(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。   作:Marchhatter

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(本日2話投稿の、1話目です)
〇ご感想をいただきました。ありがとうございました!

・なにしろスニさん、中原の人々の常識やしがらみの枠外にいますし、外見は大型ぬいぐるみで警戒心をいだかせず。
 きっとその素朴な善意で、いろいろと大きな人たちの人間関係を混ぜくりかえしたりしてしまうのです・・。

・ナリス公、実のところ設定変更のせいか矛盾のかたまり──とまでは言わないまでも、後から見ると理解しがたい、イシュトとは別の意味で超屈折した人になってしまっていて。
 筆者は実のところ原作を何回か読み直しても「この人、なんなん?」と思ってしまったりしたこともあり。
 別解として、原作設定とは少々乖離して万能人(?)ではなく優秀な中二病患者どまりになってしまうかもしれませんが、「これならわかる」みたいな人にできればなー、などと思ったりしています。
(それにしても、(作者より)頭のいい人物の造形は、やはり不可能だなー、などと・・)

・あー、たしかに!
 肉体と精神の一元論・二元論の話と、精神(心)の所在(ヒポクラテス的に脳とするか、アリストテレス的に心臓とするか)の話を整理せずに発言しているので、わけわからんことになってますね。
 おそらくナリスは、肉体と離れた思念などない(その意味では心(精神)があるのは脳でも心臓でもいい)という、唯物論に絞って発言すべきだったのでしょう・・。
 
・古代機械の存在意義、どうも不明で(パロが恩恵を受け文明が超発達してる感じもせず、また前半部では魔道とできることもさほど変わらなそう)、後半に書いてあるのかも?とも思うのですが、怖くて読んでいないところです。
 一つのデウス・エクス・マキナなのかもしれませんが、辺境編から陰謀編あたりまでではありえたものの、その後に創造神様(くり〇と先生)が捨てたと思われる設定の一つ(についての筆者の妄想)に沿って書いてみようと思っています。

・おそらく、霊感少女として人とは違うという孤独をかこっていたリンダ氏としては。
 ほとんどゼロ感(真イシュトはそうではない)のくせに原作知識でハッタリかましてる偽イシュトの言動に。
 やっと話せる人がきた!などと考えて、いろいろふっかけているところなのでしょう・・。

〇偽イシュトヴァーン視点です。
 読み返すとレムス、レントの海では相当に成長してきていますね。本作のほうが成長遅い・・。


046 幻視

(偽イシュトヴァーン視点)

 

「ねえグイン、イシュト。

 ちょっと変な話なんだけど。話していい?」

 

「ああ」「おおよ。なんだい王子様」

 

 僕たちは、島に到着し。

 船長と僕たちとの相談で、船員の多くは船の補修に回ることとなり。

 そして僕たち、つまりグイン、僕、レムスの3人が水や食料を求めて島を探検してみることにしたのだった。

 ちなみにレムスが入ることについてはリンダも渋ったし、僕もスニさんを入れた方がいい気もしたのだが。

 レムスが熱望し、グインも力強くレムスの安全を請け負ってくれたので、リンダも僕も認めざるを得なかった。

 

 僕とグインとレムスは、とりあえずは海沿いを一周してみることにした。 

 流量のある川があれば、それを見つける早道だと思ったんだ。

 真イシュトの警戒レーダーには何もひっかからず、さほど危険な気配もしないこともあり。

 僕たちは、多少口もほぐれていろいろ話しながら歩いていたのだが。

 レムスが話したい、と言ってきたのは、まだ、島の海岸線を半分も回りきっていないときだった。

 

「ぼく、さ。最近、変な夢をみるようになって、──」

 

 ──────

 

 夢の中で、レムスは妙なやせこけた背の高い魔道士風の男につきまとわれた。

 その怪人が、何かをぼくに伝えようとしてるようだった、とレムスは言う。

 

「──骸骨男だな!?」

 

「そう!イシュト、僕に云ってくれてたよね!」

 

 レムスによると。

 彼は、ここ数日、寝つくとちょうど幽体離脱したように、寝ている自分を見おろすようにしていることがあったという。

 真っ暗な船室だが、不思議にあたりのことがわかったという。

 

 その夢(あるいは、現?)のなかで、(レムス)は不安になってあたりをみまわしている。

 同室のグインも僕も動かず、寝息すら聞こえない。

 時がとまっているのかもしれない、とレムスは思ったそうだ。しかし、いつも、その夢の中で。

 ふわっ、と風が動き。

 レムスが振り返ると、部屋の一隅に黒い袖なし外套に身をつつんだ、背は高いが、やせこけた姿があったのだという。

 

「怖いな」

 

「そう、すごく怖かったんだ」

 

 ──だがその姿はレムスを見つけることができないのか。

 最初は、見当違いの方向に手を伸ばしたりしていた、という。

 

「最初は?というと、何日か見ているのか?」

 

「うん、その、──海賊の襲撃があった、少し前からかな?」

 

 リンダとの関係悪化で、僕がレムスとあまり話せてなかったあたりだ。

 抜かった、と僕は思った(とはいえ、僕がなにかできることもないんだけどね)。

 

 ともかく、夢の中でそんなわけのわからない人をみて。

 レムスの心には恐怖がこみあげて、うなされながら目をさます。

 そんなくりかえしが、数日続いたという。

 しかもすこしずつ、怪人は彼に近づいてくる。

 最初は船室の隅にいたのが、何かの匂いを嗅ぎつけたように。

 試行錯誤しながら、レムスの寝台に近づいてくるのだ。

 

 やがて幽鬼のようなその姿は、夢の中でおびえるレムスを正確に認識したという。

 彼に伸べられる、魔道師の服の袖からみえる細い腕の先には、高熱でとけくずれたように手首がなかった*1

 それが、一昨日のこと。

 

 ──そして、昨夜。

 同じように目をさまし、謎の怪人に手を伸ばされ。

 彼は、寝台を降り、なぜか薄く様子がわかる船の通路の闇の中を、転がるように走り逃げたという。

 

 甲板にまで上がると、(イリス)の光。

 マストの上には見張りがいるはずだが、これまたいないのか、あるいは時が止まっていてレムスたちには気づかないのか、なんの反応もない。

(あるいは夢の中ゆえ、他の人はいなかったのかもしれない。この点はレムスも確信なさげだった。)

 怪人の幽鬼のごとき姿は、まだ追いついてこない。

 

 それで少し落ち着いた彼は、海原をみわたした。

 月明かりが照らす、黒々とした海。遠くに海中に光るものは、烏賊だろうか、夜光虫だろうか。

 たしかそういった生き物が海をこのようにあやしくも美しく照らすのだ。──そう傭兵()が言っていたことを、(レムス)は思いだしていた。

 やがてレムスは、そのはるか彼方、特定の方向に奇妙な引力を感じた。大陸の影すらみえない大海原であるが、──月の照らす、荒涼とした、永遠にひとしい荒野のひろがりを彼は思った。

 この方向だ、と彼は直感した。

 

「この方向、って?」

 

「うーん、ぼくも今は説明できないんだけど──」

 

 とにかく、その方向をみつめているうちに。

 レムスは、自分の体が実体をなくしたように、鳥のように宙に浮きあがるのを感じた。

 

「飛んだ、ということか」

 

「そう、グイン!ほら、あのスタフォロスの塔の上から飛んだみたいに、でももっと高く!」

 

 レムスは浮き上がり。そして、謎の視力を得たように。

 レントの海を。そして、それをとりまく大陸を俯瞰するほどの上空にまでのぼりつめた。

 そして眼下の大陸の一つに、彼はひきよせられていく。

 彼は、いつしか高度を下げ。

 鳥が近くの上空から見おろすかのように、その大陸の北東部。荒れた無人の荒野を、鳥瞰していた。

 

「──あれが神様(ヤヌス)の視点なのかもしれない、とぼくは思った」

 

 月に照らされた砂漠をみつめていた彼の顔を、とつぜん、真夏の太陽の陽射しのように熱が焼き。

 彼はその方向に目を転じ、──そして目を覆った。

 

 ──空が、割れていた。

 巨大な光の柱が、空をはるか高くまでつらぬいた。

 白熱の、光の柱だ。

 

 そして、その光の柱の立った一点から、七色の、奇怪な光が天に向かってかけのぼり、世界を七色に染め上げた。

 レムスは目に当てた手をはずし、息をのんでその幻想的な光景をみつめた。

 彼の顔も、乱反射する七色の光を映じていた。

 

 光の柱が最初に立った、その地点から射しているとおもわれる七つの色の光。

 そして今、その一帯はその七つの光の乱舞に染め上げられていたが、──レムスは。

 

 ”その光の領域から逃げようと・・・というよりも、先に光の柱がたった地の一点から逃れようと、狂おしく四方へ光の渦におわれながら走っていく、実に無数の人や、けものや、鳥や小動物をみた”*2

 

 そして、気づく。

 彼がみていたこの地点は、ノスフェラスではない。すくなくともいまの、砂漠のノスフェラスではない。

 いつのまにか、月の下の広大な曠野だったはずのそこは。

 緑ゆたかな木々が生い茂り、奇妙な様式の家が散らばる、人のいとなみを示すものとなっていた。

 ──しかし今、人々やけもの、すべての生き物たちが、それらを踏みにじりながら恐慌をきたして逃げていく。

 

 ここは、どこなのだろう。何が起こっているのだろう。

 そしてあの光の柱の正体は、何だったのだろう、──と、いぶかりつつも。

 彼の目は、続いて別のものにすいよせられた。

 

 七色の光の発している中心から、巨大な円筒状のものがせりあがってきた。

 円筒は、実に巨大であり。地上に500タールばかりもせり出したところで止まった。

 そしてその円筒の切り口から、いくつかの、光り輝く小円盤が現れた。小円盤は、それぞれ異なる軌跡を描いて飛び去っていく。

 しかしその一つは失速し、きりもみして落ちていき。やがて、銀色の爆発の閃光が発された*3

 

 レムスは、その円盤の落ちた場所のそばに、特徴的な狗の頭の形の山を認めた。

 あの白熱の光の大柱が立ったのは、今でいうノスフェラスの一角なのだ。

 そして小さな円盤は狗頭山の近くに落ちたのだ、と|彼≪レムス≫は悟った。

 

 落ちなかった円盤たちは、それぞれ異なる方向に飛び去っていったが。

 その一つは、はるかにケス河(であろう、と神の視点を得た彼は上空からみてとることができた)を超え、とある方向を指して飛んでいった。

 

()()*4

 

(あのままゆけば──パロの方角だな・・)*5

 

 最後のおそるべき大爆発が、世界を揺るがし。

 彼は、気が付くと船の甲板に戻っていた。

 奇妙な浮遊感、酩酊感が彼の体を揺らしていた。

 

 がしっ、と彼の手首を背後から奇妙に力づよい、骨の手が握り。

 彼は、心臓が口から飛び出るような恐怖に撃たれ、ふりむいた。

 彼が、あのはるかな海原の果て、かの大陸での不思議な光景を見ていた間。

 彼の実体(?幽体離脱をしているのだが)は、いまだ船の甲板にありつづけ。

 彼が遠視で心をとばして動かないでいるあいだに、この怪人が彼をみつけて、追いついてしまったに違いない。

 しかし。

 

「えいっ」

 

 手首を握られたということが、彼に逆に勇気を与えた。

 つまり、彼も怪人もかりそめの実体がある、ということなのだと。

 彼はいつか「港町(ヴァラキア)の悪ガキたちの喧嘩の仕方を教えてやらあ!」と、イシュト(僕?)に教えられたとおり、──

 腕をあげ、外側に回ってつかまれた手首をはずし。

 そして右足を、怪人の脚の間めがけて蹴り上げた。

 

 怪人のまとうだぶだぶのローブは、そのひと蹴りの威力をいくらか削いだのかもしれない。

 しかし彼の右足には、たしかに自分の蹴り上げた足甲が、蘇鉄(シカスレヴォルタ)の実くらいの大きさの何かを潰す感触が伝わった。

 そして枯れていながらも蹴られたものの苦しみがいかんなく伝わる、耳に不快な濁った悲鳴。

 よろよろ、と怪人の影は後ろにさがり。しゃがみこみ。

 そして、──

 

 ──────

 

 僕とグインは、顔を見合わせた。

 たぶん僕たちの顔は、甕に漬けた古い梅干し(塩が結晶化したやつね)を口に含んだような表情になっていたと思う。

 グインの口の端には牙が見え、鼻にはしわがよっていた。僕の眉間にも、おそらく。

 

「要は王子様は怪人のキャ○タマを潰し、そしてその顎を蹴飛ばした、と」

 

「そうだよ、イシュト!一生懸命、蹴ったんだから!

 だって言ってたよね、喧嘩のときの心得は、『つねに心は、ふるすいんぐ』だって!」

 

 言ったっけ、僕そんなこと?

 あー、あのときかなー。

 ひさしぶりのヴァシャ酒に酔っぱらってた大仕合の日、帰ってから?うわー。

 遠い目をする僕に笑いかけ、レムスは得意満面で続ける。──マジかよ、続きあんのか。

 

「そしたらね、そしたら!蹴った頭が、コロッて取れて!

 のこった胴体が、すごく慌てたように、その頭をてさぐりで探しはじめて!

 それまで、怖かったのに。なんだかそれを見て、笑えてきたの!

 それでね、ぼくね。その頭を宮廷の毬みたいに、もう一回おもいきり蹴って、海の中に蹴り込んでやっつけてやったんだよ!」

 

 そのときの興奮を思い出したのか、きらきらした目で、うっすらと白い頬を上気させて力説する王子様。

 どうしよう。こんな暴力王子に育ててしまった責任の一端が、グイン(と、ちょっぴり僕)にあると知れたら、──。

 

「──本体のほうは、どうなったのだ」

 

「それがね、グイン!頭のある方向は、わかるらしくて!

 船べり(ボルダ)に寄りかかって、手を海の方に伸ばしてたからさ。

 えいっ、って後ろから蹴ったらさ、──」

 

「船から落ちていった、と」

 

 どぷんと海に落とした達成感があったらしい。いや、海に落ちた音までは聞こえなかったらしいけど。

 それはともかく。

 僕とグインは再度、困惑の視線を交わした。

 

「イシュトヴァーンよ。──どう思う?」

 

「そうだな、──まあ変なものに憑りつかれそうになった王子様が、返り討ちにしてやった、ってとこだろうな」

 

「俺もそう思う。よくやった、レムス」

 

 グインは決して強すぎることなく、レムスの背中を叩いて讃える。

(もちろん力いっぱい打てば、レムスの背骨なんて折れかねないからだけどね。)

 

「ところで、王子様よ。

 その怪人、何も出自がわかるような言葉を、言っていなかったか?

 それと。また来たときのため、しばらくグインか俺の近くで寝るか?」

 

 レムスは眉を寄せ、うーん、と考え込んだ。

 

「うん、出自も何も。だいたい、しゃべらなかったし。

 それに、もう大丈夫だと思うよ。こわくない!

 こんどやってきたら、こんどは最初から頭をめちゃくちゃ蹴り飛ばすよ!」

 

「あ、ああ、そうだな。またやってきたら、な?」

 

「目にもの、見せてやるがいい」

 

 グインも声を控えながらも、ようやく吠えるように笑った。

 僕もハハハと笑いながらも、心中ひそかに頭をかかえた。

 

 おい、どうする?レムスはカル=モルに憑りつかれないってこと?

 それはいいんだが、──だってレムスはカル=モルに憑依されて急に大人びて成長するけどさ、同時に虫に食われた林檎みたいに人格を食われていくことになるし。追い払えたらそれがいい、って思ってたんだけど。

 だが、原作どうなる?

 いやそもそもあいつ、死んでたっけ?まだ生きてる?生霊だから、力が弱くて追い払えた?じゃあ、死んだら?まさか、これで死んだりしてないよな?

 

 ──────

 

 そんな僕の煩悶をよそに。

 先頭を歩いていたグインは、足を止めた。

 

「川だな。水が見つかったぞ」

 

 グインの指摘どおり、小川が流れているのがみえた。

 幅1、2タールほど。決して大きくはないが水はなかなか澄んでいる。

 

「おお、たぶん飲めるぜ。魚もいるな」

 

「イシュト、この魚も食べられるの?」

 

「ははっ、どうかな。まあ、魚も試してみてもいいが、ちっこいしな」

 

 水草もあり、小さな魚もいるようだ。おそらくは何の問題もなく飲めるとは思うが。

 ただ、もちろんのこと慎重な僕は。

 最初はもちろん、捕虜になってる海賊さん(モルモット)たちにこの水と魚を味わってもらおう、──と思ったのだった。

 

*1
第7巻「望郷の聖双生児」149頁。

*2
第7巻「望郷の聖双生児」164頁。

*3
第7巻「望郷の聖双生児」165頁。

*4
第7巻「望郷の聖双生児」165頁。

*5
第7巻「望郷の聖双生児」165頁。

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