(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。   作:Marchhatter

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(本日2話投稿の、1話目です)

〇ご感想をいただきました。ありがとうございました!
(また、ご評価もいただいていました。ありがとうございました!)

・ナリスは母親(ラーナ姫)に愛されなかった、というのもあるんでしょうね。
 本人自身が屈折しているので、周囲の人の愛も届かない(効かない?)感じでしょうか。単純な自己顕示欲ともいえないところが痛々しい・・。
 原作の蜂起計画、ざっくりしすぎですよねー。アルゴスの後詰もまだ来てないのに。

・原作アムも意外に強いらしいのですが(『紅蓮の島』23頁)、実戦データが見当たらないですよねー。
 他に原作で女性強めキャラがいるとしたら、アレン・ドルフュス?(実力不明)。ネリイは創造神様のディス抜きの実力、相当強いのではと思っています。リギアももし戦ったら、かなりやりそう?
 フロリーは、おそらく戦闘系でこそないのですが。
 戦い終わって日が暮れて、戦場に最後に夕陽を浴びて立つ孤影はフロリーさんなのかもしれませんね(怖)。

・かなりの累犯を重ねている偽イシュトですから、そろそろゴーラはもちろんパロでも指名手配(公務執行妨害?)でしょうか・・。
 彼の引退後スローライフ計画の立地選定には、かなりの困難が予想されそうです・・!

・リギアは作中屈指の好人物の一人なのですが、なんだか報われないですね(とはいえスカールがいるので、不幸そうな感じはしなくなりましたが)。
 原作ナリスは、敵を欺くというより味方を欺きまくっていましたが・・。

・意外にミアイル殿下、シルヴィア皇女との相性悪くなかったりしたら面白そうです。ちょっと強気でわがままで、でも年下のおどおどした男の子から慕われると庇護欲が出たりするシルヴィアとか。
 でもグインの運命の女の一人はやっぱりシルヴィアさんなのでしょう。王冠を授ける女・・。

・ナリスとかパロ勢でどうにも感情移入できない理由、あの鼻持ちならないエスノセントリズムにあるのかもなーと思います。芸術学問の中心で国際交流活発と言いながら、結構ひどい。パロの敗因、そこにあったりするのかも。
 きっと彼らの常識から外れるアムネリスとナリスの交錯にも、いろいろと悲喜劇があることでしょう・・!

・トーラス(やパロ)でも、オレオレ詐欺が横行しているのかも・・!
 日本でも戦後は満州財産返還詐欺が横行したと聞きましたが、まんま現代の還付金詐欺そのものだなーと思ったりします。

・「私の人形が出てきたらそれが私では」と考えるナリスさん自身が人形であったり。
 あるいはオリジナルを超えるイミテーションというのも、ロマンがありますね・・。

〇クリスタル陰謀編、第三者視点です。



052 老境の梟雄

(第三者視点、トーラスの下町「煙とパイプ」亭)

 

「親父。──今の話、どう思った?」

 

「いやあ、わしにはわからんよ──だがこの話、誰かに伝えねばならん」

 

 シギリウスは体力をふりしぼって、ゴダロに大公のことを伝えており。

 ダンもオリーの手伝いから戻ってきて、詩人の話を聞いた。

 にわかに信じかねる話もあり。素朴なゴダロとダンはそのときは相槌こそ打ったものの、基本的には目を見開いて聞くばかりであった。

 詩人が話を一段落させ疲れ果てて寝た後、そっと布団を彼の薄い肩口まで上げて階下に降りた。

 しばらくは口を利く気にもなれず、黙々と目の前の仕事を片付けた。

 

「おやじ、──要るか?」

 

「おお、すまんな。

 ──オリーには止められてるんだがな、あんな話を聞いた日には仕方ない」

 

 今日の仕込みの仕事は、一段落した。

 父子は裏口近くで、香煙草(コルツフート)を分け合い、くゆらせ。

 シギリウスから聞いた話を思い浮かべながら。しばし言葉を交わすことなく思いにふけった。

 

 ──────

 

 シギリウスによると。

 彼は大公殿下への叛逆を煽った容疑で捕らえられ、罪の自白を強要させられたという。

 

「それはまあ、──予想していたのだ。

 ただ儂は、ほんのすこし前の大公殿下に、戻ってほしいだけだったのだ。

 今、不良息子が人を殺めたとて、その親兄弟、果ては年端のいかぬ赤子まで殺しつくす。そんなことはやめてほしい、大公殿下に考え直してほしいと思っていた。

 かつての大公殿下はそんなことはなさらなかったし、それで十分に人々は幸せに暮らしていたのだ。

 詩を書いたこと自体は、間違ってはいないと今でも思っている。

 ただもちろん、広場にその詩をきざみつけるなど、大公殿下の顔をつぶすことではあろうな。

 だから捕まったら命を取られるだろうな、とは思っていた」

 

 ──だが儂には身よりがない、作詩の才も枯れかけの老いぼれだ。

 他の者も怖くて大公殿下に云えぬなら、儂が云おうと思っていた。

 

 そう、シギリウスは言い。

 かろうじて震える手で横の卓に置かれた水杯を取り、口を湿した。

 不良息子云々のくだりで、かつて短い期間ながら素行の悪い仲間に連れられて愚連隊もどきに入り、よその区から流れてきた連中との喧嘩にあけくれていた時期があったダンは。

 ゴダロの横目での視線を受けて、面目なさそうに下を向いた。

 

「白状するといっても、今言ったことを述べるだけだ。

 儂を尋問した取調官も、それだけだと思ったらしいのだが──」

 

 ただ大公からの指示であるとして、彼の行動に裏がないか、残酷な拷問を重ねて執拗に確認されたという。

 

「何度も打ち据えられ、塩をすりこまれ、手足を木で挟まれ、聞かれたな。

 クムか、パロか。それとも、──公女か、とな」

 

「「公女!?」」

 

 驚く様子の二人をみて、シギリウスは枯れた声で笑った。

 

「ユラニアと違い、確かにクムとは国境で紛争が起きたりもする。

 だが儂は、クムとはなんのつながりもない。ああ、タイスやルーアンに遊びに行くことはあるがな?

 パロのクリスタルにはクムよりも足しげく、冬になると行っていた。芸術の街であるからな。

 だがあれはとくに他国を転覆して支配しようなどという野心のある国ではない。モンゴールに対しては嫌味っぽいが、よそ者や新参者、成り上がり者に冷たいのはどの国でもそうであろうよ。

 公女殿下には、大公殿下に呼ばれた園遊会でご挨拶した程度。これもつながりはない。

 しかもあの公女殿下が大公殿下のご意向に叛くなど、ありえぬことよ。

 ──だがな、その実の肉親すら、今の大公殿下は信じきれておらぬ」

 

 もちろん、シギリウスは疑惑をすべて否定し、自分ひとりの考えたこと、と述べたのだが。

 

「罪びとの中には、あの厳しい責めから逃れんとして。

 問われるままに、そのどれかだと言ってしまう者もいような──」

 

 そういって、彼は軽くせき込んだ。ダンが、背中を軽くたたいた。

 気を取り直した詩人は、続ける。

 

「その後、儂は大公殿下の私室に連れ込まれ。

 その私室の架に、掛けられた」

 

 家具のように、罪人を掛ける架があるのだという。

 口枷を嵌められ、日に一度酢水を口に流し込まれるだけ。人でありながら、切り花のような存在。

 

「いろいろなものを、見聞きした」

 

 もはや、確実に死にゆく者と思われているからか。

 彼の眼前でさまざまな秘密が交わされ、重要な謀議が行われた。

 

「体の強いわけでもない儂は、やがて()()()()としてきてな。

 3日から目を開きものをみることも叶わず、4日目からはもはや記憶がない。

 だがその間に、いくつか印象に残ったことがあったな」

 

 シギリウスはそう言い、また水を求めた。

 ゴダロが口もとに杯をもっていくと、礼を言って震える手で支えて飲んだ。

 

 ──────

 

「一つ目。さきも申したが、公女殿下のお立場が危うい」

 

「──公女殿下には、大公殿下の信頼は厚いはずだが」

 

「真実は、異なる」

 

 ダンとゴダロは、顔を見合わせる。かろうじて二人は、声を絞り出す。

 

「──しかし、公女殿下は将軍だしよぉ、後を継がれるんじゃねえのか?」「わしには()()()()()などわからぬが、──公女殿下以外を立てて、治まるとも思えん」

 

 ミアイル公子とアムネリス公女は、ひとしく後継者候補であるものの。

 世間一般の認識では、公女が継いでミアイルはケイロニアのシルヴィア皇女に婿入りするのではないか、あるいはミアイルが大公位を継ぐとしても、公女将軍が執政となるのではないか、と思われている。

 

「いくたびか公女殿下と大公殿下との談合を目にした。

 大公殿下は、もちろん公女殿下に狼藉などはされなかったが。

 公女殿下をまるで罪びとのように問詰しておられたな」

 

「──不仲、ということか」

 

 公女への大公の言葉には親族間の親しみなどなく、緊張に満ちたものだったという。

 

「ただの不仲などではないように思えた。

 7、8年前ほど前であったか?もう少し前か。

 まだ儂の詩作の泉が枯れる前、公女殿下がまだ大公殿下の胸もとほどの身長すらなかった頃だ。

 儂は大公殿下に呼ばれた園遊会で、他の吟遊詩人たちとともに外国の使節たちをもてなすため歌曲を披露したことがあった。

 そのときに拝謁した大公殿下と公女殿下との間には、深い信頼関係があられた」

 

 シギリウスは、宙に目を据えて思い出そうとしながらそう言った。

 

「あれは大旱魃や、アルマナリクさまの粛清の前。

 当時から大公殿下は公女殿下にはたいそう厳しかった。だが情愛もお持ちであるようにみえた。

 しかし今回かいまみた二人は、──そう、まるで獄吏と咎人(とがにん)のようであった」

 

「──」

 

「公女殿下が帰られた後、大公殿下は部下に公女殿下の身辺を厳しく探れと命じておられた」

 

 ダンとゴダロは言葉を失って、顔を見合わせた。

 それをみて、シギリウスが苦く笑い、せきこんだ。

 

「騎士でも商家でも、お家の不仲はあろうよ。

 ただな、モンゴール一国にかかわることゆえな、──」

 

 体力を消耗したか、シギリウスはしばし口を閉ざした。

 ゴダロは気を使って彼を寝かそうとしたが、シギリウスは口を利く気力があるうちに云っておきたい、と笑った。

 

「二つ目。大公殿下は──やはり老いられたな」

 

 そう言いながら、またけほけほとシギリウスは咳き込んだので、彼らの注意は一時逸れた。

 彼を気遣う二人に、なに、詩人は舌が商売道具だからな、動けなくても話すのはできるのさ、と彼は笑ってみせたが。

 口の中が少し赤黒く見えたのは拷問で食いしばった出血のためか、数日間の絶食での栄養不足のせいか。

 

 ──大公殿下が今でも驚くほど多くの仕事をしているのを、シギリウスは目撃した。

 多くの人に謁見し、しもじもの者に任せてよいような些事まで自分に報告を上げさせる。

 少なくともシギリウスが架けられていた間、もはや遅番の者すら寝入る時間まで、大公殿下は一人で灯をつけて書見していた。

 

 ただ以前にみたときより、大公殿下は彼の目には老いて疲れてみえた。

 今でも遠目には昔のままの髪は、どうやら胡桃(シュンプロヌート)を用いた染料で染めているようだった。

 書見の間に、目を閉じて眉と眉の間を揉んでいることが多い。目を使うと頭痛があるようだ。

 謁見から私室に戻り、一度椅子に座り込むとなかなか立ち上がらない。外での威厳に満ちた様子と違い、私室に戻った後は立ち歩く姿もどこか辛そうだった。

 夜遅くなると、話していて言葉が出てこなかったり、どことなく酔った者のように舌が回らず言葉が乱れたりすることもある。

 そのせいもあって、怒りっぽくなっている。もとより雷の大公と呼ばれる癇癪持ちではあったが、最近は報告をあげた者に怒鳴り散らし折檻することが多く部下たちはびくびくしているようだ。大公殿下が外からお戻りになるのを待っている部下たちが、そう、ひそひそと話していた──。

 

 ゴダロとダンは話を聞きながら、心中不安を覚えた。

 彼らがときに遠目にする大公殿下は、かつてと変わっていないように見えていたのだが。

 冷酷な一面もあるとはいえ、モンゴールはこの有能な独裁者に統率され、発展してきた国だ。

 畏れられつつも、この国の民がヴラド大公の手腕に守られてきたのも事実。

 その国の大黒柱に、罅が入りかけている。

 

「──三つ目。おかしな来客があったな」

 

 大公殿下には、公式の謁見以外にも来客は多かったそうだが。

 

「どういうわけか、見ることも聞くこともできぬ者がいた。あるいは誰もいなかった」

 

「なんと?」

 

「大公殿下は一人になったとき、どなたかと親しく話しておられた。ふるき友と話すかのように懐かしげに。

 興を覚えておられたな、昔の話もあればこれからの計画の話もなされていた。

 しかしその相手の姿が、儂には見えなんだ。声も、聞こえなんだ。

 ただ大公殿下の声だけが、まるで会話をしているように楽しげに部屋に響いておられた」

 

「独り言ではないのか?あるいは、魔道で姿を消していた?」

 

「それも、わからぬ。儂には。

 大公殿下が一生懸命話しかけておられる場所には、誰も見えぬ。

 絨毯には影もなく、出入りする風のうごきもなく、扉も開かぬ」

 

「──なんとも、奇怪な──」

 

 ぞくり、と二人は寒気を感じた。

 詩人によると、その者と大公殿下が話すのは護衛の者すら下がらせた後だったという。

 

()()()()を見聞きしておられたのではないか?だとすれば、心気の病──」

 

「わからぬ、わからぬのだ。儂は薬師ではないし、魔道に詳しいわけでもない。

 ただ心気の病での()()()()との会話、あのように決まった時間にだけ交わされるものなのだろうか?

 妖魔のたぐいに魅入られたかとも思ったが、大公殿下にも魔道士は付いている。妖魔に、魔道士が気づかないはずもない、それに大公殿下は魔道士はあまりお好きでない──」

 

 シギリウスはそこまで言って、しばし目を閉じて何かを思い出そうとしていた。

 

「名前は、お呼びにならなかった。大公殿下も忘れたようであったな。

 ──すまぬな、やはり少し休ませてくれ」

 

 消耗しきった様子のシギリウスはそう言い、口を閉じた。

 何を言っていいかわからず、またダンとゴダロは顔を見合わせたのだった。

 

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