魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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アンジー・シリウスVS司波達也

今、私はパレードの効果を外見の変更に止め、座標情報の書き換えは行っていない。勿論、油断しているわけではなく、単に余裕がないだけだ。座標情報を書き換える為に必要な魔法力を確保できないのである。

 

 

戦略級魔法『ヘビィ・メタル・バースト』。

 

 

この魔法を使って、達也に負けるわけにはいかない。負けてはならない。

 

ぎゅっとブリオネイクを握る。

ブリオネイクは私の為に製作された携行兵器で、その威力は最大で戦艦の主砲に匹敵する。

 

『ヘビィ・メタル・バースト』とブリオネイク。この二つが揃って初めて、本当の意味でのアンジー・シリウスは完成する。

 

 

「タツヤ、ノコノコついて来るとは思わなかったわ」

 

 

一見、灯りが隈無く街を照らしているように思えるこの街にも、フッと光が途切れている箇所がある。街の灯りの狭間、私が達也を誘い込んだのはそんな公園だった。といっても名ばかりの公園で空き地のようなものだ。生け垣は手入れされているけど、遊具もベンチもない、街灯も申し訳程度にしか配置されていない何もない公園。この場所には達也と私の二人だけ。ヘビィ・メタル・バーストは私にとっても高度な術式。今は外見の変更すら行っていないのだ。

魔法同士の干渉を避けるため、私、単独の方が良い。

 

 

「しつこくつきまとわれるのは迷惑だからな」

 

 

人を食った回答に私は意識して酷薄な笑みを浮かべた。

 

 

「自信家ね。でも今回ばかりは自惚れ過ぎよ」

 

 

ブリオネイクを達也へ向ける。

 

 

「タツヤ、投降しなさい。アナタがどんな手段で魔法を無効化しているのか知らないけど、このブリオネイクを無効化することはできないわ」

 

 

うっかり回答に時限を設けるのを忘れていたとはいえ、投降勧告に対する無回答は慣習上、拒絶を意味する。

残念だわ、達也。せめておとなしく投降してくれることを願っていたのに。

 

 

ブリオネイクの先端が煌めく。

細く絞り込まれた光線は達也の右腕を掠め、肘から先を炭化させ消し飛ばす。そのまま衝撃で達也は背後の生け垣に投げ出された。いや、自ら飛び込んだのだろう。

 

私はブリオネイクを長物のように構えて突進する。間合いを詰め、生け垣に向けて水平に振り回す。

生木は燃え散るも、その後ろの達也にはプラズマは届いていなかった。右肩を押さえ右半身を後ろに隠し、方膝をついている。痛みに対する耐性が高いのだろう、表情一つ変えていない。対拷問訓練を積んでいる特殊な兵士には珍しいことではない。

 

杖の中で再度、魔法式を瞬間発動させる。

魔法によって作り出された高エネルギープラズマという事象が、それを包む容器の中で、私の意思によって形を変える。

それをはなさき鼻先に突きつけられても、達也の表情は変わらない。

 

 

「FAE理論を実用化していたとは…世界の、物理法則の影響を遮断する結界容器の中で魔法を実行することによって、物理法則が作用するまでのタイムラグを引き延ばすとはね。素直に称賛しよう。潔く脱帽しよう。そのブリオネイクを作った人物は、本物の天才だ」

 

「タツヤ!」

 

思わず、達也の言葉に聞き入ってしまっていた。失われていく戦意を無理矢理奮い立たせるように、あえて大きな声を上げた。

 

 

「もう一度言うわ。投降しなさい!片腕では得意の武術も使えない。もうアナタに勝ち目はないわ!」

 

達也は酷薄な笑みを浮かべた。それはついさっきの私の笑みを鏡写しにしたような笑み。

 

非人間的なゾッとする笑みだった。

 

 

「俺を捕らえて何がしたい?人体実験か?アイツら、スターダストのように?」

 

 

聞かない。耳を貸すな。

強くブリオネイクを握る。

 

 

「当たり前だが……モルモットになるのはお断りだ」

 

「だったら動けなくして連れていくまでよ!」

 

 

ブリオネイクの先端を、至近距離で、方膝立ちの足に向ける。

 

 

─終わりよ!

 

─ごめん、雪花。

 

 

この時、私にあったのは二つの思い。

でもそれとは別に一つ、確信があった。心のどこかで勝利を確信してしまっていた。

 

油断。

勝利の確信がそれを生んでしまったことを誰が否定できようか。

 

 

─ブリオネイクの筒先に銀色のCADがねじ込まれた。




リーナと達也の戦い。千葉修次さんのシーンはカットするか迷い中です。

さて、明日も0時に投稿します。

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