(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。 作:Marchhatter
○ご感想をいただきました。ありがとうございました!
・原作イシュト、シリアスでないときはル◯ン三世だと思うのですが、ル◯ンほどには運に恵まれませんね・・。
偽イシュトの中の人、おそらくアストリアス系の爽やかな体育会系(?)とはノリが違ってとまどいながらも。
外面だけはいい現代日本人対応をイシュト語変換でごまかした結果、仲間認定されてしまっているのかも。多分終わったら寝込みます。
・今回は展開が難しかったです。状況の収拾を図って例のあの名場面につなげたかったのですが、ちょっと伏線が足りなかったかも・・。
(そういえばヤヌスの双面は過去と未来、去年と今年という意味があるとか。本年も良き一年でありますように!)
・原作パロ、たしかに考えてると矛盾が出てきてしまいますよね。どんな国なんだろう、と原作を読んでも最初の設定と後の記述がまるで整合せず別の意味で謎の超大国(?)になってしまったり。
(原作はナリス万能を崩さぬようパロの敗戦をなかったことにしたくて後付け設定していくうちに、ますます変になってしまった感じもあります。奇襲一つで決まるわけもないし、魔道もそんな万能だったら負けるはずもなくてパワーバランスがおかしくなってしまう・・。)
グインやイシュトは強いのだとしても、多少「白髪三千丈」的な修辞表現なのでは、と自己解釈しようかと思っています。そういえば原作は、三国志演義的世界観に近そうですね(単騎数千人を退ける、みたいな。諸葛孔明のごとき軍師の存在や、どうみても数で劣勢の軍への将によるバフの点も・・!)。
○ご評価をいただきました。ありがとうございました!
前話の誤字のご指摘をいただきました。ありがとうございました!
○第三者視点です。長くなったので分割しましたが、まとめての方が良かったかも。
(第三者視点、大蛙岩周辺、大仕合の終了前後)
「爺、いや、マルス伯。早速だが、イカダの調達はどうなっている?」
式典を終えて。
トーラスへの帰還を命じられている公女アムネリスは、腹心であるツーリード城主、マルス伯とモンゴール軍の撤退の手筈について協議を行っていた。
数日前、グインも巻き込まれたあの「ドールの大嵐」で、ケス河も大荒れとなり。
一時的にケス河に渡していた浮き橋と、少なからぬ数のイカダがモンゴール軍から失われていた。
カロイやグロとの戦闘、そしてノスフェラスの怪物たちに捕食されて生じた死傷により、1割弱の人員が戦力外となる痛手を被っていたものの。
総勢1万五千のモンゴール軍(※)は、史実よりはるかに人員損耗は少なく、その軍勢のほとんどは戦力として維持されていた。これだけの人員を一度に動かすのはなかなかに困難である。
そしてアムネリスはノスフェラスの嵐の時期が近いという情報を、投降させたカロイの残党から得ており。
その前に、モンゴールのノスフェラス派遣軍の主力が渡河できるような物資調達及び人員の搬送計画を立案することをマルス伯に求めていた。
今日、先陣を切って渡河し帰国するのは、公女とその腹心、わずか500人。
金蠍宮からの出頭命令に応えて急行軍に堪えうる精鋭たち少数に、絞り込んだからでもあるし。
ノスフェラス側に残ったイカダと、ツーリード城から供出されたイカダの現有数では、日の残る時間帯にはその数しか運べないからでもある。
なお今回使用するイカダの底面には、毛皮が取り付けられている。
これまた傭兵から情報を得て実験した公女は、毛皮を取り付けられたイカダは、そうでないものに比べ水妖による被害が(皆無とまでは言えないが)大幅に減少すること、水妖除けの効果は毛足が長いほど高まること、を確認し。
できるだけ長毛の獣の皮をイカダの底面に貼り付けるよう命じていた。
数日中には、ツーリードで建造中のイカダが完成し、またアルヴォンからもイカダが到着する。
その後は、一日3000人程度が渡河でき、数日中に撤退が完了できる。
そうすれば駐屯地の維持に残す最小限の兵力以外は、嵐の季節の前に無事に帰還できるであろう、という見通しをマルス伯は立てており。
これは公女アムネリスを、十分に満足させるものだった。
「ただ、公女殿下。水妖が多く出る、黄昏どきの渡河はあまり安全とは云えませぬ。
大公の命がどのみち明らかならば、一日待ってトーラスへは戻らずそのままパロに下向することとしては如何。
ガユス伯が復調されれば水晶球で伝えるか、それが叶わねば儂が息子をトーラスへ遣わし、大公殿下に伝えておきましょうぞ」
マルス伯は正直なところ、この孫娘のようにも思っている公女を、近年ますます狷介さを増している大公のもとへ帰すことが不安だった。
若年でありながら、公女は次々と大任を命じられて重用されており。
また公女も大公にどこまでも忠実であり、その信頼にふさわしい功績で応えている、──と、表向きはされている。
しかし実のところ、大公と公女との間の空気にはどこか冷たい底流が流れていることを、公女に近い人々は感じ取っていた。
大公が、彼女に新たな任を命じるとき。
そして戦功をあげて凱旋してくる公女を讃えるときに、彼女に据える視線、投げる言葉。
そこにはどこか冷ややかな、冷酷な、そして嗜虐的な響きがある。
「
今回のノスフェラス遠征では──失敗とは言えないまでも──思うような成果を上げられなかった。
金蠍宮は一枚岩ではない、これを彼女の戦歴の
それを大公がどのように
「それには及ばぬ。金蠍宮が容れるかもわからぬ。
もし水妖が問題なら、ツーリード側の迎えを増やすよう狼煙で合図し、今日の渡河人員を半分に減らせ」
「公女殿下。儂はこれでも大公殿下の剣術師範だったのですぞ。大公殿下も、多少は聞く耳を持ちましょう。
儂が大公殿下に直談判して、──」
「ならぬぞ爺。それは下策だ。
なに、多少の苦言とお叱りを受けような。だが私にはまだ、
それが終わるまでは、いきなり死などは賜るまい。アルマナリック叔父亡き今は、特に。そう、仮令私が望んだとしても」
「──ご冗談はなりませぬぞ!」
公女の母方の叔父にあたる人物、アルマナリックは。
才覚にも優れ、先代のトーラス
内政に堅実で優れた手腕を発揮し、飢饉で荒れたモンゴールを立て直すのに尽力した人物である。
大公は彼に些細な言いがかりをつけ、謀反ありとの口実でその家族と子飼いの部下を族滅した。
その東トーラスにあった邸宅も、下働きや下女たちを逃げ出せないようとじこめた状態で火をかけられて焼かれ、往事の面影を残したまま廃墟となり。
アルマナリックの名は公式の記録からは抹消され、口にすること自体忌まれている。
このアルマナリック事件の真相は、実ははっきりしない。
これに先立ち、大公が呪いを受けて正気を失ったのであると考える者もいるし。
反逆自体は真実で、それをきっかけに大公が人を信じられぬようになったとみる者もいる。
しかし野心に乏しく忠実なアルマナリックが大公への反逆を考えるとは思えない。
彼が人心を得たことを、大公が快く思わなかったのではないか、とマルス伯は考えている。
いずれにせよ大公の残虐な行動は、アルマナリックの族滅のすこし前あたりから顕著になってきていた。
かつては大公の剣術の師でもあってその信頼も厚く、大公の面を冒しての直言を行っていたマルス伯も。
命を狙われることこそないものの、疎んじられるようになり。
宮廷への出仕に及ばず、と遠ざけられている。
「冗談ではないぞ。そのうち、爺に力を借りねばならぬ事態になるかもしれぬ。
だが、今はその機ではない。今動けば、あらぬ嫌疑を受けよう。私の身なら大丈夫だ、嫁入り前であるしな」
「それは、──そうかもしれませぬな」
マルス伯はもう老境。彼自身は怖いものなしではあるが、まだ成人したての息子も娘もいる。
それに今回のノスフェラス遠征は、大成功でないというだけだ。大きな失敗はなく、咎める要素に乏しい。
カロイを服属させ、セム・ラゴンの実力を測り、その統領と和を講じて背中を安んじ、交易により貧しい辺境の開拓村の振興を図るすべを得た。
失点としては、双子を逃がしたことくらいだ。いや、それが大きいのかもしれないが。
「ただ、姫様。よろしいので?今回の命は、縁組なのですぞ。
大公殿下としては、どちらに転んでもいい。姫様がうまくことを運べねば姫様を咎める口実とする。うまくことを運んでも、姫様をサリアの鎖で異郷につなぎとめて『匕首を持ったままの接吻』を強いることができましょう。」
「良いわけはない。敵地への嫁入り、どのみちろくなことにはならぬ。
──しかしそうもなるまいな、自分に自信のあるお方だと聞く。その足もとを掬われねばよいが」
アムネリスは、ため息をついた。
「婿殿といえば。──姫様が気にかけておられる、あの密偵の男と話しましたぞ。
仕官に誘ったのですが、叶いませんだ。
あるいは親兄弟を質に取られていたりなど、何かのしがらみがあるのかもしれませぬな」
いったんは殺そうとしたとはいえ、あの男、アルゴンのエルのことをマルス伯は気に入っている。
彼自身の豪剣を受け流す技量も。他の者を恐怖させる、彼が大仕合でみせた狂気も。
あの「青髭」と剣を交えたことすらある古強者の目には、痛快無比な武者ぶりと映っていた。
孫娘のようなこの公女を、ああいう剛の者が傍らで守ってくれれば安心。近習への誘いは、本気だ。
「そうかな?いつもあの婿殿は自由気ままのように思える。羨ましきことよ。
われらこそ雁字搦め。われらを見れば、彼が仕官したがらないのも無理はあるまい」
「はははっ、確かに」
公女と伯は、顔を見合わせて苦笑を交わした。
「さて。最後の逢瀬であるな。
何か婿殿に報いる恩賞でもと思ったが、何も思いつかなかった。
爺は、何か考えつくか?彼の好むものなど。」
彼らが関を抜けやすくなるよう、自分(公女)とのつながりを示す書付けと水晶符を渡すつもりだ。しかしそれらも敵国に入るには却って害をなす。ありがた迷惑なものかもしれない。
他の出場者と同様、駿馬と路銀を与えるか、としか公女には思い浮ばない。
「はて。──ああ、恩賞としては無理でしょうが、酒は好きそうでしたな。」
「おお、そうであったな」
貴重なヴァシャ酒は今回、この会場に持ってきた分はすでにすべて供出してしまった。
本拠地に戻れば在庫はあるが、ここで手渡すことはできない。
「公女殿下。ところであの男のことですが、──姫様に憎まれていると思っているようで」
彼の見る限り、あきらかに公女はあの者を気に入っている。
とかく彼女を偶像にして崇める対象としてしまいがちな取り巻きにはない、彼の無礼と紙一重の気安さを彼女は楽しんでいるようだ。
他方、男の方では士官の誘いに対し、否定的だった。2つの要因がありそうだ、とマルス伯は思っている。
一つは、時期。傭兵は絶対拒否というのではなく「今は無理」と言っていた。
なんらかの桎梏があり、それがなくなれば応じられるのかもしれない。マルス伯としても、すぐすぐというつもりはない。時を待とう。
もう一つは、不安。話してみてわかったが、彼には誤解がある。マルス伯自身が提案して強く求めた傭兵への腕試しを、傭兵が自分の謀殺のたくらみと誤解し、しかもそれを公女の意志によるものと考えているのだ。
彼を将来召し抱える布石として、傭兵の誤解は解いておきたい。
「グイン統領殿からもその点を言われていてな。
もちろん、私が親しく何か言うこととしよう。表彰にことよせて」
やっぱり公女殿下は聡明だな、言うまでもなかったか。──とマルス伯は安堵する。
しかしその聡明で一見完璧にみえる公女殿下も、まだ十八の娘にすぎず。
軍事以外のこと、古い習わしなどには不慣れだったりもすることを、この自らも武辺ひとすじに生きてきた老人は失念していたのだった。
──────
──────
(第三者(レムス&リンダ)視点、夕刻、大蛙岩近くの会場の一隅)
時は、わずかにさかのぼる。
「ねえ、リンダ。大丈夫!?」
仕合を無事終え、味方であるレムスですら少々引くほどの狂気を見せつけて勝利した彼らの保護者。
レムスは彼の勝利を見届けてほうっと息をついたが。
彼の姉が、さっきから顔を覆って声にならない嗚咽を漏らしているのに気付いて、あわててその背を叩いた。
「彼、死んだの」
「えっ?」
「死んだでしょう!首の脈を斬られて。血が流れて。二の剣で、胸に剣を突き通らせて」
「誰のこと?」
リンダが顔を上げた。レムスはその睫毛に涙の粒がまだついているのに気付き、慌ててて手布を出して押し当てたが、うるさげに払われる。
「彼よ、他に誰がいるの!
イシュトヴァーンが!ああ、私のせいだわ、イシュトヴァーン、──えっ?」
王女は、口をぽかんと開けた。さっき驚いてたあの怖い公女の顔とそっくりだ、とレムスは思う。
彼女の視線の先では、額に勝者のしるしである冠を巻いた黒騎士が、審判に導かれて剣を差し上げながら。
あの(ときどき喧嘩してるときは、ウザく思える)ニヤつきを端正な顔に浮かべ、会場を一周している。
彼に吹き飛ばされた赤騎士は立ち上がれず、担架で運び出されているようだ。
「どうして、──ぇええっ!?」
「ねえリンダ、きっとイシュトが転んだときから見てないんでしょ?
彼、あれで本気になったんだよ!」
──それはもう、すごかったよ。別人かと思うくらい。
コテンパンに、あの強い赤騎士を叩きのめしたんだ!
レムスはあのときの興奮を思い出しながらそう説明するが、リンダの反応は弱い。
信じられぬものをみるように、引きあげていく彼の後姿を見つめている。
「そ、そうなの。よかった、よかったけど」
「よかったじゃない?あ、スニさん」
「イシュト、勝!よろこんぶ!」
「そうだね、イシュトが勝ったね!『喜ぶ』だよスニさん」
「ありがとう!姫様、喜ぶない?」
「え?違うわよスニ、喜んでるわ。──よかった、勝ったのね!」
おそらくイシュトが死んだと思って目を閉じてた。そして目を開けたら、予想と違って勝ってた。
その悲から喜への感情の振れ幅に、ついていけていないのだろう。
早くイシュトが本気を出してくれてたら、リンダをこんなにやきもきさせて泣かせることもなかったのに!と。
レムスは、スニやシバたち、素直に喜んで跳ね回っている周りのラク族たちと、イシュトヴァーンの勝利を喜びあいながらも。
すこし、そう、ほんのすこしだけイシュトを恨めしく思ったのだった。
──────
レムスの姉は、最初はそんな具合だったが。
やがてスニたちと語らい、まだ未成年なので馬乳酒は飲めないが貴重な砂漠の椰子の甘い果汁を飲んだり、ペヨテの燻製を味わったりしているうちに。
先にどこかでヴァシャ酒をしたたかに聞こし召したと思しき薄情者のイシュトヴァーンが現れたころには、すっかり元通り、元気になっていた。
「もう!イシュトヴァーン!
あの赤騎士が不甲斐なかったのね、だったら私があなたの根性を叩きなおしてあげなきゃ!」
「うわっ、レム坊!お前の姉を止めてくれ!」
「僕一度云ったよね、その『レム坊』っての、あんまり好きじゃないって!」
おそらくは照れ隠しなのだろうが、まんざら本気も混じっていなくはない勢いで。
これまたイシュトヴァーンが作った紙を蛇腹状に折りたたんだもの(この傭兵は「ハリセン」と呼んでいた)を振るうリンダに叩きのめされてみせる彼は、なんだかんだいって付き合いがいいな、とレムスは思う。
二人でイシュトを制裁し、うつ伏せに這わせて背中にスニと3人で並んでしばらく座り、耳を引っ張ってやった後に許してやり。
シバたちや、祝いを述べにきた巨大なラゴンの戦士たちも交えて、彼らはしばし馬乳酒や椰子汁で祝杯を交わしたのだった。
(あれ?リンダ、まだひきずってる?)
ただ、この生まれたときから彼女と一緒にいるレムスだけは。
元気にはなったが、どことなくまだ思いにふけるような様子をかいまみせる自分の姉のことが気になっていたのだった。
(覚書)
○モンゴール軍のノスフェラスへの派兵数と損害
ノスフェラスへ派兵されたモンゴール軍の兵力は、1万五千人余り(第2巻『荒野の戦士』以降、多数記述あり)。ただし、2万人とする記述もある(※)。
※→第6巻「アルゴスの黒太子」第2話4冒頭「そしてモンゴール二万の遠征軍とたびかさなる戦いに耐え、・・」
史実ではモンゴール軍の最終決戦の序盤において、セムはいったんは大虐殺に等しいほどの損害を受ける(ツバイ族はほとんど族滅、グロ族もイラチェリが殺されるなどの大損害を被る)。ただしグインとラゴンが戻ったことにより形勢は逆転し、ゴーラ軍は親衛隊長ヴロンらを失うなど(※生死については2説あり)、1万五千のうち本国に戻れたものは三分の一に達しない(※)というほどの大損害を受けている。
※→第5巻「辺境の王者」247頁「モンゴール一万五千の遠征軍は、むざんにも、その三分の一をすらのこしていなかった」
本作では、犠牲は出たものの主力は損なわれていないことになる。ドールの大嵐でイカダが無事であったとも思えないので、本文に記したように撤退にはある程度時間がかかるものと仮定した。