(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。 作:Marchhatter
イシュトヴァーン視点です。進んでないです。
(20251029追記)誤字のご指摘、ありがとうございました!
010 名シーンは外せない
(偽イシュト視点、ルードの森の黒騎士隊避難所、朝)
「いや、まだ一つ方法がないでもないぞ、グイン」*1
僕はそう、起きだして相談しあってる彼らに呼び掛ける。
はっ、と振り向く3人(グイレムリンダ)。あれ、スニさんはまだ寝てるのか。
それはともかく。
僕の考えでは、ここは屈指の名シーンの1つ。さすがにはずせないよね。
振り向いた彼らに、原作イシュトをイメージしたふてぶてしい笑みを投げ。
僕は心中ひそかに充実感を覚えながら、昨日の夕べからの経緯を思い返す。
──────
まあ、上手くいったんだよ。僕の想像を超えて。
グインたちの、城からの脱出はほぼ原作どおり。
僕の誘導が的確だったってことだよね?いやー、つみかさねた苦心が報われたよ。
最終的に、彼らは原作どおりに塔から飛び降りた。
まあ、そうなるかもなー、とは思ってた。だってあのセムの大軍を突破するのは、グイン単騎ならともかく、リンダとレムスは無理だろうと僕も思ったんだ。
ただ、どうみても塔の位置からして、原作そのまま無為に飛び降りたらトマトケチャップだろう、と懸念した僕は。
彼に布を使って枯葉みたいにふわふわ降りるか、凧みたいに滑空したらどうかって書いておいた。彼も採用してくれた。
──ただ、空を信じられないくらい長く滑空して、ズザザザザァって、ケス河に着水。
いやー、胆をつぶしたよ。だって僕、城の傍にぽちゃんって落ちるものと思ってたからね?
待機場所も、城のそばだったんだ。
セムたちの目にとまらないよう、細心の注意を払い。
ハラハラしながら、城近く、黒の塔がみえる岸辺で目を皿のようにして待ってた僕は。
予想を超えてひょおうと飛翔していく彼らを追って、懸命にケス河の岸辺をひた走り。
着水した彼らに、ここぞとばかりにかねて用意の手鉤ロープを投げ。
これまた原作どおりに、岸辺に引き寄せて水揚げすることに成功した。
(危ないところだった。川下と比べたらまだ平穏なんだけど、なんだか渦が巻いてて、大きな生き物が下に来た気配がしてた。)
そうそう、原作と違ってグインどころかリンダとレムスも意識があった。
だからグインが僕の投げた縄をつかんでくれて、迅速に回収できた。
濡れそぼった彼らに、かいがいしく拭き布を提供し。
僕をまるで仇敵であるかのようにぎらぎらした目でにらみすえるグインに対して。
(まあ動物の目だし夕方だからそう見えるんだよね、OKOK。)
──まあどうだ、思うところはあるだろうが。
あのセムたちも気づいたかもしれないし危険だ、ここはひとつ協力して逃げようぜ?
と、申し向け。
岸近くの木陰につないでおいた僕の馬に双子を乗せ、有無を言わさず完全に日が沈むまでに彼らを急き立てて。
河岸から2タッド(約3km)先の僕とスニさんの避難所まで、誘導した。
ちなみに原作だと夕暮れも日没前後だったんだけどさ。気持ち、それより早い時間帯だったと思う。
原作だと岸辺で夜を明かすんだけどさ、血に酔ってるセムのまだいる河岸で一晩って。──僕にはそんな度胸なかったよ。
双子はさすがに気力と体力の限界みたいだったからね、僕が名付けた『辺境の星』号(連れ出した馬。癖はあるが頑丈な奴だ)に二人と荷物を乗せた時点で、かなりヘロヘロだった。
僕とグインが馬の前後を守って、必死に走って帰った。
脱走前に自分の荷物を回収できたから、妖魔除けの
この便利な香水がこの辺境地帯に普及してないのには、理由がある。
高濃度に精製したやつはめちゃめちゃ高いからだ。雇った傭兵を使い捨てる方が安くつくんだよ。人の命が軽いんだよな。
僕の匂いを嗅いで、リンダとグインがなにかささやきかわしてたけど。
道案内役の僕は道に迷わないように、って気を張っててそっちは聞き取れなかった。
たどりついた黒騎士どもの避難所は、崖の中腹の岩の裂け目。
ここに、長梯子を掛けて登る。登ったら、梯子を上げる。
馬は、下の方の洞窟を改造して入り口に随所に金具を打ったすごく頑丈な扉をつけた厩舎に入れる。
こうでもしないと、安心できないのがルードの森なんだ。
避難所でくつろいでたスニさんをみつけて。
めちゃめちゃ双子がビビりまくりグインも剣を抜き放ったりで大変だったけど。
僕がとっさに間に入り、あの襲ってきた獰猛なカロイ族じゃないよ、って説明するとなんとかおさまった。
でもなー、スニさんとリンダの距離は、まだ原作より遠い。
あ、でもグインはセム語ができるからね。こちらはなんとかなった。
(大きなグインと小さいスニがふたりでぴよぴよ話し合ってるのは、なんか面白かった。)
その後、双子に軽食を食べさせたら、すぐ、ばたんきゅーって感じで寝入ってしまった。
そのあどけない寝顔に、僕はあいかわらず寡黙なグインと顔を見合わせ、頷きあい。
ふたりとも休戦して寝ることにした。この避難所なら、見張りはまあ不要だしね。
──────
そして、翌朝というかこの早朝。
僕は元気よく朝起きして、洞窟の外を軽く見回り、危険がないか確認した。
馬を駆って、スタフォロス城の様子も検分する。思い切り忍び足で。
(イシュトの危険察知能力はすごく高いから頼らせてもらってるけど、使い手が僕だからなー。
だから、油断しないようにしてる。幸いにもイシュトは高スぺなので、ちゃんと気を張って気配を消せばほとんど気づかれない。)
セムはアルヴォンからの救援をおそれて、撤収しているようだ。
それでもしっかり略奪していったみたいだ、原作どおり布や工業製品みたいなものは持ち去られてた。
城は無人だったけど、厩から馬が逃がされてたのに気づいた。
セムが馬を乗せられるほど彼らのカヌーは広くない。肉として食べきってしまったのかもしれないが、厩には屠殺したにしては血の痕跡が少ない。
セムの足跡でかなりは踏み消されているが、いくつかの蹄の跡は森に続いているように思える。最後に突破して逃げた連中がいる?
この点は、気をつけたほうがいいかもしれない。原作だと全滅だった気がするんだよな。
僕は邪魔にならない程度の略奪品を回収し、また馬を走らせて森の中の避難所に戻り。
はしごをのぼって、彼らがひそひそと話をしていたのを聞きつけ。
あ、これたぶん2巻の冒頭シーンだ、って気づいたんだ。
ほら、双子どもが落城について感傷に浸ったり。
ノスフェラスの荒野を渡ろう、とかグインが言い出したりするシーン。
(原作のこの川べりのシーン、すごいいい場面だと思う。
ただ、城から見えるような場所にとどまってるのは、危ない。
だから散文的ではあるが城近くにとどまるのを避けて、城がほとんど見えない避難所まで彼らをつれてきたわけだ。)
せめて、このシーンは決めたい。
そう思った僕は、意気揚々と冒頭のように声をかけた。
紅の傭兵イシュトヴァーン登場!ってね。決まったと思うんだ。
──回想終わり。
──────
むふふ、決まった!と思ったのだが。
なんとなく、3人の反応は微妙。
まずリンダは、これはもう明らかに驚いてる。ちょっと瞳孔が開いてる。
びっくりさせちゃったかな?
──いや、確かにちょっと「わっ」ってしてみたい、っていういたずら心が起きて、最大限に気配を殺して忍び寄ったけれども。
気になるのはグイン。──僕の間違いでなければ、あのグインも驚いて、そして警戒しているように思える。
(そんなはずはない。グインは耳もいいし、いつも泰然としてるはず。
警戒した猫みたいに唇が引きあがって牙がみえるのは、僕が偵察の際につけてた魔物除け
レムスは、驚いてはいない。彼はこの2人と違って僕が入ってきた入り口に向かうように座ってたからね。
だからかわからないけど、すごく気まずそうな、困ったような、もっといえば気の毒そうな顔。
まあ3人の反応が微妙なのは、仕方ない。
驚きからさめたリンダの目が僕をにらみつけてるのは、──ほら僕、黒騎士の装具をつけてるからなー。
簡単には割り切れないだろうよ、特にリンダとレムスは(ただレムスは表面上は、僕を恨んでる気配はない)。
グイン?グインも僕をにらみつけてるけど、これは豹頭のせいでそう見えるだけ。大丈夫。
昨夜だって、疲れた双子が眠り込んだのをみて、ふたりで視線をかわして「子守も大変だな」「ああ」みたいなほのぼの空気感になったしね。
だから今、彼から感じるプレッシャーはおそらく単に彼の肉食獣の頭のせいだと思う。ほら、目つきとかが鋭い、──っていうか、まんま獲物をみる豹の雰囲気だからね。
罪悪感みたいな表情を浮かべてるレムスが、一番普通にみえる。心の癒しだ。
きっと、僕に朝の見回りとか偵察とかいろいろ負担かけて悪いなー、なんて思ってるんだと思う。いい子だ。
(実のところパロ編の中では、ウェイウェイなナルシス自家中毒パリピどもの中で浮いてるレムスが陰キャ現代人の僕にとっては一番親しみがある。)
ともかく。なんかアウェイな印象だなー。
原作イシュトの神経は炭素鋼だからいいけど、僕みたいな繊細さんにはちょっときつい。
でもまあ、ここは原作どおりにすすめよう。イシュトならそうする(ヒンメル構文)。
「話は、きいたよ」*2
僕は凍った緊張感を読まず、いけしゃあしゃあと傲慢に腕をくみ、胸をそらして言い放つ。
「──イシュトヴァーン、」
立ち上がったグインが、僕を見下ろしながら唸るように言う。原作で書いてあるように、まだ人語や人とのやりとりに慣れてないんだろう、知らなかったら威嚇されてると思うぞ、気をつけろ。
それにしても、さすがの巨体だ。地球の尺貫法でだとおそらく190cmくらいある僕が見上げないといけないくらいで、しかも横もがっしりしてる。半端ないプレッシャー。
でもまあ、それもそういうもんだと思って慣れとかないとな。これから先、長いつきあいになるし。
「──俺たちが今、話していたことだが、」
「いいさ、お互い様だろう?」
礼には及ばないよ。でも、あれっ、なんか原作と違う?
ここは原作どおりに、引き戻しておこう。
台詞がうろ覚えだけど、まずは食事だメシ食おう、みたいなことを言っていたな。これもはずせない。
「まあいろいろ思うことがあるだろう。それはそれでいい。
しかしその前に、しておかなければならないことがある。」
「──なんだ」
相変わらず圧が強いグイン。僕の言葉に軽く腰を落として体をひねったのは僕に目線を合わせるためだと思うが、知らないと僕に対してその腰の剣を抜き打とうとしてるように見えるぞ。
「腹ごしらえさ!」*3
よしっ、決まった!
白い歯を意識して、笑いかけてみる。
いや、本当に「決まった!」という思いに、顔がほころんでしまう。
ようやっと原作のノルマ達成!第2巻完!
そして僕は、背中から城からの脱走前にちょっと炊事室におじゃまして盗んできた糧食のサンプルをみせる。
(ちなみにまだ厩に置いたままだけど、芋とかの根菜のたぐいも盗んできたよ。抜かりはない。)
あっけにとられた彼らをよそに、この避難所の岩の裂け目に隠しておいた僕の荷物に歩みより、いそいそと食料を取りだす。
原作みたいに、冷たい焼肉と練り粉だけじゃない。
この隠れ家に来る途中で、森に茂る野生のヴァシャの茂みからもいできた実もあるんだ。
「ちょっと手を掛けると、もっと美味くなるんだけどな!
──煙を見つけられると面倒だから、冷たいままだ。悪いな。」
なんだか毒気を抜かれたようなグインたちを促して、車座に再び座らせる。
「ほら、スニさん。朝だよ朝」
ちょっと離れた場所で布にくるまってねていた彼女をそっとゆすると。
目を覚まして上体をおこして彼女が、まだ開ききらない目をコスコスとこすりながら、「いしゅと!」と嬉しそうに声をあげる。
寝癖のついてるスニさんの頭を撫でてみる。スニさんはいかにも幸せそうに、うーんと背伸びをしてあくびをする。
子供ではないのだろうが、どことなく子供っぽい、人懐っこい無邪気な様子。
それをみたリンダは鼻にしわをよせながらも、雰囲気をやわらげた。きっとモフモフしたくなったんだろうな、スニさんは可愛いからなー。
──────
スニさんもまじえて、朝ごはんを食べる。
一晩立った焼肉は、羊に似た動物のものだ。
ちょっと癖はあるが、僕(というか、このイシュトヴァーンの体)は気に入ってる。
蒸すとじゃがいもににたほくほくした、城から盗んできた芋もいくつか持ってきた。残りは種芋にしてもいい。こいつは野生種に近くて世話いらず。元の世界でいうキクイモとかみたいな感じで、生でもシャキシャキと食べられる。
「イシュトヴァーン。
──朝、お前は何をしていた」
「偵察さ。スタフォロス城のセムどもの、な。
そろそろ奴らも引き揚げたころあいだと思ってな。」
セムたちも馬鹿じゃない、スタフォロスへの援軍がくることはわかってるだろう。
原作でも、朝にははぐれの1匹が出てた以外は、いなくなってた描写があった。
「あいつらはもう引き揚げてる。今行って、拾えるものを拾おうぜ。
行くだろう、グイン?」
「──そうだな。」
「まさしく火事場泥棒ね、恥ずかしくないの?」
「リンダ、イシュトヴァーンは僕たちのために──」
レムスが僕が弁護してくれようとしてるけど、姉弟喧嘩はやめさせよう。僕は気にしてないし。
「ああ、いいんだいいんだ。まさに火事場泥棒だよな?
王子様王女様のすることじゃないし、待っていていいよ。危険だしな「行くわよっ!」」
噛みつくように言われる。どうもお姫様はご機嫌斜めだ。
僕、悪いことしたっけ。
あー、強姦魔疑惑をかけられてたな。そのうち誤解を解かねば。
「誰が行かないって言ったっていうのよ?パロの王女は臆病者じゃないわ!
敵国たるモンゴールの物資を略奪し、その国力を削ぐ。
そのためには、多少の汚名など気にしないわ!」
「──さようで」
いや、なんだか面倒くさいな。
ただ、来てくれるならその方がいい。安全な避難所ではあるが、人手があったほうがいい。
ただな、モンゴールの魔道士(ガユス?)が水晶球で城をのぞき見してる描写があったよな。
あれにはひっかからないよう、気をつけたい。
「最寄りの砦であるアルヴォンからは、馬を飛ばしても2日半。早馬でも、馬を潰さないようにすれば1日半はかかる。」
いかにスタフォロスが孤立した場所にあるかが、わかると思う。
「最寄りのコヴナ村は、馬でも半日から1日。
ただ、おそらくそちらからは来ない。貴重な馬も出さないだろう。
斥候はくるかもしれないが、それほど早くは来れない。」
辺境の開拓民は独立不羈の気風があり、また不測の事態にあたっては優秀な弓兵たちとなるが。
とてもじゃないけど救援を送り込める余力はない。せいぜい腕利きの猟師が様子を見に来るくらいだろう。
そうすると、こっちは到着は翌日以降じゃないかな。
「セムどもはずらかってる。だから今、アルヴォンからの偵察隊が来る前を狙う。」
そういうと、彼らも異論はないようだった。
さて、でも話したいことはこの後どこに行くか、ということだったよな。
「それで、イシュトヴァーンよ。
──その後のことだが。」
グインが、僕に問いかけてくる。
これは、先手を打ってやるか。
「ケイロニアか、アルゴスに行きたいと思ってるんだろう?」
そう、僕は問いかけた。
「ケイロニアは少なくとも中立だし、モンゴール以上の国力がある。
アルゴスも草原の強国だ。先日亡くなったパロ王の妹が嫁いでいる。」
リンダがびく、とした。
ここらへん、原作だとイシュトがいかにも「正体当てた!」みたいにしてたけど。
第1巻で出てくる捜索隊の黒騎士たちとかは、もう知ってるんだよね。知らん顔で続ける。
「ルートはいろいろだ。
ノスフェラスを越えてキタイに出る、ヴァーラスを越えて陸路ケイロニア、ケス河沿いの陸路かケス河自体を使ってロス経由、海路で沿海州やアルゴス、ケイロニア」
僕は指を折って数えてみせる。
「俺も途中までは付き合おう。そこの豹頭の旦那ほどじゃないが、剣もそこそこ振れるつもりだ。
どのルートを考えていたんだ?」
僕はそう、彼らに問いかけた。
(覚書)
〇辺境編の方向感覚について
この点は筆者の無理解のためかもしれないが、特に初期の物語の中の方位の記述で頭をひねることがある。辺境編(あるいはその少し後)まで、原作者の中では「東」と「西」があまり固まっていなかったのではないかとも思われる。たとえばスタフォロス脱出後の方針について話しているところで、ノスフェラスを超えて中原の「東端」に行こう、といった記述がみられるが、この「東端」はロスなどのことを言っているわけではないと思う。もしそうなら、イシュトが訳知り顔に筏でロスにつけばヴァラキアにもケイロニアにも行けるんだ、などということはないだろう。ノスフェラスは中原の東方の辺境であるから、そこを東に超えた先が中原というのも変だ)。クムも、東方の民族が中原に移動してきて建国されたものとされているが、アルゴスの記述などを見ていると本に添付された地図でいう「西方」から移動してきたように思えてならない。あるいはキレノア大陸は南半球にあったり、意外にキレノア大陸の存在する星の直径が小さくて、東の果てが実は西、で一周してしまってるということなのかもしれないが・・。