魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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大変長らくお待たせいたしましたが…約百話、ついにこの時がやってきました!


アンジェリーナ・クドウ・シールズと雪花

迷いに迷った末にどうにか生徒会室にたどり着いた雪花はどうせなら驚かせてやろう、とインターフォンを押さずに勝手にロックを外して中に入る。

 

 

「はいはーい雪花くん登場!」

 

 

ポーズを決めてそう宣言すると、ガタッと椅子の倒れる音が聞こえた。

 

 

「「「雪花(くん)!?」」」

 

 

重なる三人の声。

 

 

「えっあれっ?本物?本物のセッカ?」

 

「…リーナ?」

 

 

雪花はリーナが日本の、それもすぐ近くに来ているであろうことを知っていた。そしてそれがUSNA軍関連の何かであることも。

 

 

「触れる…嘘…だって…でも」

 

 

やられるがままに頬をむにむにされながら雪花は目の前の人物を見つめる。一目で分かった。見間違えるわけもない。リーナだ。制服を着ている、この学校の生徒であろう。頭の中で様々な情報が飛び交い一つの答えを出した。雫と交換で一校にやってきた留学生。それがリーナであると。

 

 

「…セッカ……セッカ」

 

 

USNAに比べれば小さな国とはいえ国は国。その中から一人の人間と偶然再会出来るなどとありえない話、そう考えていた。微塵も期待していなかったわけではない。会いたいと思っていなかったわけでもない。しかし、リーナはその気持ちとは裏腹に今の自分を見せたくないとも思っていた。会いたくないと、心のどこかで思っていた。

 

血に染まり、汚れてしまった自分を雪花に見せたくはなかった。国のため、と元仲間を処刑し今もその任を受けてこの場にいる自分を雪花には。誇りがないわけではない。スターズの総隊長として、アンジー・シリウスとして、何より今までに処刑してきた仲間の命。それらに賭けて自分が間違ったことをしたとも思っていない。思うことは許されない。

 

記憶の中の優しい笑顔を踏みにじってしまうような気がした。だから雪花に会いに行くようなことはなかった。居場所を調べることは簡単だっただろう。軍の力を使えば人一人の居場所を調べることくらいわけはない。会いに行こうとすれば軍から何か言われたかもしれない、止められたかもしれない、しかし言い訳はあった。会いに行こうと思えばいけた。それでもしなかった。

 

会いたい、会いたくない。

今の成長した自分を見せたい、今の血で染まった自分を見せたくはない。

 

リーナには二つの思いがあった。

 

だから、偶然に奇跡に任せることにした。それは逃げだったのかもしれない。確率は限りなく低くリーナ自身、諦めていただろう。

 

しかし、それは叶えられた。

 

目の前には雪花がいる。

話したいことが沢山あった。それこそ一日じゃとても話しきれないくらい沢山のことが。

なのに言葉がでない。どうしたらいいのか分からない。そこに雪花がいるのに、何もできない。

 

 

「久しぶり」

 

 

でも始めにやってほしいことは一つだった。別れたときも、雪花がやっと自分に心を開いてくれた時も、そうしてお互いに相手の温かさを確認したのだ。

 

 

「うん、久しぶり」

 

 

ただぎゅっと抱き締めてもらいたかった。そうすることで初めて雪花がそこにいるだと実感できた。

温かく心地よい。このままいつまでもこうしてゆっくり時間が流れていけばいいのに、とそんな風に考えてしまうほどに。

 

 

「雪花?」「雪花くん?」

 

 

ただこの場にいるのは二人だけではなかった。

 

 

「いつまで抱き合っている気かしら?」

 

「雪花くん、自分から抱きつきましたよね?…あれ?これは浮気でしょうか、そうなんでしょうか?だとしたらどうするべきなんでしょうか?」

 

 

雪花が震えている。それは恐らくこの凍てつくような寒さのせいだけではないだろう。

あずさの声をリーナは半分も聞き取れていなかったが、いつものぽやぽやとした空気はどこへやら、光のない目でこちらをみてくる姿には恐怖を感じずにはいられない。

 

 

「こ、これは二人にとって儀式というか、通過儀礼と言いますか、なくてはならないアレなわけで」

 

 

この二人から守らなくては。そうリーナは本能で感じとり雪花を背に隠した。

 

 

「リーナ、そこをどいてくれないかしら?」

 

「それは出来ないわね」

 

 

一触即発。いつかの夜のように二人はお互いを威圧する。

 

 

「雪花くん、お話しましょうか。ほらここにはお茶と軽食もありますし、ゆっくりとお話しましょう」

 

 

リーナは深雪と雪花、あずさと雪花の関係を知らず、深雪はリーナと雪花、あずさと雪花の関係を知らず、あずさはリーナと雪花の関係を知らない。しかし三人とも共通してある認識を抱いていた。

 

 

─こいつは敵だ。

 

 

殺伐とした空気。

何が起きているのか全く分からないほのかは怯えてしまい椅子の後ろに隠れた。同じく何も分からない五十里は止めに入ろうとすることを諦め傍観に徹する。正し本当に危険な事態になればいつでも止めに入れるように準備だけはしていた。自分にこの三人を止められるとは思っていない。だとしても冷静に戻すことくらいはできるはずだ、と五十里は考えていた。

 

 

そんな状況。言うならば特大のトラブルの中に彼が現れないはずはなかった。巻き込まれないわけがなかった。この世界の主人公たる彼が居合わせないはずがなかったのだ。

 

 

「あー風紀委員としての職務を全うした方が良い状況ですか?」

 

 

司波達也が開けっぱなしだったドアから入ってきた。微妙な顔、いや失敗したというのが顔に出ている。

 

 

「…そうならないことを祈っているところだよ 」

 

 

五十里の言葉に達也はため息を吐いた。




やっと再会です。長かった。ヒロインが空気になっちゃうくらい長かった。
ここまできたのかー、とちょっと感動です。

さて、明日も0時に投稿します。

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