(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。   作:Marchhatter

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(本日2回投稿の1回目です。)
〇ご感想をいただきました。ありがとうございました!

・そういえばパロはフランスがモデルとされていますが、革命なき歴史と伝統の英国っぽくもありますねー。ちょっと世を拗ねた学者とか、いかにもいそう。
 ヴラド大公、たしかに指し手としてはアムを認めてそうです!
 原作だと野心の塊みたいな描写ですが、頭痛持ちの本作では違う方向になりそうなのです。

・キタイの竜王、もしかするとヴラド大公同様、設定が原作とは少々違ってくるかもしれませんが。
(原作後半の流れに詳しくないこともあり、ちょっと違った方向に持っていきたい気もして・・)
 七人の魔道師のような感じに繋げられるのかなこれ?などと悩んでいたりします。

・モンゴールにもいろいろ謎がありますが、その一つは確かにその異常な躍進ぶりですよねー。
 ヴラドが建国当時20代、アムが陰謀編で18歳という記述があり。
 黒竜戦役当時に建国37年(?推定)で、ヴラドがよほどの辣腕を振るったのか、謎の海外資金が流入したのか、謎が深まります・・。

○第三者視点です。
 あまり進んでいませんが、次々回あたりから流れを速めたいです。


038 出稼ぎ労働

〇第三者視点

 

 モンゴール国境から東へ数百タッド。港町、ロス。

 モンゴール国境の要衝エイムからロス、タリアまでの間はいわゆる自由国境地帯であり、大小の開拓村が散らばっている。

 ただしこれらの開拓村も完全に独立しているものは多くはなく、数百の小さなかたまりに分かれ、小領主が統治したり、村の代表らが連合して統治したりしている。

 

 直接に支配しているわけではないのだが、この地域へのモンゴールの影響力は大きい。

 ロスへ至る赤い街道は、モンゴールの兵と地元の民兵により治安が維持され、道普請もモンゴールの財が拠出され、関も最低限のものを除き廃されている。

 ツーリードからケス川を使う危険なルートともに、交通の一大動脈としてモンゴール産のヴァシャをはじめとする産品の輸出ルートとなっている*1

 施政に口出ししたり直接に税を取り立てたりなどはしないが、諸勢力間の武力衝突を調停したりすることは多い。

 特に赤い街道沿いの領は、モンゴールの事実上の保護領のような扱いになっているとも言えよう。

 

「──とまあ、あのヴラドのおっさんは傑物ではあるんだろうな。

 すくなくと関を設けてもちまちま税を取る小さな利より、モンゴールからの輸出路の整備によるでかい利を見ることができてた、ってことについてはな!」

 

 ここはケス河河口の港町、ロス、──正確にはロス市の郊外、その市城壁の外に位置する、カストラ・グザム。

 その地の評判のよい旅籠の一部屋で、食事をとっている一行があった。

 背の高い男二人に、10代半ばの少年少女、そして小さな子供。

 

 彼ら一行はお忍びの旅行中だと旅籠のものに言い、口止めを兼ねた心づけをはずみ。

 交渉して洗濯場の一部を借り、お湯を作ってもらって身を清めた後、食事をしていた。

 

 ちなみにこの地域、かなり良い宿屋といえども行水の設備などない。

 たいていは宿屋でたらいに水を貰い、身や髪を拭き清める程度。

 お金をはずめば、水をお湯にしてもらえる。

 いわゆる入浴は、町の湯屋か貴族の豪邸でしかできない。

 

 しかし、この一行。異常なほどに綺麗好きなものがいるらしく。

 宿の者は、首を傾げつつも報酬に喜んで、大量のお湯を用意した。

 久々に入浴してさっぱりした一行は、部屋で食事を摂ることとし。

 大男のうち一人が、かいがいしく下の厨房から食事を運んできていたのだ。

 

 一行は顔を見せたがらなかったが、たまたまちらっと見えた少年は目を引くくらいの気品があり。

 いかにも腕の立ちそうな大男の護衛たちを伴っていることからも、察するに。

 きっとモンゴールだかタリアだかのお貴族様の御曹司のご一行に違いない、と宿の手代は考えていた。

 港町で荒くれも多いロス市内より、モンゴール側にあるカストラグザムのほうが同じ等級なら旅籠代が安く、治安も良い。なかでもこの「跳ねる兎」亭は食事も美味しいと評判だ。

 だからこの一行も、この旅籠を選んだのだろう、と宿の者たちはほこらしく思った。

 

「そんな傑物が、どうしてパロに侵略などするのよ!」

 

「ははっ、違えねえ。どうみてもおかしいんだよな、この戦役」

 

 リンダは、しばらく前まではヴラド大公やモンゴールのことが話題に出るたびに目を三角にしていたものだが。

 最近はかなり冷静になってきてる、とレムスは思っている。

 ヴラド大公を称揚したりする言葉に対して沸点が低いのは、相変わらずだが。

 今のイシュトヴァーンの言葉にも、かちんと来てはいるが、すぐに食ってかかったりはしない。

 

「だいたい国境を何一つ接してないパロに侵攻、って時点で変なんだよな。

 大公は横紙破りな手を打つことはあっても、今までやった施策は合理的。

 ただこのパロ侵攻だけは、訳わからん。

 あの性悪公女も、おっさんには手を焼いているらしいぜ」

 

「逆じゃない?あの公女もなかなかの悪って聞いたわよ」

 

 羊の骨付き肉はこんがりとあぶってあり、焼いた鉄の皿にのせられているので冷めにくい。

 このじゅうじゅうとはじける骨付き肉を果実や葱をふんだんに刻み込んだ魚醤をもととした深皿の汁に一度だけ漬け、手づかみでかじるのだ、と聞き。

 貴族出身の2人は最初は顔を見合わせていたが。

 意を決して漬けてかじってみるとなかなかの美味であり、とても気に入って頬を汚しながらかぶりついている。

 そしてむろんのこと、スニは幸せそうにほほ袋を膨らませて夢中で食べている。

 

「まあな、いろいろ恨みも買ってるだろうなー。

 もちろん俺だって、少なからず恨みがある!」

 

「本当かしらね」

 

「それはさておき。──イシュトヴァーンよ。船の算段はつきそうか?」

 

 ごり、っと音がするのは、きっと軟骨をかじり食べているのだろう。ひょっとすると硬い骨まで。

 大食漢グインの前にも、レムスとリンダがふたりで食べた倍くらいの量の羊の骨の山ができつつあった。

 むろん、傭兵の前にも。

 

「ああ、十分な()()()はある。ただ、できればもう少し増やしたい。船にゃ命を預ける訳だしな!

 賭場でもあれば、効率よく稼げるんだが」

 

「やめてよね、元も子もなくすって聞いたよ!」

 

 目端の利くイシュトヴァーンは、リンダから罵倒されつつも。

 スタフォロスで戦死者のふところを探って貨幣を回収し、ノスフェラスでもモンゴール軍との交易に乗じて小銭を稼いでいた。

 それでロスからアルゴスへの()()()()船に乗るための船代としては一応足りるが、できれば選択肢を増やすためにもう少し稼ぎたい、と傭兵は考えていた。

 

「わーってるわーってるって!まあ、賭場で賭けるとしても、俺の小遣い程度にしとく。

 まあ50日かかるところを3日でロスまで来たんだ、そこまで急がなくてもいい。

 4、5日程度は、このロスかその近辺で金を稼いで船代の上積みにしたいと思ってる」

 

 傭兵は、史実で使われた「ガルムの首」号を選びたくはなかった。

 海賊船の中でも、かなり悪質な手合いなのだ。

 作中では、船員との諍いでイシュトヴァーンが手傷を負う描写もある。

 結果としてはカル・モルにとり憑かれたレムスの覚醒のおかげで無事に切り抜けたものの、かなり綱渡りの場面も多かったと彼は記憶していた。

 そしてレムスは、──彼がしつこく確認したところ──、カル・モルにとり憑かれてはいないようだ。

 骸骨が夢に出てこないか、という問いに首をひねる様子は、嘘には思えない。

 それ自体は喜ぶべきことだが、他方で急な成長、覚醒が見込めないということでもある。

 

 それに、時期の問題がある。

 「ガルムの首」は、原作ではモンゴールによるロス港閉鎖の情報に接し、慌ててロスを出港するのだが。

 そこから考えると、ロスに到着したのは、ロス港閉鎖の直前。

 史実ではグイン一行は1か月以上、ノスフェラスからロスへの移動に使っていることを考えると、まだロスには到着していないであろう。

 そしてこの世界線では、RTA好きの傭兵の段取りにより。

 グイン一行は、わずか数日でノスフェラスからロス近郊に到達している。

 もし原作どおり「ガルムの首」号に乗るとすれば、相当の日数をロスに滞在することになってしまう。

 それは、良い意味でも悪い意味でも目立つ容姿の一行を一か所に長くとどめておくことになってしまい。

 パロの双子を手に入れようと画策している、ヴラド大公の動きを考えると望ましくない。

 

 だから傭兵は、モンゴールがロス港を閉鎖するまでのんびりするつもりはなく、早々に出港したいと考えている。

 たとえ過保護だと言われようが、安全第一。もっときれいで安全な船を選びたい。

 原作では海賊船をやむなく選び、グインが海に落ちてランドックの高速船に拾われたり、一行が古代機械やクラーケンをかいま見たり、真イシュトヴァーンがリンダと恋に落ちたりするものの、中身が安定志向の現代日本人であるこの傭兵にはどれもさして意味のあるくだりには思えなかったのだ。

 リンダとの過剰な接触は避けたいし、それ以外の出来事は興味深いもののどれも設定のチラ見せ。なくて困る伏線じゃない。

 なら快適で安全な船がいい、と彼は考えた。

 

 そのためにも、先立つもの(お金)は大事だ。

 史実でのイシュトヴァーンは、ロスで追い剥ぎをして金を稼いだ。

 しかし中身が現代人の甘ちゃんの(イシュトヴァーン)の倫理感は、そんな強引な手段に怖気をふるっている。

 まあ人を殺すわけではないし、真イシュトヴァーンに任せればなんとかなる。でも警備も厳しくなるし、できればやりたくないな、と彼は考えている。

 

「まあ、そういうわけだ!

 豹あたまの大将と俺で、情報収集を兼ねてちょっと試しに働いてみようかと思う。

 お姫様たちは、まあ宿で吉報を待っててくれ」

 

「イシュトヴァーン。言っておきます。

 パロの王子王女は、物乞いじゃないのよ。

 私たちだってあなたたちの横で、剣をふるう!そうよね、レムス」

 

「リンダ、さすがに無理があると思うよ」

 

「ああ、いや、待て。お姫さんの心意気はうれしいんだが。

 俺もグインも、たぶん剣を使う傭兵としての仕事はしねえ。

 今の時期だと、隊商の護衛業務なんてあんまりねえし」

 

「そうなの?」

 

 ヴァシャの収穫期も麦の収穫期も外している。街道の交通はあまり活発でない。

 あったとしても、街道を逆戻りというのも避けたい。まあ、陸路パロという手もなくはないが。

 

「それにな。まともな商人なら、付き合いのある傭兵に頼むわな。命がかかってるんだし。

 どこの誰ともわからん、顔すら見せようとしねえ風来坊たちを雇うわけがねえんだ。

 まあ確実なのは、人足仕事だな、港の浚渫工事やら道普請やら。あるいはその人足たちの取り締まり。

 あと港だったら積み込み、積み下ろしの波止場人足だな。力があって真面目に働けば、誰も素性にゃこだわらねえ!」

 

 どうやら姫様の思うお仕事とは、かなりの開きがあったみたいだな、と。

 しょげた顔をしているリンダをみながら、大きな人たちの言葉がかなり理解できるようになったスニは思う。

 それにしてもこの羊の焼肉は美味しい。スニは夢中で肉塊を齧りながら感嘆する。滋味があふれる未知の香辛料が使われていて、これを味わえただけでもノスフェラスを出た甲斐があった。

 

「スニ、働く。木、登る。実、取る」

 

 スニ自身は、普通の仕事は難しいとわかっている。

 高いところの木の実集めとかなら、大きな人たちよりずっと上手にできる自信がある。

 だからそんな考えを、口にしてみる。

 

 もっともここらへんの森の木は、ノスフェラスとは違う。まずは慣れないといけない。

(それに彼女のようなセム族を雇う人がいるかな、と彼女は不安に思っている。)

 

「おう、スニさん、そりゃあ確かだ。スニさんなら、高い枝でも行ける!

 まあ、様子をみてそれもありかもな。今の時期にはまだ実は成ってないけどな。

 漂泊者なんだ、といえば雇ってくれるところもありそうだ」 

 

 漂泊者(ヴァンドローナ)とは、この辺境にあって固定した家を持たず、各地を転々としている者の集団だ。

 いわゆるヨウィスの民とも近いが、民族的な出自で固定されてはいない。

 辺境地帯の食い詰め者などを吸収し、流れ者の集団に近い。傭兵の中の人の世界でいえば、昔のオーストラリアの「Swagman」にも近いだろうか。

 

 漂泊者たちは技芸を売り、あるいは日雇い労働者として働く者が比較的多いが。

 各地をめぐって物々交換を中心とする交易に従事する者もいれば、薬草などに詳しく薬師を兼ねる者もいたりする。

 それらが、辺境の妖魔や賊から身を守るため集団(ホルド)を形成しているのだ。

 

 純粋に行方も定めず、流れる者もいないわけではないが。

 季節的・定期的に同じ道筋をたどり、顔なじみの農家などで農繁期の季節労働者として働く者が多い。

 果樹園の収穫などは、そうした漂泊者でも若者や子供がよくやる仕事でもある。

 

「まあ、そういうわけだ。グイン、明日は請宿(うけやど)人置宿(ひとおきやど)にでも顔をだしてみるか!」

 

 とりあえずは様子見を兼ねて傭兵とグインが仕事を探しに行ってみる。

 リンダとレムスとスニは、明日は留守番になるだろう、──ということになった。

 

 旅籠は少し金を弾んで評判のいい、治安のいいあたりの宿屋だ。

 子供たちだけ残しても大丈夫だろうな、と豹頭の偉丈夫も思った。

 

 ─────

 

「おう、グイン。なかなか良い稼ぎになったな!」

 

「ああ」

 

 翌朝早く、宿の者に事情を話し、王子王女とスニを置き。

 グインとイシュトヴァーンは、ロスに入市し、沖仲仕の仕事を探した。

 

 ちなみに怪しくフードを目深にかぶった姿を ロスの警備隊に見咎められたりもしたが。

 公女アムネリスが渡してくれた蠍の水晶符をみせると、あっさり放免された。

(この地はモンゴールの支配下ではないが、モンゴールの強い影響があり。

 モンゴールの特使であることを示す水晶符の信用性は、相当に高いらしかった。)

 

 仕事も、傭兵のひそかな危惧を裏切り、容易に見つけることができた。

 なにしろ季節は、まもなく春。

 春の農繁期に間に合うように戻らねばならない出稼ぎ農民たちの集団が、ロスから引き揚げる時期だった。

 他方で寒さがゆるみ、交易の荷の量は増える傾向にある。力のある人足の手が足りないのだ。

 またこの種の仕事、ちょっと荒っぽいものの、素性が怪しかろうが力があればいいというところもある。

 

 人手不足につけこんだイシュトヴァーンは、相当強気に交渉し。

 顔を隠さねばならないグインの、怪しげな頭巾も認めさせ。

 しかしその報酬に十分以上に見合うだけの仕事を、船慣れしたイシュトヴァーンの身ごなし、グインの怪力でやりこなし。

 明日も来てくれ、もしこの調子で働いてくれるなら、明日はもっと出す!──そう、船主からも言われ。

 事前の取り決めよりもかなり多めの心づけまでもらって、引き揚げるところだった。

 

 今は、もう夕方。

 城門に至る目抜きどおりを、ほくほくとした顔の傭兵と頭巾(ホーダズ)に隠した仏頂面のグインは今日の稼ぎを手に歩く。

 

「なんか旨そうなもんでも、子供らに見繕っていこうぜ、グイン」

 

 育ち盛りの子供たちのことを考えたらしい、イシュトヴァーンは。

 行列ができている、評判のよさげな煮売り屋でこの地方の魚醤で味付けした魚肉を大判の葉に包んでもらう。

 冷めないうちにたどり着けるかな、と彼は考える。

 

「宿でも飯は出るだろう」

 

「あの宿屋、飯は美味いがちょっと高いしな!量がもちっと欲しい。

 さて、出るのには符は要らなそうだな、──いや、なんだ?」

 

 宿に帰るには、一度城門を出ないといけないのだが。

 なにやら、彼らの姿を見た衛兵たちがその上司に何かを注進し。

 上司が、こちらに近づいてきた。

 

「グイン、ちょっと不味そうな気もする。

 いざとなったら、逃げて身を隠せ」

 

「俺一人では逃げきれまい。突破するか?」

 

「んー、まて。時期尚早だ、厄介ごとの気配は濃厚なんだが、殺気はねえな。

 しかもグイン、お前じゃなくてどうやら俺に用がありそうだ」

 

 衛兵たちの長らしい者が、イシュトヴァーンに寄ってくる。

 身構える彼だが、しかし隊長は思ったより丁重に敬礼した。

 

「朝、水晶符をお出しになったとか部下より聞きましたが」

 

「ああ。だがあれは、ちゃんとしたもんだぜ。盗んだりしたもんじゃねえ。書きつけもある」

 

「書きつけもお持ちで。拝見してもよろしいか」

 

 警備隊長らしい男の、求めに応じ。

 傭兵は、懐から獣皮紙にしたためられた公女直筆の書状を出す。

 所持人の名前、容貌、そして関係諸官に対し、交通の便を図るよう求める旨が記され、公女の手になる流麗な署名が付されている。

 字が読めるらしい隊長は、ふんふんとそれを読んで訳知り顔で頷いた。

 

「なるほど、ご本人のようでありますな。

 モンゴールの領事(プラエトル)殿から、『アルゴンのエル』殿に伝言があるとのことで」

 

「ん、伝言?モンゴールのロス領事から?」

 

「はい。領事館は、この通りを戻って、中央広場の西側のあの目立つ建物ですな」

 

 ロスは自由都市だが、モンゴールとも協力関係にある。

 そのモンゴールの出先機関から「アルゴンのエル」に伝言があるようだ。

 公女アムネリスか、ヴラド大公だろう。鷹便か魔導師の水晶球なら、彼ら一行より早く連絡をつけられる。

 

「うーん。あまり心当たりはないんだが、感謝する」

 

 隊長に断りを入れて、傭兵とグインはこそこそと相談する。

 

「どうする」

 

「早い方がいいな、厄介かもしれねえが無視すると悪いことになりそうだ。

 ちょっと行って聞いてくらあ。中央広場の西口だな?5タルザン()もかからねえしな。

 半ザン(時間)くらい待っててくれるか、──いやまてよ、肉が冷めちまうな!」

 

 考えがまとまったらしい傭兵は、待っていた隊長に向きなおる。

 

「隊長殿、この男は先に門を通って帰るが、いいか?

 カストラグザムの『跳ねる兎』亭に子供を待たせてるんだ。早く食わしてやりてえ」

 

「もちろん、構いませんとも」

 

「感謝するぜ、隊長殿。

 じゃあな、冷めねえうちに食っててくれ!」

 

 顔を人々にみせられないグインは、少々宿に戻ったときのことを考えて心もとなく思ったが。

 頷いて、城門をくぐった。城門の外もカストラグザムまで市街が続いているし、宿も目抜き通り沿いだ、迷う心配はない。

 一方、傭兵は来た目抜き通りを走って戻り。モンゴールのロス領事館まで出頭するのだった。

 

*1
「グイン・サーガ・ハンドブック1」(1999)144頁。

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