(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。 作:Marchhatter
○ご感想をいただきました。ありがとうございました!
・仄暗く隠微な謎に包まれた大国というのは外向けの顔で、意外にも裏ではほのぼのと、──とか、ないですかねー。
いやー、「ハムナプトラ」の反逆神官様のように死ぬよりおぞましい運命があったりする可能性も微量あるのですが(怖)。
・自分のことには沈着冷静なグインでも、きっと手のかかる弟分のやらかしには慌てているはず。
この後きっと、レムスと二人での偽イシュトへの激詰めがきっとあるにちがいありません!
・おお、猫だけに・・!
現場猫である偽イシュトと、好一対なのかも!?
・真イシュトの意識浮上、頻繁になってきたのは覚醒(?)が近いのか、あるいは何かのルールがあるのか、・・。
偽イシュトとしては、隠れ潜みながら本体を操ることになりそうです!
・「大丈夫だぜグイン、負の数も掛ければ正の数になるんだぜ!」「イシュトヴァーンよ、負の数が足されて2倍になっているではないか・・」という感じですね!
これ以上、負債を積みあげる
・勇者と姫の引退後スローライフ、マルガあたりにひそかに引退用の丸木小屋と小さな家庭菜園があったり。
そういえばパロ人、目立つ登場人物に陰湿キャラはいませんねー。悪人キャラはごくわずかいますが。
バルドゥールなど、ケイロニアの方がむしろ・・?
・かくなる上は、昔話のひそみに倣い。
右腕と左腕をそれぞれ、姫たちに引っ張りあってもらうしかないですねー。
おおっこれは痛そうだ右腕がちぎれ(略)、という展開に・・!
・ちょっと急すぎたかもで、王女様側などもうちょっと書き込めばよかったかもしれませんねー。
実のところ原作後半部が未読なこともあり、原作ベースでは20巻中盤~30巻手前(ケイロニア編+α?)あたりの完結を狙っていたりなどしていて。
ヤンダル陛下にいたっては、まともな出番がない可能性すらあるのです(悲)。あ、でも七人の魔道師にはつなげたい気も・・!
・自己評価では不信や内紛、陰謀好きで面倒くさいと自分たちを思っていても。
客観的には、リギア、ルナン、ベック公、リーナス──と出るわ出るわツンデレですらない気のいい好人物たちの群れ。
どうしてこうなった・・・?
(アリストートス?いや彼もある意味きわめて忠実素直ストレートなのか・・!?)
○場は水晶宮ですが、膠着状態で進んでいません。長くなったので2分割しました。
読み返していて話が進まず。ここらへんって要るんかなー、と思うところもあり。
次回あたりはある程度話を進めて、マリウスさん登場あたりまでこぎつければなー、などと。
(第3者視点)
「姫様、これは罠です。お思い直しを」
「そうかもしれぬな、フロリー」
「いいえ、確実に罠です。さすがにこれはあからさまにすぎましょう」
「そうだな。もし公が私を弑するつもりなら、楽な仕事となろう」
「ならば、行くべきではありません」
「しかし
原作と同様。クリスタル公の訪問後、公女アムネリスは。
ナリスから、秘密裡に水晶宮を訪れないかという誘いの手紙を受け取っていた。
──単身、ヤヌスの塔に来られたし。夜、水晶宮。ナリス
場所は、モンゴール軍の未だ十分に把握しない水晶宮、ヤヌスの塔。
招かれるのは、パロにおけるモンゴール軍の最重要人物。
誰がどうみても仕物にかけるつもりであろうよ、と疑われる条件そろい踏みであり。
その書付けをみせられたフロリーは、正直なところ真面目な検討にすら値しないと思った。
しかし彼女の女主人は、罠にしてはあまりに稚拙ではないか、と思ったらしい。
「姫様の御身に、何かありましたら──」
「まあ、待てフロリー。
確かに、何らかの
ただ。本当に罠とすればここまであからさまにするだろうか。あの権謀術数に長けると評される公が」
アムネリスはこの短い間の接触から彼女が把握できた、公の人柄を思い浮かべる。
「これを私が罠とは疑いすらせず、本当の逢引きだと思って応じるおめでたい娘だ、などとは公も思っておられぬだろう。
──そうすると罠だとしても、さすがにこれで呼び出して殺害あるいは監禁、という単純な罠ではあるまい。
何か私にみせたいもの、話したいことがあるのだろう、クリージュダール公には。
もちろんそれは私に害をなし、あるいは威す罠とも両立するが」
──しかしかりそめとはいえ夫婦になるのであれば。
一度は胸襟を開いて向き合うべきであろう。
「賭けようぞ。私は自分が無事に帰ってくる方に。
そなたは、公が私を
そう述べる公女は、このいかにも怪しい誘いに応じることを決心してしまっている。
そうなったら、もう押しとどめられるものではない。それを、フロリーは長く仕えて知っている。
これほど勝ちたくない賭けなどあるまい、と思い、反対する言葉をのべつつも、フロリーは公女の身支度を行う。
公女は、動きやすい騎士の平服に近い服装に着替えた。
そんな姿でも優美さを失わない主のことを、侍女は誇りに思うものの。
ただいかにも不用心だ。鎧とは言わない、しかしせめて帯剣すべきだ、と進言してみる。
「剣は持たぬ。あの御仁の性格からすれば、此方の優位を示すことは危険。
ただ、そうだな。自裁できる程度の短剣くらいは必要か」
「姫様!」
「ふふ、冗談だ。すまぬなフロリー」
ごく短い懐剣をベルトで腰に固定し、束ねた黄金の髪を暗色の布で軽く覆って隠した彼女は。
朝までに戻らねば、渡した書付を開封してそのとおり実行せよ、と言い捨てて溌剌とした足取りで夜の闇に歩み出ていった。
その後ろ姿が視界から消えるまで、フロリーは直立不動で見送り。
そして数秒、唇にひとさし指を当てて今のやりとりを考えていたが。
思いを固め、すぐに動き出す──日頃の、有能な侍女としてのそれとは異なる、流麗な動きで。
さらさらと同僚のモンゴール人侍女のシグリッドへの書置きをしたため、彼女は自分の武装を確認する。
太腿につけた短剣、暗器を仕込んだ中深靴。戦闘を考慮した侍女服の裾は心持ち短めで動きやすさを重視している。
溶けるような滑らかなうごきで、彼女の姿もまた、闇に溶けていった。
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──────
(第三者(ナリス)視点、水晶宮、ヤヌスの塔の一室)
階段を降りる足音が聞こえてきて、ナリスは顔を上げた。
(来たか)
約束の場所に佇んでいた彼、ナリスはひそかな気配を感じ取る。
ヤヌスの塔の祭司、ヤルーが案内してきたのだろう。老人の重たい足音を、軽い若い足音が追う。
(やはり恋に目がくらんだ馬鹿娘だな。一人で来るとは。
ヴラドならば、こんな子供だましの奸計にひっかかりなどはすまい。
娘も残虐で冷酷な性格と聞いたが、所詮は小娘か*1。甘いものだ。)
当初の想定に基づくなら、ここで公女を拉致して蜂起を呼びかければ目的は達されるはずだった。
ただ、慢心して現実を見ようともしない他のパロ貴族たちのようには、ナリスは楽観的になれなかった。
クリスタルには9万のモンゴール兵が残っている。
いまだにルナンは公女を人質にとればこのクリスタル駐留軍の動きを制することができ、民衆も蜂起するだろう、と思っているようだが。
おそらく公女の身柄で軍の動きを止めるのは無理だ、民衆の蜂起も怪しい、とナリスはモンゴール軍や公女を観察していて思うようになっていた。
公女は、意外にも施政に熱心であり。
軍規を引き締めて治安を向上させ、連れてきた文官たちも補償や恤救を図って民を安んじている。
一部、特に貧民の扱いなどは、以前のパロ施政下よりも向上した部分すらある。
タイランらがひどすぎたこととの対比で、民衆は公女を恐れながらもある種の信頼を寄せるようになり。
人伝てに公女がナリスに敬意を示したといううわさも、公女個人への反発心の低下に寄与している。
クリスタル市民の自主的な蜂起という図は(依然、不可能ではないものの)描きにくくなっているのだ。
そのうえ、彼女自身を人質にとることは困難と思われた。
楯に取られないよう自害する故、人質取引には絶対に応じず敵を押しつつんで殺せ、それが最善の供養である、と公女が言明していることも判明した。
(敵将の一人カースロンのもとに奴隷女に身をやつして忍ばせている、彼の乳姉弟のリギアからの情報だ。)
そのような単純な力押しこそが、まさにナリスたち反抗者らの弱点だと知っているのだ。
取引に応じず自害する、というのはアムネリスの
しかしナリスも、自分が人質に取られてパロ軍の動きを止められたら。
自害してでも、相手の思惑の裏をかこうとするだろう。──アムネリスもそうでないという保証はない。
「──ナリス公におかれましては、ご機嫌麗しく」
祭司ヤルーに導かれてナリスの前に現れた公女の姿は、彼の予想を裏切っていた。
白い麻の
ちなみにパロと違い、女性でありながら馬に跨って騎乗するのを彼らは恥に思わない(対してパロでは、子供はともかく成人女性は横座りに足を揃えて騎乗するのがたしなみとされていた)。
そのことを他のパロの貴族たちは嘲笑していたが、ほかならぬ彼の乳姉弟のリギアも同様であったので、ナリスはそれに加わっていなかった。
リギアの真似をするな、と言いたい気分と、どこかリギアの奔放さを懐かしく思う気分とがないまぜになったような、複雑な思いをナリスは感じた。
「これはまた、──懐剣まで帯びるなどとは、物騒な。
"モンゴールでは、婚約者と二人きりで、婚礼の前に忍び逢う娘は、そのように勇ましく純潔なイラナの巫女としてやって来るものなのですか?"*2」
「さて、どうでありましょうな。私自身は殿方に忍び逢う機会など持ちませんでしたゆえ。
ただ辺境は、危険な妖魅や野獣の多き地。苺摘みの村娘たちも狼向けに棍棒、手槍は持っておりましたな。
私にとっての懐剣は、公にとっての鏡や絹巾のようなもの。少なくとも、公に向ける刃ではありませぬ」
「──そうなのですか。まあ、男はすべて狼だとも云いますし」
ちょっと思ったのと違った角度からの公女の切返しに、ナリスは目を瞬いた。
たしかに、戦うにはあまりにアムネリスの短剣は刃渡りが短い。だとすれば。
──自害用か?少なくともそう見せている。
先の自分の見立ての正しさを再確認しながら、ナリスは彼女に椅子を勧めた。
原作と異なり、公女はごく普通に会釈して席についた。
「"ここは公の私室なのでしょうか"。それなれば刃を隠しますが」
「"いや、とんでもない。しかしあなたとの婚礼を承諾したおかげで、宮殿の中だけだが、一応自由に歩きまわらせてくれるようになったので、ここへも入れるようになりました。もっとも、どこへゆくにせよ、まず見張りどののお許しを乞わなければならないが"*3」
「まげてご寛恕を。公の縦横の機略は皆の知るところ。
自由にされて自由に反乱されてもかなわぬ、と我が将軍たちは思っておりますゆえ。
──"ご不満ですか、私との婚儀は"*4」
「"いや、とんでもない。あなたは、私のような不束か者の敗軍の将には、まぶしすぎて、光の公女様"*5」
「いくさの勝敗は時の運です、炎の貴公子様」
「──その呼び名はやめていただきましょうか」
「そうですね、公もお止めなさいませ、私には過ぎた呼び名ゆえ」
苦笑をもらしながら、女狐の顔を彼はそっと観察した。
モンゴール人らしく、荒野の陽に灼けてもミルクのように白い頬に浮かぶ笑みは形ばかりのもの。緑の目にも、浮かれた気配はない。
その余裕ありげなそぶりが、水に垂らしたインクのように彼の心に黒い感情を広げた。
「"あなたのかけておられるところは、アムネリス。モンゴール軍の名誉の流血の記念碑ですよ。
むろん、その後、すっかり血を洗い流し、新しく、剣や矢で傷ついた調度のかわりを入れましたから、うつし世のものしか見ないあなたの目からは、とても美しいぜいたくな室としか見えないでしょうが──あの日、もうずっと昔のように思われるあの流血の日に、パロの希望を遠い安全な場所へ飛び立たせようとして、たくさんの勇敢なパロの血がそのあなたの足もとの床に吸い込まれたのです。右丞相をつとめ、ほら、あなたもご存じの若いリーナスの父であったリヤ大臣、聖王家の乳母をつとめたデビ・ボーガン、それに騎士たち"*6」
「そのとおり、褒めたたえられるべきは彼らの武勇でありましょうな。
たとえ、場に形跡は残らずとも。
せめて主君は、自身のためにふるわれた部下たちの勇気と勲しを、偉大なる敵とともにその記憶にとどめねば。
わが父も最大の難敵であり、父の忠実なる部下たちをあまた道連れにしたグルトゥンギの大族長、イスカリティウスの血の浸みた
「"わたしは、そんなことを云ってやしませんよ、美しいイラナ"*7」
ナリスは、外見は質素な平服でも輝かんばかりに美しい、女神のごとき相手の中身が。
中々に野蛮なことに驚きを覚えながらも、相手を非難する言葉を続けた。
「"まったく、あなたがたのように勇敢でおそれを知らぬ民はない、という賛辞を呈そうとしていたのです。
パロ三千年の歴史のあいだに、むろん、パロとてもあまたの興亡をくりかえした。時には異民族に征服もされたし、再びもりかえし、もりかえされ、たえず国境をめぐって争ってきた。
しかし、アムネリス。これまで一度だって、聖なるヤヌスの塔にふみこみ、ヤヌスの祭祀の場を血で汚すような勇気のある侵略者はいなかったのですよ。私のような卑小な存在には、わかるすべもないが、これももし運命の神ヤーンによって予定されていたことだとしたら、おそらくあなたがたモンゴールの民は、ヤヌスの塔をあえて血ぬられた場所にし、なにか新しい展開を世の中にもたらす、まさにそのためにこのパロへ攻め入って来たのにちがいない"*8」
「ご称讃、有難く。
ヤーンの思し召しなどこのアムネリスにはわかりかねますが、辺境モンゴールの民が新しき地を切り拓き、生きてきたのは事実」
しかし公女が、ナリスの当てこすりに気を悪くした気配はない。
「モンゴールの雄弁」などという言葉もあるのだが。
どうやら修辞に疎い公女が、ナリスの嫌味での賛辞を文字どおり賛辞として受け取ってしまったらしいな、とナリスは思い、舌打ちをすんでのところで抑えた。
公女は、むしろナリスの悪意をはらんだ言葉を率直な物言いと思って喜んでいる気配すらあり。
「さて、今日の公は忌憚なく真情をお話しいただけるようでありますな、重畳であります」
この私の怒気が読めないとは。この鈍感女、そのうち役立たずの目をくりぬき、人を不快にさせる舌を引き抜いてやらねばな、とナリスは腹立ちまぎれに考える。
そのナリスの不快感に気づいてか気づかないでか、公女は笑みすらたたえ、大きな緑の目を彼に据えて続ける。
「公はどのようにお考えか。他に耳のない場所なれば、是非にもご存念を伺いたい。
お互いに2国のこの先について考えがあるはず。重なるにせよ、異なるにせよ」
ナリスはまたも思ったのと違う公女の反応に、またも不快感を新たにする。
彼自身は、この敵国の公女を対等な交渉相手とするつもりなど全くないのだ。
思い通りに動かない世界に、彼はいら立ちを覚えた。
「さて、囚人でしかない私の考えなどお耳に入れたとて──おお、"ロルカが戻ったようだ。ちょっと失礼"*9」
ナリスは魔力粒子の励起の気配を感じ取り、扉を開けて部屋のすぐ外に立つ。
──あのまま、あの馬鹿女と会話を続けさせていたら。
不快感を抑えきれず、不用意な一言を漏らしてしまったかもしれない。僥倖であった。
そう、ナリスはわずかに乱れた思考を鎮めながら考える。
間を置かず、きぃぃんと非常に高い音(正確には音ではない、頭の中への
彼らのいた部屋の外の廊下、扉にほど近い位置に闇がわだかまり。
やがて、魔道士の黒いローブに身を包んだ姿が現れた。
公女は会話を邪魔されたことに(本当なら、かなりの非礼のはずなのだが)なんの怒りも見せず、興味深げに彼らの様子を観察する。
敵となるべきこの娘に魔道による転移の前兆を教えてしまったかもしれぬな、とナリスはわずかに後悔する。
「よろしいので?──では、ご報告が2つ」
他方、公女は自分が魔道師に襲撃されたことを思い出し、魔道師の転移の前兆についてナリスがまさに恐れていたように仮説を組み立てながら。
魔道士が無感情にナリスに報告することを、興味深く聴き入っていた。
報告事項は2つ。1つは、「ディーン様」──おそらく第4位の王位継承権者、アル・ディーン王子だなと彼女は見当をつける──に似たおもざしのキタラ弾きを、ケーミで見かけた者がいるという話。ただ、この魔道士が赴いたときには立ち去ってしまっていたという。
2つは、「サラ」なる女を取り逃がしたという話。──こちらの話はナリスは予想していなかったのか、その秀麗な眉間に雷が走ったのを公女は認めた。
「どうして、逃がした?」
「夜半、人のおらぬイラス河畔の林で首を撥ねて捨てようと運んでいましたが。
たまたま行き当たった、覆面の大男に邪魔された由」
「馬鹿め。絞めた後に運べばよかったものを──さては、余計なことを考えたな?
まあいい、その男は誰だ?そして今、どこに?」
「わかりませぬ。極めて腕の立つ男で、また異国の訛りがあったといいます」
「気に入らぬな。──捜せ、殺して構わぬ」
それなりに重要なはずの内輪の話を自分の前で聞かせているナリスの意図について、公女は思いをめぐらせる。
そして
少なくともこの要注意人物へのモンゴールの監視網が、魔道士の転移によってたやすく潜り抜けられてしまっていることは、確かなようだ。
それを咎めてタイランらに監視の強化を求めるべきか、ナリスへの好意を示すためにあえて見過ごすべきか──そのこと自体、公女のナリスへの親疎を測る目的もあるのかもしれぬ、と公女は深読みする。
話が終わると、ロルカと名乗った魔道士はまた消えてしまった。
ナリスは公女の存在を忘れたかのように、しばし立ち尽くして思いを巡らせるようであったが。
やがて扉を閉め、部屋に戻ってきた。
「"どうも失礼"*10」
公女はわずかに頭を傾けて、謝罪を受け入れる意を示した。
「"このヤヌスの塔の中に入ると、ことのほかパロ王家の人間は、この塔のなかに封じこめられている、
公女はナリス公の言葉は理解しつつ、その意図や言った内容の真偽までは察し得なかったので。
口に出しては、魔道の姿現しの術には感心した旨を述べただけだった。
「"あれは役に立つものです。あの術がつかえれば、空間など、上にむかってすべて開かれている家のようなものになってしまう"*12」
自分も暗殺の標的になった記憶に新しい彼女は、たしかにそのとおりだな、と頷き。
しかしそのような偉大な魔法を以てしても、ときに剣に負ける時があるのですね、と自分の経験を思い出しつつ述べた。
同時に心の中では、自分の弟を守る手段が十分か否かあらためて焦燥を抱いた。
「"ものごとというのは、そんなに単純に運ぶものではありませんよ。ゴーラの民のように、剣をふりおろせばおしまい、というようにはね。──その証拠をいまから見せてあげようというのです。何のためにあなたをここへ呼んだのかすっかり忘れていた。さあ、おいでなさい、アムネリス姫"*13」
どうも不快感を感じたらしい、ナリスにいざなわれ。
公女は、部屋の奥の隠し扉へと招じ入れられた。
──────
原作と同様、公女アムネリスは眩しく輝く鏡と水晶が壁と天井に張られた、巨大な部屋に導かれる。
黒くいぶした水晶のマスクのごときものを目に装着されて周りが見えるようになった公女は、招じ入れられた部屋を見回した。
部屋の中央に、巨大な機械が設置されている。
それは、すでにグインたちが一度目にしたもの、神の棲む島の古代機械と酷似していた。
もっとも公女がこれを見るのは初めてであり、驚きにうたれて凝視する。
「"これが、あなたの知りたがっていたパロの秘密ですよ"*14」
ナリスは、そう立ちすくむ公女に告げる。
その目は、ほとんど口もきけぬほどの驚愕に目を見開き、かろうじて叫びを押さえている公女を。
愉悦と残酷な満足感を湛えながら、観察していた。