(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。 作:Marchhatter
・本当ならアムネリスは、クシャナ殿下くらいの存在感はあっていいと思うのです。
少なくとも本作では、デバフかかった(?)イシュトとタメを張るくらいのことはやってもらわねば・・。
・オロさんほか数名、原作のとおりがもっとも美しかったのかもしれないのですが。
本作ではきっと村娘の憧れを集め。数年後にはトーラスのゴダロたちにこっそり孫を見せに行くのです。
レムスの陰キャ落ちは可哀そうなので、モフラーとして心を癒してほしいです。多感な彼の心にラクとのふれあい体験が消えない刻印を与え、クリスタルに作ったアルフェットゥ神殿にはモコモコの神像が奉納されるのです。
・きっとイシュトはペラってしまって大後悔、となると思うのです。原作のイシュト、言動とかがみてられないときがありましたが、本作でもなかなか・・。
・確かに公女様、原作での悪役令嬢にして没落令嬢ですね(その後も、あれでよかったのか・・?ざまぁ要素もないし)。
原作よりやや生い立ちハード目と仮定しています。ここでもクシャナ殿下並みの影があるかも。
・本作イシュトは原作とまた違った面で口が軽いので、どっかで地雷を踏み抜いてしまうかも・・。
○ご評価をいただきました。ありがとうございました!
また誤字のご指摘、ありがとうございました!(20251108)
○第三者視点→偽イシュトヴァーン視点です。あまり進んでないです。
若干細部に得心いかないところがあり、後で細かいところを修正するかもしれません。
(第三者(アムネリス、白騎士たち)視点、ケス河北岸のモンゴール軍本陣、夜)
準備していた罠でようやく捕えることができた、おそらくは潜入していた細作と思われる元スタフォロス所属の黒騎士は。
白騎士による拷問にも、平然と耐えてみせる鋼の意志を有していたが。
酒食で心の
それを成し遂げた公女を見守る白騎士たちの目には、公女への期待と信頼が浮かんでいる。
ところが、白騎士たちの尊崇の視線を集めている公女将軍自身は。
傍目には動じた様子は欠片も見せないが──内心は、必ずしも平静ではなかった。
彼が、傍目にはごく平常どおりで、彼女が狙ったような、意思を拉がれた状態にあるのか確信が持てないことに加え。
彼の発する言葉の中に、不都合な真実を見出してしまっていたからだ。
「──そうか。なればどこかで兵を損ずることなく、引くのが賢明なのかもしれぬな。
ただその豹頭の男、そなたの言うところの
我らは彼、彼の庇護する者らの父母、
彼女は、言質を取らせないよう和睦への瀬踏みを試みる。
「成算はある。むろん条件次第だが」
「その条件は、──いや、後で聞こう」
密偵が、彼女が言いかけたときにその内心を見透かしたようにニヤリと笑ったのをみて。
彼女は、踏み込むのを思いとどまる。──あの顔は、何らかの策謀を抱いている。まちがいない。
譲歩するとしても、まだ情報が足りない。彼女は国益を損なう(と外からみえる)和睦を結ぶつもりはない。
それに拙速に条件を詰めようとして破綻させるのも、避けたい。
だが究極的には、和睦を結んで撤退すべきだと彼女の直感は告げている。
彼女は目的のためにリスクを取ることも辞さない。敵の剣に身をさらしたこともある。
しかし彼女は、こと今回の大公の命で赴いたこのノスフェラスの地での展望に、不透明なものを感じていた。
そして目の前の密偵から洩らされた情報は、その彼女の不吉な予感に符合する。
かといってトーラスからみれば、矮人たち相手に過剰戦力なまでの大軍を与えたのに。
命を果たさず、しかも下手な和睦など結ぼうものなら。
家族にも容赦しない大公によって、無能の烙印を押されかねない。
彼はそんな彼女の逡巡に気づいたのか、愉快そうに黒蓮の秘薬入りのヴァシャ酒を呷る。
一見すると、彼は薬が仕掛けられたとは気づいていない様子にみえる。
──だが彼が多弁になっているのは、本当に薬の効果なのだろうか?
効いておらず、こちらを惑わす情報をつかまされているのではないか?
ただ、賽子は投げられた。彼女はもはやここで止めるわけにはいかない。
仮に罠にかけられたのが彼女の方だとしても、彼からの情報には驚天動地に値するものが含まれている。
少なくともその一部は、彼女の見聞した事実や知識からも、真実であろうという感触がある。
「婿殿には、『豹の王』殿の信頼が厚いのかな」
「そんなこともないぞ?
最近は、──どうかな、最初は奴は俺に
「塩対応」とは何だろう、と公女は思う。彼の言葉には、ところどころ彼女の知らない言い回しが含まれる。
「塩を与えるような対応」か。生存に必要な塩を与える行為とはつまり、相手の身になった親切な対応のことなのだろう。それが最近はそうでもなくなっている?
つまり最近は二人の間にすき間風が吹いてぎくしゃくしているということかもしれない。これは、もしかすると揺さぶりに使えるかもしれない。──と、彼女は思った。
彼の飲んだ量を目測し、アムネリスも等量のヴァシャ酒を口にする。
黒蓮を含有するこの薬には、投薬量の微妙な加減、調整が必要である。
多すぎても少なすぎても、狙った効果が生じなかったり、あるいは好ましくない効果(発狂や昏睡、死亡)が生じてしまったりするのだ。
そのため、彼女自身も彼と全く同じものを飲む。
一聞すると、あまりに危険に思えるが。
父大公による命令で各種の毒への耐性を付けさせられた際に、彼女はこの黒蓮を用いた秘薬を経験していた。
ただ、その経験がありはしたが。計算外だったこともある。
年若い彼女が、酒など飲みなれているはずもなく。
彼女は、だんだん慣れぬ酒に軽く頭がぼうっとしてくるのを覚えていた。
──黒蓮粉を摂取することで意志や自制心を鈍らせることができるが、酒を併せて摂取すると妙な複合効果を生じてしまう。これは、誤算だったな。
酒と薬を混ぜた効果のこと。そしてまた黒蓮粉の量の上限だけでなく、酒量の上限のこと。私と彼とでの男女の違い、体重の違いのこと。
それらのことも、当然十分に考えておくべきであったか。
私は、やはり大馬鹿者だ。冷静なつもりでも頭に血がのぼっていたようだ。
そう、彼女は靄のかかりはじめた頭のすみで反省する。
この男に対して、拷問は無駄である。先ほど白騎士に命じて、彼の鋼のごとき意志がすぐにわかった。
だとしたら。──父である大公の流儀に従えば、殺してしまうほかないのだが。
しかしこの男は殺すには惜しい傑物である、と彼女は考えている。
だから危険はあるが、この薬を知る自分が彼と同量の秘薬を服用し、いわば対等な勝負をかけた。
その意味で、胸襟を開いて正直に語り合いたい、と言った彼女の言葉はまんざらまちがいではない。
何しろ、彼女自身も問われれば心にあることをそのまま答えざるを得ない。
もっとも、彼女は薬を試した経験という優位性があるし。
自分の意志の力にも、自信はあった。
だから彼よりこの勝負には有利。──そう思っていたのだが。
──ただ、この男も私同様に、いや私以上にこの薬に耐えられるよう、訓練ずみで。
そして彼のほうが、私よりも意志が強かったら?
向かいの彼の顔を、改めて観察する。
不良風だが端正に整った外見は、まったく投薬前と変わらない。
多弁にはなったが、精神のはたらきや話の筋道にいささかの破綻もない。
そんな彼を前にしていると、心に黒雲のように不安が広がってしまう。
しかし、彼女の双肩に1万5千の将兵の命が、そしてそれより重いモンゴールという国の命運がかかっている。
彼女は気力を振り絞り、もしかすると彼女の内心の動揺を見澄ましているのかもしれない、面白そうにこちらを見つめる悪魔の黒い瞳をみつめ返し、唇を舐めた。
薬は彼に効いていて、自分の方が意志が強い。そう信じよう。いずれにせよ、ガユスに後で確認できる。
それより。まだ聞かねばならないことがある。
「──この
そうではなく、この中原の大きな戦の先行きをどう思う?」
「『モンゴール戦役』のことか?」
彼は若干、違和感のある言葉を口に上せた。
ヴラド大公の侵攻は、一般的には、滅びたパロの名をとってパロ戦役と呼ばれているはずだ。
しかし、彼の呼び方はまるで、滅びるのはパロではなく──
「──モンゴールは軍事力、軍事機構における強国。
だがパロへの勝利は続かぬ。手にした勝利は、パロの友邦の反撃の前に失われよう。
王族との婚姻は、普通の国や普通の相手なら有効。だがナリス公に対しては悪手だ。
ナリス公は親しみや愛で行動を縛られぬ。手を握った相手を刺すことなど、『朝飯の前』に行ってしまう」
刃の鋭さを目に宿す自称傭兵は、やはり沿海州の言い回しを口にしながら。
何かを思い出すような、懐かしむような目つきをした。
──まるで、ナリス公のことをよく知っているか、少なくとも会ったことがあるかのように。
「ナリス公のことで、云い忘れていた。──あくまで、俺の考えにすぎぬが。
彼の視界に、対等な相手はいない。幾人か認める者がいるが、それ以外は書き割りの
不世出の天才で、英雄で。──しかし同時に一種の
好みに育てたリンダ以外の女など、いかに美しくても彼にとって美しい猿でしかないだろう。
──そのリンダも、彼の手慰みの趣味の
──ただ、これは俺のひがみ目での評価にすぎん。あまり参考にしないでくれ。
そう、彼自身も再度、苦笑しながら付け加えたように。
辛辣であり、確かに幾分かは私情と好悪で歪んだ評価なのであろう。
だが彼の述べたクリージュダール公の
彼が一息ついてヴァシャ酒を呷ったので、彼女自身も等量を飲もうとして、軽く咽せてしまう。
彼女自身がこの秘薬を服用させられた経験から、秘薬自体の上限に近づいていることが分かる。
今すでに杯に入っている以上は、薬は入れるべきでない。飲ませるなら酒だけにとどめさせねば、と彼女は思う。
彼が言葉を続けたので、彼女はまた彼と目をあわせた。
どこか遠くを見ているような目だ、と彼女は思った。
「戦役についてだが。──辛いことを言うぞ?」
頷く。──本当は聞くことをどこかで恐れていた。
この男は、真実を述べると知っていたから。
「クリージュダールで公女殿下が彼との恋に酔わされてしまえば、その間に弟君は無惨に殺されような。
父君は、御身お大事に。残されたお命は、決して長くない。戦役の終わりを見届けることは叶わぬかもしれぬ」
言葉が、殷々と響く錯覚。白騎士たちが息をのむのを、どこか遠い世界のことのように感じる。
体が重い。まるで地に向かって、無数の死者の手によって引かれているようだ。
目の隅の蝋燭の火が流れていく錯覚に、自分の体がかしぎかけようとしたことに気づく。
強固な意志で体を支え、虚勢をはって見返す。幸いにも白騎士にも相手の男にも、気づかれた様子はない。
「そうか。──その後は?」
「──ナリス公は、何らかの
そしてアルゴスの黒太子スカールやベック公とともに、パロを解放する。無事ならあの坊やが、戴冠することになろうな。
こたびのパロ侵略で、モンゴールとゴーラの他の2つの公国には間隙が生じている。
クムが優勢なパロ側で参戦してくれば、トーラスは陥落する。草原の民やクム軍の苛烈な略奪と炎に包まれ、モンゴールは滅びよう」
「くっ」
──言いたい放題の放言に、彼の背後で剣が揺れる気配。
公女はめまいを覚えながらも、かろうじて手を上げて白騎士を制した。
こほん、と咳ばらい。深く息を吸う。質問を続けねばならない。もはや答えが半ば分かっているが。
「私が討ち果たされ、あるいは責任者として処刑された後、──モンゴールの民やわが騎士たちはどうなる?」
「──モンゴールはクムの支配するところとなろう。騎士の多くは殺され、民は皆殺しにはされまいが略奪を尽くされ、圧政にあえぐことになる。幸せではあるまい。
そして公女殿下は確かに責を負うべき立場だが、──将軍たちや他の大公一族のように、栄誉ある討死、処刑ならばむしろ僥倖なのではないか?
公女殿下はおそらくはタリオ公あたりの想いもの、寵姫にされような。
誇り高き公女殿下にとっては、いかなる苛烈な拷問よりも耐え難いのではないか。
──大公に抱かれる後宮の絹の褥は、殿下にとっては凍てつく氷、燃える業火の如きものとなろうな」
「おのれ、言わせておけばッ」
「──止めよ!」
また手を挙げ、咎める視線を投げて、彼の放言に堪えかねてついに剣を振り上げた白騎士たちを抑える。
歯がみする彼らの様子が、かえって彼女を冷静にした。
息を深く吸う。吐く。彼女も、激情を抑えきった。
「感謝する。
──さて、求婚者殿よ。これからの話をしよう」
食事は終わった。酒も止めた。
ここまで、彼には外見の変化は見えない。
はたして黒蓮の薬は効果があったのだろうか、公女はふたたび疑問を覚えた。
片づけを頼み、緊迫した雰囲気に怯えた侍童によって卓上のものが片付けられる。
公女はこわばった頬に意識して微笑みを浮かべ。そして彼の目を覗き込み、切り出した。
──────
──────
(偽イシュトヴァーン視点)
「──さて、求婚者殿よ。これからの話をしよう」
公女がいずまいを正して、僕の目をのぞきこんできた。
卓上、横に置かれた蝋燭(高級品だ)の明かりでみる彼女の顔は、半面が翳っていた。
光に照らされた側、傷のない反面の目は、普通に真剣にみえる。
だが影になった、傷をつけた半面側の目が、どこか妙に底光りしてみえて。
なにか、ぞくっとするものを僕は感じた。
美味なヴァシャ酒でまぎれてたけど、この部屋はやっぱり寒い。
それにしてもあの謎スパイス、超いい感じで効く。ヴァシャ酒の味を数倍にも引き立てる気がする。ケチケチせずにもうちょっと入れてくれないかな、天国に行けそうなくらい気分いいのに。
「先にも云ったが、あの爺がそなたの剣の腕を褒めていた。
爺の『頭蓋割り』、大剣でも受けられる者はなかなかいないと」
「たまたまだ」
「先に申したように、数日前にそなたが別れ際に伝えてくれた、わが婿取りのこと。
それも、真実であったな。」
「それは驚いた。凄い偶然だな」
「そなたの飾らぬ直言。耳に針を刺すように痛く、果てしなく苦いが、たいそう有益だった」
「全部嘘で全部外れるかもな。俺はその人ありと知られる、
「そなたは無欲だ。黄金には関心がないと云った」
「俺の
「──では、たとえば。
そなたの身の安全、モンゴール支配領域での滞在と退去の自由。
ノスフェラスからのモンゴール軍の完全撤退、矮人たちとの不可侵協定、交易、可能なら支援の約束」
彼女は、何かを僕と交渉しようとしている。僕は彼女の虜囚で、そんな立場でもないのに。
僕は彼女の意図をつかみかねて、訝しんだ。
「黄金に興味がなければ、十分な額──そうだな、100万ランの補償と褒賞金。温暖な地での領地と子爵位。
──それで我がものになれ、というのは?」
「豹人、双子はどうなる?」
凡人でしかない僕は、まだふわふわした気分なのだが、この質問をして。
自分の喉が鳴るのを他人事のように感じた。あれ、これはイシュトが話してるのかな。
「豹人はこの地の王なのだろう?なれば王として扱う。交渉がしたい、とある地を租借したいのだ。
それがまとまらぬとしても、ことさらに害する意図などはない。
──王子ならば、──『籠付き』になってしまうかもしれぬが、我が名にかけてその身を保証しよう。
わが
公女殿下はショタ好きなのか、と僕は現実逃避気味に考えた。いや、ナリス公よりマシってことか。
確かに王位継承順位はナリス公より高いし、僕が思ってたより、性格もずっと温厚でいい子だ。
──ちがう、そこはポイントじゃない。
「王女は」
「──我が一存では、直ちには確約しかねる。だが──」
「駄目だ」
答える前の一瞬。僕の頭をあの少女の菫色の目と月光を浴びて輝く銀色の髪がよぎっていた。
今回は、──いや、「今回」なんてない。とにかく
公女殿下は僕の答えを聞き、目を閉じて深く息を吸った。
「──あの巫女姫のためか?最大限の努力はすると誓おう。
そしてこれまでの条件に加え、──私の持ちたるすべて」
怒りは見えない。
ただ開いた緑の目の底の昏い光と圧力が増しているように、僕には感じられた。
「そのうち、そなたが望むものを与えよう」
「王女など関係ない。いかなる財宝も不要。俺は誰のものにもならぬ」
「そうか」
公女殿下は、再び目を閉じて深呼吸した。
目が開き。公女の美しい緑の、しかし今は暗い焔を宿す瞳が僕に据えられる。
白騎士たちが、たじろいで剣を握り直す気配。間違いない、彼らが恐れているのは、僕じゃなく公女。
「──そうだったな。
そして私は言っていたな。次に会ったときお前を殺す、と」
そう、公女は言った。
(覚書)
○黒蓮の粉の効果?
古くはオデュッセイアの時代から黒蓮の花は麻薬として知られていた。
原作でも、黒蓮の粉があたかも古典推理小説の中のクロロホルムのように催眠剤として用いられる描写がある(それも非常に強力なようだ。イシュトヴァーンのパロ侵入時、アストリアスの牢獄での昏睡)。
他方で、興奮剤として用いる描写もある。たとえばナリスは黒蓮の粉を服用してクリスタルを深夜に徘徊している(「パロのワルツ」)。地球でも煙草のように両方の効用を持つものもあるが、効力はさほど強力ではない。
本作中では黒蓮は量によって鎮静方向・覚醒方向の両方の用途を持つものだが、非常に強力で使い方を誤りやすい、と勝手に仮定する(そうすれば、嗅がせて意識を失わせるくらいの激烈な効果にも説明がつく)。