(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。   作:Marchhatter

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 読み返していて、リンダを塔の最上階に入れたのは、独房が空いていなかったせいではなさそうだ、と気づきました(セム族襲撃時の牢の描写で、『多くの石造りの室は空いており、──』とある)。
 亡霊の出る部屋に入れて、気の強そうなリンダの鼻っ柱をへし折りたかったから?あるいは、他の室は日ごろは使っていなくてメンテに不安がある?
 牢番が1人しか出てこないのも、広大なスタフォロス城にしてはやや違和感があります。ますますスタフォロス城の人員不足説に信憑性が・・。


006 離脱という選択肢

(偽イシュト視点、スタフォロス城、夕方から夜にかけて)

 

 さて、僕はスニとそれなりのコミュニケーションに成功し。

(スニに笑顔が出てきて。しかも視線が心持ち熱い気がする。──もちろん、気のせいだよね。きっと。多分。そんなはずはない。)

 彼女の協力を得て、タペストリを解して縄をつくり、脱出準備を整えながらも。

 グインたちとの関係をどう構築すべきか、ということに頭をなやませていた。

 

 あー、なぜグインたちに肩入れするのか、って?

 その話があったな。

 

 別に、原作の主人公(グイン)たちが好きだから、とかいう理由じゃない。あくまで自分のためだ。

 (長くなるよ。次の「──」まで飛んでOK!)

 

 ───────

 

 実のところ僕、ぶっちゃけ原作に一から十までつきあう義理まではないと思ってる。

 モンゴールに肩入れして、スタフォロス落城を防ぐべく奔走するのも完全になくはないって思うよ。

 

 その後に続く辺境編や陰謀編も、同じだ。グインたちに与しない選択肢もある。

 結局は敗色濃厚になるし、ヴラド大公逝去後は盛り返せない。だから、モンゴール側に与するのは考えものだが。

 グイン側にもモンゴール側にも肩入れせず、羅生門から消えた下人みたいにひっそりと歴史の表舞台から降りても構わない。

 というより、究極的にはそうするつもりだ。なんだか国家間の話はジトジトしてて、関わりたくないし。

 

 ただ、ここスタフォロス城、あるいはもう少し行って辺境編までは、僕は彼らに与しようと思っている。

 最大の理由は、保身。その方が生き延びられそうな可能性が高いから。

 

 まず、スタフォロス砦でどう行動するか。結論からいえば、スタフォロス砦防衛は困難だと思う。

 

 第一に、合理的に考えてスタフォロスは持たない。──今の砦の人員減損率は、高すぎるのだ。

 (イシュトヴァーン)など、グドウ将軍麾下の軍まで派遣して相当数の増援組を城に入れて補充したのに、もう食いつぶしてしまった。外人部隊から成る増援組は、生え抜きの守備隊と連携もよろしくない。

 このままでは、おそらく襲撃を警告しても、数において有利で戦意も高いセム(カロイ)は、人員にも連携にも大義にも劣るスタフォロスを破る。

 原作者は、もしセムに早く気づいていたら「スタフォロス城の運命も大きくかわっていただろう」と述べているが、僕はこの城を守り切るだけの人員がいたか疑わしいと思っている。実際、攻城戦では攻撃側は防衛側の3倍は必要だと言われるが、史実では内城すら守り切れず、装備に劣るセムに大手門を破られている。

 

 第二に。仮にカロイの襲撃をしのいでも、どのみち滅んでいただろう、というリンダの指摘。あれは正しい。

 城主の偽ヴァーノン伯にはまともに城を守る意思などない。人間を餌としかみていないグールにやがて内側から食い破られて滅びるだろう。

 まして。

 お前やっぱり不審がある、と牢に放り込まれた僕には落城を防ぐインセンティブは全くない。たとえばカロイの襲撃に対して僕が脱獄して奮戦して撃退しても、城主は功を認めず普通に刑の執行として「いただきます」する可能性が高いだろうよ。困ったことに軍規上は奴が正しい、脱獄して勝手に戦ったことになるんだろうし。

 仲のいい戦友もいるが、スタフォロスとは心中できない。結局は逃亡が現実的な選択肢となる。

 

 そして、第三に。

 僕の中に残っている魔戦士としての「俺」(イシュトヴァーン)の直感がそう告げるのだ。

 ──ここはヤバい、逃げろ、すぐにだ、と。

 偽イシュトの僕はこの直感を原作の彼ほどには使いこなせていない。ただ、この直感はおそらく正しい。

 グールの件を措いても、この城には未来がなかったのではないかと思う。

 ことごとく周囲の入植地が全滅し、もよりの入植地までは数十キロの孤立した山城。

 いくらヴァーノンが食屍鬼でも、砦の周囲の何百人もの入植者たちを一人で食い尽くせたわけがない。人智を超える広大な暗黒の原生林が彼らとその家族たちを飲み込んだのだ。

 

 完全武装の騎士の小隊ですら、夜の森であっという間に全滅し。

 騎士団に守られなければ、物資移送すらもおぼつかず、蛮族や妖魅によって毎日のように人が死ぬ人外魔境。

 命が軽い辺境地帯だと言っても、人が育つには十数年が必要。この地の維持コストは高すぎるのだ。

 この地を支配して国力をあげられると考えたヴラドは、あまりに高望みだったのではないか?

 

 以上のことから、僕はスタフォロス砦には留まらない。原作どおり、逃げの一手だ。

 

 ただ、そのうえで。

 逃亡するとして。①砦でグインたちと協力するか、②さっさと1人(2人?)で離脱するか。

 さっさと離脱するとしても、②-A)彼らをケス河から救い上げて恩を売るか(原作どおり)、②-B)もはやグインたちとはかかわりを持たず、さっさと単身逃げて物語から降りてしまうか。

 そういった選択肢がある。

 

 実は、②-Bの選択肢、グインに与せず離脱してこの物語から降りる、ってのは、それができるならアリだと思う。

 あ、もちろんグインたちに多少は思い入れはあるよ? でも夢小説の中ならともかく、ここは現実で僕が凡夫。つまらない男だと思われるかもしれないが、推しよりも自分の身が大事だ。だいたい僕、途中離脱組でそこまでグイン信者ってわけでもない。高校生時代の思い出ってだけだ。

 だから、どこかで彼らがこの危機を脱したことを確信できたら、その時点でそっとフェイドアウトしてもいいと思ってる。

 それでもこの物語(というか、現実)は別に破綻しない、という確信もある。

 

 これは「俺」(イシュトヴァーン)の直感でもあるのだが、グインの運命はとても強い。

 正直、他の要素が多少変わろうが、委細構わず彼は物語の終着点にたどりつくだろう。リンダやレムス、ナリスあたりはたしかに重要人物であるが、仮に彼らの運命が原作と異なり交錯しなくても、あるいは絡み方が原作と違うものとなっても、結局グインは生き延びて冒険を重ね、「豹頭王の花嫁」にたどり着く。

 

 そして、──原作イシュトヴァーンの運命も、ある程度は強靭だ。

 原作イシュトヴァーンなら、おそらくグインと巡り合わずともこの場を逃れて生き延び、やがてその血塗られた手に王国をつかむことになるだろう。

 玉石の加護(っていうか呪いだよな)なのかなんなのか。「災いを運ぶ男」はこの程度ではくたばらない。──()()()()()()()()()()()()、ね?

 

 問題はここだ。僕は原作イシュトヴァーンではない、そのガワをまとった凡人だ。

 おそらく僕に「宿命」はない。そんな直感がある。

 僕は今、スニと一応の友好関係を結んだ。塔からの脱走も、可能だと仮定しよう。

 グインたちを見捨てて逃げても、族長の孫娘を救った男としてスニの村に匿ってもらうこともできるかもしれない。

 だがな、その後、モンゴール軍の侵攻だよな。その侵攻前に脱出できるか?あるいはグイン抜きで撃退できるか?

 

 おそらくは正義のパロとの対比(コントラスト)をつくりたくてsageられてしまった物語の中ではともかく、現実世界のモンゴールは強い。合理的で精密な新興軍事国家だ。

 下手をすると「辺境の王者」のとおり、僕とセムさんたちはまとめて鏖殺(おうさつ)、大虐殺となりかねない。かといって単独でノスフェラスを横断することは困難。運よくキタイの商人が来て拾ってくれたりしない限り。

 僕は原作イシュトヴァーンではなく、彼ほどの才覚は発揮できない。モンゴール軍から逃げ切ったり、撃退したりできるとは思えない、──グインの武勇も、「アルゴンのエル」の裏切り策も、ラゴンの援軍もなしに。

 

 そうなると、辺境編を終えるまでは。

 グインたちに恩を売り、モンゴールの撃退に協力してもらった方がいいと僕は考える。つまり①か、②-A)だな。

 ただ、②-A)だけだと不確定要素が高い。この未来は既に改変されてるかもしれない。

 グインたちがヴァーノンと対峙して塔の上からケス河に飛び降りる、という、原作どおりの展開は。

 白の塔の最上階にリンダとスニがいて、それを助けに行ったら塔の「たて穴」があって、──という経緯があっての話。リンダが塔の最上階にいなければ、グインがそこに来る必然性はない。

 そうなると、グインが落城を落ち延びるとしてもそのルートは不明。

 

 もし、グインたちと機を逸して何らかの形の親交を持てなかった場合。

 仮に脱出後に遭遇した場合。特にモンゴールとの敵対後のグインたちにタイミング悪く遭遇したら。

 「モンゴールの残党みっけ。殺るぞ」ってなるよね。

 それにグインとスニの接点も、ないわけだからさ。時期が悪いと、スニも、さ。

 「トーラスのオロたちを殺した猿だ、サクッと殺っちゃえ!」とならない保証はない。

 

 そうだとすると。

 落城前にグインと接触してある程度の協力関係になっておいた方が安全だ。つまりは①だ。

 それでうまくいかなかったら、②-Aに移行すればいい。接触を試してもマイナスにならないだろう。

 ただ、現時点ではうまく行ってない。牢仲間ですらないしな、朝のレムスへの餌付けなんて効果ないだろうし。

 別の手段で介入せねばなるまい。

 

 心当たりはある。

 原作のイシュトヴァーンのスペックを活かしきれない僕だが、代わりにおぼろげながら原作知識はある。

 白の塔からあの地下の拷問室、そして黒の塔までのルートはわかっている。黒の塔から、ケス河へ逃げられることも。

 この知識を機会を見つけて提供してもいい。ただ、接触の機会がない。

 接触の可能性が高いのは、セムの襲撃のときに彼らを救出して一緒に逃げるっていうルートかな。

 セム襲撃時はグインはモンゴールの騎士と共闘してる、だから出合い頭にいきなりバッサリはないだろう。

 

 ちなみに。

 不完全で中途半端ではあっても、原作知識は僕にとっての命綱の一つ。

 この後についても、あまりに運命が大きく変わらない限りで原作知識は使える。

 

 そうだとしたら、グインとその仲間たちの運命は、大筋では原作ルートから大きく変えない方がいい。乖離しないように気をつけねば。

 僕の中の「俺」(イシュトヴァーン)の直感も、そう告げている。

 

 ただし(イシュトヴァーン)個人については、どこかで表舞台からフェイドアウトさせていただく。これは譲れない。

 だって僕には無理っスよ、原作イシュトのあんなハードな運命。

 こんなところにいられるか、帰らせてもらう!

 タリアにでも着いたら、最上級の魚料理を食べるんだ!

 

 ──────

 

 長くなってしまった。

 まとめると。

 スタフォロス砦では、僕はグインに恩を売って協力関係を構築。

 その後の辺境編でも、彼らに与してゴーラ(モンゴール)に対抗、生存を図る。

 要は、大筋では原作どおりだ。

 

 ただ、そのうえで。

 細かいところまで物語そのまま、正史のままに流すつもりはない。正史どおりにつなげつつも、僕に関係する部分は歴史を微修正予定。

 

 いや、「アルゴンのエル」さんをやらされるのは勘弁してほしいからだ。甘ったれてるかもしれないが。

 僕の精神はそこまでタフじゃない。ぶっちゃけ豆腐メンタル。「やりたくない」以前に「できない」んじゃないかな。

 モンゴール軍に僕が潜り込んでも、マルス伯に裏切りを見抜かれて首ポーンが関の山。

 原作イシュトヴァーンは、僕とは役者が違うと思う。

 

 百歩譲って。

 剣を振り回して正面から敵対するのは構わないし、危険ではあっても囮としてモンゴール軍を引き付ける役をやらされてもかまわない。イシュトヴァーンの元人格の残滓を使えば、なんとかできそう。

 でも、──あんな手段で裏切るの(アルゴンのエル)だけは、勘弁してほしい。(メンタル)が死ぬ。イシュトヴァーンですら(うな)されてるんだぜ。

 あれやらされるんだったら、死ぬ確率が多少高くても、その前にグインとは袂を分かつよ。

 

 代わりに、多少は現代人チートで貢献できないかな?

 まあ、僕みたいな凡人に考えつくことは、博覧強記の作者が先回りしてグインや魔道師たちにやらせてるだろうしなー。たいしたことはできないか。

 

 ちなみに。

 辺境編が終わった段階でのフェイドアウトを狙っている僕だが、これからの大流血に思うことがないわけじゃない。

 物語なら面白いが、現実になれば悲惨すぎる。

 モンゴールは物語の中では悪役国家だが、あれだけの悲劇を負わせるべきとは思わない。

 ただ、国家間の争いをおさめる具体策なんて、僕にはどうしようもない。

 

 おそらくモンゴール人にとっての解の一つは、ヴラドとその一族にすべての責任をなすりつけること。

 特に、ヴラドとアムネリスということになるか。

 グインにアムネリスの首を斬らせ、傲岸にも美しく気高いままに彼女の人生を終わらせるか。

 あるいは、捕えて戦犯としてパロ側(アルゴスとか)に引き渡して拷問して秘密を吐かせ、公開処刑させることなんだと思う。胸糞悪いけど。

 

 そしてヴラド大公の卒中死亡後、責任をとらせるためだけに。

 なにがなんでもミアイル(一族ではあるが、幼少の彼には責任は薄い)を生存させておき、大公位に就かせ。

 史実であったように彼との婚姻政策をちらつかせてケイロニアかアグラーヤあたりと結べないまでも、少なくとも中立を守ってもらい、仲介してもらう。

 そして停戦不成立なら徹底抗戦、焦土作戦を匂わせつつ。

 占領地を放棄し、賠償を約束し、ヴラドと抗戦派将軍どもの塩漬け首をパロ側に追贈し。

 ──そこらへんで、クム参戦前に停戦をとりつけられないかな?

 だいたい地図みればわかるよね。地政学的な遠交近攻の観点でみても、モンゴールがパロを侵略するのはひどく不自然なんだ。

 

 ただこれは未来を知ってるとはいえ途中までで、知識も浅い現代人の考え。

 だいたい今はまだモンゴールは勝利に酔ってる。そのままなら、ミアイルは史実どおり暗殺され、モンゴールは地図の上から拭い去られてしまう。

 でもそれは、僕が考えるべきことではない。彼らが考えるべきことだ。

 

 このときの僕は、スニと一緒に縄を綯いながら、そんなことを考えていた。

 ちなみにスニも僕がやりたいことを伝えると協力してくれて、古びてるけど豪華なタペストリはあっというまに縄になった。

 軽く手で引っ張ってみる。僕に残ったイシュトヴァーンの感覚は、この縄が僕たち2人の体重に堪えるだけの強度があると伝えた。

 

 ──────

 

 階段から人が上ってくる音がした。牢番かな?

 匂いがする。あー、どうやら僕たちにも食事が来たみたいだ。スニと仲良く半分こしよう。

 

 ん?待てよ?

 僕たちにも食事がきたということは、レムスたちにも行っている。下手すると僕たちより早く。

 原作では、レムスへの食事配給時にグインは黒伯爵に呼ばれ、ガブールの大猿と戦う。

 

 ということは、独力で逃げるチャンスは、あと4、5ザン(3、4時間)あまりの間のみ。

 手を打つなら、急がねばならない。




(覚書)

○セム族の人口
 辺境やノスフェラスの砂漠は、厳しい環境であることが強調されており、多くの人口を支えるのに十分な生産性があるとは思えない。
 しかし、史実では少なくとも黒騎士が750~1000人がいたと思われるスタフォロス城はカロイ族独力で落城せしめられており、このときのカロイ族の戦士の数は俗にいう攻撃3倍の法則からすれば、少なくとも3000人程度はいたと思われる(黒騎士1人とセムの戦士1人が対等だと仮定して)。女性や子供もセムの戦士だったとしても、かなりの数である。セム族には他の部族も存在することを考えると、総数は相当のものといえそうだ。
 彼らにとってはノスフェラスもそれなりに豊かな地なのかもしれない。あるいは、アラビアの砂漠地帯のように、実は交易で利を得ていたという可能性もありそう(キタイとの密貿易の中継地だったとか?)。あるいは、ノスフェラスはやはり広大なので、密度こそ希薄だが、総数では多いというだけかもしれない。いずれにせよ、相当の出血戦となるこの襲撃を取りまとめたカロイの族長の力量は相当のものである。

○レムスの戦闘力
 レムスは実はかなりの戦闘力を誇る。レムスはグインが白の塔のカギを取りに行く、その留守中に、なんと石斧で(!)4、5人のセム族を殺している。バリケードが有利に働いたであろうことを差し引いても、これはグインも激賞するに値する大功と言っていい。
 かといってこの時点でのレムスが完全武装の黒騎士より強いとは思えないので、先に述べたとおり、黒騎士1人とセムの戦士1人が対等という仮定は見直さねばならないかもしれない。
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