(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。 作:Marchhatter
〇ご感想をいただきました。ありがとうございました!
(またご評価もいただいていました。ありがとうございます)
・カル氏は干物になっていたので、きっと海の水分を補給できてちょうどよかったはず。干しシイタケが水で戻されるように、きっと生理食塩水を全身で吸収して、・・元気回復ッ!
アムさんは原作よりはやや強化版、これに対してナリスはやや劣化版。これは、いい勝負になる可能性も・・?
・原作、私も2/5読者で、未知の部分が多いです!(やはり半分以上は読んどこうかな、などと最近思ったり)。
さすがにところどころ謎設定や謎人物が少し頭を出してしまうかもしれませんが、後書きで補足などして読みやすくできればと思います!
・あー、カル氏が水分を喪失したミイラ状態だったのを忘れていました!
きっと本当は、
あるいは、生命維持に密接に関連したところは生体で残っていた可能性も微レ存(ほんまかいな)。
・カル=モル氏、体格も良かったらしいですからねー。数千年生きる魔道師からみたら、おそらく血気に逸る若造だったのでしょう(カンフー映画で出てくる、師に弟子入りを熱望する若者みたいな感じ?)。
さすがに玉を割られた小物どまりにするのももったいない気もするので、少々改造しようか、などと・・。
・ナリスは創造神様が後から前の記述について「反対の反対の反対の反対」をやってしまったために、訳わからない複雑怪奇な人物になってしまった気がしてしまい。
本当は超人ではなく人間ではあるので、意に沿わず置物にされ、表情筋が攣ってしまってかなわんわー、と思いながら心を無にして笑顔に徹していたことも、きっとあったに違いありません・・!
・「聖なる児」、実は後半部を読んでいないこともあり、超的外れな推論で書いている可能性が排除できず。
おそらくもともとは創造神様はこう考えてたのかなー、とも思って書いているのですが、全く自信がありません。星船の関係者であるというのは確定していると思うのですが、。
(スカールも「ノス嵐」でもっと質問して情報くれたらよかったのに!)
(レムス視点)
(レムス!──レムス!──レムス!──レムス!──来て!)
リンダとレムスは、双子であり、ある種の精神感応力を有している。
調子のいいときは、かなり離れた場所であってもお互いに呼びかけることができたりする*1。
特にパロでは、よく通じていた。
しかしスタフォロス城とか、辺境地帯では通じなくて。
そろそろ使えなくなっちゃったのなー、なんてレムスは思っていた。
(子供のうちは使えても、成長するとなくなってしまう能力というものかもしれない、とレムスは感じていた。)
──だけどこの島では、パロ以上によく通じる気がする。こんなにはっきりと呼びかけが通るなんて。
リンダからのせっぱつまったような呼びかけを、頭にわんわんと反響するほどに受けて。
軽い頭痛に目を細めながら、レムスも念を送り返す。
(リンダ──僕たち──忙しい)
レントの海で海賊の襲撃をかいくぐり。
ノスフェラスからの春の嵐に、押し流され。
そして食料と水が補給できそうな無人島に、流れ着いてから数日。
その日もレムスは、グインとイシュトヴァーンとともに、島の探索を行っていたのだ。
これは、ひとえに傭兵の要望によるものである。
彼はとくに、島の中央の山に興味を示し。
この山の内部に入り込む洞窟を探索したいと思っている様子だった。
なにか、貴重なものが隠されている!と彼は考えているらしい。
探し求める「貴重なもの」が何なのか、傭兵は教えてはくれなかったが。
おそらく海賊の宝を探しているのだろう、とグインとレムスは考えていた。
もっとも、そんなものを探す優先順位は低い。最初は食糧集めだ。
イシュトヴァーンもそれは分かっているのか、黙々と食料集め、彼の場合はおもに漁に参加し。
ようやく余裕がでてきたこの日に、願い出て探索を行うことになったのだ。
みたところこの島に人の手が入った形跡はみあたらない。海賊の宝がある見込みは薄いように思われる。
しかししっかりしてみえながら、そうしたふわっとした夢を追い求めるイシュトヴァーンの稚気を。
グインは、ほほえましく思って尊重し。レムスは、自分もわくわくとした気分で賛同し。
増えた人員(海賊たち)のための食糧あつめを兼ねて、今回、探索に同行していた。
そしてレムスがリンダから、呼びかけを受けたのは。
あー、ここだここだ!と、洞窟の入り口をみつけたイシュトヴァーンが喜んでいて。
まさにこれから突入しようとしていた、その矢先だったのだ。
(レムス──お願い、来て!──グインと、イシュトヴァーンを!──早く!みんな死んじゃう!)
(──リンダ!?──わかった!行く!)
「どうした」
「頭、痛えのかレムス。ちょっと休むか?」
グインが、軽く頭を押さえたレムスの様子に気づいて声をかける。
先頭切って乗り込もうとしていたイシュトヴァーンも、そのやりとりに気づいてふりかえった。
「ねえ、グイン、イシュト!リンダが呼んでる、行かなきゃ!」
グインとイシュトは、瞬時とまどいの表情を浮かべたが。
「ああ?あー、あれじゃねえか?」「うむ。──双子のつながり、なのか?」
意外にもすぐに、レムスの様子から何かをよみとったようだ。
「うん、何かが起きたみたい!みんな死んじゃう、って、リンダが!」
「レムス、俺の肩に乗れ。行くぞ、イシュトヴァーン」
「合点承知!」
幸いにも、疎林には獣道がついている。
一行は、上陸した一行の仮拠点に向かって急いだ。
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──────
(リンダ視点)
時はわずかに、さかのぼる。
「やべえぜ、あの大蛸!こっちに来る!」
「おい、キキワカ!ラディキ!お客さん方を誘導して、安全な場所に!
残りの野郎どもは、矢で食い止めろ!」
それは、悪夢の中の大蛸にも似た形態をしていた。
ぬらぬらとした、しかしどこか非現実的な印象を与える表面、まるみをおびた巨体、うねうねとうねる、大小いくつもの触手、目や鼻といった器官の見定め難い曖昧な外形。
もし、その年齢にはありえぬほどの経験を経てきたイシュトヴァーンが、これを目撃したら。
それが「クラーケン」と呼ばれる、北方ノルンの海に生息する謎の怪生物にどこか似たフォルムであると思ったことだろう。
数日前みつけた、島の天然の良港に船を係留し。
彼らはその近くの陸地に、陸上での活動拠点を置いていた。
(船は修理の必要があったし、薄暗く湿った船室よりも陸のほうが居住は快適だ。上陸した最初は、船に慣れきってしまっていたリンダたちはなぜか陸がぐらぐらして感じられ、逆に「陸酔い」してしまっていたが。それも1日でおさまった。)
この島には、1日に1回くらい、地面が震える地震という現象があり。
その点については、彼らも気をつけて船からあまり離れないようにはしていたものの。
やはり陸上の生活の方が、荒れると眠ることすら難しい船の生活より快適なこともあり。
彼らは、新鮮な肉や果実を得られる、陸上拠点の天幕での生活に慣れ始めていた。
そして捕縛以来、おとなしくしていた海賊たちには一定の自由を与え、数人単位での外出、漁や狩りを許していたところ。
たまたまその海賊たちが、山で狩りをしていたときに。
この悪夢の中のごとき生命体と遭遇し、攻撃して騒がせてしまったらしい。
海賊たちを追い、船と彼らを分断するような位置に現れたこの怪物に人々はなすすべもなく逃げまどっていた。
「駄目だ
船員の一人が、恐慌を帯びた叫び声をあげる。
全く効いていない、ということはないのだろうが。
弓矢は、この怪物にあまり効果的な傷を与えられていないようだ。
(──あれは、かつて地上を支配し、そして追いやられた『古神』につらなるもの?なぜ、ここに?)
リンダが、そのありうべからざる造形に息をのみながらそう思ったとき。
怪物の縦に切れたまぶたのような切れ目がひらき、そこにある単眼が、まるで彼女の考えたことを感じたように、ぎろり、と自分を睨んだ気がした。
いや、それは錯覚ではない。
あきらかに、そのとき怪物はリンダを認識した。──この騒動をひきおこした、敵として。
かふん、と触手の中にある口が開き。
ぐふぉおおお、と生臭い呼気が吐き出されるとともに。
リンダは、きぃぃぃん、と頭の芯に響く高い音を感じた。
「うわっ!こっちにきやがった!」
ずぞ、ずぞ、と灰色の巨体が人々の集まっているところに、近寄ってくる。
「ほかの捕虜どもの縄も、切ります!
「切れ、そして逃がせ!」
海賊の捕虜たちも、比較的従順な連中は軽作業に従事させるために手足を一定の長さの縄で縛り、走ったりできないようにして陸上に上がらせていたが。
怪物は、非番でたむろしていた彼らが、まだ避難が終わっていないことに目を付けたらしい。
意外なほどに早い動きで、蛸に似た触手を伸ばし、──。
「!?」
運悪く捉えられた海賊が、口をあけて絶叫しようとする。
灰色の巨体に縦に切れた切れ目にある、おぞましい単眼が犠牲者をみつめ。蛸のくちばしにも似た、口吻がひらき。
海賊のすがたは、そのくちばしの中に消えた。たまぎるような、絶叫が突然断ち切られて、ごつり、ぞぶり、という音が響く。
一瞬、それを目撃した船乗り、海賊たちは凝然と固まってしまうが。
「ぼうっとしてんな!逃げろ!走れ!」
船長の怒号に、あわてて動きをとりもどし、逃げ散り始める。
その間にも、巨獣は行路にいた、腰を抜かして呆然自失していた海賊たちに触手をのばし。数人が犠牲となる。
怪しい毒液が噴射され、それがかかった海賊たちの一人がドロドロに体を溶かされ、洗われたような白骨をあらわにしたところで、恐慌は頂点に達し、もはや人々は統率も取れずに逃げ散っていく。
やがて前菜は終わった、と思ったのか(?)、灰色の巨獣は向きを変え。
たまたま崖近くにいて逃げられず、その場に残ってしまっていた、みずみずしく柔らかそうなリンダたち、──リンダ、スニ、そしてエレウィディスを追うように、ずりずりと進み寄ってきている。
「お嬢さんがたが、狙われてる!?
シュリオ、お嬢さん方につけ!奥に逃がすんだ!」
かろうじてまだ踏みとどまり、残っていた船長が指示を叫び。
数人の勇敢な船員が恐怖を乗り越えて石を投げるなどして、幻獣の注意を逸らして隙をつくり。
胆が据わっていた、イシュトとも仲がいい船乗りの一人が、リンダとエレウィディス、そしてスニに付き添い。
かろうじて振るわれる触手の間をすりぬけさせ、森への獣道を走る。
背後から、ずりずり、ばきばき、と灌木をへし折りながら進みよる怪物の音が聞こえる。全く、引き離せていない!
悪いことに、ちょうど頼りになるグインたちは島の探索に出払ってしまっている。
(レムス!レムス!!グインたちをよこして!)
リンダは、胸の中で絶叫し。
──幸運にも、レムスはその呼びかけに応えることができたのだった。
──────
──────
(偽イシュトヴァーン視点)
獣道を、
最初はレムスを肩に乗せていたが、木の枝が増えてきたので今は背中に背負っている。
レムスが肩越しに指さす方向に、ときには藪の中をバリバリと強引に押し渡ってグインは進む。
その背後を、僕もひた走る。
グインはその巨体からは信じられぬくらいに俊足だが、僕も負けちゃいない。
彼の背中を追いながら、僕は考えをめぐらせる。
──リンダたちに、何かがあった。
みんな死んじゃう、という言葉。
おそらく、何かが起きた──おそらくは、海賊の反乱。あるいは原作で出てきた幻獣、クラーケンもどき。
十中八九、海賊ではなく幻獣の方だろう。
捕らえられた海賊たちは、そこまで組織だった動きが取れる状態じゃなかったと思う。
クソッ、読み違いだ!
幻獣は、巨大だ。陸上では身を隠せる場所もあまりない。
そして数日間探索して幻獣を見つけられなかった僕は、原作とは違って、この島に幻獣はいないのかも、なんて思い始めてた。
原作での幻獣、もとからこの島に住み着いてたんじゃなくて、後から流れ着いたのかな?
この大蛸に似た幻獣は、クラーケンの近縁種だと僕は思っている。
クラーケンとは?
寒い海に棲息する、謎の怪生物。
現代日本では、例のカリブの海賊の映画に出てきたようなイメージが強いのかもしれない。
でも原作ではあんな感じじゃなくて、もっと蛸に近いデザインだと思う。そして、知性を備えている。
作中では、このクラーケンについて。
人を超える知性を有し、星々を渡ってきたという伝説があること。
そして謎のテレポーテーション能力(触ったものを消し、離れた場所に再出現させることができる)を有していることが、示唆されている。
そしてノスフェラスに墜落した星船にも、なんらかの関係を有していることも。
原作では、イシュトたち一行は海賊らとともに島に流れ着き、そこで先に流れ着いたグインと再会し。
グインから、このクラーケンに似た幻獣を目撃したことを聞く。
そして彼らは島の洞窟の中にあった古代機械を目撃するが、古代機械は島を破壊し(ここの因果関係がよくわからない。島が爆発するのは古代機械の仕業と思うが、火山が爆発するから古代機械が離れたのかもしれない)。
原作の幻獣=クラーケンもどきは、グインたちを追う海賊たちに遭遇し、殺しまくり。
グインたちはかろうじて海賊の船に戻って、島が爆発する前に逃げ出すことができる。
そしてその後、アグラーヤの軍船「サリア号」に拾われる。
この謎の怪生物。原作の描写からみると、クラーケンとは異なる特徴を持っている。
真イシュトヴァーンは、かつてカメロンとともに、北方ノルンの海から結界を逃れて南の海に逃げ出してきたクラーケンと戦ったことがある*2。
その原作イシュトヴァーンは、「神の棲む島」の幻獣をみてクラーケンだ、とは言っていなかった(まあ、それどころじゃなかったんだけどさ)。
両者の相違を示唆する根拠は、ほかにもある。
例えば、大きさ。
外伝の「幽霊船」では、クラーケンが船にのしかかっていた、との描写がある。小島のような大きさだ、とも。
船と同じくらいの大きさがあったということだろう。
僕たちの乗っているこの船は割と大型で、幅は10タール、縦は40タールくらいはある。イシュトヴァーンが乗り組んでいたオルニウス号も、それくらい。
だから、クラーケンもたてよこ高さ、10タール以上は優にあったのだろうと思う。
そんなサイズじゃ、陸上を動き回ることなんて物理的にできない。──普通なら、できないよね*3?
もし肉でミチミチになってる構造だとしたら、推定、重さ約1000トン。シロナガスクジラの3倍くらい。クラーケンが海に棲んでるのは当たり前だよな。
しかしこの「神の棲む島」のクラーケンもどき、超巨大とはいえ陸上を動いていた。
クラーケンよりも、小さい?原作イシュトヴァーンは、馬10頭分の大きさの「
あるいは半分、この物理世界に存在していなくて見た目ほどは重くない、ということか──?
(ただ、クラーケンも一時的に陸に上がってたりする描写があるんだよな。だったら、あまり大きな違いじゃないのかな?)
また、色と形もすこし違う。
神の棲む島の幻獣は、灰色の巨大な影のようだったとグインは述べている。
「実体をそなえ生命をもつにいたった影」とも*4。イシュトたちも、この「生きてうごめきだしたまぼろしででもあるかのような、灰色の奇妙な獣」を目撃している*5。
この幻獣は、灰色の縦に裂けたまぶたのような裂けめの中に、1つだけの単眼を持っていた。そして蛸のくちばしのような器官も。おそらく、クトゥルフ神話の中の存在だね。
それに対し、クラーケンの目は「赤く光る二つの目」、つまり1対2個だ*6。また、色も黒だとされていて*7、「なまなましい触手」との描写もある*8。
非現実的な印象の灰色の幻獣と違い、この世での存在感があるということだろう。
あと、特殊能力。
灰色の幻獣は妙な溶解液を噴くことができる。クラーケンに、その描写はない。これに対してクラーケンは限定的なテレポーテーション能力や、死者を操る能力を持つ(幻獣がこれらを有するか、不明である)。
だが、この2つの怪生物は、全く異なるものだろうか?
僕にはどうしてか、この2つは何らかの類縁関係があるように思えてならない。細かいデザインは違うが、強い類似性もある。
だから僕は「神の棲む島」の幻獣は、クラーケンの近縁種だと思っている。ほら、陸上に適応して進化したタイプっていうか、さ。ニギディアも、(読みようによっては)クラーケンに亜種がいることを匂わせる発言をしてる*9。
ちなみに「巨大な頭と巨大な胴体をもつ、巨大な赤ん坊」*10。奇形単眼という点で、幻獣にどこか似たこの不思議な存在は、クラーケンや幻獣のそばで目撃されている。
この巨大な赤子(聖なる児?)は、おそらくはこれらの獣と何らかの関連性を持つのではないか、と僕は考えている。僕たち人間と彼らが同じ感覚であるという保証はないが、赤子が氷漬けのクラーケンを助けるそぶりはない。「監視・観察」あるいは「敵対関係」に近い?
「イシュトヴァーン!レムスを頼む!」
「よしきた!──王子様、しっかり!」
グインはレムスを僕にほい、と投げてくる。おいおい。
僕はあやうくレムスを抱きとめ、立たせる。ちょっと目が回ってるみたいだな、でも今は非常時だ、しっかりしてもらわないと。
「こっちだ!来い!」
木々の間から、こっちに走りよってくる人の姿。リンダたちだ!
そしてその背後、わずか数タールの距離でうぞうぞと進んでくる、吐き気をもよおすような灰色の姿。
僕の腹の底から、熱い憤激がこみあげる。真イシュトが、この化け物を憎んでいるからだろう。
カメロンとともに慣れ親しんだ「オルニウス号」の仲間たち、一夜を共にした女戦士ニギディアとその仲間のヴァイキングたち、そして数知れぬ数の船乗りたちを殺したクラーケンに、この灰色の幻獣が似ているから。
グインは剣を抜き、クラーケンもどきに対峙する。グインの巨体が、あまりに小さく見える。
リンダ、そしてエレウィディスさん、そして船乗りのシュリオを背後にかばう。
ただ、2人並んで剣を振るえるほどの場所がない。グインを前衛にして、僕は投げナイフなどで牽制するか。
リンダたちにはもう少し走って逃げてほしいけど、もう3人とも限界のようだ。
エレウィディスさんなんか、足が血だらけ。華奢なサンダルばきだからな。
シュリオが支えてきたんだろう、疲労困憊の様子。よくやった。
「ぬっ、──なんだと!?」
今しもグインが、伸ばされた触手に剣を振るう。絶技だが、──斬れない!
触手を打ち返すことはできてる。だから全く物理的な攻撃でダメージが通らないわけじゃないんだろうが。
どういうわけか、斬撃が通らない。打撃としてしか効果がない*11。
そうだ、そいつがクラーケンかその亜種だとすれば、そいつに普通の武器は効かねえんだ、グイン!
「っ、──」
グインの動きが、止まった。
あの奇怪な目を覗き込んでしまったみたいだ。まずい!
「グイン!目を見るな!」
僕が背後から援護で投げた短剣が、クラーケンもどきの単眼に当たり。
近くの木にのぼったスニさんも、よくわからない堅そうな木の実を投げつけてくれた。
クラーケンもどきはきぃぃぃん、というような奇妙な叫び声をあげ、グインの金縛りが解けた。
不快感を化け物に与えることはできたようだが、やっぱり剣やナイフが刺さらない。殺したり、目を潰したりするようなダメージを与えきれない!
グインの怪力でも、剣が効かないとクラーケンもどきの無数の触手には分が悪い。
僕は2本目の投げナイフを構えながら、この窮地を切り抜ける方策を考える。
「イシュト、ヴァーン、あいつは、私、狙ってる。いざと、なれば、私を──」
息をまだ整えきれていないリンダの切れ切れの声が、背後でする。
「させるかよ!──ん?」
なぜ、リンダが狙われる?
おそらくはリンダが、有象無象と違って意味のある存在とこの怪生物には映ったから。
その力、聖巫としての能力を感じ取ったから?
そう、聖なる力。神の力。
イシュトヴァーンがカメロンとともに、「幽霊船」の話のなかでクラーケンと戦ったとき。
クラーケンを殺すことができた唯一の武器は、「神の火で浄められた銛*12」だとされていたな、──。
あいつが、クラーケンの亜種だとして、似たような弱点を持っているとしたら、──?
「なあ、リンダ!」
あぶねえ、グインもさすがに剣が通じなくて苦戦してる!
再び僕の投げた投げナイフが、クラーケンの目に当たり。
腕を触手に捕まえられそうになったグインは、かろうじて窮地を脱する。
「何?」
レムスもいるな、だが今は実験してる余力はない。
巫女として覚醒してるリンダが、何らかの有効な力をあの化け物に対して持っていることに賭けよう。
「リンダ、お前の力が必要だ!」
「えっ!?私?何をすればいいの!?」
「──何か、神の力を借りたり、浄めたりして剣を強化できるか?
ぶっちゃけ、
僕は剣を示してみせる。
ニギディアは、クラーケンを倒す方法は一つだけ、神の火で浄められた銛だけだと言っていた。
しかしそれは、ニギディアの知る唯一の方法、というだけだと思う。
「できるわけ、ないでしょ!?あれは、礼拝と儀式が必要で──」
駄目か!あー、そもそも「幽霊船」の銛の「神の火」って、なんだ?
魔法使いブラギがどうこうとか、言ってたな。でも細かい説明は思い出せない。
原作、もっと読みこんどけばよかった!
「儀式では、何をやる?物の聖別のときだ!」
剣をつかまれたグインの肩に筋肉が盛り上がる。振り払った!
だが、複数の触手が一ぺんに伸びてきた。僕はまた投げナイフを投げる。
目にボールがあたったような感じなのだろうか、びくっとして触手をひっこめたクラーケンは。
いよいよ僕とその後ろのリンダに注意関心を向ける気配。それに気づいたグインが剣で切り込むが、うるさそうに跳ね返されてる!
「祝福された聖酒を用意して、指を浸して、──」
後ろで続く、リンダの声。あー、聖酒?清酒じゃなくて?そんなものないよ!
「──して、そして口づけする。そのときの注意として、──」
聞き流してしまったが、いろいろ必要なものがあるんだな。無理だ。
目の隅に、グインの豹頭に触手がかすめ、グインがよろめくのがみえた。──潮時だ、グインはよくやってくれてるが、剣が効かねえなら逃げるしかない!
グインに助太刀して時間を稼いで、その間にリンダたちを逃がすか!ほい、頼んだぞ真イシュト!
「──
真イシュトヴァーンに統制権を譲ると、
背後の彼女たちには目をくれず、怪物に目を据えたままで大剣を持った腕を背に回し、そう言い放った。
劣勢ながらよく支えていたグインだが、さすがにだんだんと押し込まれてきてる。あー早くイシュト、加勢しないといけないのに、何言ってんだ?
「イシュト!?あなた分かってるの、その言葉の意味!?」
「分かってる!何があろうとお前らはグインと俺が守る。──だから頼む、”死にゆく者の剣に祝福を”」
僕にはよくわからない警句のようなものを真イシュトが何か口走り、リンダが息をのんだ。
「リンダ!ほら、やるよ!」
固まっていたリンダをレムスがどやしてくれて、何かやってる気配。
持っていた剣に何かの動きが感じ取れ、そして離された。
「イシュト、──お願い、グインを」「イシュト、あといくつか同じようにしてから、僕たちも退く!無理しないで!」
震えるリンダの声、そしてしっかりしたレムスの声。
冷静に判断して、退却するつもりだろう。悪くないじゃないか、王子様。
剣を構えなおすイシュトヴァーン。ああ、しかし遅かったか!
僕の視野に、グインが剣を触手に巻き取られたのが映った。グインが暴風のように横に振るわれた別の触手を避けるが、次のひと薙ぎで終わっちまう、──
「グイン!避けろ!」
剣を持った
そして手に持った剣が、投げ槍のごとく投じられた。
──────
──────
(第三者(グイン)視点)
(これはいかぬ)
怪物は、まるで嬲るように立ちはだかるグインを追いつめていた。
怪物は、その触手を彼に巻きつければ勝ち、──グインの見る前であっさりと若木を握りつぶした力には、グインも肉塊にされてしまうだろう。
ときおり、奇妙な液を吐く。じゅわっ、と音がして液のかかった有機物が溶ける。
その巨体もおそらくは、
他方で、グイン側には決定打がない。
剣は触手を跳ね飛ばし、一度は冷ややかに彼を見つめる怪物の単眼を突いた。──しかし、斬れない、刺さらない。
ちょうど目を指で突いたようなものなのだろう、怯ませることはできたのだが傷を与えられない。
怪物も最初はグインの剣を警戒していたが、斬れないと知るや、どこか視線も嘲弄めいた色を帯びる。
(人間とは全く違うのだが、あからさまに『舐めくさった』態度となり。
わざとらしく触手を打たせ、おお痛い、とでもいうように大げさに触手をグインの目の前で震わせてみせたりもする。)
時折、訪れる危機。そのたびにイシュトヴァーンからの援護で、窮地を脱するが。
背後から相棒が飛ばす短剣も、ある程度の痛みを怪物に与えてはいるのだろうが、やはり刺さらず、怪物の命を脅かすことはできない。
(イシュトヴァーンよ、無理だ、リンダたちを逃がせ!
俺はここで、一刻でも時を稼ごう)
背後で、イシュトヴァーンが何かをリンダに言っている。
リンダに逃げろと言っているのか?いや、そんな気配がない。
そんな場合ではないだろう、早く逃がせ、とグインは焦燥を覚える。
しかし数
グインは背にチリチリと、危険を感じる。
(なにっ!? イシュトヴァーン、何があった!?
──しまった!)
グインも、そして怪物も一瞬気をとられた。
しかし怪物のすでに振り回していた触手が、動きが瞬時止まってしまったグインの剣に惰性でからみつき。
グインは手から剣を奪われ。無手のまま、怪物の前で身構える。
怪物もグインの窮地をみてとり、逃がすまいとするかのように、すべての触手をひろげた。
触手の根元、クラーケンの本体に、まがまがしいくちばしのような口吻がみえた。
口吻は開き、そのぎざぎざの歯にかこまれた中から、魚の腐ったような臭いが吐き出され。
その悪臭に巻かれたグインは、軽くめまいを覚え、膝を折りかけた。
彼に近づく、おぞましい口吻。
(ぬかった!
だが、これで本体に接近できる!
かくなる上は、組み付いてこの牙で、あの本体に──ん?)
「グイン!避けろ!」
背後からの、いまや空気を焦がすような熱い剣気。
グインほどの戦士となれば、音や気配である程度の危険の察知ができる。
身をさらにかがめたグインの肩越しに、雷光のように大剣が飛んだ。
ぐさり、と。
いましも、勝利を確信して触手をひろげ、伸びあがり。
触手の根元にある、巨大なくちばしをひらいたクラーケンもどきの、そのくちばしの傍に剣が深々と刺さった。──刺さった?
考えるのは、後だ。
グインは、飛びこんだ。
刺さったイシュトヴァーンの大剣を抜き、全力を込めて振るう。
それまで全く刃が入らなかった触手に対し、今は
きいいいん、というような、可聴音域ぎりぎりの悲鳴と思しき空気の振動が耳を穿つ。
だが戦士としての本能に突き動かされるグインは、それに構わず。
いったん引き、そして再度、踏み込んで跳躍する。
怪物の片方の目に、剣が深く突き刺さる。噴き出す、青灰色の体液!
「豹あたま、ずりぃぞ!俺にもすこし寄こせ!」
イシュトヴァーンの声がする。
何を言っているんだこのタコスケは、と瞬時、グインの頭を憤りの念がよぎったが。
一瞬後、グインを打とうとしていたらしい、怪物の細めの触手の一つがあざやかに斬り落とされる。
横を見ると、イシュトヴァーンの血に酔った狂戦士の恍惚とした表情。
「あー、斬れるは斬れるが、ちょいなまくらだな!
シュリオ!お前の剣、研ぎ直しとけ!整備が悪いぞ!」
あの触手に撃たれていたらさすがに無事ではいられなかっただろう、感謝しなければな、とグインは思う。
だがその間にも、グインは腕を振るい。怪物の触手の一つを、剣で斬り落とす。
痛みに、おそらく触手を振るおうと思っていた怪物だが、──切り株のようになってしまった触手の切り株の根がもぞもぞと動き、そこからも青灰色の体液が噴き出す。
「俺ん剣じゃねえ、船の
豹の旦那、投げますぜ、──えいっ!」
背後から、船員により投げナイフが投じられ、──怪物の広げたくちばしの中に、勢いよく飛びこむ。幻獣の憤激のうめき。
しかし。
「いかん、針で
あまりに巨獣は大きく、彼らの武器は短い。
彼らの剣は、なぜかダメージを与えることができるようになった。──しかし、決定打でない。
ただ、目に関してはグインの一刺しで視力を奪えたようで焦点が合っていないようであるが──。
しかし巨獣は残る触手を動かし、猛然と突進し始めた。
ばきばき、と灌木が折れ砕け、グインたちはその勢いに巻き込まれまいとリンダたちを守りながら退がる。
「シュリオ!お前は、エレウィディスさんを──ん?」
視力以外の謎の感覚で、巨獣は彼らの所在、特にリンダとレムスの所在を感知しているようだった。
足を怪我しているエレウィディスを抱き上げ、数タール、森の中に入った位置に逃げた船員シュリオには気をとめず。
巨獣はリンダとレムスをそれぞれ守って退いた二人の戦士に、執拗に追いすがろうとしている。石を投げて気を逸らそうとするスニには、目もくれない。
それを見たイシュトヴァーンは、何かを考えついたように叫んだ。
「──おいグイン、狙われてるのは双子だ!
俺に考えがある、あの洞窟に向かうぞ!
シュリオ、こいつは俺たちがひきつける!エレウィさんと船に戻れ!すぐに船出の準備を!いいなっ!?」
「応!」
イシュトヴァーンはその答えを聞きながらリンダを背負い、グインはレムスを肩に乗せ、走り出す。スニもぴょんぴょんと追随する。
その後を、触手を数本失い、さすがに前ほどの速度ではないが。
憤激に、ぎゅぃぃぃぃ、という呻き声を上げながら、大蛸にも似た巨獣が追った。
(覚書)
○「星船の主」クラーケンと、「古きもの」幻獣
筆者(Marchhatter)は原作の2/5くらい(60巻相当)しか読んでいない上に、あまりパロ関係は読み込んでいない。そのため、以下の検討はもしかすると不正確で的外れの可能性もある。
・クラーケンは神の火に封じられ、北の結界に棲息している。ただしその北の結界でとじこめられた地(クインズランド)では、神としてあがめられている(『幽霊船』)。
・クラーケンを封じたのは、タルーアンの古代の王であり魔術師であるブラギである。
・クラーケンは、人間より知性が高い。一体だけではない。星々の海を渡ってきたともいわれており、キレノア世界の重力に適応できていない可能性も示唆されている(『幽霊船』)。
・クラーケンは、触ったものを動かせるという能力(テレポーテーション能力)を持っている。自分自身を瞬間移動させることができるかどうかは不明だが、外伝3巻「幽霊船」の中では、銛を投げられて対応できていないので、おそらくできないのではないか(『幽霊船』)。
・クラーケンは、人間の魂を奪うことができる。屍者を操ることもできる(『幽霊船』)。
・クラーケンは、きわめて長命である。殺すことができるのは、(タルーアン族の知る限り)「神の火に浄められた銛」だけであり、現在、この貴重な銛がどこにあるかは不明である(もしかすると、カメロンがヴァラキアに持ち帰っている可能性がある)。
・クラーケンは、ノスフェラスに墜落した星船の中にいる。星船の主である可能性がある。ただし、船を建造した者ではない(『ノスフェラスの嵐』)。
あきらかにクラーケンは、ある種のエイリアンである。攻撃性も高い。
物理的実体を持っているが、テレポーテーション能力と武器無効の点は、限定的だが空間操作能力の存在を示唆しているように思われる。ただ、完全な物理無効ではおそらくない(特殊加工した銛による討伐)。
このクラーケンと「神の棲む島」の幻獣とは触手が似ているだけで、無関係なのだろうか。
触手だけでなく、ある種の空間操作能力(この世のものでない違和感)などの点は似ている。他方で身体的な相違点も多いことから、全く無関係な異種とまでは言えないまでも、少なくとも完全な同一種ではなく、より温厚な別種なのではないかと思われる(この点で作中のイシュトヴァーンの推論は間違っている可能性も高い)。
「クリスタルの陰謀」の冒頭の詩編からは、「神の棲む島」の幻獣が「古き者」より「つかわれし者」であることが示唆されている。、可能性として異星あるいは異世界の生命体(クトゥルフ神話的な異神)の使役する者なのであろう。
「古き者について知れる者は古き者について語らず、古き者について知らぬ者は古き者を見れども知らず。されど南方に光あり、古き者よりつかわされし者をみちびきて神々のかりそめの王座に安らわしめたり」(第8巻「クリスタルの陰謀」冒頭)
クラーケンはおそらくは古代に移住してきた異星の生命体であり、その意味で類似する。形態も相当程度に近い。ただクラーケンは水棲であり、幻獣は陸棲であるようだ。クラーケンについては知性の存在が言及されているが、幻獣について知性は描写されていない。──もしかするとクラーケンと幻獣との関係は、人間と実験用の大型類人猿とかの関係に近い?
この幻獣=「古き者の使い」は力はあるが基本的には温厚な性格(?)であり、平穏を脅かされることについては憤激するが攻撃的ではない。島の野生動物は捕食されておらず、のんびりしているとの描写もある(第8巻『クリスタルの陰謀』)。グインもこの幻獣が横を通りすぎたが、攻撃されていない。海賊が捕食されたのは、おそらく海賊があまりに騒がしかったからだろう。その温厚性、無害性ゆえに「神々のかりそめの王座」すなわち星船の一つの一時的な
同居の事実からすれば、星船側と幻獣とは友好的な関係だったのだろうか?しかし星船は遠慮会釈なく島を亡ぼしてしまっていて、幻獣も死んだかもしれない、とされていて幻獣への配慮などあまりなさそうである。
おそらく、それこそ出自として敵性の使役動物ではあるが無害でそれ自身は悪意を持たないことだし、目の届くところにいた方がまだ統制が取れるので観察しつつ放置していたということなのでは、──と筆者は思っている。