魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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奥の奥の言葉

アンジェリーナ・クドウ・シールズは自分の魔法技能に絶対の自信を持っている。体術で、操縦で、知識で、他の何で負けても魔法でだけは負けたことがなかった…ただ一人を除いて。彼女の幼馴染みであり、家族であり、兄であり、弟であり、友人である、雪花を除いては。

 

雪花は天才だった。否、化物だった、人外だった。

 

リーナが何度も訓練し、苦労して得た魔法を、雪花は見ただけで覚えた。それも、かなりの精度で。

雪花は収束系魔法と精神干渉系の魔法に大きな適正を持っていたが、「魔法使いっぽいから」という理由で本人は派手な魔法を好んだ。自分が得意気に見せた魔法を次の瞬間にはさらに高い精度で真似されるなんてこともあって、幼きリーナはへこんだりした。

 

 

嫉妬したこともある。それが妬みから恨みに変わらなかったのは相手が雪花だったからなのだろう。リーナは雪花の才能がまるで自分のことのように嬉しかった。そしてそれに追い付こうと、努力を重ねた。

 

 

努力の末に辿り着いた、『シリウス』という地位。

スターズの総隊長にして、世界最強の実戦魔法師という肩書き。

 

当然、USNAにおいて、こと魔法に関しては決して負けなかった。

 

最強だったのだ。

 

この、日本に来るまでは。司波兄妹に出会うまでは。

深雪との一騎打ち、不利な条件だったとはいえ正面から戦った。そして敗北し、雪辱を誓い、闘志を燃やした。自分より上がいることは知っていた。同年代で自分より上がいることも。それでもなお、敗北というものがリーナにもたらしたものは大きい。自分を見つめ直し、魔法技能のさらなる向上をもたらしたことだろう。

 

司波兄弟の弟が雪花だということを知らないままでいたのなら。

 

 

揺らいだ、迷った。

それでも全てを断ち切って、アンジー・シリウスとして任務を遂行することを選んだ。戦術魔法兵器ブリオネイクまで使用して、一対一の状況に引きずり込んで、有利な状況での戦いだった。

 

負けるわけがなかった、負けるはずがなかった、負けてはいけなかった。なのに、結果は完敗。

 

負けた、それはつまりリーナが達也よりも弱いということだ。少なくともリーナはそう考えた。

 

達也は自分より強く、深雪も自分より強い。そんな二人に庇護されている雪花に私は必要なのだろうか。

 

 

アンジー・シリウスの存在意義を揺るがす程の敗北も、アンジェリーナ・クドウ・シールズにとって優先される思いはそれだった。

 

 

シリウスの看板は、最強の肩書きは、リーナが力を求めた結果、ついてきたものに過ぎない。

そして、彼女が力を求めたのはただ一人を守りたかったからだ。が、そのただ一人は既に自分より強い者に守られている。幸せを掴んでいる。

自分はただ、それを壊そうとしただけ。

 

 

全て、無意味だった。

 

アンジェリーナ・クドウ・シールズが積み上げてきたものは全て、既に雪花は必要としていなかった。

 

 

もうどうでも良くなった。

 

 

自分に残ったのは、ガタガタのシリウスの称号(コード)と、処刑任務を達成する度に大きくなっていく胸を締め付ける痛みと、こうして、それでも処刑を繰り返さなくてはならない、義務だけだった。

 

 

頭に響く警報。

立ち塞がった兵士を行動不能にする。

目の前には複雑な紋様がビッシリと刻まれた扉。

大ぶりのナイフを四度振るうと、扉は廊下へ向かって倒れた。

扉の向こうは小さな部屋。

 

 

そこに今回の任務の対象、パラサイトに犯された元USNA軍所属の魔法師がいるはずだった。そこでまた、一つの任務を終え、空っぽのアンジー・シリウスは、罪の痛みを忘れ、色のない、空虚な朝を迎えるはずだった。

 

 

『残念ながら、パラサイトは既にここから運び出した』

 

 

 

何もない部屋にいつか見た白い仮装をした人間がいた。『白い悪夢(ホワイト・ナイトメア)』と呼ばれる、目的も素性も分からない謎の人物。

 

 

『ある人物の話をしよう。その人物はとてもがんばり屋で優しくて明るくて、星のように輝く笑顔でこっちまで笑顔にしてしまうような、そんな少女だった』

 

 

ここに対象がいないと分かった時点で、対象の情報を知っているであろうこの人物から情報を聞き出すべく、行動不能にするか、その場で尋問するか、それが困難なら撤退をするべき状況。

リーナはしかし、その場を動けなかった。力なく握った自動拳銃を下ろしたまま、立ち尽くす。

 

 

 

『はたしてその少女が、自分の持つ力に怯え、涙を流す、そんな少女が、今、銃を持ち、人の命を奪うことに何の躊躇いもなく、また、何の感情もなく、苦しまず悲しまず、その引き金を引けるのだろうか?』

 

 

ズキズキと、どこの誰とも知らない人間の言葉に胸が痛む。

 

 

『そんなわけがない。苦しい、悲しい、辛い。

あったはずだ、そんな感情に押し潰されそうになって、それでも涙を堪えた日が、自分を責めて罪を課して傷ついた日が、その少女には……キミにはあったはずだ』

 

 

白い悪夢(ホワイト・ナイトメア)』が白い仮面に手をかける。

リーナは動けない。それどころが、仮装行列を解き、その素顔を小さな仮面で覆い隠すだけでほとんど晒していた。

 

 

「頑張った。凄く頑張った。世界中の何人が、誰が、否定しようと、君自身が否定しようと、ぼくが肯定する。だから、もう─自分を許してあげよう」

 

 

雪花がいた。

 

 

ぎゅっと抱き締められ言葉を聞くと、頬を涙が伝った。自分より小さいそれは、心を包み込んで癒し、溜め込んでいた涙を、吐き出させる。

決して、心の中でさえ、言葉にすることのなかった、思ってはいけないと、考えてはいけないと、仕舞い込んで、押し込んで、鍵をかけていた、そんな言葉が、少女の口から、紡がれた。

 

 

 

「…助けて」

 

「任せろ」

 

 

 

一人の少年は、ただ一人の少女のために、

 

 

躊躇いも、恐れもなく、ただ、涌き出る感情のままに、

 

 

一国を敵に回した。

 

 

 

かつて、ただ一人の少女の復讐のために、一国を滅ぼした、とある一族のように。




ここから一気に原作から外れていきます。今までばらまいてきた伏線の回収もあるはずなので、どこが伏線なのか探してみてくれちゃったりすると嬉しいです。

さて、次話ですが、なるべく早い投稿を心がけつつ、オリジナル展開になりそうなので慎重に考えていきます。今までのように勢いだけでは難しそうなので。

近日中には投稿します。

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