魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
「駄目です!!」
引き金を引こうとした雪花の動きを止めたのはあずさの声だった。
「分かってるよあーたん、こいつらダメダメだよね」
雪花の無表情の中に明確な殺意があることにあずさは気がついた。だから叫んだ。それはやってはいけないことだから。それをさせたくはないから。
なのに雪花は止まらない。止められない。
首に掛けたチェーンを手繰り、襟元から路線ロケットを引っ張り出す。それをチェーンから引き抜き左手で握り込んだ。
このロケットはCADの基幹部分のみを組み込んだ、ただ一つ魔法の為の術式補助デバイス。一種類の起動式を記録し、出力する、ただそれだけの機能しか持たないが故にあらゆるシステムが省略され小型化されたものだ。
ロケットへサイオンを注ぎ込む。
情動干渉魔法『梓弓』。
澄んだ弦の音が雪花の動きを止める。
その音は幻聴だ。無意識の中で響く心の音。
「……落ち着きましたか?」
「…うん…ごめん」
雪花の顔に表情が戻った。CADをしまって申し訳なさそうな顔をしている。
『殺すならあずさに見えないところで殺るべきだった』、と。冷静になった雪花は考えて落ち込んだ。
「じゃあ正座してください」
「へ?」
「そこに正座してください」
あずさの言っている意味が分からない。言葉の意味が分からないのではなく、ここでそれをする意味が分からないのだ。
「いやあーたん、今そんな場合じゃなくて…これから事後処理とかあってね、ぼく忙しいしかなーなんて」
「雪花くん?」
いつものあずさにはない気迫を感じて雪花は無意識に早口になる。
「ほら、この人達いつまでも転がしておくわけにいかないでしょ?逃げた黒服の奴等も懲らしめないとだし」
実際のところ、もう黒服達は紗世によって処理されている。雪花がどうこうする必要はないのだが今はこの場から逃れるために言い訳が必要だった。
「雪花くん?」
「あれ、あーたんがNPCみたいになってる?はっ恐怖でおかしくなってしまったのか!これは大変だ、今すぐ病院に!いや、ぼく医者を呼んでくる!」
オチャメにこの場を去ろうとした雪花の肩に小さい手が置かれる。ギギギギッと錆びついたロボットのように後ろを振り向くと─
「
「見てこの完璧な正座!慣れてるからね正座!」
─笑顔のあずさがいた。雪花はその笑顔に姉の姿を見た気がした。
瞬間、自然と正座していた。
「やり過ぎです」
「でも、あいつらあーたん誘拐しようとしたし」
「命を奪うのはやり過ぎです。雪花くんが私のために怒ってくれるのは嬉しいですが、そのせいで人の命を奪うようなことはしてほしくないです」
今、あずさが泣いているのは自分のせい、自分が軽率だったから。
「そもそも、どうして学校に来ないんですか!?さっきの人達が関係しているのでしょう?私にも…私にも言って欲しかったです!役に立たなくても何も出来なくても知っていたかった!それに心配します。心配で心配で、毎日…そわそわしてしまいました」
もしかしたら自分は何も分かっていなかったかもしれない。あずさのことを考えているようで、自分のことしか考えていなかったのかもしれない。結局は自己満足だったのかもしれなかった。
「ごめん…あーたん」
「分かれば良いです」
頭の上に置かれた小さな手は温かくて。
あずさは満面の笑みだった。
「……明日は学校に来れるんですか?」
後の処理を沙世と
「……行くよ、必ず行く」
明日からは問題なく学校にいける。それは嘘ではなかった。あずさが狙われたのは敵にとって今日が
「なら、また明日です」
「うん、また明日」
小さく手を振って玄関から家に入っていくあずさを同じように手を振りながら見送った雪花は小さく呟いた。
「…なんかあーたん甘い匂いがしたなー」
雪花は明日がバレンタインデーであることをすっかり忘れていた。
だから勿論知るわけもない。
明日、とんでもない目にあうことなど。
ほのぼのしたい。そろそろ沙世さんしゃべらせたい。
予告していましたとおり明日から四日間旅行に行くため投稿できるかどうか分かりません。バレンタインデーから一気に盛り上がると思いますのでお楽しみに!二人が再会したりね!
旅行が終わったらまたほぼ毎日投稿に戻ります。
旅行中、投稿出来たとしたらやっぱり0時に投稿します。