魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
「何だったんだろうねさっきの人。一緒にお茶しない?って友達いないのかな?」
「……そうなんじゃないか」
呆れと面倒くささで適当な対応になる達也。今は厄介事を起こさせないために右手を達也、左手を深雪が繋いでいる。
「兄さん、兄さん、あの四角いのは何?」
「あれは─」
その後も街を探索しながら雪花の質問に答えていく。楽しそうに歩く雪花と若干お疲れ気味の達也、その横で深雪は少々不機嫌だった。
雪花は達也を兄さんと呼ぶ。いつの間にかそう呼ぶようになっていた。深雪としては達也が素晴らしい人間で兄としてこれ以上ないくらいの存在であるからそうなることは必然である、と思う。
しかし。
「ねえ雪花」
「何ですか?深雪さん」
雪花は達也を兄と呼ぶのに深雪を姉とは呼ばなかった。それどころが『知り合って間もない異性のクラスメイト』くらいの距離感なのだ。なんなら『ちょっと苦手な』が付くくらいの、だ。
ニッコリと笑顔を向けてみる。
ひっ、と明らかに怯えた声を出して深雪の手を離し達也の後ろに隠れる雪花。
「どうしてそんな大魔王でも見るような目で私を見てるんです!?」
深雪は涙目になりながらずっと我慢していた言葉を雪花に投げ掛けた。
たしかに当初、雪花にあまり良い気持ちは抱いていなかったかもしれない。でもそれは本当に最初だけ、雪花の姿を見るまでの話で、私たちはたしかに血が繋がっていて雪花は弟なんだ、と感じた今はむしろ可愛く思っている。猫ではないが撫でたりしてみたいとも。
だというのに、距離は縮まらない。なんだか避けられてるし、こちらから歩み寄ればそれだけ距離を空けられる。泣きたくもなる。
「だって怖いし」
達也の後ろから顔だけを出してそう言った雪花の顔は成る程、確かに怯えている。
「なっ何故です……お兄様!」
困った時のお兄様、とばかりに深雪は達也に雪花をなんとかしてくれるよう促した。
すがるような眼差しと共に、涙を浮かべて擦り寄って来た深雪を前にして、達也はため息を吐く。
「雪花」
「うっ、なんか威圧感あるんだよ。氷の女王様的な」
「こっ氷の女王様!?私はそんなに偉そうな態度をした覚えはありませんっ!」
泣きそうな声で深雪は否定する。
が、そのせいで雪花はますます怯え再び達也の後ろに隠れてしまう。
「深雪、雪花はきっと深雪の凛とした雰囲気からそう言っただけだろう。そう悪い方にだけ取ることはない」
達也の言葉に深雪は何かを思い付いたのか、少々お待ちを、と一声かけてどこかへと行ってしまう。
「怒ってる、怒ってるよ…うー氷像にはなりたくないっ」
「……お前は深雪をなんだと思っているんだ」
兄さんシールド!なんて言いながら深雪を見送った雪花の呟きにツッコミをいれる達也。
何がそこまで雪花を怯えさせるのか、まだ会ったのも二回目だというのにこの怯えようは少々異常だ。やはり初日に勘違いを正しておくべきだったか、と達也は後悔する。
「お待たせいたしました」
十分もしないうちに帰ってきた深雪の手には紙袋。深雪は早速その中身を取り出した。
「…これでどうです!もう私を氷の女王様とは思わないでしょう!」
ネコミミだった。白いネコミミ。それが深雪の頭にくっついていた。
無駄にリアルなそれは本物と大差なく毛の一本一本が作り込まれているのが分かる。ネコミミの付いたカチューシャであるとは思えない程だ。
可愛い。普段の深雪ならまずつけないようなものだが似合っている。
ただ、それは何か違うんじゃないか、と達也が危うく口に出しそうになったとき達也の後ろからヒョコッと顔が出てきた。その目は輝いており、先程までの怯えはない。
「これはプレゼントです」
深雪が雪花の頭にお揃いのネコミミカチューシャをつける。雪花は自分のネコミミをペタペタと触ると、おー!っと感嘆の声を上げた。
「すごい!本物のネコミミみたいだ!」
「ふふっ、面白いでしょう?」
「うん!ありがとう
機嫌良く笑っていた深雪の顔が固まった。
これは少し時間がかかりそうだ、と達也は頭を抑えて今日何度か目になるため息を吐いた。
まだまだ続く、この番外編。
次話はきちんと本編を投稿します。三月はどうも忙しい。四月も忙しいし明日は書き溜めしたい。
さて、明日も0時に投稿します。