魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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教えてピクシー②

「達也くん、チョッといい?」

 

「話を聞くのは構わないから、そう殺気立たないでくれ」

 

 

ハリネズミですか、というような刺々しい気配を纏ったエーちゃんがいい感じのタイミングで入ってきた。ピクシーが危なかったので助かった。

 

 

「あっゴメンなさい」

 

 

本人は意識していなかったようで、兄さんの指摘を受け、恥ずかしそうに顔を赤らめている。きっとこれから話そうとしていることに意識が占められていたんだろう。そんなエーちゃんに兄さんは苦笑いを無理矢理押し止めたみたいな微妙な顔をして、ピクシーにドアの鍵を閉めさせる。椅子から立ち上がって待機しているピクシーの横に姉さんが移動したのは見張りのためだろう。変な発言をさせないための。うん、正解だ。

 

 

「話っていうのは…昨日の晩、ウチの兄が醜態を晒した件よ。相手は誰なの?」

 

 

良く話が理解できないけど、昨日、エーちゃんの兄が何やら、やらかしたらしい。どっちの兄さんかは分からない。何かエーちゃんって姉さんと同じ匂いがするよね、こうお兄様大好き!って感じ。まあエーちゃんはツンデレさんだから、兄上のことなんて好きじゃないんだからねっ!勘違いしないでよねっ!って感じか。

 

 

「USNA軍、スターズ総隊長、アンジー・シリウス」

 

 

兄さんの端的で、あっさりとした回答はどこか、他人事として聞いていたぼくを一気に覚醒させた。えっリーナさん何してんの。いや任務だったんだろうけど。

 

 

「で、それを聞いてどうするんだ?」

 

「そんなの……決まってるじゃない」

 

「どう決まっているのか、大体分かる気はするが……止めておけ、エリカ」

 

「あたしじゃ無理だって言いたいの?」

 

 

怒気、意識的に放出したであろうエーちゃんのそれは武人なだけあって迫力がある。けど、兄さんは眉一つ動かさずに受け止めた。

 

 

「無理だな、実力的にじゃなくて、結果的に」

 

「……どういうこと?」

 

 

エーちゃんの怒気は訝しさに変わった。ただ顔は怖い。女の子がそんな顔しちゃいけません!

 

 

「今朝のニュース、USNAの小型戦艦が漂流していたニュースは見たか?」

 

「アレね……まさかっ?」

 

「おそらく『シリウス』も、もう出てこない。ほじくり返しても、お互いに良いことは無いと思うぞ」

 

 

兄さんのアドバイスにエーちゃんはマジマジと化物でも見るような目で兄さんを見詰めた。

…何か後ろの方で『私、完全放置…放置プレイ…良い!深雪様もそう思いませんか?』『静かにしていてください!ロボットに言うことではないかもしれませんが、少しは空気を読んでください!』『そんな機能はありません、キリッ』というような会話が聞こえた気がしたけど無視だ。このシリアスな場面でそんな会話が聞こえてくるわけがない。幻聴か。疲れてるな。

 

 

「貴方……何者なの……?あんな事、少なくともウチには……千葉には、無理だわ…いえ、ウチだけじゃない。五十里だって、千代田だって、十三束だって、きっと無理。何をどうしたのか知らないけど、あんな結果が出せるのは十師族の、それも……特に力を持っている一族、首都圏を地盤にしているか、地域に関係なく活動出来る家」

 

「エリカ、もう止せ」

 

「北陸が地盤の一条は除くとして……七草か、十文字。あるいは……四葉。達也くん、貴方まさか」

 

「止せと言った」

 

「っ!」

 

 

声を荒げたわけじゃない。声の調子や大きさではなく、そこに込められた意思が、エーちゃんに沈黙を強制した。

 

 

『きゃー格好良い!声に込められた意思が私に向けられていたらと思うと……ゾクゾクします…濡れま『雪花!ちょっとこっちに来てコレをどうにかしてください!』』

 

 

何も聞こえなかった。けど、そっと魔法でこちらに声が届かないようにしておく。これで兄さん達のシリアスは保たれるだろう。いや何も聞こえなかったけどね?

 

 

 

「それ以上は、お互いにとって不愉快なことになる」

 

「……ゴメン」

 

「分かってくれれば良いさ」

 

 

越えてはいけない境界線。ぼくですら四葉と関わり合いになるまでは知らないふりをしていた真実。それを口にしてしまえば、今の関係はなくなる。エーちゃんも悟ったはずだ。真実に気がついたなら、自分が今、いかに危うかったのかを。

 

 

「エリカ、シリウスが誰かなんて詮索しても、もう誰も特をしない。だから、その件は御仕舞いにしよう」

 

「……そうね」

 

 

兄さんが話をすり替えたのはエーちゃんのためだろう。それが分かったからエーちゃんは提案に抗わず頷いた。

その後、エーちゃんはパラサイトの残党について、話し、隠し事なしで協力する旨を伝えるとエーちゃんは部屋を出ていった。

さて。

 

 

「あっ、ぼくエーちゃんに伝えることあったんだったよ。ちょっと行ってくるね」

 

 

ぼくにピクシーを指差して何やら口をパクパクさせている姉さんをスルーして、ぼくは部屋を出た。何も聞こえなかったから仕方ない。

 

 

 

 

 

「エーちゃん、ちょっと良い?」

 

 

ぼくの声に一瞬、ビクッと背中を震わせたが、振り返ったエーちゃんはいつも通りに見えた。

 

 

「…あんたも知ってたの?」

 

「知ってたよ、と言ってもぼくにそっちの血は入ってない。兄さん達とは血が半分しか繋がっていないからね」

 

 

ぼくの答えにエーちゃんは唖然としていた。思えばこの事実を知る人間は身内以外いなかっただろう。四葉によって巧妙に隠されているのだから当然か、USNAでさえ暴けなかったようだし。

 

 

「まっそっち(・・・)の話はお互いに不利益しかないからこれ以上止めとくよ。それにぼくはエーちゃんに用があったから追いかけてきたわけだし」

 

「用?」

 

 

速さ、という面でぼくがエーちゃんに優っているわけがない。そもそもぼくに武術の心得はない。ハゲの所で修行させられそうになったときもパレードまで使って脱走したくらいだ、当然、鍛練なんてしていない。

 

 

「……どういうつもり?」

 

 

それでも、ぼくはエーちゃんの喉元に小刀に変形したCADを突きつけていた。エーちゃんの手には武装一体型CADである警棒っぽいものが握られているがそれだけだ。ぼくがエーちゃんに近づき、CADを突きつけられるまでにエーちゃんはCADを取り出すことしか出来なかった。幻想眼で完全な隙を突いて、魔法で加速した結果だ。まあ、エーちゃんの精神状態が正常だったら無理だったかもしれないけど。

 

 

 

「ただの警告だよ。無いとは思うけど…アンジー・シリウスを、害するようなことはしちゃ駄目だよ」

 

「なんで…それをあんたが?」

 

「エーちゃん、君は気にせず頷いてくれれば良いんだ。じゃないと……ぼくはとっても悲しい思いをすることになる…だから、ね?」

 

 

にっこりとぼくが笑うと、エーちゃんは頷いた。

 

 

 

「…あんた、本当にそっち(・・・)の血は入ってないの?」

 

 

エーちゃんが怒っているというか、呆れているというか、そんな微妙な顔で言った。

 

 

「入ってたら、こんな良い子に育たないよ」

 

 

ぼくは飛びきりの笑顔でそう答えた。




シリアス…?ピクシーのせいで場が乱れてギャグになる。

さて、明日も0時に投稿します。

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