魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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忠告

着替えのため、一旦ほののんの借りている賃貸マンションによってから、ぼくたちはキャビネットに乗り込んだ。

 

 

「お兄様、これからどちらへ向かわれるのですか?」

 

「青山霊園だ」

 

 

ほののんが顔を引きつらせた。こんな時間に霊園に行くとなれば女の子として当然の反応だろう。うん、そんなほののんのためにぼくは言わなければならない。

 

 

「よし、帰ろう」

 

「却下だ」

 

「兄さん、この時間じゃもう閉園しているんだよ、行くだけ無駄なんだよ」

 

「中には入れないだろうな、だがそれならそれで構わないんだ。近くにいれば向こうから出てくる。そのためにピクシーを連れていくんだから」

 

 

ピクシーを訊問した兄さんは、他のパラサイトは今のピクシーの在り方を許容しないだろうと考えている。それはピクシーが変態だからというわけではなく、生命体として歩調を合わせている他の個体にとって、自己増殖の欲求を失ったピクシーは外れてしまった存在だからだ。自己防衛と種族維持、この二つの基本衝動に支配されており個体数が極めて少数のパラサイトは、ロボットの中にいる仲間を取り戻そうとするだろう。

 

 

「雪花…もしかして怖いの?」

 

「ああ、そういえば雪花はこういうのが苦手だったな」

 

「ちゃっちゃうわー!別にビビってなし?お化けとか全然大丈夫だし?むしろ食べちゃうし?」

 

「そうか、なら問題ないな」

 

 

嘘です。超苦手です。だってぼく自身が転生というものを経験している以上、そういうのがいてもおかしくないじゃん!絶対いるよ幽霊!幻想眼でも見えないけど、それが余計に怖い。嫌だよー行きたくないよー。

 

 

「ピクシーは怖くないの?」

 

「キャー怖い、と言いながら達也様に抱きつく所までは妄想しました」

 

 

全然怖くないんですね、分かります。

でも今回は頼りになるので良しとする。ツッコミはなしだ。

 

 

「着いたらさ、手…繋いでも良い?本当はぼく、怖い」

 

 

兄さん達には怖くないと宣言した手前、頼めないのでこっそりピクシーに頼んだ。今から恐くてちょっと涙目である。

 

 

 

「ぐはっ!雪花たんが私を萌え殺しにくる件について」

 

「ピクシー?」

 

「あっ繋いでも良いですよ、大歓迎です」

 

 

 

ピクシーの意味不明な言動も今は気にならない。来るなら来いよ、幽霊!この変態を前にどこまでやれるかな!到着までの間、もしも幽霊が出てきた時のためにピクシーを盾にするイメトレをすることにした。

 

 

 

 

夜もすっかり更けた、人が急に訪問してくるには些か遅い時間、バランス大佐が滞在している大使館が用意した週契約家具付き賃貸マンションに面会を求めて訪れたのは四葉家のエージェントだった。バランスがここに滞在していることは秘密にされており、部外者がここに会いに来るということは、USNA軍の情報封鎖を突破したということであり、バランスは多少の緊張に身を強ばらせたが、ドアホンのモニター映像を見て完全にフリーズした。そこに映っていたのはクラシックなドレス姿の、可憐な少女だったからだ。ボディガードを二人、連れているようだが、おそらくはミドルティーンの少女がこの場にいるという状況に、現実感が侵食されていくのを止められない。

 

日本の、四葉。

魔法に関わる者にとって、特に魔法の軍事利用に関わっている者にもって、ある種の不可侵領域(アンタッチャブル)

その四葉からのお願い(・・・)はシンプルに一つ。

 

日本の非公開戦略級魔法師に関する調査とその確保、または無効化作戦を中止すること。

 

 

遠慮のない要求にバランスは了承した。

提示されたアメ(・・)はそれほど美味しいものだったのである。ムチという名の脅しが痛かったのもあるが、決めてはそれだろう。

 

四葉との個人的なコネクション。

軍内部で強力な武器となるアメにバランスは了承へと踏み切った。

 

 

「最後に一つ、四葉家当主から貴女へ伝言を預かっております」

 

 

黒羽亜夜子と名乗った少女が契約書にサインを終えたバランスに言う。

バランスは四葉家当主、という言葉に身を固くし、心なし姿勢を正した。

 

 

「アンジー・シリウスを軍から遠ざけ、今後一切干渉を避けることをおすすめします…とのことです」

 

「どういう…ことだ?シリウスはスターズの最大戦力、手放せるわけがない」

 

「さあ?私はただのメッセンジャーですから、当主様の心の内は分かりません…ただ」

 

 

婉然と亜夜子は微笑む。

 

 

「当主様は何か起きると確信を持っているようでしたよ?珍しいくらいの上機嫌でしたし」

 

 

亜夜子の言葉を聞いたところでバランスの意思は変わらなかった。アンジー・シリウスを手放すわけにはいかない。それは当然の考えだったのかもしれない。

 

しかし、この時がバランスにとって最後のチャンスだった。

 

その事をバランスが知るのは少し後のことである。




雪花くんはおばけが苦手です。怖い話とかも駄目です。

伏線追加。回収はしばらく先になりそうです。

四月中は毎日投稿が難しそうなので次回予告はしないでおきますが、なるべく毎日投稿できるように頑張ります。

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