(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。   作:Marchhatter

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(本日2回投稿の1回目です。)

○ご感想をいただきました。ありがとうございました!

・名前のある、キャラ立ちしてる傭兵、そういえばいませんねー。
 アリの手先の傭兵2人(ガフとロン)、黒曜宮の陰謀での傭兵ダニエル(でも正体はユディトー伯ユディウス)などくらい?
 あ、グインその人も一時期傭兵でしたが、本職じゃないですね。天職は王様か将軍なのでしょう。個人的にはあの「イリスの石」あたりの三人旅が結構好きです。

・グイン、あの異相だと警戒心の強い地域じゃ就労困難ですよねー(ケイロニアなら、大丈夫かも)。
 体力自慢のレスリング部員のよくあるバイトが、引越や事務所移転系だと聞いたことがありますが。
 きっとグインの剛力、こんなときにも遺憾なく発揮されて皆を瞠目させてくれるものと思います・・!
(真イシュトヴァーンあたり、力があっても手を抜いてサボってそう。)

・ありがとうございます!たしかにグイン・サーガ、長大ですよねー。私も半読というか、2/5読くらいです(笑)。
 異物を抛り込んでかき混ぜてしまったせいで、原作展開とは多少違ってきてしまいますが。
 初期グイン(これは面白いのです)の雰囲気を残してカバーできれば、などと思っています!

・偽イシュト氏、おそらく自分の投げたブーメランに後頭部を撃たれ。
 痛ってーなー誰だこんなの投げたのは!とコブを摩りながら口走るタイプなのだと思われます。
 大公殿下は、一代の傑物ですよね。元はゴーラのサウル帝(※現在は本家ゴーラの権威は衰微しきっている)の一介の騎士長、しかも下級騎士出身。何をどうやったら30年余でこうできたのか・・(※ただし建国については、矛盾する描写も)。歴史にもその爪痕が残されるタイプだと思います。

○今回、少々間が開いてしまいました。
 偽イシュトヴァーン視点です。説明回でほとんど進んでませんが、次の次あたりから進めたいです。


040 我が心は木石にあらず

(偽イシュトヴァーン視点、ロス近郊カストラグザムの「跳ねる兎」亭、夜)

 

 ──よし。やるしかない。

 

 アム(推定)の手紙を読んだ僕は、自分の考えに入り込んでしまい、そう思いさだめ。

 それで少し気が楽になった。

(そのときにどうやらレムスたちが僕を観察してたみたいなんだけど。

 真イシュトを引っ込めて自分の想念に浸りこんでた僕は、うかつにもそれに気がつくのが遅れてしまった。)

 

 そうそう、何の話かって?

 アムの手紙を読むため、グインたち全員に先にお湯をつかってもらった僕は、だね。

 今は一人、湯桶に残ったお湯で髪をぬぐい、一日の重労働に汗まみれになった体を丁寧に清めてたわけだ。

 ほらリンダに「イシュトヴァーン、臭い」なんて言われたら、たぶん立ち直れないじゃん。

 あの娘も反抗期だしなー。女の子の反抗期は心臓にぐっさり来る言葉を投げてくる、って姉が言ってた。娘(僕からみて姪)の反抗期で苦労してたよ。

 

 もっともリンダは最近、近寄ってこない。罵倒もたまにしかしない。

 でも僕に猜疑心に満ちたするどい目を向けては『わかってるんだぞ』みたいに重々しくうなずいたりしてる。

 かと思えば怒りに顔を染めてこちらをにらみすえてたり。正直、心にくる。

 

 でもまあ、仕方ないよなー。

 嫌われてると思うと悲しい(そして何が原因かもわからないのが怖い)けど。

 最終的には彼女とは疎遠な方が、落ち着くべきところに落ち着く。そうだ、これはむしろ良いことなんだ。

 

 僕はそんなことを思いながら、(僕の脳内主観的には)子供の自立を喜ぶ、大人のほろ苦い笑みを浮かべる。

 はたからみたらキモいと思われかねないかって?大丈夫大丈夫。

 グインたちは居間でくつろいでる。今日やった仕事のことを、グインが話してるみたいだな。

 ほー、と王子王女とスニさんが嘆声を上げてる。あの謎の邪神像の積み込みの時のことでも話してるのかな。

 グインの低い声の響きを聞きながら、僕は僕がさきほど固めた決心と、これからの展開を思い浮かべる。

 

 ──────

 

 原作は、ここからいくつかの筋に分岐する。

 大まかにわけて、①グインたちの航海記、②クリスタルでのナリスとアムの悲恋、③金蠍宮でのミアイルとマリウスの悲劇(?)。

 あー、あと④アルゴスのスカールたちの挙兵&草原見聞記みたいなのもあったな。

 

 それぞれ簡単に言えば、こんな感じ。

 ①グインたちはレントの海を海賊船で渡り、古代機械のある島を経由したりしながら漂流中、アグラーヤの「サリア号」に保護され、アグラーヤのヴァーレンに到着。

 アグラーヤ王ボルゴ・ヴァレンはレムスを気に入り、王の娘アルミナとレムスは婚約。

 

 ②パロ支配を狙うヴラド大公の命令により、アムはナリスと政略結婚することになる。しかし当人同士は燃え上ってしまう(少なくともアム側は。ナリスは演技だと後で言っている)。

 結婚前にリーナス一派が仮死毒でナリスを眠らせて死を偽る計画を立てて実行するが、仮死毒が本当の致死毒にすり替えられる*1

 だが冷徹なナリスは結婚の場で身代わりを立てており、暗殺されたように偽り、逃亡潜伏。アムは打撃を受け、骨抜きに。

 その後、ナリスは兵を挙げクリスタルを解放。

 

 ③ナリスの弟マリウス(アル・ディーン)はアムに恋慕して軍を出奔したアストリアスを術に嵌め、情報を抜き取り操り人形とする。

 マリウスはナリスの命を受けノスフェラスに向かう途中、トーラスで弦琴(キタラ)の腕に惚れこんだミアイルの傅役のユナス伯によって、ミアイルの遊び相手に選ばれる。それを知るナリスは、マリウスにミアイル暗殺を命じる。マリウスは抵抗するが、ミアイルは結局、マリウスの目の前でパロの魔道士ロルカの手で暗殺される。マリウスは逃走し、ゴダロの「煙とパイプ亭」(トーラスのオロの実家)に匿われた後、ナリスに決別して放浪の旅に出る。

 

 ④アルゴスに身を寄せていたパロのベック公、アルゴスの王太子スカールが挙兵。敵(カウロスとか)をなぎ倒し、山を超えながらパロ、モンゴールに向けて進撃。

 

 少なくともこのうち④については、僕にできることは特にない。

 アルゴスにリンダたちの消息を知らせてもいいのだが、向こうもこちらに何か関与できるわけじゃない。

 何よりこの時代、ここ(ロス)からは便りを届けるのは難しい。すごいコストもかかる。

 駅伝制とかを整備してる国もあるが、政府の連絡網という性格。伝手のない庶民が気軽に利用できるものじゃない。──現代社会の郵便システム、実はすごいと思う。

 民間の便りは商人や旅人に託す。信用できる商人だと、費用も高い。

(ヴラド公は大都市間の民間の文書運送の護送を騎士団に請け負わせていた。商人たちから請けたものを取りまとめて目的都市まで運ぶだけで、その先の仕分けや戸別配送なんかもちろんしない。都市間の運送すら危険な辺境の風土に対応した施策だ。これも含め、彼の内政はすこし前のシンガポールみたいな、政府介入的開発独裁モデルだと思う。)

 ただ国と国の間ではそんなシステムはない。そして近距離や隣国ならまだしも、国交もないロスーアルゴスは便りを届け困難さは段違い。発信するとしても海運交通の中心である沿海州あたりからが現実的かな。

 

 そして①だが、──実は僕、まるっとスキップするつもりでいる。

 だってこの航海、危険が多い割にはあんまり得るものがなくて、──いや、めっちゃ物語や風物の描写とかは面白いよ?

 思わせぶりにクラーケンがうごめいてみたり、古代機械がうろちょろしたりするんだ。面白いけどさ。

(そりゃ僕だって見てみたいよ、古代機械とか気になるじゃん。だって機械装置に管がいろいろあるらしいし*2。真空管多用してたりしてたらロマンだよなー)

 

 だけど危険度も高いんだ。

 嵐のなか、グインが船から落ちていなくなり、残ったイシュトは海賊どもと対立、抗争。

 結果として船は、未知の古代機械の眠る島まで流されるわけだ。

 その神秘の島でグインと再会し、洞窟の中の古代機械をみたり、クラーケンをみたりするわけなんだけど。

 特にそれらの謎が、このあたりで解き明かされるわけでもない。正直ミスリード気味。

 そして島を脱出してアグラーヤの軍船に拾ってもらうんだが、──完全にどれもこれも運まかせじゃん、再現可能性低いよ。

 そして僕は原作イシュトじゃない。命を懸けた綱渡りなんてする気はない。安全第一、命大事に!

 

 リンダとイシュトの悲恋ってのも背後で進むんだが、これも避けたい。

 ──いや待て、僕に「ルブリウスの徒(男色家)」疑惑をかけるのはやめてくれ。誤解だ。

 いや僕、少なくとも自分としては他人の多様な性的指向にも寛容フラット無偏見な姿勢のつもりでいるんだけどさ、でも僕自身はそうじゃないんだ!

 

 そりゃリンダは美少女だよ?作中でイシュトが言うように、国々が戦争始めかねない*3くらいの。芸術品見てて、悪い気はしないよね。

 だけどさ、現代日本ならしょせんJCっすよJC。

 もちろん日本と違ってこの世界の婚姻年齢は低い。15歳で結婚は何もおかしくないんだけど。

 でもそういう対象として見るのなんて、背徳感っていうか罪悪感があって無理無理。原作イシュトは20歳くらいだったから行けたんだろうけどさ。

 それに外見はともかく、中身は正直カリスマ小女王っていうより街娘って感じっす。いや、肩凝るから王族っぽくしてくれなくていいんだけど。

 

 とにかく脱線したけど、余計なことはしない。

 ここは堅実に沿岸を航海する中等級以上の信頼できる船に、グインと双子たちを乗せる!

 

 次に、②なんだが。これもできることは特にない。

 アムは、──原作よりはずっとマシっていうか、まともなんだけどさ。

 でも僕は恨みは忘れないぞ。鞭でビチバチたたかせたり、傷口に塩を塗り込んだりしやがって!

 それに僕が盛大にモンゴール遠征軍に面割れして、あの不吉な青い目のマルス伯にロックオンされてしまったのは、全部あのサド公女の陰謀のせいなんだ。

 この一連の非道な罠の意趣返し、いつか「ざまぁ」してやろうって僕は思ってる。根に持つタイプじゃないけど、されたことは忘れないんだよ、僕。

 

 ただ、正直。

 あの悪辣ではあるけど変なところで不器用で約束を守ろうとするあいつの誠実さは、嫌いになれなかった。

 アムがこれからナリスに裏切られ、メンタルをズタボロにされて、その後タリオ大公に手籠めにされるのか、って考えると──なんか気に入らない。

 鉛の塊を飲み込んじゃったような、重い、滅入った気分になる。むしゃくしゃする。

 

 でもさしあたり、今の僕にできることはない。

 ノスフェラスの一夜でナリスの危険性について警告はした。あとはなるようになれ、さ。

 

 最後に③。これだよ、僕がグズグズ迷ってて、ようやく決めて気分が楽になったのは。

 ちょっと長くなるから、次の「───」まで飛ばしてOK!

 

 ──────

 

 ミアイル。アムネリスの弟、アムとは対照的な気弱な優しい少年。ナリスに暗殺される悲劇の公子。

 ただ僕はミアイルと、会ったことなんてない。

 冷酷なようだが、もう弟分(に扱ってきたけど、すごい不敬だったんじゃないかなって最近思って、ビビッてる)のレムスと顔も知らないミアイルとだったら、そりゃレムスが優先だよ。

 ただ。あの悲劇、──誰かどうにかしねえのかな、って思ってしまっている。

 

 ミアイル暗殺は、ケイロニアとモンゴールの間に楔を打ち込み、モンゴールの後継という要石を抜く一石二鳥の妙手だったのだろう。

 モンゴール側もナリス暗殺を画策してたわけだからお互いさま。悪役国家への正当防衛、自業自得だ、──っていうことなのかもしれない。

 そして物語としてみれば美しい悲劇なのかもと思う。思うけどさ。

 

 だから納得できるかって?まさか、そんなの納得できるわけないじゃん。

 戦略家が称え、パロ庶民が快哉を叫び、スカールが鼻で笑い、ヤーンのクソ野郎が良しとしても。

 

 物語の中ならまだしも、今この現実世界では、あの子(ミアイル)は生きてる生身の人間のはず。

 作中の描写では、まだまだ子供。レムスより、まだ小さくて幼くて。

 そんな子を殺すの知ってて何もしない。そう考えると、もうなんかアムのこと以上に嫌な気分になる。

 甘っちょろいのかもしれないけど、──なんだろう、最近、あの子の死を思うたびに感じるようになってきている、この違和感。

 下手をするとリンダの神託以上に災いの接近を察知する、イシュトヴァーンの直感。

 

 どちらかというと僕、かわいそうだなーとは思っていたけれど、そこまでかかわりあうつもりはなかった。

 まあ生きてたほうが戦後の収拾はやりやすいだろうな、くらいかな。

 ただ、なんかアムも本の挿絵の中での悪役美女ってだけでなく。

 やはり生身の人間で、それなりの人間味や誠実さも、それなりの抜けたところもあると気づき。

 そして彼女が原作と違って結構かわいがってる(?)その弟のことも、多少は気になってきたんだ。

 

 それとあいまって、だんだんとイシュトの災いの予感が強くなってきている。

 まずいぞ、何か手を打て、間に合わなくなるぞ、と呼びかけられているような感覚。

 

 現代人の僕としては、自分の感じるこの焦燥は的外れなのかも、って思ったりもする。

 まずもって、あのミアイル暗殺は物語の中の話。この僕がいるのは現実だ。そこは間違えちゃいけない。同じことが起きる保証もない。

 つまりさ、アムの性格(性悪だけど原作よりマシ)だとか僕の存在(中身現代日本人。ちょっぴり真イシュトの戦闘力は向上?)とか、細かいところが物語とは違ってる。

 それにそれなりに有能なアムには、警告もした。だからミアイル暗殺も起きない可能性が、なくはない。

 ──とはいえ、おそらくこの世界でも実現するんじゃないか、という予感。

 

 それに、ミアイル暗殺が起きるとしても。

 なぜミアイルだけどうにかしなきゃなんないのさ、という話もある。

 庶民の子たちは、この瞬間にも親に育児放棄されたり流行り病にかかったり馬に蹴られたり川でおぼれたりして死んでる。なんでミアイルだけが特別なのさ、って考えも、そりゃあるだろう。

 子供じゃなくて野郎はいいのか?って疑問もあるかもしれない。戦死者は主に兵士だ、そりゃもっともだよ。命に貴賤はない建前なら、ミアイルの死だけ防ごうなんてえこひいき、差別なのかもしれないけどさ。

 

 ただ、イシュトの予感とかとは別に、現代人の僕としては。

 やっぱり何にも知らない、まだまだこれから人生があったはずの子供が殺される。それも意図的に計画的に。

 そう思うと、それを知らんふりしてやりすごして彼を見殺しにするのが、耐えられない。

 僕の心は、石じゃないんだ。──え、今僕カッコいいこと言った?

 

 まあだから、要約すると。

 僕がここで介入したいって思う主な理由は、イシュトの警告を除けば、単なる感情論。イヤだからイヤ。それくらい。

 メリットなんてない、──いや、なくはないか。でもおそらく、そこまで大きなものではない。

 

 第一に、停戦を早められる()()ってことかな?

 ヴラドは長くない、そして恋したナリスに裏切られ、怒りに燃えるアムには停戦、降伏は難しい。

 ミアイルがいて、思い切ってくれれば。

 ヴラド亡き後のモンゴール大公として講和の意思決定ができれば、双方の血が流れる戦いは早く止められるだろう。

 

 モンゴールがいったん滅亡した後のモンゴール復興戦争(これ、あるのか?(イシュトヴァーン)はするつもりないよ、そんなの)も、無くせる。

 まあアルゴスまで出張って来てるからな、停戦にはモンゴール側の譲歩──相当大きな賠償や、戦犯の処罰──が求められたりするだろうけどな。勝敗つかない時点での講和だ、史実の徹底的敗戦の後の降伏よりはましだと思う。

 

 第二に、ノスフェラスにとっての利益。星船の秘密への、他国の妙な介入を避けられる。

 史実と違ってモンゴールはノスフェラスと殺生石関係の秘密保持を条件に講和した。交易関係も発展しかけてる。モンゴールには、そのまま安定していてくれた方がいい。

 まあ史実ではノスフェラスに関心を示して実際に訪れたのはスカールだけで、しかも彼はその秘密を知っても変な考えは起こさなかった。交易開始も、僕の余計なお世話だったかもしれない。メリットと言えるほどのことでもない。

 あ、でもスカールが星船に行くようにする必要、あるのかな。まああのおっさんもグインと並び称される運命持ちだ、なんとかなるだろう。大丈夫大丈夫。

 

 第三に。マリウスの闇落ち(?)が防げる。これはもしかして大きいかも。

 そう、ミアイル暗殺に利用されたマリウスは一時的にSAN値ゼロになってしまうわけだ。

 もちろんその後、歓楽の都タイスでも財布を空っぽにするくらいお楽しみだったし*4、ケイロニア編でのイリス(オクタヴィア)との恋で立ち直ってみせたんだけどさ。

 やっぱりどこか深いところで精神を傷つけられちゃったんじゃないかなー、と僕は思っている。

 

 ただマリウスが噛まされたミアイル暗殺事件について、僕はその全貌を知らない。

 パロ編を丁寧に読めば書いてあったかもしれないんだけど、1回目の人生ではそこに興味がなくて読み込んでなかった。今じゃ陰謀編自体についての僕の記憶、かなり薄れてる。

 このミアイル暗殺、僕にとってはまだ謎が多いんだ。

 

 なぜミアイルは殺されたのか。庶子とはいえ、王族であるマリウスのミアイル救命の懇願にもかかわらず。

 混乱させるため?「死の婚礼」でのナリスの偽装死だけでも、多大の混乱を巻き起こした。

 いや、だからミアイルも偽装死にしろよなんて思わないけど。でもマリウスが示唆したように*5誘拐でも十分に目的は果たせたのではないか?

 

 マリウスによる助命嘆願をロルカはナリスに伝えている*6。だが命令は撤回されなかった。ナリスの計画が狂う、という理由で*7。ところが、この「計画」の詳細も意図も不明なんだ。暗殺は婚礼より前でなければならず、婚礼の直前でもいい*8。何のための暗殺?

 

 戦略的にケイロニアとモンゴールの間を割く必要があるのはわかる。そして誘拐でなく、ちゃんと殺すことでアムネリスやモンゴール軍、何よりヴラド大公の心を徹底的に折り、立ち直らせる隙を与えず万全の勝利を期する、ってこともあるかもしれない。

 ただ、なぜ婚礼までに実行しなければならなかった?

 

 モンゴールの大公位継承権をアムネリスに集約するためなら*9、婚礼後でも同じはず。

 ただこれは僕が何か見逃してる可能性もある。他国に嫁いだ者は氏族長の継承権がない、とかモンゴールの氏族法で決まってるのかも。だったらナリスとアムの結婚前にミアイルを殺す必要が出てくる。モンゴールの大公位継承権をアムに移してから結婚してそれを奪うためだ。ただ僕のおぼろげな記憶では記述はなかった気がする。

 

 婚礼自体の妨害のためだとしたら、婚礼直前でいいというのが分からない。

 事実、クリスタルにミアイル暗殺の報が伝わったのは、婚礼のあるはずの時間帯の後だ*10

 

 最後に残るのは、ナリスを婚礼後に殺す計画がモンゴール側にあることへの意趣返し。でもそんなのが「計画」なのか*11

 ──まあそこはいい。

 

 でもそれにしても、なぜその汚れ仕事、マリウスにさせようとした?

 マリウス噛ませる必要、あるのか?キタイの暗殺者を差し向ける、とまで脅して*12(だったら最初からそのキタイの暗殺者に殺させればいいじゃん。お金と時間の節約?)。あるいは、黒蓮の粉でマリウスを操り人形にしようとしてまで*13

 結局ミアイル公子を刺したのはマリウスではなく、パロの魔道士ロルカだった(これ魔道十二条に引っかからないのが不思議。これがありなら、ヴラド大公をサクッとやっておしまいじゃないか?)。ミアイルを殺すなだけら、それで十分なんだ。

 

 ナリス自身は、そこまで弟(マリウス)に求めるつもりはなかったのかもしれない。

 ナリスは、マリウスの願いを知ってても殺さざるを得ないからそうした。ただわずかな情として、マリウスが自らの手を汚すのだけは最後の最後に免除した、ということだろうか?

 マリウスのミアイルに対する情の深さを知らなかったナリスの冷徹さが悪く働いた、とみることになるのかな。

 

 だがそもそもマリウスが知らないところで、あるいは少なくともマリウスに嫌疑がかからないところで殺ればいいはず。

 わざわざマリウスの面前で、ミアイルのおつきのユナス伯も巻き込むように殺している。

 単に手際が悪いだけなのか、──あるいは。

 

 僕は、マリウス自身の手にやらせる、少なくともマリウスに罪悪感を抱かせるように、意図的に面前で殺したんじゃないか?と思っている。

 善意に解釈すれば、心優しいっていうか甘ちゃんのマリウスに、非情であれ、という一種の帝王学を授けるつもりだった、ということになるのだろうが。

 でも僕には、自分以外の者(ミアイル)を愛して裏切った弟への意趣返し、あるいは相手への嫉妬と言えばいいのか、復讐と言えばいいのか、──そんなどこかすごく危険な、どす黒い感情がこの一件の底にあったんじゃないか、と思えてしまう。自分でも下司の勘繰りだと思ってるけど。

 

 ナリスのアムへの仕打ちにも感じる、複層の糖衣に覆われたねっとりした悪意。

 この真相、ミアイルの命を掛け金にしたマリウスの自分への愛情テストなのでは?

(それもあって、僕は黒ナリスに近づきたくない。好意も悪意も勘弁。

 ただまあ原作イシュトと違い、僕は凡夫だから彼の関心なんか惹かない。そう信じよう。)

 

 ──────

 

 さて、ぐだぐだ言ってきたけど。

 上の①を除けば、僕にとって介入できる契機があるとしたら、この③ミアイル暗殺関係くらいだと思う。

 僕はパロとモンゴールを結ぶモンゴール街道に接するパロのユノの町で、アストリアスとマリウスが出くわす、って知ってる。

 つまりその時期にユノに行けば、おそらくマリウスを押さえられる。

 

 冷静に考えれば憐れむべき運命だとはいえ、ミアイルは敵国の人間。

 わざわざ介入するメリットも不明、リスクは多大。

 ただこのときの僕は、ちょっと気分が大きくなってたんだと思う。

 子供を見殺しにするいたたまれなさの上昇気流に、現代人らしい軽重浮薄な正義感でふわふわ舞い上がってしまって。

 もういいや、やるぞっ!と決心してしまった。後で後悔するって、知りもせずに。

 

 このときの僕はまだ具体策は決めてなかった。

 マリウスをなんかの形で説得(物理含む)することになるかな、くらい。

 ユノの町に来たところをつかまえて、それで釘を刺すってのがありそうだ。

 原作では、アストリアスとマリウスの邂逅の時期はもう少し後。

 しかも僕たちは約1か月、原作に先行してる。時間の余裕は十分にある。

 原作みたいに神秘の島にふよふよ漂流してたら別だけどさ、ちゃんとした船にリンダたちを乗せてアルゴスに送り届けても、十分に間に合いそう。少なくともアグラーヤに途中で寄れば間に合う。イケるイケる!

 

 問題は、マリウスに付いてる魔道士対策。

 これはどこかで魔道に詳しい伝手を見つけて考えねば。

 アム付きの魔道士のおっさん──ガユスだっけ──とかでいいのかな?もっと力のある魔道士でないといかんのかな。

 大公をパロの魔道士が暗殺できてない時点で、おそらくモンゴール側も魔道への何かの対抗策があるか、魔道自体がそこまで万能なものでないのだと思う。

 

 それを調べるとしても、辺境の港町のロスでは限界がある。大公の触手がロスに伸びないか、って心配もある。

 沿海州最大の国であるアグラーヤあたり、いいんじゃないか。

 それによく考えてみたら、レムスはアグラーヤ王に気に入られ、その娘アルミナと婚約、結婚するのが正史。

 レムスとアルミナの結婚、あまりその後を知らない僕にはいいとも悪いとも判じがたいけど、作中では良い娘だったと思う。

 アグラーヤはパロに友好的だったし、レムスの身の安全や王位についた後の後ろ盾のことを考えても、アグラーヤとの接触の機会は作ってみるべきだ。

 原作では遭難したところをアグラーヤ王の御座船に救い出される形だったけど、むしろ堂々とこちらから訪れる方が変な恩を着せられなくていいよな。

 

 実はアルゴスまでの直行便を、昨日今日と探していたけれど、あまり近い日付で出港する船がなかった。路銀は一応あるけど、イシュトヴァーンのお眼鏡にかなう、良い船には物足りない感じ。

 だけれど、アルゴスでなくアグラーヤを目的地とすれば十分だ。船便も多い。

(とはいえ、アルゴス行きがない保険として探した限りでは、あまりぴったりなものはない印象だったが。)

 

 もしミアイル関係に介入するためにマリウスへの接触を図るとすれば、モンゴール街道に行く必要がある。

 そしてまだ大丈夫と見切って昨日今日と路銀稼ぎをしてたけど、これもそろそろ危ない。

 アムの手紙は昨日到着した、だとしたら大公閣下からの指令書もそろそろロスに到着していてもおかしくないよな。

 

 ただ、ロスにモンゴール軍は常駐はしていない。領事館があるだけだ。

 僕が大公なら、モンゴール国境に常駐している兵団に指令を出す。そこからすごく急がせても、どうみても6、7日はロスまでかかる。

 ただ精鋭で昼夜兼行で早馬を飛ばせば、──4日くらいか?

 それとも、もしかするとアムみたいに大公も鳩や鷹を使うのか?原作では使われていなかったが。

 うーん、心配になってきた。早めに路銀を稼ぎ、出立しよう。そうしよう。

 

 そう、僕は心を決めると気が楽になり。

 体を粗布で拭きながら、自然と口笛が出てくるのを抑えきれなかったのだった。

 

*1
第48巻「美しき虜囚」で、すり替えたのは当時ナリスを危険視していたヴァレリウスだと判明している。

*2
紅蓮の島の古代機械は「管」があると描写されている。透明なドームの下に「脳」がある、という描写も。それなりの太さの管が這いまわっているということだろうか。第9巻「紅蓮の島」179-180 頁。

*3
第2巻「荒野の戦士」冒頭のイシュト発言。

*4
外伝第2巻「イリスの石」冒頭。

*5
第9巻「紅蓮の島」92、96頁。

*6
第9巻「紅蓮の島」116頁。

*7
第9巻「紅蓮の島」84頁。

*8
暗殺指令が出たのは婚礼の前々日である。第9巻「紅蓮の島」74頁。

*9
第9巻「紅蓮の島」87頁。

*10
第10巻「死の婚礼」207頁。のろしで伝えられた、としているがどんな狼煙を上げれば伝わるのか疑問であるが。

*11
第10巻「死の婚礼」59頁、275頁。カースロン経由でナリスの腹心リギアにナリス暗殺計画が漏れたのは、おおむねミアイル暗殺指令が出たのと同日である。ただ、リギアがカースロンと別れてナリスに報告するまで間があるはずなので、時間的に不整合である。筆者は、ミアイル暗殺にも何か伏線が予定されていたのに、それが原作者(くり〇と先生)が途中でプロットを変えてしまったからややこしくなっているだけの気がするが、偽イシュトはそこまで割り切れずに悩んでいる。

*12
第9巻「紅蓮の島」76頁。

*13
これはロルカの独断かもしれない。第9巻「紅蓮の島」86頁。

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