(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。   作:Marchhatter

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(本日1回投稿です)
○ご感想をいただきました。ありがとうございました!

・自白剤、ことほど左様に都合のよい副作用があったりするのかもしれません(ほんまかいな)。
 ナリス公は優秀ながら、ちょっと本作ではねじを数本外してしまって誤動作を起こしているみたいなのです。本来のスペックはすごいはず!
 挽回に期待・・!

・うっ、気づかれてしまった!
 原作では冷徹な謀略家ながら目的が見えない彼を筆者が独自解釈してしまった結果、虎が三毛猫になってしまったかもしれません(反省)。

・アムネリス、今回は原作ルートははずれた模様ながら。
 公女様ねじも数本締め忘れた(あるいは余計なところにつけてしまった)ので、偽イシュト要素というオーパーツを組み込んでしまったことと合わせ(→最大の不安要素)、ちょっと挙動が未知数になってしまっているかもしれません・・!
 
・ナリス公、すべての人がそうであるように、外では完璧なふるまいをしてやりすごしつつも。
 自室に戻って誰も見ていないときに、うわーやってもうたと叫びながらベッドで転がった経験くらいあるはずなのです。
 今回もしかするとそうした黒歴史の一つとなる可能性もありつつ、努力家のナリス公のことですから。
 きっとアムとのやりとりには内心ぐぬぬと思いつつ、彼女に努力を感づかれないよう復習しつつ捲土重来に備えているはずなのです。

・策士である彼、ナリス公はきっと知識欲が強いはずであり。
 「(南方ランダーギアの猟具と聞いたが、こう使うのかな?)」などと思いつつ、リギアや近習たちの目をぬすみ、裏庭で曲がった棍棒(ブーメラン)をこっそり宙に投げて試してみたりもしているのだと思います!

・たしかに、当社比数倍のドーピングだったかも・・!
 公女様、原作でもナリス公を事あらば水牢にぶちこもうとしていたヤンデレ前科がなくはないのですが。
 それも最初だけで、その後すぐナリス様に夢中になり、その後もナリス公に裏切られて激怒しても結局続かなかったりしますね(激情家ながら、意外に引きずらない性格なのかも)。

・お久しぶりです!
 アムネリスとナリス公、おそらくそれぞれたどる経路が違ってきそうです!少しは良く(?)なってほしいものです・・。
(ナリス公、創造神様があまりに思いをかけてしまったため原作では人生ハードモード(?)になってしまったのかも・・。原作イシュトヴァーンにも、通じるところがありますが。)
 そろそろリギアの登場ですが、初期のヴァレリウスとの関係はなんかほっこりしてていいなーと思っています(リギアはヴァレリウスに限らず、ナリス公はもちろんのことどの人とも地味に相性が良かったりする・・?)。

○遅くなりました。偽イシュト視点→第三者(グイン)視点です。



061 空に住むもの

(偽イシュト視点、レントの海・「サリアの首飾り」号、夜)

 

「イシュトヴァーンか」

 

「おう、グイン」

 

 グインとレムスに呼び出された僕は、僕たち3人の居室の扉をくぐる。

(3人だけの部屋なんて、ぜいたくだと思うよね?でもこのためにすこしお金をはずんで、良い大型船を予約したんだ。

 この時代、ふつうなら船員も客も狭苦しい大部屋に蚕棚みたいな棚に仕切りもなくきつきつに押し込まれるんだけどさ、今回は僕たち3人とリンダ・スニのために個室を2つも予約した。

 広さは3畳間みたいな狭さだしお金はこの手の船旅の数倍くらいかかったけどね、後悔してない。)

 これからの彼らからの追及に、心中、びくびくしてるんだけど。でもそんな様子は見せない。悠然、鷹揚、春風駘蕩と──。

 あー、寝不足だな。ちょっとくらっとする。

 

「イシュト!ほら、ここ、ここ」

 

 レムスによって、僕は逃げ場なく部屋の奥に導かれた。

 なぜかおもむろに扉の前に位置を移すグイン。横にレムスも。あれっ、それだと僕──

 

「おいグイン。なぜそこに移る?レムスも」

 

「気にするな。たまにはゆっくり話そうではないか。

 最近、忙しかったのだな、イシュトヴァーン?」

 

 豹頭のトパーズの眼が、ゆらめく角灯の明かりの下で、ぎらり、と光る。うわ怖っ。

(ちなみにこの時代、硝子なんてふつうは使われてない。薄く牛の角を削り出した半透明の茶色の板が角灯の()()に使われてる。)

 僕は救いを求めて、レムスを見やった。

 

「僕たち、すごく心配してたんだよ!

 ほら、イシュト、ぜんぜん帰ってこなかったじゃない」

 

 レムスが不満げに頬をふくらませながら、僕にそういう。

 うーん、たしかに僕が悪かった。すまぬレムス。

 

「悪かったな、ほら、色々仕事があってだな、──」

 

「それは大変だったな、イシュトヴァーン。

 ところで、聞きたいことがある」

 

「なあ、グイン。今日の主題は、レム坊にまとわりつく変態ガイコツ男の霊のことなんじゃねえのか。

 ほらよ、お守りとか調達して──」

 

「ごめん、イシュト。そっちは後でいいんだ。

 それよりさ、イシュト。リンダのこと、どうするつもり?」

 

「そのことを聞きたいと思ってな」

 

 ──もうダメだ。逃げられない。

 

 仕方なく、僕は白状することにした。

 いや、白状するったって。言えることだけ、だけどね?

 なんかリンダから好意の矢印が向いちゃったみたいなんだけど、自分じゃどうしてかよくわからない、とか。

 ときどき、リンダが神憑りになって怖い、とか(ただ、詳細はぼかした)。

 もちろん僕としてはリンダとどうこうしようなんてことは考えてなくて、双子をちゃんとアルゴスに届けるつもりだ、とか。

 そういったことだ。

 

 僕がひととおり弁明を述べると、二人はううむ、と考え込んでいる。

 そしてレムスがグインの方を向いて、もの問いたげに目配せする。グインが頷く。

 

「イシュトヴァーン。

 おぬし、リンダ姫からの好意に心あたりがない、と言っていたな?」

 

「ああ、──あのイヤったらしい烏賊の化けもんから逃げるのには手を貸したぜ?

 でもな、それなら豹あたま。お前もそうだよな!?」

 

 グインからの、下手踏んでないだろうな、という圧力を感じながら。

 お前も一蓮托生だぞグイン!と、僕は彼をにらみ返し、僕だけ窮地にある現状の理不尽を訴える。

 

 確かにすごい美少女ではあるが、(イシュトヴァーン)にとってリンダはヤバい。確実に悲恋→イシュト闇落ちコース。

 僕はリンダたちの物語の、結末を知らない。

 だけど原作ではリンダがイシュトヴァーンのものにはならないだろうことは、容易に想像できる。

 

 そもそも、だ。

 狗頭山での嵐のあと、グインの夢にあらわれた3人の「運命の女」。

 その1人、「運命を示す女」が、おそらくリンダ。

 そしてもう一人、「王冠を授ける女」は、確実にシルヴィア。

(最後の一人、「アウラ」さん?僕としてはヴァルーサさんにがんばってほしい気もするけど違うよね。いい娘だと思うけど、あんまり強い印象がない)

 

 それはともかく、要するに。

 リンダは、グインの3人の運命の女の一人なのだと思う。3人だぞ3人──あれ?ヴァルーサを含めりゃ4人じゃないか。クソっ、この豹頭ハーレム野郎め許さんぞ!

 

 それによく考えると、原作での(イシュトヴァーン)って。一番損な役回りじゃないか?

 将来を誓ったリンダはうまうまとナリスに回収。結婚相手は胸が大きいのが取り柄の頭の軽いヤンキー公女(あー、今はまだ劣化前だけどもっと悪い。僕に恨み骨髄で悪辣な罠をしかけまくる陰険女豹だ)、妄執に憑かれたルブリウス野郎アリストートスにストーカー被害。仲良しになったほっこりショタ少年はコロコロされて、役に立たないけど可愛いフロリーさんには逃げられる。僕の読んでた間はカメロンはまだいてくれたけどさ、あんまり雲行き良さそうでなかった。

 でもまあいい、この世界の(イシュトヴァーン)はうまくやる。早めに開拓村に隠棲して、かわいい妻(一人の予定)と仲睦まじい生活を送るんだ。

 それに比べて、この円満モテモテチート野郎ときたらっ!

 思わず鋭い眼光になった僕の唐突な義憤を感じ取ったのか、グインが少し引き気味に言葉を返す。

 

「ああ、俺も手は貸した。だが、リンダはおぬしに恋着している。

 イシュトヴァーンよ、リンダに向かって何か特別な言葉、約言を発したりした覚えはないのか?」

 

「特別な言葉、約言?」

 

 はて。僕は困惑して考え込む。なんかあったっけ?

 決め手といえるようなものは、特になさそうな気がする。

 そんな僕にしびれを切らしたらしくレムスが、じりじり身を乗り出してきたので。

 僕は、何かいいたげな彼に視線を移した。

 

「ねえ、イシュト。

 イシュトさ、リンダに聖別を頼んだよね。あの、──陸の大烏賊と戦ったとき」

 

「おおよ。──ああそうだ、あの武器な?後で話そうと思ってたんだった」

 

 リンダの聖別してくれた3つの武器、後でグインと分けようと思ってた。

 僕の馬上用大剣、そして船員のシュリオが持ってた船の備品の舶刀(カトラス)と短剣のうち、短剣は回収不能。

 馬上用大剣は回収し、舶刀(カトラス)を僕が船長から譲り受けてる(もちろん対価は払った)。

 

「それもだけど、さ、イシュト。

 そのときに、リンダに臣従礼(オマージュ)の台詞みたいなこと、云ってなかった?」

 

「あー。云ったかな?」

 

 正直、あんまり覚えてない。でもそういや、真イシュトの奴がなんか言ってた気もするな。

 僕は首をひねりながら、そう返した。

 

「云ったんだよ!

 そして、そのことなんだけどさ、──」

 

 レムスが、膝を乗り出して説明し始める。

 僕は、不吉な予感を覚えた。

 

 ──────

 ──────

 

(第三者(グイン&レムス)視点、半ザン後)

 

 

「ねえ、グイン」 

 

「ああ。すくなくともあ奴は、無実だ。分かって云ったわけではなさそうだったな」

 

 半ザン後。

 イシュトヴァーンとの会談を終えた彼らは、ひそひそと部屋で密談を交わしていた。

 イシュトヴァーンとのわだかまり(?)は解けたので、今後は彼も部屋に帰ってくるだろう。

 ただ今夜は約束があるんでな、と出ていった彼の足取りは、かなりふらついていた。

 

 無理もない。

 自分が口走っていたのが、そんな大それたことだったとは、心臓に毛が生えている彼にとっても衝撃だったらしい。

 彼は、嘘は言っていない。あの様子、まちがいなく本当だ。

 あの蒼白な顔が芝居だったら、グインもレムスも人を信じられなくなる。

 

(運命の駒、ヤーンの操り人。

 絶対に嫌だと云っていたが、──イシュトヴァーン、やはりお前は()()ではないか?)

 

 グインはぐるる、と唸るようにため息をつく。

 友といえる彼のことを、グインも案じているのだ。

 ただこの件で彼とレムスにできることは、さほどない。

 イシュトヴァーンに、誤解を招かぬよう言葉を慎みながら、リンダと十分に話せと忠告するくらい。

 彼も首がもげるくらいに頷いていたので、まずまちがいなくリンダと話すつもりだろうが──ちゃんと説明して、誤解を解消することができるのだろうか。

 リンダもああみえて、なかなかに意志強固な娘なのだ。

 

「ねえ、グイン。イシュトってさ、リンダに弱いよね。

 リンダを前にしたら、なかなか云い出せなかったり。泣かれておろおろしたりするんじゃないかなー」

 

「そうだな。──ふふ、だが奴はお前にも弱いぞ」

 

 レムスの言葉は、まさにグインも考えていたことであり。

 情景がまざまざと目に見えるような気がして、思わずグインは苦笑した。

 

 見かけはいかにもなすれっからしの不良少年なのだが、意外に善良でお人よし。

 頼まれると、いやといえず流されてしまう。特に子供、女の子には。

 まちがいなくグインたちがねじを巻きなおさなければ、リンダに「別れよう」などとは、云い出せないことだろう。

 

「ただ、さ。ぼくとしては、さ?

 イシュトに死んでほしくないし、リンダが悲しむのは嫌だし。

 だからいろいろ慎重に動いてほしくて、今回はああ言ったんだけど。

 でも本当は、さ。お義兄さんって呼ばなきゃいけないとすれば、さ?──正直、グインかイシュトがいいな」

 

「ゴフッ」

 

 思わずせき込むグインを、レムスはいぶかしそうに見つめた。

 

「冗談だと思ってる?」

 

「いや、──王子の好意は嬉しいが、俺もあ奴も素性の知れぬ流れ者なのだぞ。

 あと、そんなことは間違ってもお前の国の貴族たちの前で云ってはならぬ」

 

「やだな、もちろんぼくだってそのくらい分かってる。他の人たちには、云わないよ。

 でもさ。ぼく、パロで王族として暮らすより、グインたちとこうしてる方が楽しい」

 

 レムスが深く息をついたのを、グインは少しいたましそうに眺めた。

 レムスは、よくがんばっている。苦労はするが、良き王あるいは祭司になれるだろう、とグインは思っている。

 だが王というのは華やかにみえてなかなかに難しい、責任が重く孤独な役目。

 ましてや、おそらく古い因習や口外できない秘密があるだろう、由緒ある大国パロの王は。

 本当のことをいえば、内向的で空想好きな心優しい彼にあまり向いているとはいいがたい。きっと苦痛なことも多いだろう。

 

「グイン、ちょっと云えなかったけれど。あのガイコツ男に関係したことなのかもしれないんだけど」

 

「それがあったな。──イシュトヴァーンは行ってしまったが」

 

 イシュトヴァーンの、あのときの言葉がある種の神誓ではないか、という推測を伝え。

 そしてリンダの様子が、それに由来するのではないか、ということを今回、伝えたが。

 あまりにイシュトヴァーンの憔悴ぶりがひどく、今日はそこまでになってしまった。

 本来の話、つまりレムスとガイコツ男に関することは、後回しになっている。

 

「イシュトにも、後で伝えるけどさ。グインには、云っとくよ。

 ガイコツ男、直接出てきたわけじゃないんだ」

 

「ほう?」

 

「ねえ、グイン。この前、ガイコツ男が出てきたとき、さ──」

 

 レムスのとつとつとした話に、グインは豹耳を傾けた。

 

 ──────

 

「あのとき、ぼくは空に浮いたような気がした」

 

「そう云っていたな」

 

 レムスは前回、あのガイコツの如き魔人に追われ。

 甲板に出て、そして空を飛んだ、──と言っていた。

 空、それも鳥すら及びかねる高所から、このキレノア大陸を睥睨し。

 そしてカナンの故地であるノスフェラスあたりで、奇妙な機械が災厄をひきおこすさまをかいま見たと聞いたな、とグインは思いだす。

 忘れたわけではないが、機微にふれることがらゆえ、その後その議論をかわすことを控えたまま日々の多忙に紛れてしまっていたわけだが、──。

 

「こんどはね。ぼく。

 あのガイコツ男抜きで、空を飛べたんだ」

 

「ほう?」

 

 グインは思わずレムスの顔をまじまじと見つめた。

 レムスはちょっと得意げに、話を続ける。

 

 レムスによると。

 レムスは、ガイコツ男に追われたときのように魂が抜けだす感覚を、今回また覚え。

 前回同様、大空から世界を見下ろす体験ができたのだという。

 ただ今回は、なにひとつ劇的なことは起きなかった。ただはるかな高みから、渺渺(びょうびょう)たる海のひろがりを、ただみていただけ。

 

 それを経験したのは、昨晩のこと。

 しかしその少し前から、彼はこころを落ち着かせたとき、()()ができるかも、と感じたという。

 主に、真夜中。波の音がしずまった、静謐なひとときに。

 

()()ができる?」

 

「うーん、難しいんだけど。(オロイ)が、体から抜けるっていうか、離れるんだよ」

 

「ふむ」

 

 グインにはその感覚は良くわからなかったが、うなずいて先を促した。

 

「そして空を飛んだ、と?」

 

「うん、でもあれ以来、成功したのは昨日がはじめて」

 

 できそうだけどやり方がわからない、というもどかしい日々が続いたという。

 ただ、レムスは一人になると瞑想し、あの感じを思い出していた。それが実を結んだのかもしれない。

 

「魂を切り離す()()を、会得したのか」

 

「まだ、そういえるほど慣れたわけじゃないんだ。たまたま昨晩は成功したって感じ」

 

 肉体を離れ、夜の空に遊ぶといっても。

 空の高い場所に浮かぶ何者かの視点から、茫漠とした海をひたすら見ているだけ。

 その場所から、任意に動けるわけでも、視点の向きを変えられるわけでもない。

 その視点を操る主導権は、()()彼にはない、と彼は感じた。

 

「ただもしかすると、いつか動かせるようになるかも?って感じがしたんだ」

 

「そうか」

 

 グインは、レムスの体験談を頭の中で検討する。

 パロの王族は、常人にない能力を持っているものなのかもしれない。

 またグインの出所のわからない謎の知識にてらしても、空からみた情景はうなずけるものであった。

 おそらく本当にレムスは、そのような能力を持っているのだろう。

 異能ではあるが、その能力を育てることが特に悪いこととは思えない。

 

 ただ、肉体を離れた魂というのものが傷つきやすかったりするのなら、気をつけねばならないのだろうか。

 ──いや、そもそも魂などというものがあるのだろうか、と彼はわずかに疑問を覚えた。

 

「空からものをみることだけでも、並々ならぬことだと俺は思うが。

 思うままに視る場所を選ぶことができたりしたら、──大変な意味を持つだろうな。」

 ──ところでレムス。その間、そなたに危険はないか?また、その体験の間、ちゃんと休息は取れているのか?」

 

 戦士、将軍、為政者としての視点をなぜか持ち合わせるグインには、レムスの身体からの離脱体験が重要な軍事的、経済的な意味を持ちうることに気づいていた。

 しかし当面、双子の保護者としてのグインにとって気がかりなのは、レムスの安全と睡眠時間であった。

 

「うん。わからないけど、ガイコツ男みたいなのは今回は出なかった。

 そして休めたかってことだけど──ちょっぴり睡眠不足かも。

 体は、一応休めてると思うんだけどさ。なんか頭が眠れてない感じ?」

 

「まあ、それは仕方がないであろうな。

 その『魂を離す』状態が自分で決められるのであれば、あまり体を壊さぬよう、一定の間隔で行ってはどうかな。見張りもつけて。

 俺とイシュトヴァーンに云ってくれれば、できるだけのことに対応できよう。

 その魂の離れた状態で何かあっても、どう対応すればよいか、たとえば起こしてよいのかどうかも俺にはよくわからぬがな。少なくとも体の無事は請け合おう」

 

「うん、ありがとう!

 またイシュトも戻ってきたら、話さなきゃね」

 

「そうだな。俺からも簡単に云っておこう、心配しているかもしれぬからな。

 リンダには、話したのか?」

 

「ちょっと恥ずかしくてまだなんだけど、──そうだね、リンダも何か知ってるかも」

 

 レムスの様子には、会ったばかりのころのような姉に対する劣等感や翳りはない。

 どこかこの体験を楽しみにしている様子もあるが、グインは睡眠不足のこともあるし、副作用もあるかもしれないから今は慎重に、多用を避けるようにとくぎを刺した。

 

(リンダは、大予言者である巫女姫として重くみられていたというが。

 レムスは、姉に比べあまり注目されていなかったと聞く。本来ならば、第一の王位継承権者であるのに。

 ただ今回のこれも考えると、レムスも──本人が望むと望まざるとにかかわらず──なんらかの重要な役目を負わされているのかもしれぬな。

 ヤーンよ、彼の運命に光あらんことを)

 

 もう夜も遅いしからとそのあとすぐに寝つかせた、最近大人びてきたといえまだ幼げな面影を残す王子の横顔を見守りながら。

 グインは、そう思ったのだった。

 

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