(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。   作:Marchhatter

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(本日2話投稿の、1話目です)

○ご感想をいただきました。ありがとうございました!
・グインは不動と知れて、安心しました。
 他の人、(イシュトヴァーンに限りませんが)妙な自己憐憫やら感慨やら嵌らねばよかったのに・・。

・おお、確かに説明不足でした!(注で若干だけ足しました)
 きっと厚布と偽イシュトの受け身が超よかったに違いない・・!(ほんまかいな)。
 個人的には、マリウスはまだ一介の傭兵だった時代のグインを全く怖がらず受け入れてくれたせいで、グインの好感度高いのかもな、──などと思ったりします(豹頭アレルギーのない人は後のケイロニア編以降こそ珍しくなくなりましたが、まだいなかったイリスの石冒頭のグインは嬉しかったのかも)。

・聖なる児、気になる存在ですよね。
 これにあたる存在、出てくる予定ではあるのですが。
 原作の前半ごくわずかだけ読んでの、原作のさまざまな謎(聖なる児、光の船、グインの豹頭など)の正体に関する筆者の推測と、創造神様の構築された壮大な設定とは。
 少々、いやおそらくかなり大きくずれてしまうかもなー、などと思っています・・。

・ガルムの首の海賊たち、確かに(悪役なのですが)味のある連中であり。
 原作ではグインの一時的不在もあって、この海賊たちからリンダを守るイシュトヴァーンの株がリンダの中で上がったりもするのですが。
 今回の悪役、どうみても傭兵にほかならず。
 たぶん原作と逆にリンダの評価↓、モンゴール騎士たちの評価↑なのは確実です!

・確かに、気をつけないといけないかも・・!
 まあグインのドラえもん役、ありなのでしょうが。
 かくしやマント(四次元ポケット)の酷使をしないように、伏線を張り巡らせたいと思います。
(ちなみに今回の毛布、きっとスニさんの火消し布を取り上げたのかも、いやきっとそうだ←ほんまかいな)

・目指すは、往年のワイヤーアクション!
(昔のそれ系の映画など思い浮かべて書いてました。Swordsman2の東方不敗とかのコテコテのやつ)



044 密命

(第三者視点、パロ(クリスタル)、とある日)

 

「ルナン。私は、自分がはたして自分(ナリス)なのか、疑うことがある」

 

 ここはパロ、クリスタル宮のナリスの居室。

 彼は数日前、密告を受けてモンゴールのクリスタル占領軍の幹部、カースロンにより捕えられ。

 カースロンの独断で幽閉され、尋問されていたところをカースロンの上司であるタイランにより救出されていた。

 一応は、王族としての礼をもって遇せられていたが。

 品性はともかく頭の切れるタイランは、モンゴール人の侍童を配するなどして監視に怠りない。

 

 それでも、虜囚の身ではありながら彼は書物を読んだり、時には人と面会したりも許され、表向きは籠の中とはいえ、一定の行動の自由を許されている。

 ──ときには、監視の目をかいくぐって、古代機械の操作に行くことも。

 

 その彼は現在、そっと腹心のルナンと密議を交わしていた。

 ナリスらはノスフェラスから撤収したモンゴールの公女将軍アムネリスが、クリスタルに向けてトーラスを発ったという知らせを聞いている。

 おそらく彼女とその軍は、およそ10日間ほどで到着するだろう。

 彼女の率いる増援兵力、推定2万。ノスフェラス遠征軍は、ほぼ無傷だったと彼らは聞いている。

 クリスタル在留の5万の軍勢をあわせて、クリスタルのモンゴール軍は7万に増える。

 

 クリスタルで蜂起した場合、期待できるパロ側の戦力は1万程度にすぎない。──しかし、彼女を盾にとれば7万は動けない。

 そしてその間に、アルゴスとベック公の軍でトーラスを突く。

 そういう作戦を、彼らは考えていた。

 

 なお、この時点での彼らの得ていた情報が限られていたこともあって。

 ミアイル公子が病弱である以上、唯一の後継者候補と目されているアムネリス公女をヴラド大公が見切る可能性があるなどということは、思いもよらぬところであった。

 

 その協議の合間に、ナリスはふと、ぽつんと冒頭の言葉を漏らした。

 ナリスは外見こそ柔弱そうな、繊細優美な姿をしているが、その芯はなかなかに剛毅である──すくなくとも、そう外には見せている。

 ナリスの幼少時からの後ろだてであり、彼を敬愛する聖騎士候ルナンはそのような弱気とも受け取れる言葉を聞いて、眉をひそめた。

 

「何をいったい。ナリス様は、ナリス様ではないですか。

 幼いころから見守ってきた、この私がなによりよく知っております」

 

「そうかな、ルナン。

 私は、自分がまだ自分であるかどうか、疑うことがある」

 

「それは、──また何故?」

 

「それはな、ルナン──云えぬ。云えぬな、パロ聖王家の秘中の秘なのだ。

 そなたにすら、伝えることができぬ。

 ただかつて私は、王家の秘伝を受けているときに、天地がひっくり返るような思いをした。

 匂いを楽しんでいた美しい花の(しべ)の奥に、悍ましい蛭がついていたのをみつけたような気分だったな」

 

 ナリスは、軽く息を吐き目を閉じた。

 ルナンは彼がさきほどから何を言っているのかわからず、ただ主を見守り続ける。

 ナリスは目を開け、この剛勇、忠実な聖騎士候の困惑をみてとって、軽く笑いを浮かべ、首を振って言葉をつづけた。

 

「私は、私なのだろうな。()()()()

 ただ、ときに思うのだ。

 私を私たらしめているもの。それは何だろう。

 それはこの顔や体だろうか、それともその中に宿るこの精神、心なのだろうか。

 ああ、カル・ミアンという高僧も記述していたな、精神などというものは脳の働きにすぎない、と。

 宗教画に描かれるような、ヤヌスのもとに召されるふわふわした光の塊。そういった精神などは実在しないのだと。

 囚人の脳を部分的に破壊すると、精神も部分的に破壊される。

 魂があるといわれる心臓を部分的に破壊しても、精神は破壊されないのに」

 

 カル・ミアンはその残酷な実験のせいで、異端とされて火あぶりにされてしまったそうだがな、とナリスは付け加える。

 ルナンは戸惑いながらも、すこし分かる話もあったので返答を返す。

 

「────はて。

 たしかに頭を打たれた兵士で、精神を害したり、別人のようになったりする者もおりますな。

 ただ、神を感じるこの精神が、単なる肉のかたまりなのだと、そんなことはまさか」

 

「仮にだ、ルナン。私と、まったく同じ行動を取る存在がいたとしたなら。

 つまり私とまったく同じ顔。同じように考え、同じようにキタラをつまびき、同じようにモンゴール兵どもとたたかう、しかし、ここにいるこの私ではない者。

 それが私に成り代わったら、それこそが(ナリス)なのではないのか。

 この、ルナンと話している私がいなくなって、なにか不都合があるのだろうか」

 

「────」

 

「つまらないことだな。それでは、──」

 

「滅相もない!ただ、ナリス様。今はそのような雲をつかむような談義をしている場合ではないかと」

 

 ルナンは、あまりこの手の哲学的な対話を得意としなかった。

 パロの貴族たちの中では、武断派よりの彼である。こんな話を吹っかけられて困るのも、無理はない。

 ナリスは特に気を悪くした風もみせず、軽くため息を逃がしながら微笑んだ。

 

「そういう空論にはあまり関心がないんだったな、ルナンは。

 だからこそだ、私がルナンを信頼できるのは」

 

「ありがたき幸せ」

 

 本当に喜んでいるのだろう、ルナンの愛国の情熱をたたえた視線が、光を増す。

 微笑み返しながらも、ナリスは心中。

 この妙な問題、ちょっと賢い未成年者(中二病患者)があげつらうような、基本的でありながらも根本的な問題が。

 ひどく具体的な問題として、自分の悩みになっているということを。

 ナリスに忠実で信頼できる(逆にだからこそ相談相手として適当ではない)彼とは分かち合えないことを、残念に思った。

 

 ただ長年の習い性で、外面を操作することがほとんど本質になってしまっているナリスは、そのことを表にみせることなく。

 さてルナン、今日の報せを教えてくれ。──と、(ナリス)に望まれている役柄に忠実に、この父のように信頼できる部下に尋ねたのだった。

 

 ──────

 ──────

(第三者視点、モンゴール街道、夜)

 

「──それでな、アストリアス。

 本当ならそなたには、スタフォロスの調査と再建に回ってもらうはずだったのだがな。

 少々、妙な任務を命じることになりそうなのだ。所属元の、リカード伯の許可は得ている」

 

 ここはパローモンゴール街道の宿場町の一つ、ハイファ。

 彼らは陸路、モンゴールーパロ間の「赤い街道」を南下していた。

 赤い砂岩で舗装された、古の大帝国の勢威を忍ばせる幅約12タールの大街道*1である。

 

 ハイファはモンゴール領内、最後の宿場町だ。この次の宿場町は、自由国境地帯となる。

 公女アムネリスはノスフェラスからの帰還後、トーラスで政務を精力的にこなし。

 すきまの時間は忍耐づよく、これまでより彼への()()()が柔らかくなった公女を慕って、夜な夜な訪れるミアイルの相手をして数日を過ごし。

(かつてのアムネリスやモンゴール人たちの常識的には、今回彼女は弟を甘やかしすぎてしまったのだが。

 他方で諦めきったような目をしていた弟がしおれた青菜に水をやったように生き生きとしてきたのをみて。

 二度とトーラスには戻れぬかもしれぬと思った公女は、わずかに心が慰められるのを感じていた。)

 そして今、父なる大公の命で急ぎトーラスを発ち、クリスタルへの道にあった。

 

 彼女の率いるのは、3千の兵のみ。残り1万2千の増援は、数日を置いて後を追う。

 治安警察と文官を多く含むこの1万五千をパロに入れて治安の維持と民心の慰撫に務めさせ。

 同数のクリスタル駐留兵をトーラスに戻らせてクムに備えることを、アムネリスは計画していた。

 

「いかなる困難な任務でも、お命じください。

 ──しかし妙な任務と、申しますと?」

 

 あの、金蠍宮での愛の告白の後。

 アストリアスは心ひそかに、公女殿下に遠ざけられるのではないか、──などと危惧していたが。

 公女殿下の方は、少なくとも表面上はいままでとまったく同じ態度であり。

 あの日のことも、まったく何もなかったかのように何も言ってこない。

 彼は、どこか少々拍子抜けの思いもありはしたが、憧れの公女の側にいられることは嬉しいので。

 今回のパロ派遣に選ばれたことを、心中大いに喜んでいた。

 

「うむ。そなたに、ひそかに人探しをしてもらいたいのだ」

 

「──喜んで。ただ私に、そのような器用なことが務まりましょうか」

 

 どう考えても、適任とはいえない。

 せいぜい瓦版程度しかないこの時代、彼の顔はあまり知られてはいないとはいえ。

 大柄な骨格と筋骨たくましい姿は印象的。クム人やパロ人の間では、目立つことだろう。

 武将としては自負があるものの、探りごとを得意とする細作のような技術など持ちうべきはずもない。

 

「いや、アストリアスが探す必要はないのだ。探すふりをしてくれ。」

 

「?」

 

「雲をつかむようであろう。ただ、これは大事なことであるとのことでな」

 

 アストリアスは、彼女が胸元から取り出した薄い獣皮紙に目をとめた。

 彼女はそれを開き、向かい合って座っている彼の方に上半身をかたむけて手を伸べ、その文を示してみせる。

 彼も公女からほんのわずか漂う花の香りに心拍数を上げながら、身を乗り出してその手紙に目を走らせる。

 いわゆる続け字(筆記体)でなく、一文字一文字を独立に書いた、ルーン文字の几帳面な筆跡。

 

”助力に感謝。我ら直ちにロスを立つ。

 およそ1つ月の後、赤い獅子にモンゴール街道のユノに滞在させてほしい”

 

 アストリアスは、眉をひそめた。なんだこれは。

 赤い獅子、というのは自分のことだろうが、──

 

”身分を明かさず数日、安き宿屋で獅子に人待ち顔で待たせしめよ。

 さる貴人が接触する。剣で抗えぬ魔道を使う。”

 

 人探し、というのはこれか。

 貴人とは誰だろう。魔道使いか。パロ人か?

 

”もしあらば、黒蓮への対策を。エルも助力のため合流する”

 

 ──おう、この文はあやつからか、あやつが来るのか。一緒に飲めるな。

 もちろん、一発は殴ろう。その方がもっと楽しみだ。

 

 そう、アストリアスは思いながら結びの一行に目を落とす──。

 

”A.T.D. 汝の卑小なる下僕”

 

 なにっ。

 末尾の(アンスズ)(ティワズ)(ダガズ)の文字を目にして、彼は覚えず目が三角になるのを覚えた。これは、中原語の慣用句。

 ”ᚠᛋᛈᛖᚲᛏᚢᛗ ᛏᚢᚢᛗ ᛞᛖᛋᛁᛞᛖᚱᚨᚾᛋ”(汝がまなざしを慕いて)*2だと!?

 

「何をなすつもりかはわからぬ。ただ私は、彼のことを信じる」

 

 大事そうに公女が文を胸元にしまい込むのを、彼はおもしろくない思いで見守った。──やっぱり、2発だ。あいつ(アルゴンのエル)は2発殴ろう。右と左だ。

 それにしても。

 

「剣では抗えぬ、ですか」

 

「そうだ。黒蓮の粉だろうな。黒蓮を使ってくる相手といえば」

 

「キタイあるいはクムの魔道士」

 

「そうだ。だが、パロも使うのだ。かの国は学問、異国との交流にもに貪欲であったからな。

 現在でも、キタイの流れを汲む魔道士の一派はこれに長けるという。──そして王族・高位貴族も」

 

 公女は、そう補足した。

 

「対策は、あるのでしょうか」

 

 アストリアスの問いに、公女は首を傾げた。

 

「多少ならば耐性を付けることができる。

 しかし量を誤ると死亡したり、それなしでは生きられぬ廃人になる」

 

「──公女殿下、それでも私は」

 

「いや、そんなことまでは求めぬ。いいか、してはならぬぞ、アストリアス。

 ただこの旅の間に基本的な用方を学んでおくとよい。心得のある魔道士を一人具している。

 なに、完璧な対策はもとより難しい。だからエルも『もし』といい、合流すると言っているのだ」

 

「御意」

 

 アムネリスは、さらにモンゴール側の魔道士のことなどをアストリアスに伝えた。

 話が一段落し、アストリアスも名残惜しいながらも辞去しようと考えて礼を取ろうとしたとき。

 

「さて、アストリアスよ。そうなると、奴と会うこともあろうな」

 

 公女はそう、さりげなく(と自分では思う態度で)切り出した。やや不自然だったが、脳筋のアストリアスは特に気づかなかった。

 

「この文からすれば、そうなります」

 

「もし機会あらば、話をきいてくれ」

 

「?もちろんのことです。具体的には、どのような?」

 

 父親は今はトーラス勤めだが、将来受け継ぐ可能性の高い一族の所領はケス河に近い。ノスフェラスとの交易情報のことなど、もっと聞きたいと思っている。

 

「その、だな、──どう思っているか、だな」

 

「モンゴールを、ですか?」

 

 公女の意図がわからず、彼は目を瞬かせる。

 

「まあ、そうだな。モンゴールのことだな。

 モンゴールの、──好む食事。風土、そしてそうだな、人、──うむ、あと、好みか。女の好みなど」

 

 ひどく言いにくそうに、アムネリスは視線をはずし、軽く顔を赤らめながら言う。

 

 ──なるほど、マルス伯が強く進言したのだろう、あいつを抱き込みたいと言っていたからな。

 きっと、領をどこに与えるべきかお考えなのだろう。

 女の好み、というのは一族の娘との政略結婚を考えているにちがいない。用意周到だ。

 

 アストリアスは納得し、御意、と力強く請け負い。

 この新しい秘密任務に、どこかわくわくと心を躍らせながら、公女のもとを辞す。

 しかし彼の去った天幕で、公女殿下はふう、とどこか大役を乗り切ったかのように息を吐いたのだった。

*1
山間地などでは8タールあるいは6タールとなることがあるが、必ず軍用馬車がすれ違えるように設計されている(捏造設定。幅8メートルのローマのアッピア街道を範とした)。

*2
仮にパロの中原標準語をラテン語に相当するものとしてルーン表記した。

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