魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
久しぶりのリーナ視点。
雪花の家から車で送ってもらった後、達也に
脱走者の追跡、処分を一時棚上げし、当初の任務への復帰、つまり『質量・エネルギー変換魔法』の術式もしくは使用者の確保が最優先の任務となったのだ。そして達也をターゲットと仮定し第一波として今日、
以前なら、雪花に再会する前の私なら何も迷うことはなかっただろう。それどころが、あの男に与えられた屈辱、あの敗北に雪辱してやる!っと意気込んで任務に挑むことができたはずだ。
でも、私は知ってしまった。
達也と雪花が血の繋がった兄弟であることを。
雪花は兄のことを慕っている。達也は頭も良いし、体術にも優れ、魔法にも精通している、およそ弱点の見当たらないような人間だ。嫌な奴ではあるけど、その辺は私も認めてる。雪花が慕うのもまあ仕方がないのかもしれない。
そんな慕っている兄が、酷いことに、例えば─死んでしまうようなことがあれば雪花は悲しむだろう。そしてそれをやったのが私だと知れば雪花は私を嫌いになる。
そこまで考えて、いつもは箱に入れて大事にしまってある指輪を握りしめた。雪花からもらった、大切な指輪。約束の指輪。
『じゃあセッカはずっと私のそばに居てくれる?』
『それは無理だよ。でもリーナがどうしても辛くなってもう涙が溢れそうになったときぼくを呼んで。ぼくは必ず君に会いに行くよ。そしてこうして抱き締めてまた優しくて明るいリーナに戻ってもらう』
涙が溢れそうな時は何回もあった。辛いときも悲しいときも沢山あった。それでも私は雪花を呼ばなかった。きっと呼んだら本当に雪花は会いに来てくれただろう。抱き締めて、慰めてくれたに違いない。でも、そうはしなかった。涙をプライドで押し留め、寂しさを思い出で封じた。
強く、なりたかったから。
雪花は私の前だと強くあろうとする。兄であろうとする。私を守ろうとする。
でも本当に守らなくてはいけないのは雪花だと思った。誰かが支えてあげないと、包んであげないと、一緒にいてあげないと、壊れてしまいそうな、消えてしまいそうな、そんな気がした。
だから、私が強くなって雪花を守る。そう決意した。
初めて雪花に会った時、なんて悲しい目をしているんだろう、と思った。でも、そのことに誰も気がついている様子がない。私だけが気がついた。雪花が助けを求めていることに。苦しんでいることに。
『なんだか胸が苦しいんだ、それに涙が止まらない』
毎日、毎日、雪花に会いに行って、やっと聞けたその言葉。
ぎゅっと抱き締めた。そうしないといけない気がしたから。
それから少しずつ雪花は元気になっていった。雪花が悲しくならないように夜寝る前はぎゅっとする習慣をつけた。ちょっと嘘を教えちゃったけど雪花は疑うこともなく毎日それを繰り返した。そのうちメイド達まで抱きつくようになったのは誤算だったけど。
元気にはなった。明るくはなった。でも、きっと雪花はまだ心に傷を負ってる。そしてそれは今も…。
再会したとき、雪花はちょっと子供っぽくなっていた。年齢を重ねて成長したはずなのに、幼く感じた。姿形はほとんど変わっておらず、ちっちゃくて可愛い雪花のままだったけど、そう感じたのだ。
きっとそれは『家族』のおかげだと思う。雪花は私たちを『家族』だと言うけれど、本当の父、本当の母から注がれる愛はやっぱり違うと思うから。
そして、兄と姉。
弟になったことでより一層雪花は幼くなったのだろう。頼れる二人は心を許せる相手だったはずだ。
『家族』の存在が雪花の心に余裕を与えたことだろう。良いことだと思う。雪花は幸せなんだと思う。
その幸せを私は壊そうとしている。守りたかったはずのものを自分の手で。
今の私はアンジェリーナ・クドウ・シールズというだけでなく、アンジー・シリウスでもある。
こんなことは、考えてはいけないことなのかもしれない。
『シリウス少佐、こちらは任務を開始する。貴官は自己の判断で適時介入せよ』
バランス大佐からの通信。
アンジェリーナ・クドウ・シールズとしての私。アンジー・シリウスとしての私。頭の中に二人の私が現れる。
そしてそれ以外に沢山の人の顔。
守りたかった雪花。
達也、深雪のようにこの日本で出会った人々。
ベン、シルヴィのように共に仕事をするスターズのメンバー。
─この手で処刑してきたかつての仲間達。
「…了解」
─私はもう引き返せない。
今の私はアンジー・シリウス。
戦略級魔法師、十二使徒の一人、USNA軍の魔法師部隊スターズの総隊長。
─任務を遂行する。
しばらくはシリアスかなーっと思います。
斉藤ピクシーさんのおかげでコメディーは大分補給できたのでシリアスも頑張れます。ありがとう斉藤さん。
さて、明日も0時に投稿します。