魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
「水波ちゃんに関して一つ問題があるわ」
水波を一通り堪能し、落ち着きを取り戻した雪世は水波に今の状況と今後の予定を告げた後、そう切り出した。雪夜とリーナ、テーブルを挟んで達也、深雪、水波というような席順である理由は考えるまでもないだろう。
「雪花の計画では、水波ちゃんを五輪家の養子とし、自らも高校を卒業したら五輪家の養子になるはずだった。いくら四葉でも十師族の養子となれば手を出さないと考えたのでしょう。
そのための準備もしてきたし、私もそれで良いと思っていた。五輪家はほとんど五輪澪一人の力で十師族足り得ているのだから、その庇護を受けている雪花が無下にされることはないでしょうし、雪花の力なら実質的に乗っ取ることも出来たでしょうから」
「そんなことになっていたとは、知りませんでした。俺のところには一切話がきていなかったので」
乗っ取るなどと物騒な言葉はスルーする。達也は雪夜の言葉をある程度スルーする技術を身につけつつあった。
「雪花もあれで色々考えている……わけではなく、単に面倒くさかったから伝えなかっただけね」
雪夜の回答は達也の予想通りのものであったが、頭を抱えずにはいられない。雪花が起きた後に問いただしたところで、あれ?言ってなかったっけ?と惚けたことを言うに決まっているからだ。
「問題は、五輪家の養子になる、なんてことはもう不可能だと言うことよ。真夜が雪花を当主に選んだ時点で、既に真夜によって手が回されていることでしょう。五輪が四葉に睨まれる危険を犯してまで雪花を養子にとは考えないでしょうから」
「すいません、俺には『雪花を当主に選んだ』という言葉が聞こえたのですが」
流石にスルー出来なかった達也が珍しく狼狽した様子で、恐る恐る訊ねてきたことに雪夜はクスクスと笑いを漏らし、答える。
「あら、言ってなかったかしら、真夜は雪花を次期当主に選んだのよ。自分の『力』を受け継いでいる雪花をね」
「なっ!?」
達也だけでなく、この場にいる全員が硬直し、言葉を失った。四葉家の当主という地位がどれだけのものかはリーナでさえ、理解していたからである。
そんな達也たちを置いてけぼりにして、雪夜は何やら携帯端末を操作し、リビングに設置された大型モニターの前に立つ。
達也たちが驚きから立ち直ると、モニターには四葉家の現当主、四葉真夜が映し出されていた。
『連絡をくれたということは、四葉家の当主になることを決めてくれたということでいいのかしら?』
「何を格好つけてるの、良い歳して少女漫画読んでるくせに」
『なっ、どうしてそれを!?葉山さんですら知らないはずなのに!』
小馬鹿にしたように言う雪夜に、真夜は顔を赤くして、声を上げた。
「あら、本当にまだ読んでいたの?鎌をかけてみただけなのに」
「まだ読んでいた?……私がこっそり少女漫画を読んでいることを知っているのは……まさか!」
「そのまさか、ではないのよね。私は深夜ではないし、雪花でもない。今は雪夜と名乗っているわ。十五年前の深夜という人格のコピーよ」
唖然とした様子で黙り込んでしまった真夜に、雪夜は笑みを浮かべて、言う。
「人格のコピーについては沙夜から伝えられていなかったのかしら?」
「……聞いていないわね」
今の会話から、雪花の秘密を四葉へ流したのが沙夜であることが確定した。小百合と共謀している可能性はあるものの、第三者が雪花の秘密を知っており、それを四葉に流したという可能性が潰れ、雪夜としては、予想通りであった。
「まあ、そんなことはどうでも良いのよ。今はもっと重要なことがあるわ」
「そうね、貴女という存在が一体どういうものなのか………」
「水波ちゃんを五輪から奪還するというね!」
「そう、水波ちゃんを……って一体何を言っているのかしら?」
雪夜は急に自分の名前が出てきたことに困惑気味、というより、そもそも現状に追い付けていない様子の水波をモニターの前に引っ張ってくると、ビシッとモニターの中に映る真夜を指差す。
「私の嫁を取り戻すのよ!何としてもね!そうしないと、雪花は四葉には関わらせないし、それでも手を出すというのなら私が全力で四葉を潰すわ」
「えっ、ちょっと深─」
「じゃあそういうことだから、よろしく」
真夜の言葉を遮って、そう言うと通信を切って電源を落とす。汗を拭うかのような動作をして、にっこりと微笑む。
「問題は解決したわ」
「……むしろ増えたと思いますが」
これなら雪花の方がマシだった、と達也は社会に疲れきったサラリーマンのような心情で、ため息を吐いた。
雪夜のせいで他のキャラにまで影響が…。
まだまだ暴れます。これからが本番です。