魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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四日間も休んでしまい申し訳ない。

旅行中でも移動時間に書いて投稿できる…そう思っていた時期がぼくにもありました。
無理でした。落ち着いて執筆できる時間なんてありませんでした。
感想とか徐々に返していきます。


四葉真夜の目的と第三の可能性

「水波ちゃんただいまー…ってどうしたの?」

 

 

雪花が宿泊先のホテルの部屋へ戻ると、そこにはツインテールにした水波がいた。

 

 

「雪花様はこういうのが好みみたいなので」

 

 

くるっと回転してどうですか、とばかりにポーズを取る水波。心なし照れている様でほんのり顔が赤い。

 

 

「うん、可愛いよ。でも水波ちゃんはやっぱり三つ編みが一番可愛いと思うな」

 

「…そうですか」

 

「顔真っ赤だよ~?」

 

 

耳まで真っ赤にした水波はからかうような口調でそれを指摘した雪花の腹を無言で殴った。女の子とはいえ過酷な環境で訓練を積んだ女の子の拳だ。貧弱を絵に描いたような紙装甲である雪花はぬぼっ!?という謎言語を発しながらその場で蹲った。涙目になって呻き声を上げる雪花を無視して水波は髪を三つ編みにしていく。雪花がどうにか立ち直った時にはいつも通りの水波が澄ました顔でしれっとしていた。咎めるような視線を向けてもあまりこっち見ないでください、セクハラは犯罪ですよ、と言うような無言の圧力をかけられ雪花はこの件をなかったことにした。こうして一つの事件は握りつぶされたのである。

 

 

「それで、水波ちゃんの方は大丈夫だった?絶対にバレない自信がある、とか言ってたけど」

 

「…やはり四葉は優秀ですね、変装は見破られ襲撃されました。まあ返り討ちにしてやりましたが」

 

「そうなんだ、無事で良かったよ。でも一人でやろうとしないで少しでも無理そうならぼくか沙世さんに連絡してね」

 

「分かっています」

 

 

実際の所、水波を襲撃した四葉の部隊を撤退に追い込んだのはリーナだった。水波が魔法を使えることを見ていたリーナであったが水波にどうにも抜けている所があると思っていたリーナはついつい水波を守る形で襲撃者を撃退してしまったのだ。スターズの総隊長であることを隠している身としては実戦に慣れていることを悟られるわけにはいかなかったにも関わらずだ。とうにその正体を数人に看破されているとしても、正体を知られることは避けるべきことであり、軍人としてはあまり褒められた行為ではなかった。

 

 

「そうそう、明日からは学校に行くからちゃんと起こしてね。水波ちゃんも登校して大丈夫だから。手続き(・・・)は終わってると思うけど一応職員室で確認はしておいて」

 

 

「分かりました。でも、本当にこれで襲撃が無くなるんですか?四葉があそこまでした私たちを見逃すとは思えませんが」

 

「リスクとリターンの計算が出来ないほど四葉真夜は馬鹿じゃないし、アメ(・・)も用意した。それに四葉真夜がぼくらを追い回していたのには何か意味があったんだと思うよ。そもそもぼくを抹殺するために刺客を送るというのならもっと優秀な奴はいたはずだし、兄さんだっていたんだ。恐らく四葉真夜の目的は別にある。ぼくらが逃げ回ることで何らかの利益を得ることができるんだと思うよ。まあそれが何なのかは分からないけどね」

 

 

水波は考える。

四葉がどんな利益を得るのか、を。

雪花という強大な力を持つ魔法師を敵に回してまで得られる利益。本来ならば雪花は味方につけるべきなのだ。四葉真夜ならそうするはず。それをしなかった、いや出来なかったのかもしれない。雪花は過剰なまでに四葉真夜という存在を嫌悪していた。何か理由があるのかもしれないし何も理由はないのかもしれない。それを水波は知らないし知りたいとも思わなかった。重要なのは雪花が四葉に付く可能性は限りなく低いということ。

 

 

「久しぶりの学校か…あーたんがいなかったら間違いなくサボってたね、まああんまり行かないと退学になっちゃうんだけど。そういえばしーちゃんと交換で留学生が来てるんだっけ。怖くて兄さん姉さんと何の連絡も取り合ってないからまだどんな人なのか分からないんだよねー。ねえ水波ちゃんはどんな人だと思う?」

 

 

学校。中条あずさ。退学。留学生。兄、姉。

 

水波の中で全てが繋がった。

 

 

 

「金平糖の好きな金髪ツインテールじゃないですか?」

 

「なんでそんな具体的なのさ。まあそれだったら話も合うし仲良く出来そうだけど」

 

 

 

雪花が四葉に付く可能性は限りなく低い。しかしそれは四葉真夜が当主だからだ。次の当主はまず間違いなく司波深雪、そうすれば十中八九雪花は四葉の味方に付く。

 

しかしそれが覆る可能性が一つだけある。

 

 

『リーナは水波ちゃんと同じで家族だけど…それ以上に恩人なんだ』

 

 

アンジェリーナ・クドウ・シールズ。

彼女に付き四葉の敵、つまり九島に付く可能性。

四葉真夜は雪花を彼女に会わせたくなかったのだ。だから自分と雪花を追い回した。雪花を学校に行かせないために。四葉真夜の考えではそのまま退学させることを目的にしていたはずだ。二人を会わせないためにはそれが最善。しかしその必要がなくなった。

 

中条あずさ。

雪花の婚約者。彼女の存在によって雪花とリーナが恋仲となり四葉の敵に回ることはない、と四葉真夜は判断したのだろう。中条あずさは十指族の家系ではなく司波兄妹との仲も悪いわけではない。特異な魔法を持ち魔法師としても優秀だ。彼女が雪花の婚約者であることは都合が良かった。だから最後の襲撃になるであろう今日、これまで放っておいたあずさを襲わせた。雪花とあずさの仲を確かめるために。

 

 

四葉真夜の目的は雪花を敵に回さないこと。

だから雪花の両親や友人を狙うようなことはせず程ほどに襲撃を繰り返した。学校に行かせないために、二人を会わせないようにするために。つまり四葉真夜の狙いは利益を得ることではなく不利益を無くすこと。そしてその目的はほぼ達成されている。

 

 

「あーたんと久しぶりにイチャイチャしてやる!今日はお怒り気味で仲良く出来なかったからね」

 

「そうですか」

 

 

雪花とリーナが結ばれないこと。それが四葉真夜の目的のために必要だった。

 

 

「じゃあ今夜は私の抱き枕になってください、お兄ちゃん」

 

「じゃあ、の意味が分からないよ!?」

 

 

 

なら、その相手は中条あずさでなくても良いはずだ。

リーナでもあずさでもない第三の可能性(・・・・・・)があっても良いはずなのだ。

 

 

「好きですよ、お兄ちゃん」

 

「今日は寒いから仕方ないよね!二人で寝ても!」

 

 

 

水波はその日、いつもより強く雪花を抱き締めた。




水波ちゃん、参戦。
次話からバレンタインデーに入ります。

さて、明日も0時に投稿します。

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