(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。 作:Marchhatter
〇ご感想をいただきました。ありがとうございました!
・南無三宝の3つの宝。「三種の神器」とかと似た感じなのかもしれませんね!
たまたまこの世界でも三大神、ヤーン・ヤヌス・ドール(?)あたりの持つ神器が、あったりするのかもしれません(ヤーンは杖を持つことが描写されていますが、他はなかなかよくわからなかったり。神器でありそうなのは、ドライドンの三又槍とか?)。
・魔界水滸伝!未履修なのですが、クトゥルフ(クトゥルー)とくれば、やっぱり必修ですかねー。
創造神様の乗りに乗ってた時代の作品、きっとすごいだろうなーと思いつつ、なんか精神的ダメージを受けそうな気配があって手を出しかねていたりします。グインとも世界がつながっているのでは、などと仄聞するのですが・・。
・きっと偽イシュトのことですから、何かを踏み抜いているに違いありません!
おそらく船に帰った後のリンダの口元には、偽イシュトがみたら腰を抜かすような笑みが浮かんでいることでしょう・・。
・二次であれこれを考えたりするの、面白いですよねー。
それにしても読み返すと(もちろん多少の粗もあるのですが)このころの原作の迫力というか説得力に圧倒されます・・。
・いやー、無敵の武器は浪漫ですねー。
でもここではまだ身ひとつのグインに、頑張ってもらいましょう!
それにしても、スナフキンの剣よ──もっと別の命名はなかったものか・・。
・ありがとうございます。いよいよ、パロ編に入ります!
ナリスの描写、これでいいんかなー、という点に少々悩んでおります。初期ナリスってすごいジョックスっぽいしな・・。
〇第三者視点(ナリスほか視点)です。
(第三者(ナリス)視点、パロ・クリスタルの水晶宮、夕刻)
──だいたい宴に、いい思い出などというものはない。
典雅の貴公子、美の判定者。
いるだけで座が華やぐ、クリスタルきっての伊達男、パロの至宝。
そう言われ、事実そのとおりにふるまってきたし、皆の人気者ではあるのだろう。
しかしナリスは、実のところ。
自分が自分でいることのできない宴を、心中ではあまり好んでいなかった。
タイランにより、公女アムネリスとの非公式の顔合わせの場としてしつらえられた、水晶宮での仮装舞踏会。
そこには輝かんばかりに凛々しいルアーの扮装をまとった、クリスタル公アルド・ナリスの姿があった。
ナリスが、こうして健在な姿を衆目に示すのは。
モンゴールによるクリスタル占領後、はじめてのことである。
ナリスは、参加したパロの貴族や富裕な市民たちにより、爆発のごとき喝采でその入場を歓迎された。
ただただ彼の素晴らしさを褒め称える好意一色の賞賛の声に、彼はその人を魅了してやまぬ笑顔で答え、満座を熱狂させる。
久しぶりに会った、彼を愛さぬ実母ラーナ姫をいたわった後。
挨拶に押し寄せる貴族たちに慣れたそぶりで言葉をかけ。
隙あらば彼に近づこうとする姫君たちを、ナリスは如才なくあしらった。
がちゃがちゃ、と、彼の繊細な耳にはうるさくひびく、金銀や硝子の器のぶつかり合う音。
人の悪口を交わすときだけ本当にうれしそうになる、男たちの隠微な笑い声。
(本当に嫉妬深く危険なのは、女よりむしろ男だと彼、ナリスは思っている。)
そんな賑やかな宴の喧騒の中、彼は奇妙な孤独を感じる。
特に押しが強く、令嬢たちを押しのけるようにやってきた、占領中にあってもきらびやかな衣装をまとったパロの貴族たちは。
まるで以前マリウスがこっそり持ち帰ってきた下品な読売りに掲載されていた風刺画のようだ、とナリスは思う。──庶民の暗喩である痩せ犬に牽かせた舞台の上で、社交に興じる羊や豚だ。
そのあとに続く、顔立ちの整った美しい貴族令嬢たちは、目には快いものの。
日焼けを忌みきらう彼女たちの肌をうっすらと覆う、きらきらした銀粉いりの鉛白粉や。
ナリスにはやや過剰にも思える、ひらひらの手の込んだ服飾のせいもあって。
まだ標本や模写でしか見たことがない、珍奇な深海魚を彼に連想させる。
その類似性を思い始めた彼の目には、そうした列席者らに満ちたこのこの宴席が。
昔、少年の彼がひもといた、擬人化された鳥獣のたわむれるさまを描いた、古い
彼は、軽く頭を振った。自分も、疲れているらしい。
──ここにリギアが、いてくれたらな。
この場の令嬢たちとはまるで異なる、彼が唯一その心をつかみかねる奔放な乳
彼の周りには、入れ替わり立ち代わり。
もはや一般人には個体識別も難しいほどに似た(ただ、ナリスの高性能な頭脳はそのわずかな違いをきちんと記憶にとどめている)、流行のドレスをまとった令嬢たちが現れ。
判で押したように画一的な、うっとりとした様子で彼の耳に賞賛を流し込む。
「ナリスさま!なんて、お美しい!」
「本当に美しいのは、敗軍の将たる私などにお声をくださる貴女とそのお心なのですよ、デヴィ・ブリオニア」
心中の嫌悪感を感じさせぬやわらかなものごしで、ナリスの口は半ば自動的に彼らの望む言葉を返す。
「まあ、なんてこと!ナリスさまこそパロの英雄、クリスタルの宝玉だと皆知っています!」
「そうです!お労しくも、あの野蛮人どもに手傷を受けて!皆、心配していたのです!
それなのに、こんなにも謙虚で、お優しくて、──」
ナリスは思う。
──過剰に甘い菓子のごとき
しかし彼の内心の思いはともかく、長年の経験で培われた彼の外面は、巧みに彼らの粘性の高い好意を受け流す。
こういうところで彼に期待される絶妙なふるまいを、彼の体は熟知している。
彼の内心の辟易をよそに、彼の表情筋は意味深な笑みをうかべてみせ。
庶民の十数年分の稼ぎより高価な練り絹のドレスを着、生まれてこのかた茶器より重いものなどほとんど持たずに一生を終わるであろう令嬢たちに、必要とされるよりわずかに近く顔をよせ、まるで愛を語るかのように言葉をささやき、有頂天にさせて送り出す。
コルセットで上げた胸を押さえ、化粧で隠しきれぬほどにバラ色に頬を染め。
彼の言葉で酔わされた令嬢たちは、地に足のつかぬさまで退出していく。
彼への挨拶客は、ひきもきらない。
そのそれぞれに、過不足なく挨拶を返しながら。
彼の楽の才にも恵まれた敏い耳は、客たちの中で交わされている不穏なささやきをもとらえる。
──ナリスさまは、素敵!
──それにくらべて、あの田舎者たちときたら!
──あの臭い足を水晶宮に踏み込ませるなど、汚らわしいこと
──まったく、「玻璃の果物鉢にもぐりこむ鼠」ですわね
──でもいっそ、珍奇で面白いとは思いませんか?
──ええ!下賤な町人の好む、鉦叩きや○○○や○○○○を集めた見世物小屋みたい!
かしましくも残酷な、姫君たちの会話。
それほど遠くもない、声も聞こえるところにモンゴールの衛兵もいるというのに。
まことに豪胆、──というわけではなく。
相手を人として認識していないだけなのだろう、とナリスは自分を半ば棚に上げて思う。
もっとも止めることなど、するわけがない。
頭に血ののぼった衛兵の、か弱い宮廷女たちへの暴力沙汰。
街中はともかく、この水晶宮でそんなことが起きでもしようものなら。
扇動、蜂起の格好の材料として利用できる。
──あの蠍の娘は、どんな扮装なのかしら?
──きっと、蠍の扮装でしてよ!
──本当なら、ゾルードかしら
──蛮人の中身そのまま、武骨で野蛮な汗くさい鎧兜姿だったら、笑ってしまうかも!
──いやいや、鎧じゃないだろう。蝶のごときお嬢さん方。ほら、あちらをみてごらん。わかるかい?
──?あの連中が、飯盛女を侍らせていますわね。恥知らずにも──でもそれと公女がどう関係するのでして、ポルキウスさま?
──ああ、そういうことですの
──おわかりになりましたの、ヴォルペイシアさま?
──言えませんわ、恥ずかしくて!公女たるものが、そんな役割を?
──戦場での女の役目など、男たちのたかぶりをなぐさめること以外にないのさ
──きっと衣装も、破廉恥きわまるクムの場末の踊り子風のものなのでしょうね
──まあ信じられませんわ、なんて野蛮でおぞましいこと!
(──馬鹿は救えぬな。
その汗くさい鎧のパロ軍の防人たちに、お前たちはこれまで守られていたというのに。
そして今はお前たちの言う『野蛮でおぞましい連中』に話を聞かれているというのに──)
ナリスはそう思いつつも、その切れ長の目は動き。
予想していたものを、その視野にとらえる。
目立たない位置に配置されているモンゴール軍の護衛たちの、怒るに怒れず苦虫をかみつぶしたような顔。
彼らの不快の念は、もちろん聞こえよがしの嫌味を漏らすパロの貴族どもに向けられているが。
その少なからぬ部分、下手をするとより大きな部分は、モンゴール軍の上層部に向けられているに違いない。
ナリスは、来客の波がきれるはしばしに、カースロンやタイランらの集う一角に視線を投げる。
──パロの慣例を無視して早々に現れ。
お気にいりの娼館の女を着飾らせて、周りに侍らせ。
高価な酒を、水のように呷り。
主賓であり主君の娘である公女の到着を待たず、早くも顔をてらてらと赤くしている。
要は、彼らは成り上がりの蛮人なのだ。
高価な衣装、服飾家が趣を凝らして設計した仮装に身を包んではいても。
まさしく戯画の中の、王冠をさかさまにかぶって玉座にふんぞり返る猪のような醜さ。
その腐敗ぶりを目にした、余慶にあずかれぬ素朴なモンゴール兵が何を思うのだろうか──
衛兵たちの荒れた心情を映すように、ぞんざいに、そして不注意になりゆく監視と規律。
好都合だ。──ナリスは、心中ひそかにほくそ笑んだ。
──────
──────
(第三者(聖騎士候ルナン)視点)
高位貴族たちの入場も終わり、ナリスへの挨拶も一段落する。
ナリスの忠実な配下であり、ナリスと乳姉弟であるリギアの父、聖騎士候ルナンは。
人の途切れたところをねらって、ナリスに近づいた。
ナリスは、今までと異なり。
うわべだけでなく、より感情のこもったほほえみを浮かべた。
「久しいな、ルナン」*2
昨夜も密談していたのに、まるでそんなことなどなかったように。
疎遠にしていた肉親に向けるかのような親しみをこめて、ナリスは声をかける。
「お元気そうで、安心いたしました」*3
「うむ、ダルカンも──ルナンもな」*4
「私などは、もう──ところで」*5
「ああ」
そして、ナリスは声を低める。
人の渦のため、モンゴール兵に彼らのやり取りはとどかない。
「どうだ、この場で、タイランは私に例の公女をひきあわせる気だぞ。
その場で楯にとってやるか。ここはパロの者の方がはるかに多い。
モンゴールの士官どもは酔っている。兵どもは、うんざりしている」*6
「ご命令とあれば、むろん」*7
愛国者でありナリスの忠実な臣下であるルナンに、もちろん否やはない。
「決めるか──一気に」*8
そして折しも、式典係が最後の来客の到着を告げる。
「モンゴール、ヴラド大公ご息女、右府将軍アムネリス殿下!」*9
ナリスのときとも異なる、好奇心のどよめきがおきるが。
不意にその声が静まり、場の空気がわずかに硬くなる。
料理と酒の匂い、そして黒蓮の煙のこもりはじめていたなま暖かい会場に、風が吹き抜けた。
「──ほう」
兵で押さえつけられ、表面上は友好的であるとはいえ。
けっして侵略者たちへの侮蔑やあらさがしの色がないとはいえない、宮廷人たちの目は。
しかしそこにあらわれたものへのおどろきに、みひらかれ。
その忙しい舌も鈍り。雑談は暫時、絶えた。
あちこちでこの風向きに気づいた者らが姿勢を変えて、入場者に顔を向けるさまがみられる。
(これが、──)
(──この女が、モンゴール公女アムネリス)
それまでに入場してきた貴族たちの、どこか舞台の役者めいたものごしとは異なる。
体幹の強さをうかがわせるぶれない姿勢、きびきびとした、颯爽とした足取り。
見るものの心に、鮮烈な印象を与える姿。
(しかし、なんと──)
(まさしく、これこそはイラナ)
──狩の女神、戦う兵の守護女神にしてルアーの妻。
女神の姿を、人々は幻視した。
白絹のトーガに、緋のサッシュ。左手にたずさえた長剣。──兜はかぶらず、無帽。黄金の髪がわずかに風に流れる。
”すべてが、ルアーと対を思わせ、そしてまた、なんと彼女はイラナにふさわしかったことだろう。”*10
この場にいない傭兵のみの知る原作とは異なり、彼女はその端麗な顔に軽蔑の色などは浮かべず。
ただ、己の戦場となるであろう、この仮装舞踏会の室内に冷徹な視線を走らせた。
その視線に、弛緩していた衛兵たちは
あちこちで、ちゃり、と武器をとりなおす音が聞かれた。
「──我が名は、モンゴール公女アムネリス。今宵はお招きに預かり、光栄に思う!」
そして、一拍おいて。
よく通るアルトの声が、ほとんど静まり返った大広間に響いた。
油断なく、戦場の剣気すら漂わせて会場を確認していた視線は。
しかしホールを一周し終えたところで、ふとほころび。
会場の一角に、どこか親しげに声が投げられた。
「タイランよ、その方らも楽しくやっているようだな?」
「姫様、よくぞ!──モンゴールのために!」
形式上はこの宴の主催者である、モンゴールの上層部が集う一角にそう彼女は呼びかけ。
逞しい体に不似合いな絹の衣装をまとい、飯盛り女たちを侍らせた彼らも思わず立ち上がり。
あたふたと、場違いにも統率のとれた堅苦しい騎士の礼を返す。
あたかも彼女が、この弛みきった将官たちの一団に戦士の息吹を吹き込みなおしたかのようだった。
「──よい、私に構うな。邪魔をしたな。
そして、会場の貴顕諸卿、貴婦人の方々。そなたらの楽しみに戻られよ!
私は神々の宴ともみまごうこの場の主賓への、挨拶の栄にあずかろうか」
タイランの介添えを、さりげなく断り。
ばねの効いた足取りでこちらに向かう姿を、ナリスの横でルナンは凝視した。
(──親の
しかも場を牽制しつつ、ダルカンらに斬りかかられても対応できる位置取りをとっている)
(この場で、ナリスさまと彼女の一対一なら?──八分二分でまず確実に取り押さえられよう。
しかし背後の白騎士ふたりは、腕利きだ。──そしてあの邪魔な位置にいる気の利かぬ侍女のせいで、私が加勢しても女を押さえることは四分六分でかなわぬ)
主従は、視線を交わす。
ルナンの問うような視線に対し、他に気取られぬほどわずかにナリスは首を振った。
(──中止だ、ルナン)
(──心得ました)
その間にも、輝くようなイラナの白い姿は。
通りすぎる背後でしだいに増していくどよめきに送られながら、ナリスのもとに近づく。
彼女を迎えて立ち上がる、その場の一同。
ルナンは、一歩すすみでたナリスの背後から、注意ぶかく彼女に視線を注いだ。
小柄で華奢がよしとされるパロの貴族令嬢の価値観からまるで外れる鍛えられた体幹、力強い手足。
体格の大きいモンゴール人のなかでも、彼女はおそらく女性として大柄。パロ人男性としては背の高い
「地上の光たるルアーよ!今宵も、ご機嫌いかがか!」
一足一刀の間合いで発された、やや破格だがこの場の趣向に沿った、洒落気のある公女の言葉に。
場の人々が、ざわめいた。
彼ら彼女は、公女の言葉が彼らの愛するナリスへの、公女の尊敬と称揚のあらわれと受け取り。
また批判的な目にすら、まさしくナリスと好一対としかいいようのない、彼女の美貌と
この敵国の公女への敵愾心を、減じつつあった。
「──光充てるイラナよ!貴女こそ、この水晶宮を照らす炎──」
ナリスが華麗で機知に富む言葉で、切りかえしつつも。
わずかに、唇をゆがめたのに、腹心のルナンは気づく。
ルナンもまた、歯をかみしめる。──歴戦の彼も、この敵国の公女を今襲って人質にとる見通しがつかなかったのだ。
ふたりは挨拶を終え、やや近い距離で言葉を交わすが、──
(嫌な女だ、──いや?)
ルナンは、思わず自分の視線に憎悪が乗ってしまったのに気づき。
自制し、敵の観察に徹しようとして、──その変化に気づいた。
近くにいない者や、背後で警戒している白騎士たちには、おそらく気づかれなかったくらいの、公女のわずかな変化。
ナリスと腕の距離で親密に言葉を交わす公女アムネリスの、荒野の日にさらされているはずなのに、なおミルクのように白い肌。
その頬が、わずかだが──たしかに赤らんだ。
彼女の宝玉のごとく澄んだ緑の目は、今はあらぬ方向にそらされ。うるんでいるようにみえる。
変化の原因はあきらかだ、──と彼は思った。
公女が目をそらす一瞬前に、彼女の視線はナリスに至近距離で向けられていたのだ。
──きっと彼女は、覗き込んでしまったに違いない。
深い闇をたたえた、
──────
「どうなさいます?──数では、なお我らが優位」
「いや、気が変わった。それは、せぬ」*11
他の列席者に挨拶に回るアムネリスを見送り。
休憩を口実に場を移り、他からの聞き耳がないことを確認したルナンは。
主人に、蜂起の実行について問いかけたが。
返ってきたのは、そういう答えだった。
「それは、──?」
こわごわと、ルナンは再度彼の主人に問うた。
確かに、現在乱を起こしてもうまく彼女を確保できるかどうか疑わしいが。
それよりルナンは、彼の主人の声に含まれる微妙な愉悦に不吉な感覚を覚えていた。
「もっと面白い手があるようだぞ、ルナン」*12
「まさか、ナリスさま──?」
「まあ、私に任せておくのだな」*13
”ふいに、かれは低く笑いはじめ──それはじきに哄笑にかわった。”*14。
主人を凝視するルナンには、その笑みに。
あやしくも恐ろしいものが、うごめいているように感じられたのだった。