魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
一週間以内とか言っておきながら、十日以上かかったという。その分、予想を越える展開になっているはず…です。
それではまた、後書きで。
火の灯った燭台を握った彫像が、壁に浮き彫りにされており、長い廊下にどこまでも続いている。
弱々しい蝋燭の灯りだけに照らされた廊下は暗く、真冬の夜のように冷たく、寒い。
その廊下をどれだけ歩いたのだろうか。
数分間か、あるいは数日間か、はたまた、もうずっとここを歩いているような気もする。
不思議と疲れはない。冷えきっているはずの体も、今は気にならなかった。
突然、蝋燭の灯が消える。
真っ暗になった廊下に不気味な風の音だけが響く。
しばらくして、また、蝋燭の灯が灯った。
永遠と続くだけだったはずの廊下、その前方に扉が出現していた。
両開きの大きな扉。
その扉を静かに開く。
その先には部屋があった。
広い、という表現では不十分な程に広大な途方もなく大きな部屋。
部屋には数十メートルは下らない高さの本棚が、先が見えないほどに並べられ、隙間なく本が収められている。まるで図書館のような空間、しかし空中には巨大な鏡がいくつも浮いており、異彩を放っていた。
「良い部屋でしょ?一人で過ごすには些か広すぎるのだけどね」
アンティーク調の机と椅子がワンセット。
ぽっかりと空いたその空間で、優雅に紅茶を飲みながら読書をしていたのは、美しい女性だった。艶やかな黒髪と右目の下の泣きぼくろが彼女を妖艶に引き立てる。
「さ、座って。お話ししましょ」
彼女がそう言うと、椅子が一つどこからともかく現れる。それと同時に、テーブルの上にはティーカップが一つ現れ、彼女はそこに紅茶を注ぐ。
「この部屋は貴方の精神世界…夢の中の様なものね…それを私が好みにアレンジしたものよ。本来の精神世界は今、『廊下』になっているみたいね」
彼女がすっとテーブルの上スレスレを手で撫でると、そこに一冊の本が出現する。どうやらこの部屋の中では彼女の望んだ物を自由自在に出現させることが出来るようだ。
「私はこの部屋で貴方の人生を見てきたわ。生まれてから、今まで、ずっとね」
出現した本を開くと、そこには少女と見紛うばかりの少年と、金髪の少女が仲睦まじく遊んでいる挿絵が印刷されている。
さらに空中に浮いている鏡には、挿絵と同じ少年と、顔を赤くした童顔の少女が手を繋いでいる姿、少年がメイド服を着た少女に叩き起こされている姿が映し出されている。
「生まれてきたばかりの貴方に私という人格をコピーしてみたのよ、成功するとは思っていなかったけど、赤子ならもしかしたら、と思ったのよね。まあ、どうやらそのせいで、いえ、おかげでというべきでしょうね…どういうわけか貴方は『前世の記憶』を手に入れたようだけど。私もこの部屋にいる間、貴方の記憶にある漫画やライトノベルは楽しませてもらったわ。素晴らしい文化ね」
彼女の後ろに漫画やライトノベルが几帳面に並べられた本棚が出現し、何冊かの本が空中で踊っている。
「所謂、『オタトーク』というものもしてみたいのだけど、残念なことにあまり時間はないのよね、大事なことだけを伝えておくわ」
彼女が目を瞑ると一瞬で部屋が変わる。
先程までの図書館の様な部屋から、床にはクッションが敷き詰められ、天井で星が瞬き、部屋の中央に大きな天蓋付きのベッドが置かれた寝室の様な部屋に変わったのだ。
「どうやら貴方は酷く精神を消耗してしまったみたいなの、真夜が散々追い込んだせいね。まあ、そのおかげでこうしてコンタクトが取れているわけだけど…ああ話が逸れてしまったわね、それで酷く精神を消耗した貴方は眠りにつくわ。普通の眠りではない『精神的な眠り』…とでも言うべきかしら」
グニャグニャと部屋が歪んでいる。
それだけではない。部屋の中を霧のようなものが充満していた。
「あら、もう眠くなってしまったのね。安心して、しばらく眠れば自然と目覚められる」
やがて部屋は真っ暗になり、星の光すらもなくなる。
「最後に一つ、私はリーナ推しよ……それじゃあお休みなさい、可愛い私の子」
彼女の声を最後に、音すらも消えてなくなり…………。
◆
「あっセッカ起きた…………もう、あの状況で普通、寝る?……は、始まるのかと思って色々覚悟したのに」
とあるホテルの一室。そのベッドで目覚めた雪花にリーナは顔を赤くしながら、後半はボソボソ小さな声で言う。
「…ああそうだったわね、ちょうど良い所で限界が来てしまったのだったわ、リーナ推しの私としては最高の展開だったのだけど」
「セッカ?ちょっとどうしちゃったのよ。寝惚けてるの?」
体を起こし、口許に左手を当て独り言を話す雪花に、リーナは呆れ顔をしながらも仕方ないなーといった態度だ。
「ふふっなんだか初めて会った気がしないのだけど、実際に話すのは初めてなのよね」
「あなた…誰?セッカじゃ…ない?」
明らかに反応のおかしい雪花にリーナは懐に手を入れCADを取りだし、完全に臨戦態勢。対する雪花は普段とは違う、慈しむような笑みを浮かべたままだ。
「その通りよ、私は雪花ではないわ、まあ雪花と言えないこともないけど、貴女の言う雪花ではないわね」
ベッドから降り、立ち上がった雪花はその長い髪をさらりと軽く手で払う。その動作は女性的で、いくら女の子っぽいとはいえ、雪花がするような動作ではなかった。
「そうね、貴女に分かりやすいように言うならば、私は『司波 深夜』、ああ、貴女にはこちらの方でないと伝わらないわね。
─『四葉 深夜』、それが私よ」
深夜様、降臨。
暴れます。
次話から新章、ダブルスノー編(仮)を開始します。この章はほぼオリジナル展開になるので投稿が不定期になってしまうと思います。
最終話に向けてこれからも頑張りたいと思いますので、応援よろしくお願いします。