなたも足切りを食らうことなく出走できると思うわ。少しギリギリだけれどね」
少し考えます。フィリーズレビューはGⅡの重賞レース、格も賞金も高いです。クラシック級ティアラ路線の第1冠、桜花賞の優先出走権も得られるレース…。
ワタシの実績は地方とはいえ4戦4勝重賞1勝、出走自体は十分可能なラインです。
問題はワタシがその格のレースに通用するのかどうかだけですね。
「まずはフィリーズレビューを目指したいです。そのためには…」
「ええ、まずは芝に慣れるところから、ね」
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私は目を見張っていた。中央でトレーナーになって3年目、何人かのウマ娘を担当してきた。その中にはGⅠレースでも好走が期待されるような素質あるウマ娘もいた。
でも、目の前のこのウマ娘は
何者なんだ?
これで芝は初めて?
中央の芝を走るためのフォームを習ったのも今日が初めて?
理不尽とすら感じた。
今担当している他のウマ娘に、今まで担当してきた娘たちにどう言えばいい?どう紹介すればいい?こんなのを見たら
「も、もういいわエコールラブ!お疲れ様!クールダウンに入ってちょうだい!」
声を張って新たな担当ウマ娘に告げる。
徐々に小走りになり、やがてポツポツと歩き始めた彼女。
そのままこちらに戻ってきた。
軽く息を切らしているが、初めての芝でのトレーニングなのだ。もっと疲れを見せてもおかしくないというか、この程度しか疲れてないのが逆におかしい。
「あなた、本当に芝は初めてなの?フォームも完璧に近いわ。タイムもクラシック級としては突出してるし…」
思わず疑うような言葉を投げかけてしまったが、許してほしい。それほど常識外れだったのだから。
軽く首を傾げたエコールラブは軽く頷いて答える。
「はい、芝は初めてですしフォームも急繕いです」
「………」
少し眉間を揉む。
「……フィリーズレビューまで視界良好ね。明日からトレーニングも本格的にしていくから、今日はゆっくり休みなさい。お疲れ様」
「…お、お疲れ様でした」
ぺこり、と丁寧に頭を下げてから小走りで更衣室に向かうエコールラブ。
その様子だけならデビューを控えた初々しいウマ娘にしか見えないのだけれど。
実態は既に(地方とはいえ)重賞を勝利しており、4戦4勝無敗の有望ウマ娘である。しかも初日で芝に適応する能力の高さも備えている。
………
聞いてないよこんなのー!!!!
私は心の中で絶叫した。いやだって聞いてないもんこんなの。何あの娘?つよつよすぎじゃない??れおちゃんむり。はたらけない。きりゅういんせんぱいやしなって。
いや、流石にここまでは言い過ぎかもしれないが……
でもでもだって前評判と全然違うんだもん……
『重賞は勝ってるが中央で通用するかはわからない。挑戦する価値はあるとは思うが…』
彼女の前トレーナーからはこう聞いていた。事実、芝未経験だし重賞といっても地方、それも近隣の地方トレセン所属ウマ娘だけが出走してくるレース。
そんなん「そこそこ(※中央基準)」のウマ娘が来ると思うやん。
なに?初日で芝に適応した挙句フォームまでごっつ綺麗に仕上げてたよ?
そんなんできひんやん普通。エコールラブ半端ないって。
もちろん指導で手を抜くなんて絶対にしないし目も離さないが……うぅ、おなかが……
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3月某日 阪神レース場
GⅡ・フィリーズレビュー(芝1400)
《さぁ、いよいよ始まりますGⅡ・フィリーズレビュー。ティアラ路線第一冠となる桜花賞の前哨戦でもあります本レース、18人のウマ娘が桜の女王目指して火花を散らします。実況はわたくし、GGGテレビアナウンサー・真路こうすけ。解説は本レースの優勝経験もございます、ダブルティアラウマ娘のフラントゥーレさんをお招きしています。フラントゥーレさん、本日はよろしくお願いいたします。》
〈フラントゥーレよ。よろしくお願いするわ〉
《さぁ早速パドックを拝見しましょう。…ぬっ、あれは……ダンスでしょうか。くるくると舞っております2番人気ミュージカルホール。あれが彼女のルーティンなのでしょうか。テンションは十分、足元も不安なしです。
そして、来ました1番人気。既にファンタジーステークスで重賞制覇しております、サロスレミュール。気合いの入った様子ですこれは期待できます。
そして3番人気ブーケトスマナー、少し緊張も見えますが前走は4バ身差の圧勝劇を見せております実力者です。
ミナワーレ、昨年度の皐月賞ウマ娘の妹も前走を勝利してきております5番人気。そしてそのすぐ隣は笠松トレセンから中央へ殴り込みに来たエコールラブです、この娘は4戦無敗ですが芝初出走ということもあってか11番人気です》
〈私はこのエコールラブに注目しているわ。前走までのレースは全て地方かつダートだけれど、ジュニア級の1400m重賞で3バ身つけた圧勝。そこから3ヶ月間隔を空けているからきっと芝にも対応しているはずよ〉
《フラントゥーレさんからの評価は高いですね、中央にスカウトされるほどの鮮烈な脚に期待が高まります。》
……
次回はレースです。これがシッコクノツバサ周りの話ならエコールラブは惨敗するんですがどうなるんでしょうね。実はこの後書きを書いてる時点では着順を一切決めてません。お前プロットとか組まねーのかよ!?教えは(ry)