(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。 作:Marchhatter
・いやーナリスさん、まだ良く理解できてないんです。芯の部分は確かに一貫しているけれど、序盤の陰謀編と中盤以降とでは人柄には変化(成長?)があったり(序盤でのサラへのあんなキレ方とか、中盤以降のナリスはしないだろうし・・)。その幅や厚みや変化、解釈しがいのある人物なのだろうと思っています(うまく書ける気が全くしないですが・・)。
・はい、イシュト本人は必死で公女からもモンゴールからも逃げまどっているはずなのですが。
いやー、なぜこんな悲惨なことに。きっと
(登場人物たち、公式見解ではサバサバ系とされてても、実はねっとりした情念持ちだったりしますよね。)
・確かにリンダさん、客観的にはちょっとどうかなーと思って引いてしまいますが。
きっと中世欧州の、領主の奥方と騎士との
遍歴の騎士たちからの愛を捧げられるのは、別腹なのでしょう!(ほんまかいな)
(※個人的には中世の領主たちって、奥方に愛を寄せられてキレないのかなー、なんて思いますが。)
・偽イシュト的には、おそらくどっちも虎口って感じですよねー。
そうそう、スニさんも実は高貴なるセムの大族長の孫娘なのでした。+1かも?
(唯一の安全牌。ロトーからも、きっと偽イシュトに謎の圧力などないでしょうし。きっと、多分・・?)
・確かに、偽イシュトが帰ってきてグインと交わす会話としては。
「大丈夫だグイン、死ぬこと以外かすり傷だぜ!」
「いや、イシュトヴァーンよ。おぬし、頸動脈が切れているぞ。きつく縛っておけ」
みたいな感じですよねー、きっと。
・あけましておめでとうございます!
なかなか陰謀編が難物で(なかなかちゃぶ台返しが難しい)、読み返してぐぬぬとしておりましたが。
グイン一行(合間にトーラス、パロ&アルゴス)を中心に進めてみたいと思います!
・おそらくは、偽イシュト10割の過失。
軽いブレーキのつもりで、アクセルを床まで踏みこんでしまい。
いやー、アムさんからどんな
○偽イシュト視点→第三者視点です。遅くなって長いわりにあまり進んでないです。説明多め。題名、あとで変えます。
しかしここを抜けたら、グイン一行は猛然と港町ロスをめざすはずです。多分。
030 隠蔽工作
(偽イシュトヴァーン視点、ラクの谷、大仕合から3日後の朝)
「早いな、イシュトヴァーン」
「おう、グインこそ」
まだ
僕がレムスの起きる前にのそのそと天幕から這い出してみると、すでにグインは起き出していて。
古代遺跡の神像のように、じっと明けゆくノスフェラスの砂漠のかなたを見やっていた。
(僕たち3人組、つまりレムスとグインと僕は基本、同じ天幕で寝てる。
ただグインはここ1、2日ばかり、撤退準備での深夜までの合議の便宜もあって、セムの長老たちの家でラゴンとともにすごしていたようで、僕たちの天幕に戻ってこなかった。)
「剣を振るのか?」
そのつもりだ。昨日の朝は寝坊して朝の練習が少ししかできなかったからな。
ちょうど都合よく、いい
「おうよ、ちょっくら1ザンくらい振るつもりだぜ!
グイン、軽くみてもらってもいいか?」
グインは頷き、見張り(なんだろうか?)をしながら、僕の剣の稽古につきあい、気づいた点を助言してくれる。
圧倒的な力の印象が強いが、グインは技術もピカイチだし、助言はとても的確だ。
もちろん彼の怪力のおかげで成り立つ技もあって、そんなものは真似できないが。
彼とて体は人間だからね、体を効果的に動かす技術は基本的に同じ。それを見て盗んだり、助言を得て工夫したりしてる。
いつもは最後に1回だけ軽く手合わせする。もちろん得物は大剣に見立てた棒だし、勝敗などつけないが、彼に打ち込めると感じたことはまだ一度もない。
僕は鍛錬や研鑽は怠るつもりはない。原作イシュトに劣らないように腕を磨こうって思ってる。
いや、不安でしょうがなくて。僕はイシュトヴァーンとしての能力を持っているけど、まだ十分に使いきれているって感じがしない。
現に、この前は体調その他は整えてあったはずなのに、原作で互角だったアストリアスに序盤はかなり押し込まれてしまった。
そしてこの世界には普通にアストリアス級に強いやつはまだまだたくさんいる。原作イシュトなみのLUKなんかない僕としては、少しでも生きのびる確率を上げたい。
だから僕は毎日剣を振るし、基本的には早寝早起き、酒も飲まず節制してる。
真・イシュトヴァーンは、描写されているように酒好きというか酒浸りだったし。
彼の中の人たる「僕」も実のところは(量は飲めないけど)飲むのは好きで、仕事が終わった金曜の夜とか、飲みつつ本とか映画でよふかしするのが楽しみだったんだけれども。
この世界にあっては、この前みたいに付き合いや祝い事で飲む機会だけ。
──そう、自分に言い聞かせてがまんしてる。
それに馬乳酒が思いのほかモンゴール兵に人気で飲むほど在庫がない、ってのもある。
大仕合後に引き合いがいっぱいきて商売繁盛らしいよ、飛ぶように売れてラク族の在庫が払底したから他部族から集めて売ってるってサライ君に聞いた。
ちなみにサライ君とかスニさんとかは、少しキタイ語もできるし。
中原標準語も、僕とレムスが一緒に猛特訓したからね。
難しい表現は無理だけど、ごく基本的な日常会話や物々交換はなんとかなる。
まだ文法はいまいちだけど、とにかく意図は伝えられる程度になってる。
──────
グインと剣を振りながら、考える。これまでのこと、これからのこと。
心の中で再確認し、気になるところに思いを馳せる。
まず、原作どおり順調に進んでいる点ね。第1巻から第6巻くらいまで。既に1回確認したものもあるけど。
①スタフォロス城陥落(第1巻)。 →クリア
②僕とグインとリンダとレムスのノスフェラス放浪(第2巻)。 →クリア
③モンゴール軍のノスフェラス進出(第2巻)。 →クリア
④セム(特にラク族)の糾合、大同盟(第3巻)。 →クリア
⑤グインの狗頭山行、ラゴンとの同盟(第4巻)。 →クリア
⑥モンゴール公女アムネリスとの対決、公女のノスフェラスからの撤退(第5巻)。 →クリア
⑦グインとラゴンの勇者ドードーとの再対決(第6巻)*1。 →クリア
⑧公女アムネリスのトーラス召喚、結婚の命令(第6巻)*2。 →COMING SOON!(公女のリーク情報で、ほぼクリア確実)
ほらね、続々クリア!原作どおり、進められてる!
僕は、しみじみと達成感にみたされる。がんばったよ僕、すごいがんばった!
辺境編も終わり。本で言えば、今、陰謀編がはじまる6巻「アルゴスの黒太子」あたりじゃないかな?
「イシュトヴァーン、それでは組太刀に」
「おうよ」
グインに呼びかけられて、素振りから組太刀に移る。交互に、打ち込みと受けをやる。
重くした木剣を使ってはいるが、まともに受けずに受け流すようにする。
グインがどれくらい本気で打ち込んでるのかわからないが、僕にとっては相当の力。失敗すると大変だ。
だが、さすがのイシュトヴァーンの身体能力。
前は受けるのがやっとだったのが、大仕合あたりから後。
体が覚えたのか、我ながら流麗にすらっと受けられるようになってる。成長してる!
ここでも、僕は充実感を覚える。
すこし余裕が出た頭のすみで、これからの見通しに思いを馳せる。
(このあたり、僕読み飛ばしてたからあんまり覚えてないんだよなー。間違ってるところもあるかも。
長ったらしいから、次の”────”まで飛ばしてOK!)
──────
これから直近の予定の確認をしてみよう。原作6、7巻あたり。
⑨グイン一行、徒歩でノスフェラスの荒野を横断(第6巻、第7巻)。 →COMING SOON?
史実ではグインたちは狗頭山のふもとから自由国境地帯のケス河沿岸まで、ノスフェラスの荒野を1か月かけて横断している*3。そしてロスに入る*4。
ただなー、僕はノスフェラス横断に1か月もかけたくない。シバたちは、確かに喜んで同行してくれるだろうけどさ。
公女との約がまだ有効な今のうちに、ケス河を使うべきだと僕は思う。何しろスタフォロスから5日間でロスまで到達できるんだぜ*5。アルヴォン、ツーリードからなら3日を切るんじゃないか?モンゴール領内を抜けるだけなら、1日で行けると思う。
もし兵を伏せての闇討ちが怖いなら、夜にいってもいい。とにかくモンゴール領を抜ければこっちの勝ちだ。
カロイはケス河を夜超えて、見張りも立ててたスタフォロスを陥とした。それだけ夜の河は見通しが効かないんだ。
そもそも流れの速さもあって、ケス河のノスフェラス側に寄せればまず射かけても当たらないだろう。
夜はあぶないんじゃないか、って?そのとおり。岩にぶちあたる危険性はある。
でもグインもスニさんも夜目が効く。なんなら僕もそこそこ。
⑩ロスからの船出(7巻)
原作では、グインたち一行はロスでモンゴール軍の封鎖をかいくぐって、「ガルムの首」号という海賊船で沿海州を目指す(第7巻第4話)。
これ、上の⑨で1か月以上かけなかったら悠々とかいくぐれたんじゃないかなー。
おかげですごい品の悪い海賊とあれこれあったり、嵐のときにグインが海賊に顔バレして一時的に失踪する羽目になったり*6、海賊と戦ったり、「紅蓮の島」で様々な怪異に接したりすることになる。
僕たち関係では、ここらへんかな。あまり大きな動きはない。
ちなみに、僕たち以外の状況はこんな感じ。
⑪草原関係(6巻、7巻)
パロのベック勇猛公*7、アルゴスのエマ女王*8、アルゴスの黒太子スカール*9の会話とか蘊蓄とか(第6巻)*10。スカールとリー・ファとかター・ウォンとかの側近、草原の騎馬の民たちとのやり取りとか蘊蓄とかカウロス挑発とか(第7巻)*11。
これらは変わる理由がない。原作どおりだろう。
正直、僕はあまり関わるつもりはない。僕の中のイシュトヴァーン、草原はあんまり好きじゃないみたいなんだ。海がないからだろう。
⑫アストリアス出奔(第6巻、第7巻)
地味に重要なのが、これ。
なんとアストリアス、上の⑧のこと、つまりヴラド大公のアムネリスへの結婚命令を聞いて心破れ、パロに遣わされたアムネリスを追って出奔してしまう(第6巻)*12。そしてナリスの弟のアル・ディーン(マリウス)と魔道師らに捕獲され、情報を吐かされてしまう(第7巻)*13。
これ、どうなるのかな。アストリアスの公女狂いぶりはひどかったからな、原作どおりじゃないのかな。
アストリアスのことはどうでもいいが、アストリアスが暗殺者に仕立てられてしまうのは避けたい。ナリスの身替りの暗殺をやっちまうんだよな。べつに奴に同情してるわけじゃないぞ。
そう、アストリアスはどうでもいいが(念押し)、マリウスは早めに捕獲してミアイル暗殺にかかわらないようにしておきたい。
ただなー、魔道師どもの目があるからなー。接触したら、きっとあの連中がウゾウゾわいてくるよな。くわばらくわばら。
⑬ナリス関係。
アルド・ナリスが潜伏先からクリスタルに戻るが*14、クリスタルでの潜伏先(神殿長ギースの娘サラ)の裏切りにより、モンゴール軍の虜囚になって*15カースロンの拷問を受ける*16。そして強制されて舞踏会に出て、アムネリスと遭遇する(第6巻)*17。
──これも、大きく変わる理由はないんじゃないかな?
ちなみに原作より性悪だが原作より有能なアムは、モンゴールのクリスタル駐留軍の上層部(タイランとかカースロンとかね)のことはよく思っていないようだった。
クリスタルを略奪したり乱暴狼藉したりしてるんだろうな。歴史をみれば分かるけど、いつでもどこでも戦に勝った軍の一般兵というのは基本、やりたい放題だ。
⑭アム×ナリ関係(7巻)
公女アムネリスはクリスタルでアルド・ナリスと強制お見合い。そして最初は反発するが*18。ナリスにあっさり篭絡され、恋に落ちる(第7巻)*19。
原作より公女の性格が慎重に思えるが、ナリスはナリスだ。原作どおり、あの性悪公女を骨抜きにするだろう。そしてナリスもまたアムネリスを、──いや、ここはよくわからないな。ナリスは本当にアムに恋をしたのか、していない擬態か、そのどちらでもないのか。
僕は「少なくともそのときのナリスは、自分が本当にアムに恋をしていると思っていた」説かなー。異論は認める。
ちなみにその後、ナリスは刺客に殺された風を装って婚礼から逃げる。
アムは悲しみに淫した後、事実を知って復讐の女神化、軍を率いて迎撃に向かう。
でもナリスの策に嵌まり、スカールにモンゴール軍を撃破され、クムの虜囚に。
──諸行無常だね。
──────
棚卸をした僕は、当面のことについてまた考えをめぐらす。
そう、ロスまで行くこと。それが第一目標。
さっき述べたとおりだけど、最有力候補はやっぱりイカダだ。
ケス河の水妖に襲われないなら早いし荷物も積める。
原作と違って、モンゴールというかアムネリスとは正式に一時休戦。これが有効なうちに動くんだ。
モンゴールのケス河流域地帯の主な所領は、スタフォロス、アルヴォン、そしてツーリード。
アルヴォン伯リカードの子が、あの小伯爵リーガン。単純な体育会系の筋肉青年。多分僕、マブダチだと思われてるぜきっと。だから通してくれるだろう。
そしてその下流のツーリード。これがなー、あのクソ爺のマルス伯の所領なんだ。
僕をあんな目に合わせたことはひと時たりとも許していないけど、実直な武人だし約定は守ってくれるだろうか。──いや、でもなー、「これも武略よ」とか言ってばっさりきそうな気もするんだ。戦国武将風だし。
ただ明白なことが一つ。両方とも、トーラスで大公が出した命令には逆らえまい。
ツーリードからトーラスまで急いでも2~3日(途中の砦で休むし。今日の夜にようやく到着くらいじゃないかな)。
ヴラドが話を聞いて直ちに協定破棄を命じて僕たちを捕えようとするかもしれない、でもそれも昼夜を徹した早馬でツーリードまで1日半。どんなにがんばったとしても、明後日の朝。鷹でも明日夜に着けるかどうか。普通、夜は飛ばせないし。
そして沿岸各地に兵が配備できるまで、どうみても1~2日。要所(砦の最寄り)だけなら早いだろうが、そこは僕たちも用心する。
モンゴールの北東の国境線は長くて砦が少ない、配備に時間はかかる。僕たちは1日でモンゴール領を抜ける。
だから僕はグインたちに今日の夕方か遅くとも明日未明には出立しようと具申していて、セムやラゴンたちにも了承してもらってる。
「イシュトヴァーン、交代だ」
「おう」
よし、役割交代。こっちが打ち込み役だな。
グインの受けを参考にして、自分の技にしないといけない。
そして合間合間に、また考えをすすめる。
今度は、懸念点だ。
⑭キタイの魔道師、カル・モルの所在。
こいつの生死や所在がわからない。キタイに戻った?あるいは、モンゴール軍に随伴してる?
史実だと、この魔道師はラゴンに殺され、その亡霊がレムスに憑りつく。
こいつが死んでないとなると、レムスは、カル・モルに取り憑かれることもなくなる?
それは嬉しいんだが、死んでも死にきれないくらいの妄執。生きてたら、どんな電波をまき散らすんだろう。
それに、レムスが急に成長したり、まがりなりにも王様できたりしたのはこいつのおかげって描写もあった。
となると、──これからどうなるんだ?
⑮白騎士サイム。
そう、僕を狙ってるってアストリアスが警告してくれた、問題の白騎士。原作、出てこないモブのおっさん*20。
こいつ、まだノスフェラスにいるらしいんだよね。馬乳酒の取引に来た、タロスの黒騎士に聞いた。残留してるモンゴール軍の指揮統括してるっぽい。
僕を殺すために、なんか仕掛けてくるだろうか。仕掛けてきたら、もちろんグインに双子を守らせて、その間に──
「イシュトヴァーン、刃筋が乱れたぞ。雑念があるな」
「
集中しよう。集中集中。
他所に気を散らしてるなんて、稽古につきあってもらってるグインに悪い。
僕は余計なことを考えるのをやめて、組太刀に集中する。
しかし打ち込みをしていると、今度はグインのほうから話を切り出した。
「イシュトヴァーンよ、『あの話』のことだが。
本当に、あの二人に云わなくていいのか?
特に、リンダからの視線が強いのだ。約束なのでな、答えないようにしてはいるのだが」
「はぁ、はぁ、ふーっ、──あー、すまねえなグイン。片棒、担がせちまってよ。
だがな、どう考えても云うのは悪手だ。」
顔に縦筋、はいるよなー。
順調な僕のチャートのなか、唯一の汚点。思い出したくもなくて目をそらして考えないようにしてたんだが。
──いや、ほら、あの大仕合でのことなんだ。
僕がついうっかり、性悪公女の罠に嵌って。
モンゴール軍二千(確実に、残りの一万三千にも伝わってる)の前に、さらし上げられ。
本名こそまだあばきたてられてないけど、行動の自由が大きく制約されてしまった。
原作の比でなく「アルゴンのエル」の目撃者は多い。目立つような反モンゴールの動きは難しい。
二千の兵士の口塞ぎなんか、到底できっこないし。
だからあの日は死ぬほど落ち込んで、やけ酒をあおり。
レムスの心配そうな視線を受けながらも寝袋にもぐりこんでふて寝した、はずなんだけど(あまり記憶がないんだ)。
でもさ?一晩、頭を冷やして考えてみたんだけど。
「モンゴールに金輪際かかわらない!」ってことにすれば。
そうすればさ、まあ大丈夫じゃないかな?
僕としては、さ。せっかくこの世界に来た以上、いろいろ世界を見て回りたい。
氷雪の女王にも会ってみたいし、ちょっと怖いけどゾルーディアも話のタネに訪れたい。
キタイは今危ないのかな、でもケイロニアにも行きたいし、タリアで美味しい海鮮料理に舌鼓を打ちたい。
(そして絶対に大きな声では言えないけど、クムの「歓楽の都」タイスにも、こっそり行ってみたい。)
一段落したら、比較的穏やかな地域の開拓村。健やかに陽光を浴びる大樹のような穏やかな生活。
つまり「すべての人の思いにすぐる神の平安」を獲得。
できれば奥さんと元気な子供もほしいかな。それが僕のめざす
その目的から、みるとだよ。
将来、国と国との戦いや陰謀の舞台に躍り出るってんなら別だけど。
ひっそりとモンゴールの勢力範囲外でスローライフやる分には、公女のさらしAgeなんて致命的な支障にはならないんじゃないかな、うん。
(ただ、本当は、さ?タリア周辺が移り住む場所の最有力候補だったんだけどなー、美味しい魚もありそうで。
でもあそこらへんはモンゴール勢力範囲内だからね、あきらめるしかなくなってしまった。性悪公女のせいだ。)
それに、そのうちナリスが彼女やモンゴール人たちの目を惹いてくれて、僕は忘れ去られる。OKOK、まだかすり傷だよね。
しかしまあ、──あの公女も公女だよな。
そんな無益ながら悪辣な計略をめぐらすもんだから、彼女自身こそ、かなりの返り血を浴びてるんだぜ?──もしかすると、僕以上に。自業自得だよ。
ほら、怖いものなしなんだ、酔い散らかした兵士たちって。
あの勢威絶頂時のカエサルのローマ凱旋でも、彼の兵士どもが「カエサルが戻ってきたぞ、ローマの人妻は気をつけろ!」なんて歌を本人の面前で高歌放吟してたって言うしな。
もちろん公女殿下も、兵たちの玩具になってるんだ。
♪氷の氷の公女殿下は、流れの流れの傭兵の、
熱き
──なんていう、クソフレーズで始まる小唄。
規制しようにも「あの熱き武者ぶりに公女殿下が心を射貫かれた、つまり感銘を受けたって意味っすよ。ほかにどう聞こえるんスか?」みたいに、うまくごまかして言い訳できるように工夫されていて。
咎める側の心が汚れてることになってしまうから、上層部も渋面で放置せざるを得ないとか。
──と、僕の顔を知らない、純朴そうなタロスの黒騎士(馬乳酒の革袋の受け取りに来てた)から聞き出した。
話が逸れたけどさ。
僕とあの性悪公女との間の言問いが成立した、とかのことも含めて。
こういった面倒くさい話の数々、グインに頼んで双子には全部秘匿してる。
グインは、そのことを言ってるんだ。
ほら、あの後。
グインは地獄耳だから聞き取ったし、終わったらいち早く僕に問いただしてきたけどさ。
双子は危険だからね、モンゴール人には近づけないよう遠く隔離してて、正確な情報が伝わってない。
セムもラゴンも中原標準語なんてわからないし、双子に決定的シーンは見られてない。
僕がみんなに囲まれてわーわー言われてたのは遠目に見たみたいだけど、単におめでとうの意味。双子に訊かれた僕は、そう言い張った。グインは半目になってたけど黙っててくれた。
人の噂も七十五日。大丈夫、しばらくすれば噂なんぞ消える。
便利なSNSなんかないこの世界、噂の伝播速度は速いとはいえケス河の流れほどじゃない。
それにこれからアルゴスまで、双子は情報に接することはない。勝ったな。
ただ、グインも言ってたけど。
なんだかリンダは疑問に思ってるみたいなんだ。
ときどき気がつくと。あのけむるような紫色の目が、じっと僕に据えられてる。
勘がいいからなー、リンダ。
レムスは単純に、ゴーラ軍屈指の勇者であるアストリアスに勝ったから激賞されたんだぜって言ったら、ふーん、て納得してくれたみたいだけど。
ただ、リンダに言うことはできない。絶対に。だって、もし言ったら、──
「──考えてみろ、グイン。
俺がちょっとでも双子に、その、──根も葉もないことを誤解されたら、な?
これから先の旅程、凄くぎくしゃくしちまうだろ?
いざというときに破綻するぞ、そんな
「──おぬしの言うことは正論だとは思うのだがな、イシュトヴァーン。
俺が思うに、既に彼らは「グイン!イシュト!ぼくも!ぼくも稽古したい!」」
レムスが起きてきたな。射し始めたまぶしい太陽に眉をしかめてるが、元気そう。
砂漠の強烈な日射でソバカスができ始めちゃってる。日中は笠をかぶるように徹底させよう。
「ああいいぜ、あと少しで区切りつけるからな!顔拭って準備してきな」
「うん!」
ぴょんぴょんと水場に向かうレムスの後ろ姿。ほら、疑心暗鬼なんて全然ないじゃないか。
このわずかな間に、はじめて会みたときは小学生ぽかった彼も、中2っぽくなってきたかな。
肩をすくめたグインは、苦笑するようにわずかに牙を剥き出して僕に頷き。剣に代えて棒を持つ。
さて、レムスが戻ってくるまでに仕上げの軽い手合わせだ。今日はあの技、試してみるか。
──────
──────
(グイン視点、裏)
「イシュトヴァーン、行っちゃったね」
「ああ」
イシュトヴァーンはしばらくレムスの剣術稽古につきあっていたが。
彼を呼びに来た、セムの青年サライに連れられて行ってしまった。
グインも、さまざまな政治的調整を行う必要があり。
この後、ラゴンの撤退(協定は結ばれたものの、グインもイシュトもセムの族長たちも、モンゴールの撤退が進んでパワーバランスが回復するまでの間は、駐留を望んでいたし、ラゴンの賢者カーも同意していた)に伴う打ち合わせがある。
それまでの間は、この王子の指南をしよう、とグインは思う。
「──ねえグイン。イシュト、おかしいよね最近。隠し事してるよね」
「ん?気にするな、奴は奴で忙しいのだろう」
ちなみにこの自分の頭が豹であることには、いい面もあるとグインは思っている。
まず印象が強くて初対面の人物にも忘れられることはない、というのはもちろんだが。
腹がよじれるくらいおかしい時も、今みたいに不意を突かれて動揺してしまったときも。
歯をかみ合わせて重々しく頷いてさえいれば、表情を読み取られることはまずない。
己の仏頂面というか豹面に、彼はひそかに感謝をささげる。
「忙しいのは分かるよ、僕も手伝ってるし!
まあ僕はいいんだけどね、でも、リンダにはさ、ちゃんと話した方がいいんじゃないかな」
「俺も、そう思うのだがな」
「グインも、話してくれないんだね」
「すまぬな、云わぬという約束なのでな。
──それでは、組太刀をするか」
去っていった傭兵の後ろ姿を眺めながら、グインとレムスはそんな会話を交わす。
(それにしても。イシュトヴァーンよ。
おぬし、まるで隠せておらぬではないか!)
グインは、胸中ひそかにため息をつく。
グインの思うに。
イシュトヴァーンという人物、妙に抜けているところがあるのだ。
利発なリンダはもちろん、内省的ながら洞察力に優れたレムスに。
こんな3歳の子供でも気づくような隠蔽がいつまでも続くわけがないのに、イシュトヴァーンだけは大丈夫と思っているらしいのだ。
たまたまリンダもレムスもイシュトヴァーンの最近の隠し事のある様子に突っ込まないのは、ひとえに。
2人のおかれた状況によるものだ。
リンダはなぜか傭兵への──猜疑心とまでは言わないが──何らかの懸念を復活させてしまい。
彼へ直接問いただしこそしないが、遠巻きに彼を憂いに満ちた視線で観察しているのだ。
(その反面、グインは彼女にイシュトヴァーンのことを問い詰められ、苦慮することが増えていた。)
レムスはレムスで、こちらはイシュトヴァーンの用事に巻き込まれて忙しく。
彼とは接触も多く、楽しく過ごしているようなので、多少の隠し事は気にならないようだ。
「気になるか」
「んー、別に?
だってイシュト、ぼくたちに悪いことなんてできる人じゃないし。
忙しかったり、隠し事してたりするのも、ぼくたちのためでしょ」
「そうか」
思わずグインも受け太刀をしながら、苦笑してしまう。
そしてイシュトヴァーンは、今しもサライに連れ去られた用務がそうであるように。
このラクの谷を出発する前に、さまざまなからくりやら換金商品を作るのに忙しく。
畏れ多くも、将来のパロ王かもしれないレムス王子を一味に引き込み。
急造の「シュゲータ」(布と
濁った馬乳酒に灰を投げ込み、不純物を沈殿させて澄んだ色の酒を作ってみたり。
布にイドの表皮を加工したべとべとした溶液を塗りつけ、水や空気を通さない布を作ってみたり。
そんなことを朝から晩までやっているようだ。
イシュトヴァーンたちが今、特に熱中しているのはイドの捕殺と利用であり。
高濃度に煮詰めた薬草の抽出液でイドを呆れるほどに簡単に情け容赦なく殺し。
そのぷよぷよして伸びる表皮を乾かして加工し、伸び縮みする輪っかを作ってみせたり。
イドの体の中を充たす組織液を壺に集めて燃やし、あぶなくレムスの前髪が焦げそうになるほどの火力を得て喜んだりしているようだった。
もちろん後者については、レムスに危険な行為をさせたとして。
ここ2、3日不気味なほどおとなしくイシュトヴァーンを傍観していたリンダも、猛抗議を行っていた。
(あいつはあいつで、どこか頭の
日ごろはレムスのいうとおり、オアシスの湖に住む
その実、グインをして思わずその豹顔を真顔にさせるほどの、おそるべき覇気と剣の腕をみせることもあれば。
グインをして肌を粟立てるほどの悪辣な陰謀家でもあるのだ。
(イシュトヴァーンよ、お前がまことに
いったいあの公女に何をしたのやら、──想像はつくが、問いたださぬ方がよいだろうな)
イシュトヴァーンがかつてグインに持ちかけた、頭のおかしい公女コマし計画。
それをイシュトヴァーンは実行したらしく、──そしてどうみても成功していた。
グイン自身が公女と話した印象、そして大仕合の褒賞のときの様子を横目で眺めた限りだが。
あきらかに公女アムネリスは、イシュトヴァーンを異性として意識しており。
熱い視線を、イシュトヴァーンに送るようになっていた。
(イシュトヴァーンが律儀に隠そうとしているのも、もとは俺のせいか?
やめておけ、リンダが知ったらどうする、とやつを止めたからだろうな。
だがな、イシュトヴァーンよ。もう状況は変わったのだ。感づいているぞ、リンダは)
それを一度イシュトに説いて考えを変えねばなるまいな、とグインは思う。
なにしろリンダはリンダで、なにか妙な考えをはぐくんでいるようにも思えるのだ。
「よしレムス、いいぞ。軽く、手合わせをするか」
「うんっ、──いくよ!えいっ」
レムスの成長に、目を細める
心のどこかで、パロの真珠のもう一粒の片割れのことが、晴れぬ雲のように彼の心に影をなげていたのだった。
(覚書)
○キレノア大陸の大きさと距離感(再)
グイン・サーガの舞台であるキレノア大陸は超巨大な大陸の可能性がある。再読していたら、トーラスからアルゴスまでは50万タッド(約75万km)ある、との記述をみつけた。
→第6巻第1話2冒頭「ここは、はるかパロの南、(略)トーラスの都にいたってはおよそ50万タッドもの遠きにある、草原の国アルゴスであった。」
これはおそらく誤植というか誤設定だと思う。なにしろ地球の1周が4万km(2万6千タッド)なので、これがマジならトーラスからアルゴスまで地球の12周分あるということになる。筆者(Marchhatter)はグイン・サーガの舞台は幻想の超古代だと思っていたが、もしかすると木星とかの異なる巨大惑星の可能性もある。
ただ、誤植でその1/100としても「5000タッド」(約7500km)。これは東京からモスクワの直線距離に相当する。これも長すぎるのではないか?パロはモンゴール・アルゴスの中間地点なので、モンゴールからパロまでは仮に直線ルートで馬を早く走らせても2か月くらいかかったことになる。「パロ奇襲」って、──。
個人的には、トーラスーアルゴスで2000タッド(3000km)くらいではないか?と思う。地球でいえば、ベルリン起点でウラル山脈、カスピ海のバクー、バグダッド北部あたりまでの距離に相当する。